転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

48 / 52
スキー旅行

「ツカサ、結構慣れたんじゃない?」

 

「そうね。さっきよりも転ばなくなったみたい」

 

俺と母の元に滑ってきたツカサは、八の字に足を開いてスピードを止める。ゴーグルをあげた彼女は楽しそうに微笑んでいた。

 

「はい......うん、結構滑れるようになった。パワプロみたいなスピードはまだ出せないけど」

 

「そりゃ年季が違う」

 

「おかしいわね、今回で三回目のはずなんだけど」

 

母の言葉は聞かなかったことにした。前世では何度か経験があったのだ。ツカサより上手なのは当たり前だろう。

 

すぐにツカサママも滑り降りてくる。俺の母もそうだが、二人とも普通に上手い。

 

「ツカサ、そろそろ中級コースもいいんじゃないかしらあ。ここより滑りやすいと思うわよ?」

 

「うん、そうする」

 

「じゃあ、次のリフトで中級行こうか。傾斜は大きくなるけど、滑りごたえは増すぜ」

 

何しろ初級コースであるこの辺りは子どもの姿が多い。下の方をそりで滑っていたり、途中で座ったままの子どももいて割かし危険なのだ。中級に行けば、まわりも早くなるが人も少なくなる。ぶつかる回数も減るだろう。

 

ぺたぺたとツカサのそばに寄る俺を見て、垂れ目になるツカサママは頬に手を当てた。

 

「別にお父さんたちと言っても良かったのにねえ。ツカサと一緒だと滑りにくいでしょう?」

 

「いえ......ううん、俺も父さんたち並に滑れるわけじゃないから」

 

ツカサママのつぶやきに、タメ口で答える。俺もツカサも互いの母親には敬語じゃなくていいと言われている。気をつけているが、咄嗟に変わるものでも無い。

 

俺の言葉を聞いて、母の笑みが少しばかり深まったような気がする。

 

「でも、家族三人できたときはお父さんを抜かす勢いで滑ってたじゃない。我慢しなくてもいいのよ?」

 

「べっ、別に我慢してるわけじゃねーし、俺も基礎を確認したかっただけだし」

 

おっと、少し旗色が悪いな。さっさと行こう、とツカサをつついて急かすが、彼女の足は動かない。顔を見れば意地悪な表情をほんのり浮かべて俺を見返していた。

 

「我慢してるわけじゃない。だって、私と一緒に滑りたいんでしょ?」

 

「急に何言ってんのお前!?」

 

思わず叫んでしまう。別にツカサの言っていることが本心で恥ずかしいから叫んだわけじゃない。まあ、ツカサと滑りたいのは本心だが。

 

それより、母二人組の前でその言葉はリスクが高すぎる───。

 

「あら~ラブラブね。我慢してるわけじゃなかったのね」

 

という母の言葉に続き、おっとりとツカサママが口を開く。

 

「そうねえ。車でも後ろの席でずっと手を繋いでいたの、バックミラーで見えていたもん。両思いねえ」

 

「バッ」

 

ほら来た。母二人の暴露大会の火蓋が切って落とされた。以前にも数度あったが、こうなってしまえば二人の口撃は止まらない。ていうか見えてたのかよ。

 

ツカサも悪手を打ってしまったことに気づいたようで、慌てて滑ろうとストックで体を押すが、曲がる直前にズザザと倒れてしまう。俺はさっさと逃げたかったが、置いていく訳にもいかない。急いで支えに入った。

 

「そういえば、この間の寝言で『ツカサ......』って呟いてたわ」

 

「あら、それを聞くとLINE繋げた日はツカサずーっとニコニコしてたわねえ。思い出しちゃうわあ」

 

「脱臼は大変だろうから、って登校前にツカサちゃんの家に行くの、面倒くさそうに言うけどスキップ気味に出かけてたわね」

 

「ツカサなんてパワプロくんが来る十分前には玄関でウロウロしてたわあ。姿見を玄関にまで持ってきたりしちゃって」

 

「バレンタインチョコを貰った日なんてウキウキしてたわよね。手紙をお財布の中に閉まってるの、お母さん知ってるんだから」

 

「ツカサもホワイトデーのお返しで同じことしてたわね。お守りに入れて今もポッケに入ってるんじゃない?」

 

「うがあああああああああああ!!!」

 

「うわあああああああああああ!!!」

 

俺たちは逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

三月のある週末。俺とツカサの家族は六人全員でスキー旅行に来ていた。一泊二日の短い旅行だが、これから全員で揃うことも少なくなる。特別なイベントだ。

 

俺は二週間後にはポルトガルにいるし、その後休暇を除けば三年間は帰って来れない。俺がもしベンフ〇カのセレクションに落ちたら───もう、たらればの話はしない。

 

方やツカサも、私立の有名中学に進学できた。以前から行きたいと言っていたツカサママの母校だ。そこでサッカーを続けるらしい。

 

試験は二月の頭だったか。思ったより右腕の三角巾を解くのが遅くなって彼女も焦っていた。俺も塾やツカサの家で採点やサポートを一緒に行った。その結果、滑り止め含め見事に合格したのだ。

 

合格発表はツカサから後で知らされたが、俺もまるで自分の事のようにホッとした。何年も塾に通って努力していたのだ。報われて本当に良かった。

 

ちなみに俺はどこも受験せず、ツカサの受験日前日に退塾した。俺がこの一年間余裕がなかった一番の要因だったが、得られることも割とあった。後半はほとんどツカサ専属のサポート要員と化していたが、それもいい思い出だ。

 

中級のコースを滑りながら、時折後ろを振り返る。俺は前世で二回、今世でも二回の経験があるのだ。特に今世は体の運動神経がいいのか、あっという間に滑れるようになった。フォームの綺麗さも父お墨付きだ。

 

ツカサは今回が初めてと言うが、相変わらずの要領の良さですぐに滑れるようになった。中級コースに移動しても、俺の見よう見まねでどんどん形が綺麗になっている。

 

「ツカサー! 今度は左ー!」

 

「うん、了解!」

 

コースの指示をする。中級コースでも上の方はみんなスピードを出して滑っている。止まって話すのはもう少し下に行ってからだ。

 

俺は時折コースを外れ、真っ平らの処女雪の上を滑る。ところどころ山になっていて、そこで思いっきりジャンプするのが楽しいのだ。小さな山の中腹で体を縮め、頂上で大きく膝を伸ばす。

 

着地地点は特に気をつけないと行けないが、この爽快感はたまらない。

 

ツカサは安全な道を滑っていて、丁寧に八の字でスピードを調節しながら滑ってきている。片方の板がもう片方に乗ってしまうことも少なくなり、ここ一時間では一度も転んでいない。曲がり道なんかでは綺麗に足を揃えて滑っていた。

 

「ねー、パワプロ!」

 

「なーにー!」

 

「ここ! いい景色!」

 

ツカサの声に、ふと横を見る。森が開けていて、下のコースも、その先の森や住宅街も一気に目に入った。天気も先程晴れてきたのか、遠くの山までくっきりと見える。空も薄い水色で壮麗だった。

 

ツカサの隣に戻る。ちょうど平坦な場所になっていたので二人で座った。眩しいがゴーグルをとる。

 

「パワプロ、たぬきみたいになってるよ」

 

「まじ? 日焼け止め取れてきちゃったなあ」

 

「ほら、あるから塗ってあげる」

 

顔近づけて、とツカサが手を出した。自分でできるが、せっかくなので塗ってもらうことにした。冷たい手が、そっと顔に触れられる。

 

そのまま目を閉じて塗り塗りされること数秒、いきなり鼻をつままれて吹き出した。

 

「ぷがッ、何すんだよ」

 

「別に、ちょっと手が滑っただけ」

 

「んなことあるかよ」

 

が、ツカサはくすりと笑うだけで広がる景色を向いてしまう。俺もなにかイタズラしようかとも思ったが、すぐにやり返すのは子供だと思ってツカサに倣った。

 

下の方では大学のサークル仲間で遊んでいるのか、スケボーたちがまとまってころがっていた。ああいう集まりを、今世ではやってみたいなとふと思う。

 

「ね、ゆうるとは仲直り出来た?」

 

ふと、ツカサがつぶやく。なんだよ、なんか知ってるみたいな言い方じゃねーか。

 

「ん、まあ何とか」

 

と答える。窓から強引に入り込んで俺の思いを伝えるだけ、という字面に起こせば問題しかないやり方で仲直りを図った。ゆうるちゃんも初めは睨んできていたけど、次第に納得したのかいつもの表情に戻ってくれた。ひとまず、以前のように話せるだろうとは思う。

 

「そう、良かった」

 

「......何も言わねーのかよ」

 

ツカサのそれだけの言葉に少しばかり拍子抜けする。俺だってツカサといい雰囲気で、ゆうるちゃんと二股かけつつあることに自覚はあるのだ。何か言ってくるんじゃないかと警戒していた。

 

「何か怒って欲しかったりする?」

 

「いや......この景色の前でそれは無粋だな」

 

「カッコつけちゃって」

 

「うるせーやい」

 

俺が逃げれば、ツカサも無理には追ってこない。思うところはあるようだけど、これもツカサなりの心配の仕方だろう。今はありがたかった。

 

改めて景色を見ていれば、前世で似たような景色を見たことがあるのを思い出した。あれは母方の実家を訪れた時だったか。近くのスキー場で初めて滑った。実の弟と義弟含めた三人で練習して、中級コースまで登ってこんな景色を見たはずだ。

 

色あせた思い出だが、前世の中でも印象的な光景だ。他にも雪が降った時に三人で鎌倉を作ったり、もっと幼い頃は両親と雪だるまを作った記憶も残っている。

 

だからか、俺は雪景色が好きだ。

 

「パワプロ......」

 

ツカサが俺の方を見て呟く。少し感傷的な気分に浸ってしまっていた。今はもの悲しい記憶に浸るべきでは無い。俺には愛すべき家族がいるし、大事な友達がいる。

 

「ツカサ。今言うけど、一緒にサッカーしてくれてありがとうな」

 

「私も、ありがとう。三年間の別れは寂しい。けど、私たちには必要なことだよね?」

 

珍しくツカサの声に自信が無い。今度はじっと景色を眺めているが、少し寂しそうだ。

 

「ああ。たった三年されど三年。きっと長く感じる。けど、俺は日本を思い出す時、一緒にツカサを思い出すよ」

 

「うん。私も、手紙を送るし電話もする」

 

「LINEも交換したしな。悩み事を聞いてもらうことは多いかもしれない」

 

「いいよ、いっぱい話して。私も話すから」

 

「ああ」

 

ゆっくり、言葉を噛み締めるように交わす。手を握ろうかとも考えたが、手袋越しじゃあ温かさは感じない。スキー板のせいで上手く身動きも取れない。

 

しょうがないから、よいしょと立ち上がった。

 

「ツカサ、滑ろう! 夕方には上級コース行きたいだろ?」

 

晴れやかにいい放てば、ツカサも立ち上がって微小を浮かべる。

 

「うん。パワプロに負けたままなんて許せない」

 

「ほー、言うねえ。まずは転ばずに中級を降りきるところからだ、行くぞ!」

 

「うん!」

 

明るい声を出して滑り出せば、ツカサもそれに着いてきた。

 

三年間は、きっととても長く感じる。俺がポルトガルに馴染めばそうでは無いかもしれないが、ホームシックになる瞬間は必ず来るだろう。

 

ツカサとはお互い離れて新天地に向かうことになる。けれど、ずっと一緒にいることだけが支えること、というわけでは無い。

 

遠く離れていても、心は通じ合う。

 

クサい文句だけど、俺はツカサとならそれが出来そうな気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。