転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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旅立ち

大きな荷物を預けて、俺はリュックだけを背負ってみんなの元に戻る。

 

「今更だけど金属類は大丈夫なの? ハサミとか入れてない?」

 

「うん。必要だったら向こうで買うし、必要最低限しか入れてないよ」

 

「そう......? 忘れ物はないかしら? お財布とか大丈夫? 向こうの空港で取られないようにリュックに入れておくのよ? 日本の外は物騒なんだから」

 

「はいはい。忘れ物は心配いらないし、スリには気をつけるって」

 

俺を執拗に心配する母の他、チームメイトやクラスメイト、その保護者まで集まっている。後ろの方には鶴屋監督までいた。なんだか随分大袈裟な旅立ちになったもんだ。

 

ここは成田空港の建物内。俺が今日旅立つということで、色んな人が見送りに集まってくれた。既に大半とは何日もかけて言葉を交わしてある。あとは父を待って飛行機に乗るだけだ。

 

母は日本に残る。父は俺がポルトガルに慣れたと判断したら日本に帰国するそうだが、それまで母方の両親と暮らすらしい。寂しいのか、しつこいくらいに世話を焼いてきた。

 

......ここ二年くらいは、恥ずかしくてまともに甘えられていない。反抗している訳では無いが、鬱陶しいと感じてしまう。

 

「パワプロ」

 

「鶴屋監督」

 

チャラ男監督が近づいてくる。一週間ほど前にクラブをやめたときには、残念がりながらも送り出してくれた。今日は、ほんの挨拶をするだけらしい。

 

「ポルトガルでの経験は、きっと得がたいものになる。日本に戻ってきた時、お前を見るのがこれ以上なく楽しみだ」

 

「ありがとうございます」

 

「ああ。期待してるぞ」

 

はい、と頷けば満足したように帰っていった。あれで忙しい人だ。来年度からのチーム作りも大変だろうけど、努力が報われて欲しいと思う。自分で言うのもなんだが、俺の代は尊史とツカサ、それに峰や飛鳥など逸材が揃っていた。

 

「パワプロくん」

 

そんなことを考えていると、目の前に矢部坂が立ち塞がった。意識的に矢部坂を外したのがバレたのだろうか。

 

だが、少々違うようだ。その後ろには矢部坂以外の四人がいる。

 

「どうしたよ」

 

「これ、みんなでメッセージを書いたの。ここにいない守花と沼野君のも含めて、ね」

 

飛鳥が色紙を渡してくる。言葉通り、川原と沼野の分を含めてレギュラーメンバーのメッセージカードが貼り付けられていた。みんなすごい分量だ。寡黙な沼野でさえ五行は書いてある。すごいな、これは。

 

思わず見入っていると、今度は尊史と峰が前に出てくる。峰の手には一組のすね当てがある。俺が好んで履いている青色の靴下にあった、青色のすね当てだ。裏側にはいくつか言葉が書かれていた。

 

「それと、すね当てだよ。みんなで出し合って、邪魔かもしれないけど一言メッセージも書いたんだ。多分サイズは少し大きいくらいかもしれない。大事に使ってくれると嬉しいな」

 

「そうか、ありがとう峰。それとみんな」

 

流れ的に次の尊史を見れば、別に何も持っていない。ほかのメンバーもなにか渡す素振りは見せていなかった。尊史が一歩前に出てくる。

 

「残りの贈り物は、俺たち五人からのメッセージだな。パワプロ、お前には本当にお世話になった。何度もいいパスをくれたし、ここぞという場面で大事な守備をしてくれた。対人練習もクラブの練習以上に糧になった。───ありがとうだとかさようならとは言わない。まだ高校があるからな。せいぜい強くなって、俺とまた対人しよう。俺ももっと上手くなる。約束だ」

 

「おう、約束だな」

 

尊史とはグーで互いの拳をつきあった。尊史らしい挨拶だな。次は峰だ。

 

「僕がこの一年でこれだけ成長したのは、パワプロくんが根気よく声をかけてくれたから、だと思ってる。すごく頼りになったし、感謝してるんだ。ありがとう。高校までに、もっと頼りになるトップになっておくよ。パワプロも、頑張って」

 

「ああ。懐かしいな、お前と初めて会った練習日。散々だったもんなあ」

 

「散々だったよ......」

 

峰は顔を抑えて下がる。次は飛鳥だ。

 

「パワプロくん、今までありがとう。よくアドバイスをくれたり、かっこいい姿を見せてくれて、あたしも励みになりました。───その、上手く言えないけど、新天地でも頑張って。パワプロくんなら向こうでも一番になれるし、あたしもここで頑張るから」

 

「ありがとう。高校に入っても、一緒に頑張ろうな」

 

「うん!」

 

飛鳥とは、私生活であまり絡みがなかった。練習中も雑談するタイプではなかったため、あまり彼女のことは知らない。まあ、高校で沢山話せばいいのだ。

 

「パワプロくん。オイラは君に名言を送るでやんす。『人は思い出を忘れることで生きていけるでやんす。だが、決して忘れてはならないこともあるでやんす』」

 

「新世紀ヤヴァンゲリオンじゃねーか」

 

碇ゲンドウの名言のはずが、語尾にやんすと入ってしまっている。これは話しているのが矢部坂だからではなく、名言自体がそうなのだ。新世紀ヤヴァンゲリオンというアニメは、前世で言うエヴァの代わりにある今世のアニメだ。エヴァとストーリーやキャラ名はほとんど同じだ。じゃあタイトル以外何が違うのかというと、登場人物が全員やんす口調で瓶底メガネなのである。

 

主人公である碇シンジ、綾波レイなんかも当然瓶底メガネだ。あの名言も───「あなたは死なないわ。私が守るもの」も、「あなたは死なないやんす。私が守るやんす」に起きかわっている。当然碇ゲンドウもどきも瓶底メガネだ。転生して一番絶望したのは、間違いなくこれだ。

 

「何故だ......」

 

「説明させるなでやんす。親友のオイラ含め、みんなとの別れは人生で大きな標石になるでやんす。それに、パワプロくんがセレクションに落ちたことも、おねしょが学校でバラていることも───そういう悲しい出来事は忘れたくて忘れようとすることもあるでやんす。けど、その中でも忘れちゃいけないもの───悲しい記憶の中にも、パワプロくんの原動力がきっとあるはずでやんす」

 

「おねしょバラされてるの!?」

 

「え、おねしょしたでやんすか?」

 

「いやしてない。下手な鎌かけんなよカス」

 

「ええー、オイラなりのジョークでやんすよ」

 

笑えねえ冗談だ。それに今ので何を言われたかすっとんだ。どうせどうでもいいことだろうが、それっきりで終わる訳にも行かない。

 

「つまり、矢部坂がセブンでエロ本立ち読みしてるのをチクって嬉しかったことも、俺が悲しかったことのどちらも俺の人生だから忘れるなという───おい矢部坂、落ち着け。ここ空港だぞ」

 

「お前だったでやんすかあああ!! オイラあれで反省文五枚も書かされたでやんすよおおおおお!?」

 

急に矢部坂が暴れ始めたので、どうどうと諌める。全く、落ち着かないやつだ。ちなみに俺はチクっていない。エロ本の立ち読みも知らない。自爆と言うやつだ。随分面白いことになったらしいな。

 

「はあ、はあ......。まあ、過ぎたことは忘れてやるでやんす。とにかく───」

 

矢部坂は眼鏡をカチャリと上げる。間違いなく寄せているが、碇ゲンドウのポーズだ。

 

「とにかく、悲しい過去も時には勇気を与えてくれるもんなんでやんす。だから、苦しいことに遭遇しても、逃げないでいればその経験が新たな力になるでやんす」

 

「なんか小難しいこと言うけど、何となくわかった。ありがとうな、親友」

 

「どういたしましてでやんすよ親友! せいぜい有名になって帰ってくるでやんす!」

 

互いに拳をぶつける。癪だがうるっときてしまった。それに、矢部坂の言葉にも納得出来た。今年一年間の苦悩も、結果として俺の糧になった。だから、たとえイバラの道でも進んでいくべきなのだ。

 

「最後は私」

 

そして、ツカサが出てきた。俺は涙が決壊しないように目に力を込める。

 

「まずは、これ。みんなで作ったメダル」

 

そう言って取り出したのは、金箔に包まれたメダルだった。その輪っかの部分を広げて、俺の前に掲げる。

 

「みんなで決めた、クラブの年間MVP選手に渡すメダルだよ。受賞したのはパワプロ。おめでとう」

 

「あ、ありがとう......俺そんな賞知らないけど」

 

「野暮なこと聞かない」

 

頭を下げてツカサにメダルをかけてもらう。思ったより軽かった。素材が全て金属という訳では無さそうだ。だが、表面は薄い金属がはられていて、文字も掘られている。

 

FC武蔵ジュニア 平成23年度年間MVP選手 神谷パワプロ

 

随分と凝っていた。首にかける紐の部分も本物と同じような生地をしている。これをみんなで作ったという。俺の知らない話だったが、無性に嬉しかった。

 

「最後に、パワプロ」

 

俺が顔をあげれば、ツカサは一呼吸おいて話始める。

 

「私からのメッセージはスキーで伝えたし、まだ話したいことは三年後にいくらでも話せる。だから、一言だけ」

 

そうして、ツカサは右手を差し出した。

 

「あなたの新たな旅路が、きっと幸せなものになりますように」

 

伸ばしてきた片手と握手を交わした。ツカサにしては珍しく、演技がかった門出の言葉だ。同時にツカサらしく、少ない言葉数で先へ進む勇気を与えてくれた。

 

「ああ。三年後、進んだ道の先でまた会おう」

 

「ふふっ......うん、また会うよ」

 

そう言って、手を話した。抱擁したりはしない。握手が長引くことは無い。俺たちはもう中学生になり、それぞれ離れて進んでいくのだ。

 

寂しくて涙がこぼれそうだ。いつかの膝枕を思い出す。いつか楽しく語らったことを思い出す。いつか二人で勝利の喜びを分かちあったことを思い出す。

 

けど、思い出すだけだ。同じことをしたいなら、3年間をしゃかりきに進んだその先、そこでのみ味わえることだ。

 

ツカサの背後にはたくさんの人がいる。母も、チームメイトもクラスメイトも、その保護者も。。監督は見届けてくれるようでまだ残っているし、端にはゆうるちゃんもいた。俺は、この景色を忘れない。今度は俺を迎え入れるためのこの景色を見れることを祈って、荷物を背負った。

 

 

 

父が戻ってきて、ついに客席に向かう時間が来た。これから三年間、みんなと会えなくなるのだ。

 

母は最後まで心配そうに面倒を見てくる。だが、ここでお別れだ。荷物を持とうとしていた手を抑えて、母に向き直る。

 

「......ここでお別れなのね」

 

「うん、ここで。これ以上着いてこられると名残惜しくなる」

 

「そうよね───可愛い子には旅をさせよ、って言うし、私も子離れの時かしら」

 

その言葉に、父は少し笑ったようだった。

 

「寂しくなったら、定期的にテレビ電話すればいい。三年間の辛抱なんだ」

 

「あなたはいいわよね、一年は一緒に居られるんだし」

 

「はははははは! そうだな、その間じっくり成長を見届けて、帰った時に伝えるとしよう」

 

「そうしてくださいな」

 

父はそれだけ伝えると、すぐに歩みを始める。俺が最後の挨拶をする暇も与えてくれない。こういうところは情緒のない人だ。

 

だから、最後に少しだけ。

 

「母さん。今まで育ててくれてありがとう。三年間、俺は海外で頑張ってきます。......応援、していてください」

 

「パワくん......そうね、頑張ってらっしゃい。お母さんは、日本でずーっとパワくんを応援してるから。きっと、素敵な3年間を過ごしてきてね!」

 

それを言うなり泣き出してしまう。感極まってという感じだった。俺はまだ堪えているが、これを見せられると俺の涙腺もやばくなる。それじゃ、と言ってその場を離れようとした。

 

「パワプロ!」

 

だが、ツカサの声に思わず振り返る。

 

見ればツカサも涙を流していて、しきりに目元を拭っていた。周りを見れば矢部坂や飛鳥なんかもそうだ。尊史は彼らしく心強い笑顔を浮かべたままだが、峰は俺に言葉を伝えたあとからずっと顔を抑えたままだ。

 

「ツカサ! 元気でやれよ!」

 

「パワプロも! きっと、きっと......またサッカーをしよう!」

 

その言葉に、俺の涙腺もついに決壊してしまった。涙は見せまいと反対を向き、左拳をあげてツカサに応じる。

 

そのほかの奴らも、それを皮切りに別れの挨拶を叫んだ。きっと涙声になるだろうから、俺は声を返さない。だから、ただひたすらに左拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───イングランドのクラブから来た。得意ポジションはFW。このクラブが戦術的な戦い方をすると聞いて楽しみにしていた。よろしく頼む」

 

軽く自己紹介をして、一歩下がる。俺の苗字を聞いて、俺が誰なのかを察したものも一部いる。特に何かを入れ込むつもりでは無いが、変なことをする前兆があれば予め釘を刺す必要がありそうだ。

 

「ワタクシは北野広海と言います。人呼んで天才ストライカー、どうぞヨロシク」

 

ほかの新入生の挨拶を頭に詰め込みつつ、俺は既存のメンバーの顔を見渡す。ジュニアユースには、ジュニアからの昇格組が多い。ジュニアユースとは中学生年代のことで、ジュニアは小学生年代を指す。

 

俺が入団したこのクラブのジュニアは前年度の全国大会を春冬両方制している。セレクションの倍率は異常なまでに高く、俺と同様に外部から入団したメンバーはこぞって才気溢れるヤツらばかりだ。

 

だが、それでもジュニア昇格組は頭一つ抜きん出ている。ウィンガーの緑髪は、全国どころか世界レベルと考えて差し支えない。俺と似て銀髪の女性も、同等のレベルのDFだ。

 

それが、今年の昇格組にはもうひとりいるはずだ。世界レベルのMF。パスと対人守備が一級品で、試合を見る限りサッカーIQも高い。闘志溢れるプレーは屋敷の従業員たちのあいだでもファンができるほどだし、それ以外の基礎技術の高さも「後半から出場して数的不利の中チームを逆転優勝に導く」ことが決してまぐれでは無いことを示している。

 

短い期間であるが幼少期を共に過ごした俺は、実に誇らしかった。

 

向こうでも卓越していた俺よりできるのでは。そんな期待を抱くほどに。

 

だが、その彼の姿がない。

 

黒髪にセンター分けという特徴の薄い髪型だが、彫りが深く目元がパッチリとしている彼は他と一線を画す存在感をしているはずだ。あるいは、試合以外ではそうでも無い可能性もあるが───。

 

「峰くんだったか、一つ二つ質問をしていいか?」

 

「うん、花散院くんだよね。もちろんいいよ」

 

「苗字は言いにくいだろうから、ケイ、と呼んでくれ。俺はここに神谷選手がいると聞いていたが、彼は今日こないのか?」

 

長身の赤髪FWに声を掛ける。三年生もいる中でレギュラーに入るには、こいつも当然ライバルになる。小五の頃は地域のちょっとした点取り屋だったのが、世代最高のポストプレーヤーに成長しつつある成長スピードには目を剥いた。元来やっていた裏抜けもできるし、両足でも頭でもシュートを打てる。万能型CFと呼ばれる日も近いだろう。俺はそう評価している。

 

彼は、ああ、と合点のいった顔をした。

 

「パワプロくんのことだね。あの人はポルトガルに行ったんだ」

 

「ぽ───。え、ポルトガル?」

 

「そう、ポルトガル」

 

「......」

 

練習があるのに外国に旅行しているのだろうか。あるいは海外クラブの練習参加かもしれない。手元の情報にはなかったものだから驚いた。───まあ、一般人がどこにいるかなんて情報は調べようとしても手に入るものでは無い。俺が知っていたのは、「神谷パワプロが海外のセレクションに受かっていない」ということだけ。

 

「ちょうど今頃セレクションを受けてるはずだよ?」

 

「......ほんとか、それは」

 

「うん。えーとね」

 

峰は簡単に説明してくれた。

 

パワプロは冬の全国大会決勝が終わったあと、ポルトガルから来ていたスカウトに声をかけられたらしい。「君なら合格するよ」というお墨付きを貰って、そこを受験しようと決意したそうだ。それで一ヶ月前にはクラブを退団し、ここにいない。

 

「そうか、ありがとう」

 

「ううん、どういたしまして。パワプロくんはカリスマ性があるからね」

 

「それは知らないが、あいつとサッカーをするのは楽しかった。が、そうか───」

 

どうやら、俺はすれ違ってしまったらしい。

 

会うのはまた先になるようだ。そこはかとないやるせなさはロングシュートで発散した。

 

マジかよーーーー!!




これで、本編の投稿は一旦中断ですわ。ここまでご愛読ありがとうございますですの。

ここから一気に飛んで高校生編に入っていきますわ。高校生編もいくつかに分けて投稿していく予定ですけれど、何分パワサカのストーリーともリンクしていくので、それを整理するためにも時間が必要になりますの。

それに、「これ使えそうですわ!」「これ伏線に使えるかしら!」と無作為に広げた風呂敷を畳む予定も立てないといけないので、少々時間がかかりますわ......。

高校生編は夏冬の全国、リーグ戦の他に年代別代表とかの話も混ぜて行きますわ。ただ、出すキャラはパワサカキャラのみにするつもりですわ。実際にいる選手を仲間にするとか、そういう展開は考えておりませんの。

予定は未定ですけど、夏休みの間にある程度書き終わっていたいですわね。目標として、十月頭に投稿再開することを掲げますわ!

ただ、時々閑話も投稿していくつもりですので、それも楽しみにしてくださいな。

それでは、ごめんあそばせ~。


28/08/15 冒頭のパワプロくんとパワプロママの会話を一部修正しましたわ
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