転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
俺の代わりにMFに入っていた猿美がピッチから出る。すぐに俺が入って、右SBのポジションへと向かった。
仲間たちは、少しほっとしたような顔を見せた。
「心配させるなでやんすよ......」と矢部坂が零す。
ツカサは無言で俺の背中を叩く。
飛鳥は「まったく、もう」と少し笑いながら、怒ったようにつぶやいた。
峰は俺の顔を一瞬見て、自分の頬をばちんと叩いた。
そして尊史は、おせーよとでもいうように、俺を睨んだ。
「わかってるだろうな。前半いなかった分、死ぬ気で守れ、死ぬ気でパスを出せ。あとは俺が決める」
「悪い、待たせた」
そうして、最後に川原を見た。延命してくれたこいつには、後でお礼をしなくちゃならない。川原は、にっこりと笑顔を浮かべて声を張り上げた。
「さあ、役者が揃ったよ! 一人少ないのがなんだ! 一点負けてるのがなんだ!! ───勝つのは、武蔵だろ!!!」
「「「おう!!!」」」
そうして、試合が再開する。
相手のゴールキックから始まったボールは、あっという間にハーフラインまでやってきた。一人少ないのだ。前からプレスをかけてひっくり返されてはたまらない。
峰はボールの持ち手に必死にプレッシャーをかけて、せめていいボールを蹴らせないようにしている。尊史も峰と並んで、特にフィードの上手い韓流イケメンには蹴らせないようにしていた。つるべの動きでディフェンスライン前もしっかりカバーしている。
飛鳥はかなりポジションを下げ、矢部坂とともに味方右サイドを守っている。ツカサは桜羽含めたFW陣と駆け引きを行い、川原とともに必死にコーチングを行う。
俺は、まずこのさつまいもを止めるところからだ。
ゲジゲジ眉毛の少年は、俺のことをよく観察している。ドリブラーに癖があるように、DFにも癖があるのだ。俺は1VS1に不利となる癖は徹底的に省いてきたが、こいつが俺に見えないなにかを見つける可能性もある。
だが尊史未満の選手なら、百回仕掛けられても百回止める。
早速さつまいもが仕掛けてきた。いきなり縦に突破しようとしてくる。
すぐさま併走するが、さつまいもは途中でピタリと止まった。左に持ち直してカットインしようとする。───なるほどこいつは左利きだ。
すぐに中を強くしめて選択肢から消す。だが、さつないもは強引に突破しようとしてきた。一度軽く体を当ててみたが、おそらく体幹がえげつない。フィジカルの強いイノシシタイプだ。
一年前であれば、突破されていた。だが、俺も成長期だ。イノシシを狩る方法も持っている。
シュートの直前で無理やり足を差し込んでボールを絡めとる。こいつは尊史ほど体格が優れている訳でもない。俺の足なら、油断しているこいつのボールは簡単に取れるのだ。さつまいもは驚いたように声を上げた。
そのまま左足の前に置き、前線へロングフィードを送る。尊史と峰は、俺とさつまいもがマッチアップした時点で裏を狙い始めていた。俺が対人守備を得意とすることは、クラブメンバーしか知らない。相手ディフェンス陣は二人に遅れて反応した。
オフサイドもない。2人のイケメンも追走するが、俺のボールはちょうど峰が走り込んだ頭に落ちる。
「ぬっ、らああ!!」
「ぐっ」
峰と韓流イケメンが競る。ボールは峰の頭上に落ちたため、峰が空中戦に打ち勝った。落としたボールは尊史へのスルーパスになる。
追いついたのは当然尊史だったが、左SBから尊史に合わせて右SBにコンバートした中性イケメンもすぐに追いつく。スピードは相変わらず互角だ。
尊史は迷いなく仕掛けた。右足で晒しながら、徐々に徐々にゴールへ迫る。中性イケメン───和蘭はディレイしつつ虎視眈々と飛びかかる隙を狙っている。
尊史は右へ右へとずれ、そして大きく踏み込んだ。和蘭も反応し、ボールを奪うように足を伸ばす。
だが、尊史は踏み込むように右足を着地させ、その反動で左に飛び出す。和蘭も体は崩れきっていないが、尊史が一歩前に出た。
相手ゴール左。すぐそばには和蘭が迫り、背後には峰も韓流イケメンも追いすがっている。
尊史は再び右に切り替えそうとスピードを止めた。和蘭もそれに負けじと踏みとどまる。しかし、尊史はもう一度左に体を傾けた。和蘭は同じように反応できるよう腰を落として足幅を開いている。
───尊史は、その股の下にボールを通すように左足でシュートした。
足元に入っていたボールで、打つ時に腰を引いていた。威力はない。だが、精確なシュートはニアを撃ち抜く。咄嗟にGKが腰を落とすが、ボールをネットに揺らした。
たった一つのカウンターを、尊史はものにして見せた。
「うおおおあああああああああッ!!!」
尊史が膝スラをかまして、大きくガッツポーズをする。同点弾だ。前半無得点に終わった男は、しっかり有言実行する。
俺や追走していた峰も尊史に追いついて抱きしめる。尊史も思いっきり抱き締め返してきた。
さすがにむさ苦しいところには入りたくないのか、女子ふたりと矢部坂は少し引いてタッチし合う。
「いい守備してたよ、パワプロ」
「ああ、任せろ。あとは中央の桜羽だ。任せたぞ」
ボールを持って戻っていく時に、ツカサに捕まえられる。SBとしては久々の出場だったが、ツカサの基準には達したらしい。まだファーストマッチアップだから、デュエルの勝利を重ねる必要があるが。
ツカサは俺の発言に少し眉をあげるが、特に何かを言うことはない。最後にハイタッチして戻って行った。
相手ボールで試合が再開する。
コーベは最終ラインを韓流と中性だけにして、残りを前に出した。先程カウンターを食らったのに、随分と威勢のいいことだ。勇気があるのか、ただの蛮勇か。
だが、先程より相手がスムーズにボールを回す。相手左SBに変わってMFの選手が入ってきていた。彼と桜羽が中盤でリズムを作って隙を伺っていた。
青髪のMF───シロちゃんと桜羽は呼んでいたか───は、基本的にボランチの位置から動かない。攻撃もシンプルだし、カウンターのフィルター役になるのだろう。彼がボールを持っても怖くない。
だが、それが付け入る隙となってしまった。
川原が何度も好セーブを見せ、ボールをはじき返す。中盤に弾かれたルーズボールは、いつも通りシロちゃんが回収して誰かに預けるのかと考えていた。
だが、彼は足を振りかぶる。
慌ててツカサがブロックに入るが、彼はシュートを放つ。豪快で、力いっぱい溜めたキック。
ディフレクションがあったが、シュートは勢いよく空気を切り裂いてゴールネットに突き刺さった。川原も動けない。スピードもあったし、届かないコースに入れられてしまった。
「下を向くな! 追いつかれようと、すぐに取り返せばいい!!」
「く~、かっけーなシロちゃん!!」
「郷田ナイスプレー!」
その郷田が吠える。会場が一気に沸いた。一点取り返しても、簡単に折れるようなメンタルは持っていないようだ。
だが、俺はそんなことよりも先にツカサに駆け寄る。ディフレクションした時に肘をかすめていたのだ。彼女は肩を抑えてうずくまっていた。
「ツカサ! 肩の様子は? 痛みがあんのか?」
「うん......けど、ただの打撲みたい。肩も捻ったっぽいけどまだやれる」
痛みも収まったのかすぐに立ち上がった。心配だが、彼女抜きでは守備が崩壊する。少し迷ったが、目を瞑ることにした。
「痛かったら言えよ? これで選手生命に響いちゃ───」
「パワプロ、まだ集中してないの?」
半ば睨むようにツカサは俺を見つめた。
「この試合、何がなんでも勝つ。あんな啖呵を切られて、負けるなんてありえない」
「っ!! ああ、そうだな!」
その通りだ。他人のことを心配している余裕があれば、ツカサの怪我が悪化する前に勝負をつける方法を模索するべきだ。
ここで選手交代が入った。矢部坂に変わって守備のできるSBが入った。飛鳥は交代で入ってきたMFにマークに着く。アジリティは彼女の方が上だ。
試合再開の笛がなり、峰は俺に落として一気に最前線に駆け上がる。彼目掛けてフィードを放った。だが、韓流イケメンもやられっぱなしでは無い。
しっかり峰に競り勝って跳ね返す。尊史や飛鳥もルーズボールを狙うが、先に桜羽に奪われてしまう。俺の脇をさつまいもが飛び出した。相手MFもツカサの裏を狙う。最終ラインがググッと下がった。
桜羽はスペースにドリブルした後、一瞬時が止まったように体の動きを止めた。実際はなめらかに動いているのだろうが、俺にはそう見えてしまう。
「まずい!」
本能でそう悟った。何か来る。ツカサも気づいたようで、咄嗟に前に出る。だが、彼女も痛みが怖くないはずがなかった。ブロックに出る足が僅かに止まる。プレスバックも追いつかない。
その間、桜羽は足を振りかぶっていた。どこか、いつものモーションとは違う。ボールの置き所が違う。場の静けさが違う。
それに、桜羽の目の色が違う。何か別の景色を覗いてるように見えた。
「ふっ!」
シュートが放たれる。
一瞬ふかしたのかと思った。それだけ上向きの角度に放たれたからだ。だが、その軌道を目で追って頭を抱える。
ボールは物理法則を無視するように、ゴールの2倍以上の高さにまで上昇して、いきなり襲いかかるように落下してきたのだ。
まるでジェットコースターのようなドライブシュート。
川原も慌ててジャンプしてセーブしようとするが、無惨にもその手の先をかすめてゴールに吸い込まれていった。ゴールネットの中でもボールが暴れている。
スーパーゴールが決められてしまった。
「「「おおおおおおお!!」」」
「なんだ今の、今のなんだ!?」
「すげーシュート! いいぞ桜羽!!」
「かっくいいー!」
見たことの無いようなシュートに観客は大盛り上がりだ。
俺たちは言葉を発せない。ドライブシュートは、普通あんなに落ちるものだろうか。あんなに理不尽なコースを通るだろうか。
同点から、2点差に離された。
「すごいぞ桜羽。今のシュートは痺れた」
「ハハハッ、すごいね。流れをひっくり返す、文字通りどんでん返しの一撃だ」
郷田と中性イケメンが桜羽に話しかけている。が、とうの桜羽も自分のシュートに驚いているようだった。
が、両手を握って天に掲げる。
「オレは、また一つ上手くなった」
「そうだな桜羽。春の雪辱はここで晴らす」
郷田がじろりと俺らを睨んだ。闘志こそ消えていないが、味方の反撃の炎が弱まっているのを肌で感じた。
「勝つぞ! これ以上点をくれてやるものか!!」
郷田が吠えた。
残り時間はあと10分もない。
必殺シュート登場ですわ!