転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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2人きり

新入部員たちは、そこまで時間をかけず俺たちに馴染んだ。時折練習以外の日でも一緒に出かけることがある。大抵、スポッチャか公園サッカーだけど。

 

もちろん俺やツカサもできる限り参加している。しかし塾が週4であるためなかなか時間を取れない。中学生で海外に出るのなら必要のないことなのだが、父は確実に決まるまで辞めることを許してくれない。

 

その海外下部組織の話だが、今年の夏に参加出来るものをピックアップした。だが渡航費用がかかるものは手が出しにくいし、重要な大会と被らないものを探すのは思ったより難しい。手当り次第ではなく、自分に合ったもの、行きたいものに絞って受けるべきだろう。小五の夏、小五の冬、小六の夏でそれぞれ一回ずつ受けられる余裕があるだろうか。小六の冬は遅すぎる気がする。せいぜいあと3度のチャンスだ。

 

あとは、大きな大会などで結果を残せばスカウトされる可能性が出てくる。相当難易度の高い話で、正直家でゆっくりパソコンをいじる暇はないほど逼迫している。

 

それに、最近は少ない時間ですらも近所の公園で自主練している。

 

住所が近かった尊史と集まって練習しているのだ。ちなみにツカサは居ない。

 

どうしてかと言うと、この練習は俺と尊史がひたすらに1on1をするだけだからだ。

 

少し前のレクリエーションで、尊史がスーパーなドリブラーだと部員に知れ渡った。よって、「得意なことはパスと対人守備」なんて認知のされ方をしている俺は、ほぼ全ての試合でマッチアップにされる。右WGと左SBなのでお互い違うチームならそうなるのだが、監督は面白がって俺たちふたりを同じチームにするつもりは無いようだ。

 

それで何度も対戦したが、お互いに今までないほどの白熱した激突を繰り返すことになった。尊史が突破することがあれば俺がボールを奪うこともある。五分五分の勝負だ。

 

今も、俺は斜め後ろのゴールを守るように尊史と対峙する。彼は右利きで、縦突破からのクロスやニア上へのシュートを最も得意としている。

 

だから俺はセオリー通り相手の不得意なことをさせるように縦をそれとなく消しているのだが、これが全く通用していない。

 

この程度の消し方では強引に突破されてしまうのだ。尊史は中学生レベルの体格をしているため、中背の俺では簡単に弾き飛ばされる。かと言って縦だけを消そうとすると、貴史は迷わず中に進路を変える。左足のキック精度も高いため、ファーへのシュートもきっちり枠に入ってしまうのだ。

 

相手の重心を揺さぶったり、相手の視界の外にボールをを通したりするテクニック形のケイなどとは全く違うタイプ。フィジカルを活かして相手をねじ伏せるドリブラーだ。メ○シ、○イマールよりクリ○ナ、ベ○ル型と言えば説明しやすいだろうか。

 

まあ、もちろん俺もただやられるだけでは無い。縦をそれとなく消しているため、尊史はかなりの割合で中を選ぶ。カットインをすれば相手からボールを奪われにくいように尊史は左足に持ち替えてドリブルをする。

 

そこがチャンスだ。

 

利き足のドリブルは体の軸がほとんどぶれないが、左足ではタッチが不安定で右足の時ほど安定したドリブルができていない。

 

一瞬でも姿勢が揺らいだ瞬間に体を当ててボールを離させるのだ。この方法でなら、比較的簡単にボールを奪える。

 

「っ! ようし!」

 

「なっ......くっそー。まだまだダメだなあ」

 

俺が中へ誘導し、あっさりとボールを奪ったことで1on1が終了する。尊史が悔しげに呟いた。

 

「仕方ない、これで終わりにしよう」

 

「は? 勝ち逃げするのかよ」

 

「いや、最後はパワプロが勝ったからそっちの勝ち逃げだよ?」

 

実はそういう訳では無い。今日は20分で50数回マッチアップしたが、俺の勝利は20回だけだ。負け越している。

 

共に実力は同じ程度なのだが、尊史の方は体の無理がきくのだ。体が強く大きく速い分だけパワーでごり押すことも出来、長い足でボールを無理やり奪うこともある。

 

そういう、最後の勝負というので俺は負けてしまうのだ。体が大きいわけではない俺は無理がききにくい。これは、いくらテクニックをあげてもどうしようもない。だが、思わず噛み付いてしまうくらいには悔しいのだ。

 

「......世界最高のSBが負けちゃいけないんだよ」

 

「はは。まあその通りだな」

 

サッと汗を吹いて帰路に着く。尊史は隣の学区だが、家はそこまで遠くない。ちょうど2人の家を結んだ中間にある公園で練習している。よって、尊史とは公園の前で別れることになった。尊史はここまで自転車で来ているようで、立ち漕ぎで帰っていく。

 

元気だなあ。

 

足に疲労が溜まった俺はゆっくり歩いて帰る。ここから家まで15分くらいだ。ちょうどいい距離なのだ。

 

桜はとうの昔に散って、代わりに雨が降る季節になった。暖かくなってきたからか、近所の高齢者たちもよく外を歩いて立ち話していた。車の通らないような狭い道路では、俺よりもっと幼い子供たちがチョークを使って遊んでいる。

 

俺が死んだ年の10年ほど前の日本のはずだが、なんだかもっと昔にタイムスリップしたみたいな気分だ。たった10年間で色んなものが変わったんだなと気づく。

 

少し前に家族で渋谷に行ったが、やっぱり昔を感じた。なんだか年寄りになった気分だ。

 

何となく感傷に浸っていると、後ろからとたとたとかけてくる音が2人分。いや、ひとりと1匹分聞こえてきた。振り返ればやっぱりそうで、向こうも「やっぱり!」みたいな顔をしていた。

 

「パワプロくん、今日も自主練の帰りですか?」

 

「ああ。ゆうるちゃんは散歩?」

 

「はい!さとうさんが誘ってくれたんです」

 

少女がかがんでさとうの頭を撫でれば、嬉しそうに「なーお」と鳴いた。羨ましいぞさとう。ついでに俺の足にも擦り寄ってきた。これは撫でまくるチャンスだろう。HERE WE GO SATO!

 

わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ......。

 

「あっパワプロくん、そろそろまずいかもしれません。さとうさんが変な声出し始めちゃってます!」

 

「おっそうだな」

 

物足りないが仕方ない。それにこのまま座っていると気分的に立ち上がれなくなる気がしたので、歩きながらゆうるちゃんと喋ることにした。いつも通り、彼女たちも乗っかってくれる。

 

彼女、銀崎ゆうるは茶髪ショートボブのカワイイ系女の子だ。素朴で和服が似合いそうで慎ましい、まさに「カワイイ」女の子だ。大事なことなの(ry

 

彼女とは今日のように自主練から帰ってるときに遭遇した。彼女と仲がいい、さとうさんという猫が俺に飛びかかってじゃれてきたのだ。それがきっかけで話すようになり、会えばこうして話すほどの仲になっている。

 

「そういえば、最近うちの学校の昇降口につばめさんが住み着いたんです!呼んだら降りてきて両手に乗ってくれたんです。おもちみたいですごく可愛かったんですよお」

 

「つばめいいなあ。そういえば見たことないかも」

 

「えっ!? 見たことない!? 人生の九割損してますよ。今度一緒に見に行きましょう!」

 

ゆうるちゃんとは話が弾む。というか俺も彼女も動物に好かれやすい体質なので、そういう話に事欠かない。それに、彼女がサッカーに興味をもって色々聞いてくれることも嬉しかった。ほんわかした彼女の雰囲気も、削れた俺の心を癒してくれる。

 

端的に言って、俺は彼女が好きなのだ。一緒にいるだけで天にも登るような気持ちだし、話せば常時回復魔法をかけられているかのようだった。

 

しかし、鉄の精神で告白を未然に防いでいる。俺の恋人はサッカーだ。そういうレベルで努力しないといけないのは理解してるし、こういう天然系女子というのはほかの男子にも同じ態度をとるのだ。前世で嫌という程失敗した俺は知っている。いくら今世の俺の顔がイケメンだったとしても、こういうタイプの子の心はカオナシの表情並に読めない。

 

「そういえば、そろそろ職場体験があるだろ? ゆうるちゃんはどこに行くんだ?」

 

「わたしですか? もちろん獣病院です! ペット屋さんとも迷いますけど、動物さんたちを助ける仕事って憧れるんです」

 

目をパチリと瞬いて首をかしげ、次の瞬間には両手を合わせて嬉しそうに笑顔を浮かべる。ああ^~。蒸発しそうだ。

 

「そういうパワプロくんはどこに行くんですか? やっぱりサッカークラブとかですか?」

 

「あ、うんとね、俺はスポーツ用品店に行くんだ。暇さえあればスパイク見れる環境なんて最高じゃん」

 

「あはは、パワプロくんらしい理由ですねえ」

 

こんな時間がずっと続いてくれればなんて思う。そう思うから、俺は自主練の場所をあの公園にしたし、帰りはゆっくり歩いて帰る。サッカーから浮気する気は無いが、たまには心の休息時間も必要なのだ。

 

俺はゆうるちゃんのコロコロと変わる表情を堪能しながら、心が浄化されていくような気分を味わっていた。

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