転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
「ぐ、クソがっ!!」
尊史から和蘭がボールを奪う。尊史が悔しそうに吠えた。
コーベ・シティは一気呵成に盛り立てた。追加点こそ入っていないが熱量が段違いだ。中盤は郷田がボールに激しく迫るし、桜羽が何度もシュートを狙う。さつまいもも突破よりもクロスを優先していて、それは相手左WGもそうだ。
そして、いざボールを奪ったとしても相手DFが必死の対応をしてくる。180cmはありそうな韓流は峰相手に空中戦で有利をとっているし、和蘭も尊史相手によく右足が出ている。ほかの試合でも見ていたが、彼のメインポジションはまさに右SBだったらしい。左SBの時よりもキレが増していた。
俺らは、尊史のゴールからシュートを一本も撃てていない。
代わりにコーベは5本もシュートを撃っていて、その内オンターゲットは3本。川原のセーブやツカサのブロックで追加点こそないが、ジリ貧だった。
残り時間も3分ほど。恐怖が増していく。
SBに入ったが、中盤ほど守備で絡めない。お得意の罠も仕掛けられないし、さつまいもも一切仕掛けなくなった。俺に奪われて反撃の起点にさせるというリスクを犯したくないのだろう。いい判断だが、俺にとっては歯痒いばかりだ。
中央を見ているツカサもだんだん足が動かなくなっている。肩のダメージが思ったよりあるようで、ほとんど左手で庇ってる格好だ。
だが、監督が呼んでも一向に外に向かおうとしない。*1脂汗を浮かべながら、必死の表情で声を出していた。
今も桜羽にシュートが放たれる。ツカサがブロックをするが、ふらりと倒れそうになっていた。コーナーキックに逃れたが、俺はすぐさまツカサのそばに近寄る。体を抱いて支えた。
「ツカサ......」
「ぐ......何も言わないで。......まだ、終わりたくない」
だが、力強く返事をした。氷のような目が闘志でメラメラと燃えている。ツカサがピッチを出れば、そこで俺たちの試合が終わるのだ。コーベ相手に、数的不利でたった二失点でしのげるのは彼女がいるからだ。桜羽にボールが入る前にカットしているし、決定的な瞬間に何度も足が出ている。彼女も諦めるつもりなど毛頭ない。
相手コーナーは桜羽が蹴る。ターゲットになる高さの選手は二人。郷田と韓流だ。峰とツカサ、尊史で競るが、頭一個分突き出している韓流を誰も抑えられそうにない。
ハンマーヘッドが炸裂するが、キーパーの正面で川原はキャッチする。今日の川原はまさに覚醒していた。すぐに人を探して、駆け出していた飛鳥にロングスローした。
飛鳥は、迫ってくる相手から逃げるように相手サイドの奥に向かった。左サイドの奥。彼女の得意エリアだ。
飛鳥は、コンバートしてからアシストの数はガクッと落ちた。代わりにゴール数が僅かに増えていたが、彼女はあまり嬉しそうにしない。以前聞いたが、アシストにはこだわりがあったらしい。
なら、そこで勝負するべきだ。
マッチアップしているのは、相手MF。最終ラインに峰達が入っていくが、タイトなマークでクロスをあげられない。飛鳥は悔しそうな顔でボールを戻そうとしている。
「高見、上げろ!」
だが、そこで最終ラインから誰のか分からない怒号が上がる。飛鳥を体をびくりと反応させ、咄嗟に左足でクロスを上げていた。マッチアップしていた選手も反応できない。
綺麗な弧を描くクロス。紛れもない、彼女の日頃の努力が詰まったクロスだ。
飛鳥はクロスをあげる寸前、合わせるターゲットを見つけている。そこ目掛けてピンポイントクロスをあげるのだ。
このクロスのターゲットは、怒号をあげたやつだろう。無理やり意識させられ、無理やりターゲットになっていた。
そいつは、跳ね返そうとする韓流の後ろから、すっと体を入れる。たった体の4分の1ほど。上半身のさらに上の、ほとんど頭だけだ。
だが、目ではしっかりボールを追っている。自分の親しんだ通りに来ていることを確認して、ゴールだけを意識した。
当然韓流もさせまいと体をぶつける。2人は雄叫びをあげて競り合った。
「ぬあああああああああ!!」
「うおおらああああああ!!」
クロスの先で質量がぶつかり合う。衝突音がなった後に、ボールは勢いよくゴールネットを揺らした。
スコアラーと競った韓流は、ぶつかった勢いでゴールに転がり込む。負けた事実に地面を強く叩いた。
「はあ.......は......」
「はは、やるじゃんかよ」
相手ゴール前に仁王立ちしているのは、他の誰でもない、峰だ。彼はすぐさまボールを持って、ハーフラインに向かって高く蹴り上げる。
「勝つぞ!!」
いつもの峰らしくない、ガッツのある叫びだった。駆けつけてくる尊史や飛鳥の背中を強く叩いて自陣に戻る。飛鳥は背中を痛そうにさすっていた。
「峰、俺のフィードも競り勝て。あれを尊史に落とせばそれだけでビッグチャンスだ」
「うん、問題ないよ。もう勝ち方は掴んできた」
水を口に含んで、更には頭から浴び始めた峰が力強く答える。なんだか、随分男らしい表情をするようになった。
2-3で試合が再開する。あと一点で追いつくが、もう時間はない。おそらくあと2分ほどだ。それで決着をつけたい。あと2点を取りたい。
さらに10分延長戦を続けるのは、体力的に俺たちの不利が窮まる。飛鳥もベンチに下げられたが、チームの中核を担うツカサや尊史はまだ残っている。彼らの体力も限界に近い。PK戦までもたないだろう。
だから、俺はここで勝負を仕掛ける。獲物は郷田だ。
あいつは特にトランジションや相手との競り合いで強さを発揮するタイプだ。テクニックが特別優れているわけではない。トラップやパスなど基礎的な能力は高いが、攻撃面で言えばそれだけだ。
背後から人の影を使って接近して、郷田が韓流からのパスを受けて前を向こうとしたところで仕掛けた。少し距離のあるところから、一気に襲いかかる。
まずは脇の下から体を当てる。片方の重心に体重をかけさせることで体の自由を奪う。咄嗟のパスもできなければ、体の向きを変えることも出来ない。当然郷田は重いため、俺はほとんど突進のようにぶつかった。
次は腕だ。肩を相手の胸に押し当て、相手の上半身の動きを封じる。だが、腕の先は極力フリーだ。腕で相手を抑えられてるように見られてはファウルを取られてしまう。突進している時点で危ないのだが、ファウルギリギリのプレーは前世から大の得意だ。
最後に、足。左足を相手の体とボールの間に入れる。そこで踏ん張ってボールをかっさらうのだ。
ファウルは取られていない。主審は笛を咥えていたが、ジャッジは俺に傾いた。郷田は必死に取り返そうとしてくる。圧力がものすごい。だが、肩を上手く当てて力をいなす。こまめに力点をずらすのだ。頻繁に体勢を崩されるのはたまったもんじゃないだろう。
桜羽も、相手MFもサポートに来るが、その前に必死に右足を振るう。
尊史にボールが届いた。
左足に持ち替えて一気にサイドを駆け上がる。和蘭もついてくるが、あっという間にゴール付近までたどり着いた。
そして、間髪入れずにクロスを入れた。自分で仕掛けてくると予想していた和蘭では防げない。
クロスの先には、峰がいた。韓流イケメンはその背後に僅かに遅れている。
だが、峰もクロスまで僅かに遠い。弾道も低く、頭では届かない。
峰は咄嗟に体を投げ出し、右足で通り過ぎかけたクロスを押し込む。ボールは僅かに足の先に触れて、ゴールポストを叩いてゴールに入り込んだ。
「追いついたぞおッ!! 」
ゴロゴロ転がった後にすぐに起き上がり、GKからボールを奪って吠える。二点目から一分も経たないうちに同点弾を叩き込んだのだ。なんだか背中から炎でも出ているかのように錯覚する。その背後では完全にスピードで前を取られた韓流が崩れ落ちていた。
もう時間もほとんどない。だが、ラストワンプレーでも俺たちがプレーできるのならとボールをセットする。失点のことなど考えていない。再び盛り返した勢いのまま突き進むのだ。
観客から歓声が鳴り止まない。武蔵もコーベも、必死にその名前が叫ばれている。ただの野次馬も、スカウトもほかのチームもその熱気に当てられて大声でおのおの応援していた。
コーベの一点目は、世界からも注目されるファンタジスタ、桜羽が裏抜けして、冬河を破って沈めた。
武蔵の一点目は「魂のストライカー」進藤が和蘭をかわして決めた。
コーベの二点目は郷田の豪快なミドルシュートが撃ち込まれた。
コーベの三点目は、またしても桜羽の、とんでもないドライブシュートがゴールをこじ開けた。
戦いの趨勢は、コーベに傾いていた。
だが、武蔵も諦めなかった。
武蔵の二点目は高見のクロスに峰が頭で合わせて押し込んだ。
一分も経たないうちに決められた三点目は、進藤のクロスを峰が体を投げ出して押し込んだ。
武蔵のPKストップがあってから、試合の雰囲気はすっかり変わってしまった。選手たちの熱い咆哮に、死にものぐるいのプレーに観客は湧く。
互いのベンチメンバーも、ベンチから半ば乗り出すようにして声を張り上げている、手に汗を握っている。
残り一分となった試合が再開され、コーベはいきなり攻め立てた。最終ラインには三人だけ残り、ほかは相手ゴールに猛進する。
ツカサは既に体力が尽きている。何とかコースを塞いだが、桜羽にシュートを放たれた。右隅へのシュートは、運のいいことにポストに弾かれる。ルーズボールを相手MFが拾い、さつまいもに渡る。すぐにクロスが放られた。
桜羽の豪快なボレーシュート。GKも飛ぶが、枠の隅にシュートが突き刺さる。
「っっしゃあああ!!」
だが、すんでのところで俺がラインクリアした。さつまいもがクロスをあげるのを見切ってゴールのライン上に駆け込んでいたのだ。左足で体勢を崩しながら蹴り出す。
「ゴールだよ! 入ってたでしょ!」
相手選手が数人主審に抗議するが、ノーゴールのジェスチャーが示された。
クリアボールを拾ったツカサは、前線の峰向けてフィードする。低い弾道のボールは足元に入り込んで、峰は上手く反転できない。だが、奪われもしない。マッチアップしている韓流は確実に焦っていた。
「功誠!!」
そばを尊史が通過する。スルーパスを待っていたが、峰は出さない。尊史のそばを和蘭が追走していたのが見えたからだ。
郷田も峰を囲んでボールを奪おうとする。
そこで、峰はようやくボールを落とした。相手は、自陣を駆け上がる俺だ。
ここはハーフラインすら超えていない。センターサークルの僅かに左で、斜め前の峰は二人に囲まれている。尊史もオフサイドで死んでいる。
パスの選択肢はない。そしてゴールまで、なんの障害もない。
ボールにたどり着く寸前、僅かにテンポを緩めて大きく足を振りかぶった。郷田も気付いてブロックに来るが間に合わないだろう。
「おおお!!!」
力の限り振り抜いた。走ったスピードも、足の振りも体重も、勝ちたいという執念も気迫も全部シュートに込める。
僅かに斜めの回転がかかったシュートはピッチの半分をあっという間に突っ切って相手ゴールに向かう。弾道は相手ゴールの枠内に向かっていた。
少しだけ落ちるようにブレる。キーパーはしゃがみこんで足で弾いた。
「っ!?ダメか......」
シュートは相手GKにあたってコースを変えるが、惜しいところで枠の外に転がった。コーナーキックだ。
おそらく、あとワンプレーかツープレーになるだろう。相手ゴールにツカサも上がっていく。最終ラインには途中交代で入った二人が残った。
キッカーは俺だ。右コーナーからのキック。ターゲットは峰、尊史、ツカサだ。だが、やはり韓流の壁は大きい。
インスイングのクロスを蹴り上げた。さっきのシュートのせいか、足が痺れてキックが乱れる。これはパンチングされるだろう。そう予想して、すぐさま走り出す。
予想通り、相手GKがパンチングした。ルーズボールの先には、カウンターに走り出す桜羽の姿がある。
だが、俺は桜羽目掛けて猛然と迫る。味方がディレイしてくれているため、すぐに追いついた。
桜羽は、おそらく俺に気づいているだろう。先程の郷田からボールを奪った一連のプレーを見て、接触はまずいと悟ったか、向きを変える。
俺は、駆け込んだ勢いで滑りながら、右足を差し込んだ。横からのタックル。足がぐぐぐっと伸びて、ボールが射程圏内に入る。桜羽の意識の外から入り込んだ足が、桜羽の足に触れることなくボールを奪う。桜羽は足元の感触が無くなったことに気づいて慌て、ボールだけは静かに味方に届いた。
「寄越せ!!!」
すぐさま立ち上がり、ボールを要求する。当然奪われた桜羽、相手MFも俺に渡すまいと体をぶつけてくる。
ボールは、左サイドのスペースに出された。
俺は二人を振り切って左足を振りかぶる。転がっているボールを、ワンタッチでクロスにした。
これ以上なくいい感触だ。だが、ボックス内は見れていない。彼らがオンサイドでいたかどうかも分からない。
ただ、直感にしたがってクロスを上げた。
手前の峰は、韓流と郷田の二人がかりで潰される。飛ぶことなくその頭上を通り過ぎた。
尊史もジャンプするが、潮と和蘭も競っている。体勢が崩れ、ボールに触ることができない。
だが、その奥にぽっかりと、スペースが空いていた。フリーの味方が待っていた。
手前で峰と尊史が潰れ、それに相手も意識が引っ張られ、最もファー側で静かに待っていた人間に気づいていなかった。
彼女は飛んできたボールを、丁寧にヘディングで押し込む。GKもスライドして防ごうとするが、その逆をついてボールを押し込んだ。
だが、郷田もラインクリアをしようとすぐに下がる。
───疲れからか足が滑り、ボールは彼の目の前を過ぎて、左のサイドネットをパサリと鳴らした。
主審が得点を認める笛を吹き、同時に試合終了の笛を鳴らした。
ゴールだ。ゴールだ、ゴールだゴールだゴールだゴールだ!!
4-3、俺たちは勝ったんだ!!
「おおおおおおおおお!!」
「しゃあああああああ!!」
すぐに尊史と峰が吠える。さすがにどこかに駆け込む元気もなく、その場で膝をついて力の限り叫んでいる。
「ツカサ!!」
でん、と寝っ転がったツカサに俺は飛びついて抱きしめる。ツカサも左腕で抱き締め返してきた。
ツカサは特に声をあげないが、何故かしきりに笑い声を漏らしていた。
「どうしたのさ」
「はは、ははは......。だって、こんな負け濃厚な試合で、私たちは勝ったんだよ。こんな理不尽、なかなかない......」
「まあ、そりゃそうだ」
郷田は力尽きてゴールネットの中で突っ伏しているし、韓流も膝をついて顔を抑えていた。和蘭やさつもいもはほかのチームメイトと桜羽の元に向かっていて、桜羽は彼らに囲まれて肩を揺らしていた。
「冬河ちゃん! さいっこうのゴールだったでやんすよ!!」
「ツカサ、パワプロ!! 勝った、あたしたち勝ったんだよ!!」
ベンチメンバーも突貫してきた。矢部坂と飛鳥も俺たち二人の団子に加わった。岩のような四角顔を涙でぐちゃぐちゃにした沼野も、笑顔溢れる川原も。ほかの仲間たちもこれ幸いと団子に乗っかってくる。が、勢い余って崩れていった。
仲間たちが転がって、叩きあって喜んでいる中でツカサは俺を少しだけ離す。
目を合わせた。
「ねえ、パワプロ」
「なんだ、ツカサ」
彼女は右手をだらりと下げて、左手だけで俺の肩を掴んでいる。ユニフォームも顔も泥と汗で汚れていて、疲労も滲んでいた。
だが、ツカサがニコリと微笑めば、たちまちそれも輝いて見えた。
矢部坂が壊れたように俺の頭を掴んで揺らす。いつもだったらそれとなく急かして並ぶように言う飛鳥も、今回ばかりはツカサに抱きついていた。沼野は兄貴分の尊史に頭をグリグリされていて、川原はチームメイトにバシバシ叩かれて賞賛されている。峰は鶴屋監督と拳を付き合わせていた。
それでも、俺たちは目を合わせる。
「サッカー、楽しいね」
ツカサがあまり見せない、遠慮のない笑顔で呟く。俺も思いっきり破顔して答えた。
「ああ! やっぱり俺は、宇宙で一番、サッカーが大好きだ!!」