2000年、日本のとある地で怪物が現れた。
動物とも言えない形状の体を持ち、そこに戦車砲を召喚して人を襲う化け物。名を『妖戦』と付けられた。
自衛隊は全力を尽くして撃退しようとしたが、所持している兵装はことごとく粉砕され正に歯が立たない状態だった。
しかし、それに対抗するヒーローが突如現れた。
ほぼ全てが十代ほどの少女の見た目をしており、化け物と同じく戦車砲を召喚して戦う。否、“自分自身が戦車となり戦う”。その名も…
義体戦車少女。略して義戦。または『武装したホムンクルス集団。』
◆◇◆◇
2020年:日本
『今日の午前10時頃、東京湾沿岸に妖戦が十体出現しました。義戦である“
鉄の車体に雨が降り注ぐ中、その中ではカーナビがニュースを流している。画面では義戦が腕の隣ら辺に砲を付けて戦っている映像が流れている。車を走らせる中雨の勢いは更に増して行き、ワイパーでは掃ききれなくなってきた。
大通りを曲がり、今ではすっかり寂れてしまった商店街を通る。ふと、遠くに黒い点が見えた。
雨でよく見えないが、段々近づくに連れて姿が露わになってきた。
『次のニュースです。先日突如走行中の車が大破し、運転手が死亡する事件が起きました。その近くでは不審者の情報もあり、注意が必要です。寄せられた情報によると、不審者は女性で、髪は緑髪のロングで顔に眼鏡を掛けており…』
この辺りでは見ない緑色の髪、光のない眼を覆うように眼鏡が掛かっている。傘も差しておらず、全身を覆う白い服は雨をもろに受けていた。…腕に何か付いてる。
『腕に戦車砲の様な物を付けていたということです。現在確認されている義戦にはそのような特徴のものはおらず、義戦を管理している二釘省も反応を示していません。専門家の見解としては…』
腕に付いている何かが、段々と俺の車を捉えるように此方を向く。
そして丁度その標準が車に合った頃、俺はその正体に気づいた。
「義戦…」
瞬間、空気が削られるような感覚に陥った。
咄嗟に頭をハンドルの下に隠したことによって体を抉り取られることはなかったが、車の上半分は吹き飛び砲弾の勢いで車は横転した。
「あ゛ぁ…痛っ…」
シートベルトをなんとか外し、僅かに残っている扉から外に出てさっきの方向に顔を向ける。
まだ義戦はそこに居る。だが、ふらついていた。よく見ると隈がひどく、今にも眠ってしまいそうな様子だった。
「おい…車どうしてくれんだ…まだローン残ってたのに…」
「投…降を…お勧め…します。」
「やったのはお前だろ。ふざけんじゃない。」
「それ以上…近づけば…排除…しま…す。」
体がふらついているお陰で標準は此方に向いていない。覚束ない口取りで彼女は言葉を紡ぎ続ける。
「スウェーデン軍…人型戦車試作…第一号…ストラヴァングンm…42が…警告…」
それを最後に言葉が絶え、彼女は膝から崩れ落ちた。
スウェーデン軍?此処は日本の筈なのになんでこんな所に…助けを呼ぼうにも周りには誰一人居らず、自分でどうにかするしか無い。
「最悪だ…」
道路に横たわっている彼女からいつの間にか武装は消えており、今の状態ではと只の少女にしか見えなかった。
放置するのも罪悪感があるので、仕方なく彼女を担ぐ。幸い家は50mほど進んだら着く位置にあった。
「これ犯罪って言われるかな…」
服に染みる雨が不快な音を上げる。雨は未だ弱まらない。
家に着き、ポケットからなんとか鍵を出して家の中に入る。うちは1LDKだ。一人寝かすことは何の苦でもないはずなのだが…
「なんか背徳感が物凄いな…」
4年前に別れた元カノの布団を出してその上に寝かして毛布を掛ける。
それにしても最後の言葉は何だったのだろうか。
腰の財布から濡れたお札を抜いて机に置いて乾かしながら考える。
途切れ途切れだったが、彼女は自分自身を『スウェーデン軍人型戦車第一号ストラヴァングンm42』と言っていた。
長すぎて覚えにくいが、これが彼女の名前なのか?もし義戦ならもっと短い名前のはずだ。それに何の手掛かりも彼女には無かった。服にはポケットなんて付いていなかったし、脱がすことも憚られるので毛布の中に布団乾燥機を入れている状態だ。
だが、俺の車の上半分を吹き飛ばしたあの戦車砲。あれは雨でよく見えなかったが、義戦のそれだった。
あれは二釘省という専門の機関の許可が無いと使えないはずだ。
「彼女は一体誰…いや、何なんだ?」
◆◇◆◇
1939年:スウェーデンのとある研究所
「遂に完成したぞ…」
誰も居ない研究室の中、一人の男が巨大なガラス管を見ていた。
その中には緑髪の少女が入っており、水中で様々な機器に繋がれている。
そして男は近くのパソコンを触り、再び少女に視線を向けた。
少女に繋がれた機器が次々と外され、ガラス管の蓋が開く。
少女は前のめりになるようにして外に倒れていく。男はそれを支えて抱き寄せた。
「これで…世界は変わる。私がこの国の王になる。」
すると、隔離扉の向こうで物音が聞こえた。
すぐさま監視カメラのモニターに目を向ける。20人ほどの兵士が乱入してきていた。
「クソ…タイミングが悪い。まだお前は使えないというのに。」
ポケットの中から麻酔薬を取り出し、少女に打ち込む。少女は抵抗することもなく眠りについた。
「早く私が主だと刷り込まないとな…」
少女を脱出口にある船に載せ、海の外へ発進させる。追跡できるように特殊な電波を出す装置が付いているので行方が判らなくなることはない。掛けてあったAK−47を手に取り、隔壁を開けて外に出る。男は自分一人では20人を超える兵士を倒せない。だが、抗う必要があった。
ホムンクルス。それは簡単に言えば人ではない。『人らしい』生き物だ。
現実には存在しない筈の、伝説の人造人間。
フラスコの中にしか存在しない、囚われた生き物。
そんなホムンクルスが、開放されたのだ。更に兵器となって。
並の人間では到底及ばない、完全なる上位互換。
この一体で一つの国を滅ぼすのは容易だ。
だからこそ、渡してはならない。
――――――
―――「おい!此処に居たぞ!」
ボスニア湾、そこで対象は見つかった。
「ゆっくり寄せろ。対象を刺激するな。」
巡視船を装った特殊部隊の船が小舟に近づく。
「一体あれは何なんだ?只の少女じゃないか。」
「違うに決まってるだろ。ホムンクルスだよ。」
「ホムンクルス?お前頭でも打ったのか?」
「…本当だよ。上層部も知らない機密事項だ。」
「それにしても可愛いな…」
「少女に好意抱くとか…」
「そういうのじゃねえよ。」
回収した対象船に載せ、部隊の本部へ向かう。
回収に同行した隊員、ロンは対象に少なからず好意を抱いていた。
「ロン、対象は放棄されることになった。」
「本当か?」
「ああ、部隊長は国どころか世界にとって危険、だと言ってた。」
「そうか…場所は?」
「南極だよ。クレバスに捨てるんだってさ。」
ロンはこの時既に対象を救うつもりであった。まだ彼は新人だった。又、思春期真っ盛りである。
…自分の行動が世界を変えるとは露知らず。
南極、極寒の地の中で一台の装甲車が走っていた。その装甲車はクレバスの前で停止し、ドアを開けた。もちろんロンもその中にいる。
「下ろすぞ。」
研究所で発見された『失敗作』をクレバスの中に投げ捨てていく。
20体ほど居たそれはすべてクレバスの中に消えた。
最後に残った少女をもう一人の隊員が運ぼうとしている。
ロンは拳銃を引き抜き、躊躇わず隊員を殺す。
少女が入っている袋を開け、外に出す。出発する前に麻酔を打った筈だが、もう効果が切れていたみたいだ。
此方を見てくる少女に話しかける。
「いいか、君はこれか暫くの間誰にも見つかっては行けない。これは任務だ。」
少女は反応して言葉を返す。
「任務…分かりました。」
ロンは少女にコードネームを付けようと思った。確か彼女は戦車砲を召喚できるというトンデモ能力があるらしい。確かstrv m/42 を元に作ってあった筈だ。
「そうだ。コードネームを付けよう。」
「コードネーム、ですか?」
「コードネーム、だ。任務中はその名前を使うといい。」
少し考える仕草をした跡、ロンはコードネームを付けた。
「『スウェーデン軍人型戦車第一号ストラヴァングンm42』だ。」
少女はすぐに理解したようで、立ち上がった。ロンは最後に話しかけた。
「残念だが、奥には特殊部隊が居るから君を装甲車に乗せては行けない。君の任務の期限は、君が眠るまでだ。」
「眠るまで、ですか。」
「そうだ。任務を終えたら…そうだな、名前を付けて貰え。こんな堅苦しいコードネームじゃなくてな。」
「分かりました。全力で任務に取り組みます。」
「ああ、そうだ。」
気づいたようにロンは声を上げた。
軍服のポケットから眼鏡を取り出し、少女の顔に掛ける。
「君は可愛いからきっと目立ってしまう。なるべく目立たないようにするんだぞ。」
「ありがとうございます。」
少女はその言葉を最後に降りしきる雪の中去っていった。ロンは雪の中でも普通に動ける少女のタフさに驚愕したが、気を取り直して装甲車に乗る。
その後、南極の基地に装甲者が突っ込むという事件が起こった。犯人はその場で射殺され、特に記事にもならなかった。
◆◇◆◇
彼女は歩き続けた。
凍える土地も、焼けるように暑い土地も、ネオンが光り輝く街も、巨大なスラム街も。
感情はいつの間にか備わっていた。非常に小さなものではあるが、悲しい、嬉しい、楽しい、苦しい…など、表現できるようになっていた。
歩き続けて50年を超えた頃、眠気が限界に達していた。いくら彼女でも50年起きっぱなしは厳しかったみたいだ。
日本についた頃、意識はもう切れかけていた。
自由に使えた兵装も突如動き出したりするようになり、非常に不安定なものになった。
そして、ある雨の日、遂に彼女は目を閉じた。任務を終えたのだ。
◆◇◆◇
あれから三日後、修理に出した車は直りそうにない。修理業者にはどうにか説得しておいた。
彼女は未だ目を覚まさない。今日も布団に寝ている彼女がなにか変化を起こしていないか確認し、朝ごはんを食べる。
朝ごはんを食べた後、食器を片付けて職場に行く準備をする。
出ていく前に、もう一度彼女の顔を確認してみる。いつ見ても不思議な顔だ。
じっと見ていると突如、彼女の目が開いた。
周りをキョロキョロと見て、そして此方を向いた。
「私に名前を付けてください。」
「君、ソシャゲの最初の場面じゃないんだから。」
「いいから、名前を。これが私の最後の使命なんです。」
「え、そんな重いの?」
起き掛けに突然振られた名付けの使命(?)に一生懸命頭を働かせる。一つ、名前を思いついた。
「
書いてる内にキャラが出来上がっていくのがまた良き…