説明が多くてテンポが悪い自覚はあります。
自由都市エレリア。
現実で言うところの北米の某所にあるその都市は、
このゲームの世界では珍しくもないことだが、国に属する都市ではない。企業等が独自に治める地域が国と拮抗する――そんな歪な情勢なのだ。
その一因は国の規模がかつてと比ぶべくもないほど小さいことだ。大きな国であってもせいぜいがかつてのイギリスの半分ほどの面積でしかない。それぞれが同盟を結んだりして大規模な集団になることはあるが。
エレリアはプレイヤーかNPCかを問わずアドラーが多く集まる都市だ。ツヴァイクが本部を置く都市だから便利が良いし、初めてASSAULT ARMORにログインするプレイヤーがガレージから出た先がこの街のツヴァイク本部だからだ。
AAはVRMMOで、ゲーム自体を買うのに加えて月額課金が必要だ。なのでアクティブプレイヤーが増えれば増えるほど運営にとっては利益が出る。
しかしメカアクションという都合上、機体を置いておくスペースが要る。これをリアルに作り込んで、例えばツヴァイク本部の地下の限られたスペースをガレージとしてモデリングしてプレイヤーに解放するとする。
そうするとすぐに一杯になってあぶれるプレイヤーが出るわけだが、ガレージを使えないのではゲームにならない。
そこでガレージはインスタンスエリア――つまり個人用として独立したエリアとなっていて、外、つまり普段自分や他のプレイヤーが活動している〝世界〟とは切り離されている。
それでも明らかに土地のキャパシティよりガレージにあるAAの数が多いという事態になりはするのだが、これは一応世界観上の設定もきちんとあって、このガレージはツヴァイクのネットワーク上に作られた電脳空間ということらしい。世界各地にあるツヴァイクの施設に設置された装置によって機体を量子化して電脳空間に格納するというわけだ。人間用の装置も施設のロビーなどにあって、これを使って人間もガレージに入ることができる。という設定である。
またこの量子化装置はAAにも簡易的なものが標準搭載されているしプレイヤーのアバターも最初から腕輪型のものを支給されている。これにより戦場で拾ったジャンクパーツやらその他諸々を、容量に制限こそあれ持ち帰ることができる。
早い話がインベントリである。こちらはガレージに入るときに使うものとは違って生き物には使えないし、他人の電子タグがついているものにも使えないという制限がかかっているが。誘拐や窃盗の対策、ということになっているが、つまりゲーム的にアイテム扱いでないものを収納できないことに対する世界観的設定ということだ。
そしてガレージには倉庫の機能があり、インベントリ内のものをそのままガレージに移し保管しておける。
さらにさらに、各地のツヴァイクの施設からガレージに入れるということはその逆、つまり出ることも当然可能なわけで、これがファストトラベルの役割を果たす。
ガレージひとつでいくつものゲーム的な都合に世界観上の説得力を持たせることができているのである。
まあ量子化が実際そういうものなのかどうかは俺は知らないが、昔のSFでも似たようなことしてたし、SF的にはそういうもんなんだろう。たぶん。
一度滅んだ世界という設定の割にはハイテクだと思わなくもないが、それで困ることはプレイヤーには無いし俺としてはどうでもいい。
そんなガレージに俺は今日も降り立った。ここはログアウトする場所として推奨されている場所でもあるのだ。他には宿屋とか野営とかもあるが、あっちは金や手間がかかるからな。今すぐ落ちなきゃならないがガレージの入口がある場所からは離れすぎてて戻ってる時間が無い、なんてときでもない限りガレージで良い。
余談だがこのガレージは初期は古びた町工場の中という雰囲気だが、ゲーム内通貨やリアル課金で家具等の内装を買うことで好きなように模様替えが出来る。宇宙戦艦のハンガーみたいにも出来るし、ホテルのロビーみたいなピッカピカであまりハンガーらしくないものにも出来る。屋外の駐機場みたいにすればなんとそれらしい建物のある背景と青空まで再現される。
まあ、背景でしかないので見えない壁に囲まれた箱形の空間であることは変わらないが。電脳空間上に用意された領域という設定なのだから背景がどれほど広大だとしてもガレージの広さは決まっているのだ。
俺のガレージは初期状態から内装自体は変わっていないが、これまでの戦利品や試作などして得たブースターたちを壁一面に飾っている。ふつくしい……最高の美術品達だよまったく……!
――話を戻して。
「さて、今日は何をしようかねぇ」
『それはもちろんお金稼ぎでしょう。私のボディを一日でも早くアンドロイドにするためにも』
ウサギ型のトイボットが俺の肩に飛び乗って言う。これはラングザームのサポートAI・ナルの現在の体だ。AAのサポートAIとはいえ人格がある以上、機体を飛び出して自由に動ける体を欲するのは必然と言える。
出撃時はこれをコクピット内の台座に置くことで機体と接続し、火器管制の補助や機体状況の把握等の各種サポートをしてもらうことになる。
と、いうことはだ。
「いやお前さ、アンドロイドになったらどうやってラングザームに乗るんだよ。俺一人だって狭いのに」
『それはもちろんAAを使う際には今のこの体に移ります。けれど街歩きをする際等はアンドロイドだって問題無いでしょう?』
「それは……まあ、そうだが」
ぶっちゃけ街でAAが必要になることはそうそう無いし、仮にそういうことがあってもAAに乗るためにはガレージから出す必要があるのでそのときにトイボットに移れば良いだけの話だ。
要するに、AAをガレージから出していないときにアンドロイドの体でいることに不都合はさほど無い。それどころかちょっと奮発して戦闘能力のある体にすれば、ときどきある生身で戦闘するクエストで戦力として数えられるし、稀にある街中での暴力的なトラブル――NPCの組織同士の抗争とか――に巻き込まれた際の安全性は上がる。
さらに言えば、別にわざわざトイボットとアンドロイドを行ったり来たりしなくても、お高くはなるがトイボットを背負ったり体内に格納したりして接続できるものを買えば、急ぐときでもトイボットを外してコクピットに持ち込むだけで良い。
そして体を使わないときはインベントリにしまえばいいわけだから、邪魔にもならない。
ラングザームの強化にこだわって金を出し渋ったりしなければ実は問題のほとんどは解決できてしまうのだ。
『もちろん買ってくれますよね?』
「……ウィッス」
まあ仕方ない。AAを遊び始めてはや一ヶ月。俺のワガママを押し切って今までスピードだけを追い求めたアップグレードを施してきたわけだから、ここからはナルのターンだ。ということにしておこう。
「でも先にオッサンとこ寄ってくぞ。稼ぐのはその後だ」
『はい』
ガレージの出口脇にある端末を操作してエレリアを選択し、俺たちは転送されていった。
「ガンテツのオッサン、居るか~?」
エレリアのド真ん中にあるツヴァイク本部を出てバスに乗り、南へ行くこと一〇分。
中心街と比べるとずいぶん雑多というか猥雑というか、そういう雰囲気の区画に来た俺たちは、知り合いのプレイヤーが営むジャンク屋……
「おーう居るぞー」
店の奥から顔を出したのはいかにも傭兵といった感じのヒゲ面の男だ。黒髪を短く刈り上げ、動きやすくて丈夫そうなシャツとミリタリージャケット、カーゴパンツにミリタリーブーツ。全体的にカーキ色だ。
ちなみに俺の服装は赤のTシャツに黒のテーラードジャケット、紺のジーパンに黒のミリタリーブーツだ。靴が合ってねえ? うるせえ、厳つい靴が好きなんだよ。
で、そんなザ・傭兵って感じのガンテツのオッサンだが、こう見えていわゆる生産職だ。
先にも述べたがこのゲームはメカアクションである前にオンラインゲーム。多くのプレイヤーに長く遊んでもらえてこそ、というか長く課金してもらえてこそ利益が出るので、そのためのゲーム作りというものをしていく。
かつてのオンラインゲーム黎明期から最盛期においてはレベル上げやスキル上げに死ぬほど時間をかけさせたり、レアアイテムのドロップをアホほど絞ったりして、とにかくゲームに張り付かせる作りだったと聞く。
しかし娯楽がどんどん多様化し、ひとつのゲームに莫大な時間を注ぎ込むのが流行らなくなると、そういうゲームは廃れていった。かわりに、ガチャで強いキャラクターや装備が出ればエンドコンテンツに挑めたり、後続が追いつきやすいシステムにすることで遊びたい時だけプレイ権に課金すればよかったり、そういうゲームが流行った。
では今はといえば、少しだけ昔に戻りつつある。
何故かといえば、完全没入型VRゲームではゲーム内時間の加速が可能だからだ。基本的にどのゲームでも現実の八倍の速度で時間が流れている。ここでの二四時間は現実の三時間だ。時間加速の倍率がゲーム間でほぼ統一されているのには理由があるのだが、それは今は置いておく。
時間加速のおかげで平日には一日に少しの時間しかゲームができないような社会人であってもある程度がっつり遊ぶことが可能となったわけだ。
それに加えてVR機器のセーフティー機能によって廃人プレイが出来ないようになっている。連続して現実時間で八時間使用すると強制的にログアウトされ、六時間使用不可のペナルティを受ける。加えて一日の合計稼働時間が一六時間に達するとこれまた強制的にログアウトされ、こちらも六時間は使用不可となる。
そのうえでレベル上げスキル上げはそれなりに時間がかかる、しかし多くの社会人プレイヤーがレベルキャップに達することが出来、レベルキャップが解放されるごとに低レベル帯では経験値にボーナスがつくので新規や後続も追いつきやすい。レアアイテムのドロップ率は渋めだが壊れ性能というわけでもなく、見た目が良いとかレアであること自体だとかに価値を置く……という作りのゲームが現在の主流だ。
金を払うためには金が無ければならない。稼いでいる社会人をメインターゲットとし、彼らに気持ち良く遊んでもらうのが一番良い、というわけだ。
また完全没入型VRゲームではレベルやステータスよりもプレイヤースキルの方が影響が大きいという理由もある。従来のコマンド戦闘のRPGやコントローラーをガチャガチャするアクションゲーム等と違って、基本的に自分で自分の体を動かしてのアクションゲームであるからだ。
同じレベル、同じステータスだったとしても、体の使い方、攻撃の正確さ、フェイントや回避のタイミングの取り方、視線の向け方読み取り方……等々、プレイヤー自身の技量で差別化されてしまう部分があまりにも多い。それ故、レベルが上がりやすくレアアイテムが強くなくともプレイヤーたちが完全に横並びになることはまず無く、トッププレイヤーと呼ばれる層はそうした要素で強者として差別化されていく。
そしてそれは練習によって磨けるものだ。サーバーに一本しか無い最強の剣を持っている奴が強い、なんてゲームよりよほど新規や後続のやる気に繋がりやすい。「今始めても一生エンドコンテンツやれないわ」みたいなことにならないからだ。
少し話が逸れたが、レベル制ではないAAにも長くプレイしてもらうための成長要素としてスキルがある。このうちパーツ作成に関するスキルを多く取得し、パーツを作ってマーケットに流したり店舗を構えたりして楽しむプレイヤー達を生産職と呼ぶ。
とはいえ彼らもアドラーには変わりない。自分の機体を当然持っているし、自分でパーツを作れるということは高性能なパーツを安価に手に入れやすいということだ。
このことから、戦闘用スキルをたくさん取るのが強い派、生産スキルをたくさん取るのが強い派、バランス良く両方取るのが強い派の三勢力が掲示板でバチバチにやり合っている、らしい。
他にも防御スキルでガチガチに固めたタンク脚が最強派だとか、メカアクションにスキルは邪道だから取るな派だとか、まあいろんな派閥が日夜争っていると聞く。俺はどれにも賛同できないので正直くだらない争いだと思うが。
さて、そんな生産職のガンテツのオッサン――ちなみに俺の口が悪いのではなく「ガンテツのオッサン」という名前だ――は俺を見るなり顔をしかめた。
「なんだカシュか」
「なんだとはなんだ」
「だってお前どうせまた無茶振りする気だろ? ブースターを出力上げつつ燃費を一割良くしろとかよォ」
「できたじゃん」
「ったりめぇだ、職人の意地ってもんがあらァ」
このオッサン、俺の知る限り生産職の中では飛び抜けて腕が良い。が、「頑固な職人」に憧れがあるらしく、気に入った奴にしか腕を振るわないので知名度が低い。
と言っても金は稼がなきゃならんので、彼はAA用以外にもいろんなジャンクパーツを店先で売ったり、別の名前でテキトーに作ったパーツをマーケットに流したりしているのだが。ジャンクパーツのレストア品が主らしいが、既製品と比べるとかなり性能が良い割に価格は良心的ということでそちらの名義はけっこう有名だ。
ちなみにそちらは「ドングリボール」という名前で、本来の名前のガンテツと合わせて考えるにおそらく元ネタは世界的に有名な育成ゲームだ。
俺はある日この辺を歩いているときにこの店にフラッと立ち寄り、その時ためしに見せた機体データのあまりの偏りっぷりが気に入られたらしい。以来いろいろと依頼する仲だ、お互いに。
そう、お互いに、である。
「そんな態度でいいのかな~、頼まれてたやつ見つかったんだけどな~」
「それを早く言いやがれってんだ! 奥に来いよ、茶ァ出すぜ!」
一転して満面の笑顔となったガンテツのオッサンについて店の奥に入り、エレベーターで地下へ向かう。
着いた先はガレージ。ツヴァイクのものとは違って実際に地下に存在するガレージであり、彼の工房だ。
隅に置いてあるテーブルに二人してついて待つこと
「こんにちはカシュさん」
「どうも、フォークおばさん」
これも俺の口が悪いのではなく、「フォークおばさん」というプレイヤーネームだ。さすがに女性におばさん呼ばわりは……と思ったのだが、当人がフォークおばさんと呼べとすごい圧で言うのだから仕方ない。
アバターの外見は泣きぼくろがセクシーな黒髪ロングのスレンダー美女で、どう高く見積もっても二〇代後半なのだが……。しかもガンテツのオッサンとリアル夫婦らしく、二人の発言を纏めると二人ともリアルとほぼ同じ外見らしい。ますますおばさん呼ばわりは気が引ける。
話を聞くにどうも名前の元ネタは突然小さくなるおばさんが主人公のアニメらしい。幼少期に再放送を見て以来大好きなのだとか。
なおフォークおばさん、バリバリの戦闘民族である。しかも乗機は超重装甲のタンク脚タイプで、両手に大口径ガトリング砲、左右背部にはレーザーガトリング砲、両肩にミサイル、タンク脚の装甲の下にも仕込みミサイルというトリガーハッピー火薬庫仕様。人は見かけによらない、いろいろと。
「それで? ブツはあるのか?」
「おう。今そっち送るわ」
携帯端末――いわゆるメインメニューなんかはこれを使って操作する――を取り出してトレードを起動し、インベントリに入れてあるブツを選択しOKを押す。
ガンテツのオッサンは転送されたそれを確認し、ニヤリと笑った。あまりにも悪人面だしブツなんて意味深な言い方をしたせいで危ない物でも取引している気分になる。
だがなんてことはない、正体はレアパーツのジャンク品だ。今は亡き企業がかつて少数生産したハイエンドパーツという設定で、手に入ったら売ってくれとガンテツのオッサンに頼まれていたのが先日倒したNPCの機体からドロップした。
このゲームは物流関係もリアルなので、プレイヤーメイドでないAAのパーツは実際に企業が生産した分しか流通が無いのだ。普通に品切れとかある。あと撃破した機体に乗っていたNPCはプレイヤーと違って普通に死ぬので、同じNPCを何度も倒してドロップを粘るとかが出来ない。
例外はプレイヤーの機体からのドロップで、これは撃破されたプレイヤーがそのパーツを失うというものではない。プレイヤー、NPC問わず撃破された機体はしばらくそこに残るのだが、プレイヤー自身は即時ガレージに死に戻る。すると修理費――まあ撃破されたわけなので機体まるごと新品で買う金額になるのだが――を差っ引かれたうえでガレージに機体が鎮座している。
一方で残された機体の残骸をプレイヤーが調べるとそのプレイヤーのインベントリに無から生み出されたジャンク品が直接入る。いくつの部位からどのパーツが手に入るかは機体の破損状況による。
このあたりの物流の調整とかどうなってるのかは知らないが、そういうゲームとして問題なく回っているのだから深く考えたら負けだ。俺はゲームを作る側じゃなくて遊ぶ側だからな。
「確かに。約束の金だが――」
「ああ、金はいい。代わりに頼みたいことがある」
「なに?」
「ナルがアンドロイドの筐体を欲しがっててな。オッサン作れたりしねえ?」
「そりゃ作れるが……さすがに今回の報酬じゃ既製品以下のポンコツしか作れねえぞ」
粗悪品とはいえアンドロイドひとつ作れる程度の額が今回の報酬であることに安堵しながら俺は続けた。
「ああいや、そうじゃない。筐体の作成を依頼したいから、今回の報酬分値引きしてくれって話だ」
「ああそっちか。構わねえよ」
「助かる。オリエンスの最高級モデルをぶっちぎる性能を期待してるぜ」
「ぶっちぎるのは無茶振りだろ!?」
オリエンス社はAA世界においてアンドロイド筐体のシェア世界一の企業だ。元ネタは推して知るべし。
その後は依頼する筐体の仕様や料金の話を詰めていった。
「アンドロイドになるなら、ナルさんの服も選びに行かないといけませんね。全裸で引き渡すとなると一旦インベントリにしまって帰ってもらわないといけなくなりますし」
『それについてはフォークおばさんに全面的にお任せしたいですね。私は人間のオシャレというのがよくわかりませんし、カシュのセンスは信用できません』
「任せてください、カシュさんのご趣味にも合った最高のコーディネートをして見せます」
女性陣が何やら失礼なことを話していたが、実際俺に女性用の服を選ぶセンスは無い。
「ああ、そういやカシュ、例の弾また仕入れといたぞ」
「お、マジか。いくらだ?」
「一〇〇発で二五〇〇〇CBだな」
CBは
では何故紙幣かといえば、高額な商品を扱う際に使われる単位だからだ。この下に日常的に使われる単位があって、こちらは
一CB=一〇〇〇〇CCで、パンとかはだいたい一〇〇CCだ。
「くっ……やっぱ高ぇ……」
「これでも普通なら三〇〇〇〇はするところを安く仕入れて安く売ってんだよ」
「わかってるよ、いつも助かってる」
ラングザームの左腕のハンドキャノン、RC-458 TATHLUMは威力を重視してスナイパーキャノン用の弾を使用する。スナイパーキャノンで撃ってさえ反動が凄まじいそれを銃身の短いハンドキャノンで撃つのだから、反動はさらに強烈になる。
銃身にガスポートを開けてはいるものの、それで普通にバカスカ撃てるようにはならない。左腕のチューンを反動制御に極振りして、ただでさえ高めの逆関節脚部の姿勢制御もチューンで上げて、それでようやく〝なんとか撃てる〟レベルだ。反動が強いだろうとは思っていたがどうしてもパーツデータを作っただけでは実感として落としこめるものではないため、実際にゲーム内で撃ってみて愕然とした。
はちゃめちゃに練習してとりあえず扱えるようにはなったが、本当にとりあえず扱えるというだけだ。狙いなんてブレるブレる。
そこでガンテツのオッサンに相談したところ、どうやら反動制御・姿勢制御が平凡以下な機体でもスナイパーキャノンを扱えるように火薬を減らした代わりに着弾時の威力はそう劣らないよう加工したタイプの弾が流通しているという。
しかし実用性に難があるというか、実際そんな機体でそうまでしてスナイパーキャノンを使っても弾速も射程も下がりすぎて話にならない。ので、生産数が少なくべらぼうに高い。
だがどうせ機体がバカみたいなスピードで動くうえある程度接近して撃つのなら、撃てば機体のスピードが乗るわけだし弾自体は普通のスナイパーキャノンより遅くてもいいんじゃあないか、という結論に達し。
試しにその弾を使ってみると劇的に撃ちやすくなったため、今も愛用しているというわけだ。それでも空中で撃つと反動で機体が多少ブレるが、弾は狙った通りに飛ぶので問題ない。俺がきちんと機体を制御すればいい話だ。
「ま、五発しか入らないうえに一度出撃したら帰るまでリロードとか無理だから言うほど弾の消耗は早くないんだけどな」
「ジャンジャン出撃してジャンジャン使え、そしてうちで買え」
「しばらくは稼がなきゃいけないから出撃は増えるが……毎回撃ち尽くしたとして二〇回で一〇〇発無くなるのか。そう考えるとすぐ無くなる気がして嫌だな……」
だがまあ前に買った分もまだいくらか残っているし、毎回撃ち尽くすものでもない。しばらくはもつだろう。たぶん。
「そんじゃ俺はもう行くよ。アンドロイドの件、よろしくな」
「おう、また来い」
▽
ツヴァイクを通して依頼を受ける方法は大きく二種類ある。
ひとつは自分で依頼を見て選び、受理手続きをすること。直接施設に行く他に携帯端末で手続きすることも出来るが、とにかくプレイヤーが能動的に選ぶ方法だ。
もうひとつが、ツヴァイク側から打診が来る場合。
戦場に事欠かないこの世界ではNPCからツヴァイクに寄せられる依頼も膨大だ。特にこのゲームはNPCが高度なAIを持ち実際に生活するひとつの世界として成立しており、致命的な問題――例えばこのゲームはロボットで戦うゲームなので、ついうっかり世界が平和になっちゃったりとかすると成り立たなくなる――が起きない限り運営は世界の流れに干渉しない。
つまり現実と同じく時間の流れに伴って世界は絶えず変化しており、ゲームの稼ぎで定番の〝同じ依頼を繰り返し受ける〟ということが出来ない。
そういうわけで、膨大な依頼の中には緊急性の高い依頼、優先度の高い依頼というものがある。そうした依頼を処理するために、ツヴァイクの職員NPCたちはプレイヤー・NPC問わず所属するアドラーの実績や機体構成、得意な任務傾向等を考慮して依頼を直接個人に回すことがある。
『カシュ・ハーゼルヌス様ですね?』
今回俺に回ってきたのもそういう依頼だ。
携帯端末――ちなみにこれはメインメニューを扱う超絶必須アイテムであるため、紛失・破損しないようシステム的に保護されている――に届いた通信に応答すると、ツヴァイクのオペレーターさんが映し出された。
金髪碧眼の美女だ。こういう職業って顔も大事な採用基準だよね、喋り方の技術なんかは訓練出来るけど顔は生まれつきだし、取引相手に良い印象を与えるには顔が良い方が断然有利だし……なんて言ったら炎上ものだろうか。言わんとこ。
「そうだ」
『こちらから連絡しておいて恐縮ですが、規定ですのでIDの照会を』
「A-4-566-1972-Sだ」
この長ったらしいIDを覚えなければ依頼を受けられない! ……なんてことは無い。
俺たちプレイヤーはIDが必要になったときは視界に表示されるので読み上げる、あるいは見たまま入力するだけで良い。NPCたちは多分自力で覚えてる。
『――確認しました。
改めましてカシュ・ハーゼルヌス様。あなたにお任せしたい依頼が一件ございます』
「聞こう」
『では依頼の概要を説明します。
依頼主はブラックベリー社。目標は同社主権領域内の都市廃墟を占拠した所属不明の武装勢力への強襲です』
ちなみに現在俺はエレリア主街区のカフェに居るのだが、この会話は周りからは聞こえていない。ゲーム的な都合といえばそれまでだが、周囲に会話を聞かれないシールドを張る機能が携帯端末にあるという設定らしい。ハイテクぅ。
『当該の都市廃墟は旧時代の工場が稼働可能な状態で残っている重要拠点であり、同社は奪還作戦を実行予定です。しかし敵は大型対空砲、ならびに大型多連装榴弾砲を複数設置しており、航空戦力・地上戦力共に進軍が困難な状況です。
そこであなたのAAによって超音速で接近し、これらを排除して頂きたいのです。
この他、敵地上戦力として戦車やAT、FT、歩兵等が確認されていますが、こちらは無視して構いません。撃破すれば多少のボーナスは出るようですが、あくまで目標を優先して欲しいとのことです』
ATはアサルトタレット、FTはフライングタレットの略で、前者は二脚だったり多脚だったり車輪だったり無限軌道だったりするがとにかく移動できる砲台、後者はその名の通り飛行して移動できる砲台だ。
FTはAAと同じく翼ではなくブースターの推力で飛ぶのだが、搭載できるジェネレーターやブースターのスペックが低く、平均的な限界高度が一五メートル程度なため飛行とは言うものの地上戦力扱いされる。
どちらもAAの世界では一般的な兵器だ。
「いくつか質問がある」
『承ります』
「目標の数は?」
『現在入っている情報では対空砲が六、榴弾砲が四です』
「把握していると思うが俺の機体は射撃兵装が五発しか撃てない。それでも俺に可能な依頼だとツヴァイクは踏んだわけだな?」
『もちろんです。今回の依頼、あなたが最も適任であると上層部は判断しました』
ま、それはそうだろうな。
AAは基本的には絶えずブースターを使って移動・戦闘をするわけだが、平均的な速度は空中で時速四〇〇キロほどだ。
対してラングザームは、バリアを張った状態でブースターをフル稼働させると時速にして一八〇〇キロほどになる。戦闘機動となるとまた変わってくるが。
普通のAAが俺と同じ速度を出そうとすると超大型の追加ブースターが必要で、その費用は依頼主負担だ。アレは使い捨てなうえバカ高いので、可能な限り使いたくはないだろう。
そうかと言って、超音速で接近できるというだけで戦闘機を使えば対空砲の回避に難がある。そしてAAを積んだ輸送機や普通のAAを飛ばして空から近づいたら狙い撃ち、地上から普通に近づいたら榴弾砲だ。俺がやるのが一番安上がりってわけだな。
加えて俺の武装はDPSはそうでもないが単発の威力が高い。目標だけを壊すなら最適だろう。今回の依頼は素早く近づいて敵の懐に入り、通常戦力にやられないよう素早く目標を壊して、素早く撤退するのが肝だ。
「わかった、受けよう」
『承りました。
それでは、六時間以内にブラックベリー社が本社を置くロンディニウムに向かってください。詳細はそちらの支部で』
「了解した」
そして通信は切れた。
六時間もの猶予――NPCの言う時間は基本的にゲーム内時間だ――はあるが、ガレージ経由のファストトラベルを使えば秒だ。今居るカフェからツヴァイク本部までは歩いて一〇分程なので、余裕で間に合うどころか早すぎるまである。
「とりあえずこのココアを飲んで、チョコレートパフェを食べてからだな」
『ずるいですよカシュ、私だって食べてみたいです』
「アンドロイドになりゃ飲食できるんだから辛抱してくれ。頑張るから」
『約束ですからね。食い倒れデートですよ』
「わかってるって。好きなだけ食わせてやる」
トイボットの頭を撫でてから、俺はビール用の大ジョッキに盛り付けられた特大チョコレートパフェを切り崩していった。こういう現実だとちょっと腰が引けるようなものを気軽に食えるのもVRの魅力だな!
『間もなく対空砲の射程に入ります』
ラングザームのコクピット内。ツヴァイクのロンディニウム支部から飛び立った俺は、短い空の旅を楽しんでいた。
「コーンウォールねぇ……。
なあナル、今回の敵さん、所属不明ってことになってたが……」
『はい。状況から考えてキャメロットの手の部隊でしょう。ATやFTはともかく確認されている大型狙撃砲や大型多連装榴弾砲を資本あるいは国家の支援無しに手に入れられるはずがありません』
「だーよなァ」
キャメロットというのは、グレートブリテン島の中部一帯を領有する城塞都市だ。リアルで言うところのカーライルという都市と同じ位置にある。
ここは軍――まあ当人達は騎士を自称しているが――が治めており、トップは騎士王という称号と共にアーサーという名を代々受け継いでいる。
ここまで言えばもうおわかりかと思うが、この都市は世界が一度滅びてなおアーサー王伝説が断絶せずに伝わっており、そして住民は基本的に同伝説並びにアーサー王の信奉者だ。そしてブラックベリー社を目の敵にしている。
何故かといえば理由は単純にして明快で、アーサー王生誕の地と言われるコーンウォール、そしてカムランの丘があるとされるサマセット等、アーサー王ゆかりの地がいくつかブラックベリー社のものだからだ。ブラックベリー社が治めるロンディニウムはグレートブリテン島南部を広く領有する都市なのである。
今回の作戦エリアは旧コーンウォールにある、海に面した旧時代の都市廃墟。陸路でロンディニウムに気づかれずにそこへ到達するのは不可能なので、海路または空路で海側から侵入したと思われる。
稼働可能な工場があるということだったが、この工場は地下にあるそうだ。最近見つかったもので、復旧させて動かす前だったらしい。それまでは特に価値があるわけでもない普通の都市廃墟だったようで、たまにアドラーが物資の探索に行く程度で警備等はしていなかったとか。工場発見に際して警備部隊を配備しようとしたが、その前に今回の事態となった。
キャメロット側としては価値があろうが無かろうがコーンウォールは〝取り戻す〟べき土地だが、そこへ来て工場発見だ。重要度は跳ね上がったと見て良い。警備部隊も満足に居ない今のうちに、と迅速に攻め入ったとて不思議は無い。
「ま、何だって構わないんだけどな。俺らには関係無いし」
『その通りですね。
――作戦エリア、マップ展開。事前に提供された目標の位置データをレーダー情報と比較。誤差修正。サブモニターにマップを表示します』
正面の一番大きなモニターの下、壁に沿って少し斜めについた小さめのモニターにマップが映し出された。目標となる対空砲と榴弾砲が赤で、それ以外の兵器が白で表示される。
『エネルギー配分を巡航モードから空戦モードへ変更。作戦エリア突入まで、五、四、三――』
思考を戦闘に切り替える。俺の戦い方は基本的には超高速でのヒット&アウェイ。敵に接近するのも遠ざかるのも感覚的には一瞬だ。集中していないとありとあらゆるものを見逃してしまいとてもじゃないがまともな動きにならない。
『――ミッション開始。敵対空砲及び榴弾砲を排除します』
――左肩部サイドブースター起動。進路はそのままに少しだけ右にズレると、そこを砲弾が通過していく。スピードを落とすことなくさらに前進。
何度か飛んできた砲弾を主に左右のフラッシュブースト――ブースターを瞬間的に限界以上の出力で噴かして急加速する技術――によって横にズレることで回避し、ビルの上、一番近かった対空砲を、横を通り抜けざまにレーザーブレードで溶断。
ほとんど減速せずに少しずつ右旋回。進路上にあった対空砲をひとつ目と同じやり方で破壊。
瞬きの後、左側へハンドキャノンを発砲。弾丸が榴弾砲を貫き爆散させる。
撃った反動を利用して右へ急旋回。再び対空砲を溶断し、一旦背部の大型ブースターをカット。慣性で飛び続けながら右腰のブースターを回転させて前に向け、両腰と左背部のブースターを一瞬噴かして機体を一八〇度旋回させる。そして右腰のブースターを元に戻して全ブースターを稼働、
最初の突撃は巡航モードの速度が乗ったままだったので時速一八〇〇キロ近いまま動けていたが、一度完全に速度を殺した今は時速一三〇〇キロいくかどうかというところだ。これ以上速くとなると巡航モード以外ではエネルギーが徐々に減っていくので飛び続けられなくなる。
ほぼバリアとブースターだけにエネルギーを回せば良い巡航モードと違って今はFCSや武装、手足にもエネルギーを回す必要がある。空戦モードでは脚部は自重を支える必要が無く空中でバランスを取れる程度に動けば良いのでエネルギーをほぼカットしており、これでも通常戦闘モードよりは消費が抑えられているのでなんとか音速に達することができている状態だ。
別に通常戦闘モードで三次元機動を取りながら目標を破壊しても良いといえば良いのだが、射程や射線等の問題からか目標はどれもビルの屋上部分に設置されている。わざわざ降りてピョンピョン跳ねるよりも最初から飛び続けている方が楽だ。
平面的な機動が基本になるため対空射撃を避ける難易度は上がるが、まあ問題無い。当たらなければ良い話だ。
『対空砲残り二、榴弾砲残り一です』
特に大きな問題も無く順調に作戦目標を破壊していけている。
楽な仕事だ。これで報酬もそこそこ良いってんだから最高だな。
『警告。海上より高エネルギー反応接近。AAと思われます』
「おん? マジか」
楽な仕事だと思ったんだけどなあ……いや、待てよ?
「ナル、ロンディニウムに通信繋がるか?」
『可能ですが、どちらへ?』
「ツヴァイクの管制室でいいかな。さすがにブラックベリーに直通は問題あるだろ」
『了解しました。繋ぎます』
と、言っている間にも対空砲を一基破壊した。残り一基ずつだ。
『こちらツヴァイク・ロンディニウム支部。いかがされましたか?』
「こちらカシュ・ハーゼルヌス。IDはA-4-566-1972-Sだ。
作戦エリアに敵と思われるAAが接近している。撃破の必要はあるか?」
『少々お待ちください』
声の良いお姉さんと通信が繋がった。
事前のブリーフィングでは目標以外は無視して良いって話だったが、それは歩兵や通常兵器だからだ。AAが増援で来た場合たいていは撃破の指示が出るが、そうでない場合弾と修理費の無駄だ。確認して損は無い。
対空砲の最後の一基に向かっているとこちらに砲口が向いたので、撃ってきそうな瞬間に左へフラッシュブースト。当たれば一撃であろう砲弾を回避して、ブレードで破壊。
『回答がありました。作戦目標を破壊しさえすれば増援のAAは無視して構わないとのことです』
「了解。じゃ、そうするよ」
『はい。それでは』
通信が切れた。お仕事再開だ、仕上げしか残ってないが。
榴弾砲は自陣に入り込んだ目標を狙うには不向きで、そうなったらたいてい沈黙する。何故なら撃つと自陣を吹き飛ばしてしまうから。
最後に残ったそれもまた例外ではなく、ラングザームに向かって榴弾を吐き出すことはなかった。
横から急接近し、エネルギー配分を通常戦闘モードへ。脚部が力を取り戻し――猛禽類が獲物を捕らえるときのような姿勢で思い切り蹴り飛ばした。
超軽量機とは言ってもそれは〝AAとしては〟の話。質量は何十トンの世界だ。それが音速に迫る速度で意図的に衝突したとなれば、榴弾砲などひとたまりもない。
特にAAはこの世界において一番強力な兵器であるとされ、フレームなどリアルには存在しないような謎に頑丈で重い金属で出来ている。
それで装甲作ればいいじゃんというロボものあるあるについては、そんなことしたら重すぎてジェネレーターやら関節のモーターやらが死ぬということらしいのだが。とにかくラングザームもフレームの材質自体は普通のAAと同じで、かつ脚部に関しては強度をチューンしている。榴弾砲ごときを蹴り飛ばして壊れるようなやわな機体ではない。
というわけで、哀れ榴弾砲は爆発四散。俺は一度ラングザームをビルの屋上に着地させ、レーダーを確認した。
反応を見る限り目標は全て破壊している。ATは地上に配備しているようだし、FTはここまで上がって来られない。油断は禁物だがここは一応の安全地帯となっている。
『作戦目標クリア。お疲れさまです、カシュ』
「ああ、お疲れナル」
と、一息ついて、さて帰るかと思った矢先。通信が入った。
『そこのAA! 私の居ない間に好き勝手してくれたものだな!』
若い女の声だ。体育会系というか何というか、そういう想像をするような凛々しい系の低めの声。くっころとか似合いそう。
どうやら件のAAが着いたようだ。メインカメラを向けると白いAAが今まさに上陸するところだった。
『キャメロットの民を脅かす卑劣漢め、私と一騎打ちをしろ! 私が勝てば貴様にはキャメロットにて裁きを受けてもらう!』
……えーと。
「ナル、今のログ保存しといてくれ」
『もうしています』
「さすが」
さて、あとはこのAAだが。まあ戦わんで良いというならわざわざ弾代や修理費を嵩ませることもない。
しかしどうもプレイヤーっぽいんだよなあいつ。その割にはずいぶんとキャメロット人らしい言動なんだが……スキャン結果がな……。
『スキャン完了。機体名グースホワイト。重装甲の二脚ですが……何ですかねこの武装構成。物理ブレードと物理シールド……?』
「うーん騎士だなあ。エンブレムも剣と盾だし」
AAにはレーダーの他にメインカメラに映る敵の情報をスキャンする機能が標準搭載されていて、機体名やエンブレム、武装のカテゴリー等がわかるようになっている。そしてプレイヤーが乗っているとそういう情報と並んで「PC」って表示が出ちゃうんだよな。
これはたぶん世界観とかに関係ないゲーム的な都合の表示なんだけど。NPCだと思って――いやNPCも実質生きてるから問題になることもあるが――過度の暴言を吐いたりしないように。ゲーム内容的に多少口が悪くなる傾向があるといっても、限度はある。
で、あの機体はガッツリPCって書いてあんだよな……。
まあロールプレイか……? 俺はあんまりやらないけど、オンラインゲームじゃそういう楽しみ方する奴はけっこうたくさん居るしな。
「悪いなお姉さん。俺の仕事はもう終わった」
『なに?』
「一騎打ちなんて無駄なことはしない。帰還する」
『な、おい待て!!』
待てと言われて待つ奴は居ない。
思いっきり跳躍した後反転、ブースター出力最大。飛行が安定したことを確認し巡航モードへ。急加速で減ったエネルギーが徐々に回復していくのを後目に全力の逃走を開始した。
『逃げるのか卑怯者!』
「逃げるんじゃねえ帰るんだよ」
『屁理屈を……! 誇りは無いのか!?』
「誇りで金が稼げるなら後生大事に持っとくが、あいにくそうじゃないんでね」
その後もなんやかんやとごちゃごちゃ言っていたが、すぐに聞こえなくなった。通信が届かない距離になったのだろう。
AAの通信はオープンチャンネルだと無差別の短距離通信だからけっこう範囲が狭いんだよな。さっきツヴァイクと通信できてたのはそれ用の回線だから中継基地とかがちゃんとしてる……ていう設定らしいがまあゲーム的な都合もあるだろうな。
「ナル、ロンディニウム支部に完了報告と戦闘ログの提出を頼む。あとさっきのアドラーの発言ログも」
『了解です。また一歩目標に近づきましたね』
「ああ。まあ、せっかくだから最高級の筐体でとびきり美人にしてもらうか」
『当然です。私はカシュの物なのですから、器だって最高でなければカシュの品位に関わります』
そのために稼がなきゃならない額を思うとちょっとばかし気が遠くなるが、やると決めたからにはやる。
それに俺個人の目標には際限が無いからな。短期目標だって必要だろう。
帰ったら別の依頼を見繕おう、と考えつつ、俺たちは来たときと同じ速度でロンディニウムへ帰還した。
【Tips】推進剤
アサルトアーマーに搭載されるブースターは電力を直接推力に変換する機構が用いられている。このため基本的には推進剤を必要としない。
ジェネレーターで生み出された電力がブースターの推力発生機とでも言うべき機構に送られると
推進剤を使わない代わりにジェネレーターの性能が推力に直結するため、アドラーのエネルギー管理能力や機体のコンセプトとよく相談してジェネレーターを選ぶことが重要となる。
ぶっちゃけると「推進剤切れで身動き取れません」という事態を避けるべく時間で回復するエネルギー=推進剤とするためにゲーム制作陣が考えた設定。
そんな超技術が現実で開発されているわけがないため非常にふわっとしている。そのためゲーム内のNPCたちも理論を理解していないが、ゲームなのでパーツを生産できるし改良できる。ゲームなので。
総合するとつまりエンターテイメントのための嘘というやつだ。
ゲームが成り立たなくなるから永久に争えとか、運営は悪魔なのではないでしょうか。
せっかくVRゲームものなので掲示板っぽいやつとかも書いてみたいけど数字の管理がめんどくさいです_(:3」∠)_