転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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転がってきた

閉会式が始まった。

 

俺たち武蔵の勝利の余韻はまだ続く。ベンチメンバーで体力の有り余ってるやつは嬉しそうに周りと喋っていた。

 

俺は後半からの出場だったが、体力は尽きている。寝不足だったのもあってあっという間のガス欠だ。たった二十分で全てを出し切った気がする。それに左足も痛い。さっさとどこかに座ってアイシングしたかった。

 

「───優勝、FC武蔵!」

 

司会の言葉に、俺たちは前に出る。川原が先導して役員たちの前に並ぶ。祝いの言葉が述べられ、様々なトロフィーや旗、表彰状が手渡された。

 

俺が受け取ったのはトロフィーだ。日本以外の国の名前も書いてある。絶対落とせないやつだな......。

 

「君のガッツあるプレー、目に焼き付いたよ。特にパスがすごく上手だった。次のステージでも頑張って」

 

手渡される際に言葉を送られる。同様に他の選手も声をかけられていた。特に川原はめためたに褒められている。そりゃそうだ。あのPKストップは決勝戦で最も重要なターニングポイントだった。

 

その後は列に戻り、ほかのチームの表彰を見守った。準優勝はコーベ・シティだ。郷田が先頭になって旗を受け取っている。桜羽はまだ涙を零していた。韓流も随分落ち込んでいるようだし、和蘭もさつまいもも、魂が抜けたような表情をしている。

 

一歩間違えば、俺たちがあの立場だったのだ。そのことに少し肝が冷えた。

 

三位にはFCレグルスと、コーベに準決勝で敗れたチームが入っている。レグルスの選手の顔にはあまり疲れが見えない。堀場を探してみたが、終始下を向いて表情は伺えない。

 

その後も、敢闘賞やフェアプレー賞など数々の賞が贈られる。

 

得点王は、桜羽だった。大会9ゴールで、二位の尊史とは一ゴール差で首位にたっていた。一試合1ゴール以上という圧巻の結果だ。前に出てトロフィーを受け取る彼は目の周りが真っ赤だ。とても満足しているようには見えない。ちなみに俺は4ゴールで、飛鳥は3ゴール。峰は6ゴールで得点ランキングでは5位だった。

 

選手権独自の数え方をするアシストは、当然俺が一位に輝いている。大会6アシストだ。ほとんどワンタッチじゃないとアシストに記録されないため、思ったより少なかった。

 

大会最優秀選手に贈られるゴールデングローブ・ブーツ賞は、ツカサに送られている。FC武蔵は大会最少失点で終えていて、決勝も彼女が体を張ったおかげで失点を抑えられた。それに、高い支配率も彼女が安定したビルドアップをしてくれたおかげだ。それを称えての評価だろう。

 

少し悔しかったが、彼女の薄い微笑みを見てはその気持ちも薄れる。

 

来賓の長ったらしい話を終えれば写真撮影だ。保護者や大会カメラマンの他にも雑誌だったり、あるいは別のインタビュアーたちがこぞって写真を撮ってくる。その途中で感極まったのか川原が号泣してしまい、みんなで慰めるワンシーンもあったりした。

 

「パワくん! 優勝とアシスト賞おめでとう!!」

 

母がにこにこ顔で近づいてくる。父の姿はなかった。試合を見ていてくれてはいたが、何か用事があるのかもしれない。母に写真を取られ、通りすがりの人に頼んでツーショットも取ってもらった。

 

写真を見返せば、やはり随分と顔が似ている気がした。

 

ツカサは既に両親と病院に向かっている。救護係に肩を見てもらったが、脱臼していたそうだ。全体写真を撮ったあとは一足先に帰っていた。

 

「あ、いたいた! 武蔵の神谷選手だよね? 大会ホームページに載せるインタビューを受けて欲しいんだけど、いいかな?」

 

カメラマンとインタビュアーのお姉さんが俺たちに話しかけてくる。母は即答で許可を出しており、俺にも断る理由はない。

 

すぐさまいくつかの質問がなされた。おそらくこれらをひとつに繋げて記事に載せるのだろう。あまり深く考えることなく質問に答えた。

 

「最後の質問! 半年後には中学生になるけど、やっぱりサッカーは続けるよね? その意気込みを教えて?」

 

「あーそうすね。中学生になっても高校生になっても、あるいは大人になってもサッカーを続けます。中学でのサッカーはあまりイメージできないすけど、自分の理想の選手像を目指して、体を大事にして───」

 

「体を大事にして?」

 

最後にどう締めくくるか迷ったが、ピッタリの言葉が浮かんできた。

 

「不屈の精神をもって、精進するつもりです」

 

 

 

 

 

 

 

 

選手たちはバスで宿に戻る。アイシングして温泉に浸かってマッサージして、体の疲れをある程度取ってから帰宅することになる。出発は明日だと言われていた。

 

俺は今ロビーのソファに座っている。母が「パパから大事な話があるから、待ってて」と言われているのだ。話の内容も結果もわかっているが、ひとつのケジメだ。逃げたりしない。

 

少し緊張しながら辺りを目回している。選手たちの中にも、その後宿に戻ってくる人の中にもゆうるちゃんの姿はない。保護者の一人に聞いてみたが、先に両親と宿に戻ってきているらしい。そうは聞いてもつい探してしまうのだ。手遅れにならないうちに話をしておきたかった。

 

戻った時に、彼女にお礼を言わねばなるまい。それに、有耶無耶にした返事も、しっかり考えて贈るべきだろう。

 

若干憂鬱に感じながらぼーっと天井を見つめていると、ツカサが俺を真上から覗き込んだ。体を起こせば、右腕を三角巾で吊るしたツカサと目が合った。その後ろからツカサパパママも着いてきている。

 

「脱臼大丈夫だったか?」

 

「うん。少し痛かったけど。治るのに三週間はかかるって」

 

「そんなか。結構安静にしなきゃいけないんだな」

 

「サッカーもしばらく見学になる」

 

汗で前髪がへばりついたツカサが俺の隣に座る。ツカサパパママは俺たちを労ってから部屋に戻っていった。俺たち二人の時間を作ってくれた。なんとも気恥しい気遣いだ。

 

「本当に死にものぐるいの守備だったな。シュート打たれる寸前にタックルしたりブロックしたり。あれで何度も助けられたよ」

 

「うん。医者には『脱臼したならすぐ来る! 神経傷つけたらどうすんの!』って怒られちゃった」

 

「はは。そりゃ笑えない話だ」

 

大会が終わってから、随分と気が抜けてしまった。今まではこうもならなかったが、文字通り全てを出しつくした気がする。バスの中では峰なんかすぐに寝息を立てていたし、矢部坂も宿に着く頃には屍のようだった。

 

二人で静かに話しながら両親を待つ。ツカサは一緒に話を聞いてくれるらしい。

 

数分もしないうちに二人は現れた。俺もツカサも、思わず姿勢を整える。二人の背後には見知らぬ外人がいた。立派な顎髭と口髭を蓄えた彫りの深い白人が片目でパチリとウインクしてきた。いや誰だよ。

 

「あらツカサちゃん。肩は大丈夫なの? 歩いても平気?」

 

「はい。三週間くらいこのままみたいです」

 

「試合見てたよ。数的不利の中よく凌いでいた。大会ベストDF賞があったら間違いなくツカサちゃんだろう。両親も頑張ってる君の姿に涙を流して喜んでいたよ」

 

「.....はい」

 

両親は俺たちの目の前のソファに座り、知らない外人さんも父の隣に座る。だから誰なんだろうか。背丈は父より低い。が、180後半はありそうだ。じーっと俺のことを見つめている。

 

おほん、と咳払いして父が話し始めた。

 

「お前をここに呼んだのは、他でもない、12月初頭に受けたバルセロ〇のセレクションの結果についてだ。───試合前の様子を聞く限り、既に耳にしているとは思う」

 

父は鋭い目をこちらに向ける。子供の頃からだが、その目には強烈な圧があった。

 

「残念なことに、お前は選ばれなかった。ポストに入っていた封筒の中身にお前宛の手紙があった」

 

父はそう言ってカバンから封筒を一枚テーブルに置く。俺がそれを受け取って中身を確認すれば、一枚の手紙が入っていた。中には簡単に文章が書かれてある。両親が黙っている辺り今読むべきなんだろう。

 

流し読みだが、目を通した。

 

小学生向けだからか優しい文体で書かれている。難しい試合でよく声を出し、パスをチャレンジしたこと。ボールを奪われた時の反応が非常にいいこと。ボールを持ったとき、あまりドリブルをしないこと───。

 

練習と試合の評価が書いてあって、悪い評価よりいい評価の方が多い感じだ。そして、最後の文。

 

───残念ながら、パワプロくんは今回のセレクションで選ばれませんでした。ですが、何百人の中から選ばれた30人の中の、たった一人に選ばれるのは本当に難しいことです。めげずに、いつかバルセ〇ナに行くことを目指して頑張りましょう───

 

やはり、落ちていたのだ。

 

既に結果を知っていたので涙はこぼれない。だが、一瞬息が止まったのをツカサが見逃さなかった。彼女の手がそっと俺の右肘に触れる。

 

「うん、読んだよ。落ちてるね」

 

「ああ。書いてあった通り、セレクションを受けたメンバーの中では卓越していたそうだ。だが、それだけでは狭き門をくぐることは出来なかった」

 

すると、父はいきなり頭を下げた。床に何かを落とした訳では無い。俺に謝罪をするポーズだ。

 

「え、ちょ」

 

「パワプロ。まずはお前にひとつ謝らなければならない。お前に通塾を強制させたこと。やめたいと言っていたお前の要請を受けるか受けないかずっと悩んでいた。結果、合格まで僅かに足りなくなってしまった。本当に申し訳ない」

 

「父さん......」

 

父が初めて見せる姿だ。俺の父は自分の過ちを述べて、真摯に頭を下げている。前世、俺が母に怒鳴って平謝りさせたことはある。思い返したくないことだが、それとは全く違う。頭が混乱しそうな状況だ。

 

「やめてよ。俺が落ちたんだ。塾だってサボってサッカーの練習すれば良かったし、甘んじたのは俺なんだから」

 

「......サボったらサボったで怒っていただろうな。俺が言いたいのは、俺がもう少し柔軟であれば良かったということだ。───今更なんだという話ではあるが」

 

ややあって父は頭をあげた。俺の顔を見て、なんだかほっとしたような表情を見せる。あまり見た事のない顔だ。

 

次の瞬間には、キリリと顔を引き締めていた。

 

「ここからが話の本題だ。こちら、ブランコさんだ。ミゲル・ブランコ。俺が無理を言ってポルトガルから連れてきた」

 

───海外育成組織の、スカウト部門に所属する人物だ。

 

その言葉に思わず斜向かいの髭おじを凝視する。ミスター───ポルトガルではセニョールだろうか───ブランコは人好きのする笑みを俺に向けた。

 

「俺は、彼に頼み込んだ。人情固い彼はわざわざ遠くの国からお前を見るために来てくれた。俺は、彼がお前をどう評価したかは知らない。もしかすると自分のクラブに招いてくれるかもしれないし、論外だと突っぱねられるかもしれない。だが、これが俺に出来るお前への償いだ。この人の話を聞くといい」

 

そういうと、父は知らない言語でブランコさんにいくつか伝えた。おそらくポルトガル語だろう。......待てよ。この人は俺に何語で話しかけるつもりだ? 父が翻訳してくれるだろうか。ポルトガル語なんて知らないし、英語もそこそこしか聞き取れない。大丈夫だろうか───。

 

『初めまして、神谷 パワプロさん。私はミゲル・ブランコと言います』

 

『あ、初めまして。神谷パワプロです。よろしくお願いします、ブランコさん』

 

が、彼が発したのはスペイン語。俺が幼い頃から習い、父の助けもあってネイティブな人とも会話して上達した、俺の第二言語だ。少し訛りがあって聞き取りにくいが、これなら問題ない。

 

『まずはお互いに自己紹介しましょう。私はミゲル・ブランコ。ポルトガルのリズボンで生を授かりました。幼い頃からサッカーが好きで、プロを引退した今はポルトガルのクラブ、ベンフ〇カでスカウトのお仕事をしています』

 

「ベン───!?」

 

どこのクラブのスカウトかと思えば、ポルトガル屈指のビッグクラブじゃねえか。今はまだラ・マ〇アほど有名では無いが育成には一定の評価がある。それのスカウト? なんつー肩書きの人を連れてきたんだよ。

 

ブランコさんがターンを譲ってきたので、俺も気を落ち着かせて応えた。

 

『おほん、僕は神谷パワプロと言います。歳は12歳。11月26日産まれです。産まれた頃からサッカーが好きで、以来ずっと続けてきました。得意なことは対人守備と左足のキックです』

 

『うん、ありがとう』

 

それからブランコさんは苦笑いして話し始めた。

 

『今日ここに来たのはね、君のお父さんに懇願されたからだよ。───いい選手が日本にいる。実の息子で贔屓目かもしれないがきっと大成する。それを君の目で見て、確認して欲しい───ってね。実際は、あわよくば僕のクラブに入れてあげたいって思いなんだろうけど』

 

それを聞いた父は無表情を保ったままだ。かなり他人行儀で紹介されたが、二人は思ったより仲がいいのかもしれない。あるいはブランコさんが懐に入るのが上手い人なのかもしれないが。

 

ブランコさんは自分のメモ帳を取り出して言葉を続ける。パラパラとページをめくり、目当ての見開きで止まった。

 

『実際、僕は君のお父さんにどうお願いされても選手をとるつもりはない。それをしてしまえばクラブの規則や理念に反してしまう。君をここでクラブに入会させることは無いよ』

 

そのキッパリとした物いいに、思わず肩を落としてしまう。父も難しい顔をした。そりゃそうだ。縁故採用などあっていいはずがない。そうなってしまえば、ほかの才能ある選手を潰してしまうことになる。

 

『わかりました。では、ポルトガルの選手と比べて、僕がどの程度の選手だったか教えてください』

 

けれど、このままはいそうですかと引き下がる訳には行かない。せめて自分がどの位置にいるのかを知っておきたい。そうして、中学校ではさらに精進するのだ。海外なんかに行かずとも、世界レベルになれることを証明してやる。

 

『うん、いい気概だ。じゃあ話そう。君が自己紹介してくれたように、君の左足のキックと対人守備はとても素晴らしい。この世代において世界レベルと言ってもいい。視野も広い、中盤でのボール奪取もいい。───ただ、自分でドリブルで仕掛けることが少ないね。守備はいいけど、攻撃の最後の場面でいて欲しい場所にいないこともある。けど、特筆して述べるような欠点はそこまでない。SBで見たけど、そっちよりボランチを気に入りそうな特徴だね』

 

概ね、ほかのセレクションの評価と同じだ。ブランコ曰く、俺を選ばなかったクラブは選手に望むものが俺の得意分野とは違うのだろう、と話した。あるいは、俺に匹敵する選手がいたかどうか、だと。

 

確かに最も合格に近づいた小六の夏冬は、基礎能力が全て高い吉野と、オフェンス能力が抜きん出て高い桜羽がいた。来年度から桜羽がバルセ〇ナに行くというのなら、俺よりも彼らをとったということになる。

 

『ここでひとつ。僕の所属するクラブ、ベンフ〇カの育成理念について話そうか』

 

そこで、彼の目の色が変わった。気のいいおじさんの顔のままだが、俺を見極めようとしている目だ。

 

『我々は才能のあるタレントを発掘する。そのうえで、彼らをサッカーのみならず学業・生活面をサポートしながら成長を促すんだ。その中で競争を行わせ、試合という成長の機会を与える。───つまり才能があり、人間として成長する用意があればベンフ〇カの門戸は開いているんだ』

 

『才能と人間性、ですか』

 

『そうだ。 ......時に、君はとても丁寧な人物だね。閉会式や試合終了後の行動、先程の自己紹介を聞いても君が素晴らしい精神を持ち合わせているのを感じた』

 

『ありがとうございます』

 

『そして、才能。君は流れを読んで試合の舵取りをするのが上手だね。意識的か無意識かは分からないけど、準決勝の相手は気持ちよくプレーしていたのに失点したことを不思議に思っていただろう。───実は、ベンフ〇カもそういう力を大事にしていてね。おっと、じゃあ君が入るにはピッタリじゃないか。そう思わないかい?』

 

『つまり───』

 

思わず俺が声をあげると、抑えて、抑えてというようにジェスチャーをした。そして

 

『結論はこうだ。君はベンフ〇カのセレクションを受けに来るべきだ。君であれば、世界最高のクラブの一員になる資格がある。長年選手を見極めてきた僕が保証するよ。───ポルトガルでまた会おう』

 

ブランコさんが手を差し出してくる。俺も立ち上がって握手を返した。彼は一枚のメモを父に差し出し、そのまま去っていく。俺は言葉の内容を解釈するのに時間がかかったが、すぐに理解できた。

 

「つまり───俺はベンフ〇カに入れる可能性があるってこと?」

 

「ああ。しかも彼が太鼓判を押してくれた。パワプロが望めば、ポルトガルに行ってセレクションを受けることが出来る。詳しい時間や内容は、おそらくこの後に話してくれるだろう」

 

そう言って父はメモを胸ポケットに仕舞う。あそこに詳しい話をするための場所や時間でも書いてあるんだろう。

 

父は、厳しい顔を一層引き締めて俺に問う。

 

「パワプロ、話を受けるか今すぐ決めろ。 これから数ヶ月、あるいは数週間のうちに基本的な言語を身につけねばなるまい。魅力的なクラブだが、お前が望んだバルセ〇ナではないんだ。お前は妥協したことになる。それでも上を目指す覚悟はあるか? 」

 

父の言葉に、俺は考えるまでもなく力強く答える。

 

「願ってもないことだよ。俺はベンフ〇カを受ける。最後に転がってきたチャンスなんだ。妥協だろうがなんだろうが、俺は上を目指す。......父さん、ポルトガルに行かせてください」

 

最後に頭を下げると、父は優しい声で応じた。そして「よく言った」と小さく呟く。母も嬉しそうに涙を零して笑っているし、ツカサもギュッと手を握ってきた。俺も顔を上げて、少しほっとしたせいか笑ってしまった。

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