転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
4月も最終週になり、ゴールデンウィークに行われる全国大会が迫ってきた。いわゆる、春の選手権である。3月に関東予選が終わっていて、新中一がしっかりと全国の切符を取ってくれていた。
新チームで参加する初の全国大会だ。同時に、俺が参加する初の全国大会となる。───もちろん、選ばれたら、だが。
今のところ、俺が主戦場とする左SBではセカンドチョイスだ。今の主力は5年生の時から試合に出ていた。大胆なオーバーラップからのクロスを武器にしており、体も大きいため強引な守備もできる。中盤や最終ラインからのミドル・ロングパスで攻撃に参加し、体の小ささを技術で補う守備の俺とは全く違うスタイルの選手だ。
その選手からスタメンの座を奪うのはなかなか難しい。とにかく、試合に出て活躍しないと始まらない。
ちょうど今日がメンバーの発表日となっており、ウォームアップしている選手の一部はすました顔をしつつもどこか挙動不審でいた。かくいう俺もそうで、ツカサや尊史も気を使ってかあまり声をかけてこない。
監督がいくつかの書類を持ってやってきて、ついに練習が始まる。
最初に選手の発表をするようだ。誰かが生唾を飲む音が聞こえた。
「試合によってメンバーを変えていくが、スタメンの8人から発表するぞー。どうした、お前ら。顔が怖いぞ? 俺は選ばれるんだぐらいに自信もっとけよ。俺だって選考に悩むくらいみんな頑張ってるんだからさ」
その言葉に笑いがこぼれる。俺も笑っては見たが、顔の筋肉は強ばったままだ。
「じゃあ言うぞー。GKは米田。DFは小林、冬河、佐賀。MFは清田、神谷、進藤。ワントップは大加田だ」
「え、ミッドフィールダー......?」
名前は呼ばれた。俺の他に神谷という苗字のやつはいない。しかし、ポジションはMFだ。SHで起用されるのだろうか。練習中にたまにやるポジションではあるが。
「ああ。神谷がMFの話は、白橋のやつが大会に出られないからの選択だ。あー、まあ親戚の不幸だ。ご冥福を祈ろう......。代わりに誰を入れるかということで、パワプロを選んだ。細かい役割は後で伝えるが、真ん中の起用で考えてる」
そんな感じだ。と監督は締めくくった。
驚いた。サイドでもなく、MFの真ん中。このチームはよく3-3-1システムを採用する。ワントップの1列下で、CBの1列前───シャドー*1とボランチ*2の両方の色を持ったポジションだ。
ベンチメンバーの発表も終わり、別のコーチが俺に役割やポジション別のプレー原則などを伝えてくる。ビルドアップ時の立ち位置や押し込んだ時の飛び込み、守備の時のことなど、今日だけでは覚えられないことが書かれた紙を貰った。
監督としては、俺のパス精度や視野の広さ、対人守備をサイドではなく中央でも活かせると思ったようでコンバートしてみたそうだ。お試しの要素もあるらしい。
基本練習を終えて、セット練習で色々と確認する。
コンバートしたてで、上手くいくわけがない。だが俺も新鮮な感覚を楽しめていた。
中盤はサイドとは違って前後左右360度を見なければならない。今までサイドプレーヤーだったためについ忘れてしまうが、これは慣れが必要だ。それだけ周りに選手が多いということだが、その分選択肢も多い。サイドからロングボールやクロス以外にも俺の左足を使えるのだ。
それに、いずれ偽サイドバックという戦術が流行っていく。サイドバックが攻撃時に絞ってボランチとしてプレーするというシステムだ。それに対応できるように、中でもプレーできるに越したことはない。
いいぜ。和製カンセロになってやる。
☆
セット練習も終わり、試合練習に入る。スタメンチーム対それ以外の選手のチームだ。尊史やツカサ、それ以外のチームメイトとも声をかけあっていく。こいつらのプレーは一年かけて目に焼き付けてきた。それを活かすためのゲームメイクが俺の役割だ。
相手ボールで試合が始まる。プレスの時の俺の役割は相手CMF*3を消すことだ。CFが相手CBにプレスをかけ、相手SBにボールが流れたところでSHと連動してハメる。今回はGKに逃げられたが、ロングボールが下手な選手にボールを押し込んで蹴らせるのがこのクラブ共通のプレススタイルだ。ハイプレスであるため連携の精度が低いとプレスを剥がされて一気にピンチになる。ここは特にコーチが詳しく指示してきた。
ちなみに俺がメンバー外選手としてスタメン選手と戦っていた時期は俺の方にボールが行かないようなプレスをかけてきていた。おかげで試合中のボールタッチはCFより少なかった試合もあったほどだ。
10数秒もすれば相手ロングボールをマイボールにすることが出来た。早速攻撃フェーズということで、俺は相手選手の間に顔を出していく。CFの選手も時折降りてくるため、それを活かしながらハマらないようにボールを動かしていく。サイドの選手も中に入ってきたり、かなり流動性の高いビルドアップだ。
そして直ぐに中盤で前を向いてボールをもてた。ターンが上手ければもっと楽に前を向けるだろうが、要練習だな......。
ここからどう攻めるか。あまり考える時間はない。が、どうにも選択肢が多すぎて悩んでしまいそうになる。ワンツーで崩すか、サイド突破をさせるか、このままドリブルで運ぶか───。
だが、それが目に着いた瞬間、俺はボールを出していた。
事前モーションの少ないキラーパス。弾丸のようなボールは動けなかったディフェンスラインを超え、その背後に飛び出していった尊史へのスルーパスになる。トラップをミスればロストするようなボールを彼は簡単に足元に収め、そのままシュートを打った。
「ゴール!1-0、パワプロ、良く見えてたな。タカもナイストラップアンドシュート!」
「「うす!」」
審判をしていたコーチに褒められる。半ば反射的なパスだったが、左足のグラウンダーパスは寸分違わず狙い通りのところに届いた。受け手に優しくないこと以外完璧なボールだった。
......まあ、こいつがどんなパス出してもパーフェクトなファーストタッチに持っていける確信があるからこその、スピード重視のパスだけれど。
「ナイススルーパス。次も待ってるよ」
「おう」
尊史とハイタッチする。彼は去年のレギュラーを押しのけての大抜擢だったが、こいつも大概やべえな......。全国レベルでもここまでのスペックの選手はなかなか見ない。
試合が再開して再びロングボールをマイボールにした。ツカサたちからのパスをスムーズに回す。俺の立ち位置は原則を守っていればひとまず感覚でやっててみろとコーチに言われている。試合後に修正は入るだろうが、割と楽に回せている気がする。
今度は右サイドの突破をさせると、ブロックされたクロスボールが相手に回収されカウンターを食らう。
最終ラインに残っているツカサがディレイしてくれているので、俺は猛烈に追い上げていく相手プレイヤーの一人に併走する。案の定こっちにパスが来たので外にクリアした。
「パワプロ、ナイス」
「おう、ツカサも、ナイスディレイ」
お互いにタッチして帰陣する。被カウンター時はツカサが上手く対応してくれているので、その間に味方が戻ることが出来る。ポゼッションチームとしては最も怖いのがカウンターだが、彼女一人で充分に怖さを削っていた。こっちもこっちでかなりのレベルのDFに育っている。
俺も負けてはいられないな。
その後も試合を続け、俺も少しは勝手がわかってきた。背後からプレスを受けた時の対応や視野の確保は課題点だが、中々どうして、このポジションでのプレーを楽しめた気がする。
......ただ、一試合終了時点で立ち上がれなくなるほど体力が枯渇していたので、コーチに毎日のランニングを命じられた。
体力トレーニングは好きじゃないんすわ......。
守備のできる世界線のカンセロはバロンドール候補だと思いますわ。守備が出来れば......。