転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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「今日で最後でやんすか」

 

「ああ。卒業式が終わればポルトガルに行く。セレクションが来月にあるし、早く向こうに行って生活習慣を整えたいんだ」

 

3月の初め、俺は平日の放課後にいつものように練習に参加していた。軽くリフティングをして体の感覚を確かめる。冬の全国が終わってから、俺は再び復調しつつある。ベンフィカのセレクションに向けてやる気が再燃しているのだ。今のうちに尊史と練習しているドリブルや、左足の多彩なパスなどを仕上げておきたい。

 

そろそろランニングが始まるが、一緒にパス練をしている矢部坂はなんだか悲しそうな表情をしていた。目元が見えないので分からないが、妙に声が湿っぽい。

 

「寂しくなるでやんすね......」

 

「お前らしくねーな。三年もしたら戻ってくるさ」

 

そう言うと矢部坂はキリリと眉を引き締め、胸を叩いて宣言する。

 

「なら、オイラは三年間で誰にも負けない音速の矢部坂になるでやんす! 目標は高く100m10秒!」

 

「おう頑張れ。俺としてはオンザボールも頑張って欲しいけど」

 

「う。それはまあ、何とか......。ほどほどに」

 

「なんだよ頼りねーなー」

 

「うるせーでやんすよ! 人には得意不得意があるでやんす! そんなに言うんなら今日のランニングは勝負でやんすよ!!」

 

矢部坂がむきーっ、とムキになって突っかかる。別に俺は勝負を受けるとは言っていない。勝手にやっとけという感じだ。

 

「なんだ、勝負するのか? じゃあ俺も混ぜてくれよ」

 

「僕も。最近距離伸びてきたし、負けないよ」

 

すると、俺が反論する前に尊史と峰が参戦してくる。なんだか知らんが今日は勝負したい日らしい。

 

「いいでやんす。相手がパワプロくんだけじゃあ、オイラが物足りないところだったやんすよ。なんならタカくんの方がパワプロくんよりも体力があるし足も早いでやんす。きっといい勝負になるでやんすなあ」

 

「お? 喧嘩売ってんのかコノヤロウ」

 

そんだけ煽られちゃしょうがない。俺がこいつの言うほど遅くないことを示してやる。

 

「パワプロくんは喧嘩っぱやいというか、乗せられやすいというか」

 

「単純でやんすね」

 

「言ってろドン底メガネ」

 

「ドン......?」

 

「ははは。新しい名前が増えたな」

 

「全く嬉しくないでやんすよ!」

 

四人で気ままに雑談しながらアップする。この四人で話すのも暫く無くなるのか。矢部坂ではないが、寂しくなるなあ。なんだかんだ心地いいし、これだけ背中を預けられる仲間をこれから作れと言われても、少し自信はない。

 

尊史とは小5の初めからだったか、当時から突破力と得点力は化け物じみていた。今ではさらに磨きがかかり、ラストパスの精度も上がっている。

 

矢部坂と一緒にサッカーを始めたのは小2の頃。当時から足だけは早く、今でも足だけは早い。共に練習してオンザボールも少しづつ上達している。大事な場面で働いてくれるのがそこそこ助かっているが、これは内緒だ。墓場までもっていく。

 

峰は小6の最初だ。当時は背が高いだけで華奢な、シュートのうまい選手だった。試合を経るごとに体が強くなり、ヘディングが上手くなり、スピードがつき、迫力が増し───。あっという間に成長して言った。この一年間の伸び幅で言えば、こいつが一番だろう。

 

全く、いい仲間ができたもんだ。

 

「ふむ。なんだか知らんが、今日は気合いが入ってるのう」

 

宮部コーチが生徒を集め、スタートラインにつかせる。ピッチに置かれたコーンの円の周りを走るのだ。いつもは競走なんてしない。コーチの言う距離目指してペースを守って走るが、今日は目を瞑ってもらう。

 

ピーッ!!

 

笛がなった瞬間に走り出す。初っ端からフルスロットルだ。一旦様子見しようかとも思ったが、三人とも遠慮なしにエンジン全開だ。一人でもやるつもりがなければ矢部坂だけ走らせるつもりだった。が、そうはいかないらしい。

 

俺は最高速度は高くない。六庵コーチの付きっきりの特訓で姿勢や歩幅、ピッチを調整されてスタートダッシュと加速は格段に上達した。だが、体力やトップスピードは矢部坂に劣る。

 

......諦めるかよ!!

 

矢部坂は大外を走って余裕ぶっこいている。尊史はその後ろについてペースを守るつもりだ。俺が前に入っても追い抜く自信があるのだろう。峰は単純に二人より遅い。

 

俺が先頭を走れば矢部坂、尊史と後ろに入る。時間は五分だ。おそらく四分後半になった瞬間に追い抜くつもりだろう。

 

とりあえず追い抜かれず、自分の体力が持つスピードにセーブする。そのまま数分走るが何かを仕掛けてくる様子もない。

 

と、ここで「全く、おせーでやんすよ」と背後で呟かれ、一気に圧迫感が増す。来たぞ!

 

すぐに外側に体をずらしていく。ぬかそうとする度にそのコースを塞ぐのだ。矢部坂の足音はすぐ後ろに聞こえる。姿を捉えられないので非常に難しいタスクだが、正確にコースを見極めて体で塞いでいく。矢部坂は走りにくそうだ。

 

尊史、峰には抜かされたがこちらはどうしようもない。だが矢部坂、テメーはダメだ。

 

「だあああああ!! うっぜーでやんす! どけでやんすー!」

 

「はっ、はっ......。へへっ」

 

何か返そうとしたが、俺も余裕はない。あと数秒だ。絶対に抜かさせない。

 

こうして、究極のデッドヒートを繰り広げた後に笛がなった。俺はいつもよりペースをあげたし、頭も使ったのでだいぶ体力が削れた。

 

だが、振り返って矢部坂を「おっせーの」と煽ってやることは忘れない。「ズルでやんす!」と矢部坂も吠えるが結果は結果だ。こいつは俺のマリーシアに負けたのだ。

 

「神谷! 矢部坂! 最後だからってふざけていいわけじゃねえ!! 後輩の示しにならないだろう!」

 

「「ごめんなさーい!!」」

 

だが、鶴屋監督は怒りの声をあげてこっちを睨んでいる。当然だが、この後宮部コーチにもめためたに怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は一時間ほど練習をして、紅白戦の時間になった。今年クラブを去る6年生チームと、それより下の学年で別れて戦った。いわゆる引退試合だ。レギュラーメンバーでは下のチームに川原と沼野がいて、それ以外の六人は6年生チームだ。

 

当然俺たちのチームが圧倒する。が、監督は向こうについて指示を出しているため、次第に自由が効かなくなり、相手のペースになってきた。

 

俺やツカサも味方に指示を出してそれに対抗する。監督のサッカーを三年かけて学んできたのだ。その対策も当然頭にある。

 

結果、地力が高い俺たちの勝利で幕を閉じた。

 

だが、相手だってただやられる訳では無かった。川原は相変わらずいいセーブを見せるし、沼野も攻撃参加が磨かれつつある。猿美や三言といった奴らも、守備の役割をこなしつつ自分の色を出した。後腐れなく去れることを身に染みて感じた。

 

練習が終了すれば、監督が少し時間を作ってみんなを集める。今日で去る俺に一言述べて欲しかったらしい。ほかの六年生は様々に進む道があるが、今日が最後という訳では無い。来週辺りに出番が来るのだろう。

 

俺が話した内容を詳しく述べるつもりは無い。ポルトガル語を勉強するのが切羽詰まっているので、長話する予定はなかった。簡単に感謝を述べて、後輩を激励したくらいだ。

 

それに、俺はクラブで後輩に好かれるような先輩ではなかった。いじめや乱暴を働いたことは無い。理不尽に怒鳴ったこともない。だが俺へのパスがズレたり、俺からのパスをロストした時、あからさまに気が抜けてるやつには遠慮なく怒鳴った。

 

時折アドバイスもしていたが、そこそこ怖がられていたのは俺も知っている。むしろ、いなくなって安心するだろう。変に馴れ馴れしくされても困るし、これくらいでちょうどいいのだ。

 

支度を終えて、いつもの六人で駅に向かう。峰は一人だけ家が遠いが同じ駅を使っている。各々感慨深く過去話をしあった。

 

「なんだかんだ、ここで三年間も練習したのか」

 

「うん、三年前はこの辺の住宅街はまだ更地だった。覚えてる?」

 

「おう、今じゃ子連れ家族で飽和してるな」

 

「毎回通るから覚えちゃったでやんすよ。そこの家は奥田家、次が山中家、そして八屋家───」

 

「やべくん、そこは源家だよ」

 

「うん、それに次は骨川家、次は剛田家ね」

 

「かすりもしてないな」

 

「だーーーーっ! うるせえでやんす!!」

 

矢部坂がバカを晒すのをみんなして楽しみながら、俺はふと振り返る。

 

きっとここに戻ってくることはもうないだろう。OBとして顔を出すことはあるかもしれないが、ここでの物語は終わったのだ。

 

ここでできた仲間とは高校でも一緒にサッカーをする約束をしているが、それも絶対という訳では無い。

 

みんなと帰っている光景をサムネイルに、三年間の記憶を大切に胸の奥にしまった。

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