山口県のとある山中、その地下には旧日本海軍の巨大トーチカがある。当時の高官が終戦間際に核攻撃に備えて作った代物である。陸軍とは仲が険悪であったため情報が渡ることは無かった。しかし、このトーチカを作った高官は完成後訪れることもなく戦死。そのまま歴史の闇に葬られた…
「というのがこの下関トーチカの歴史です。どうです、面白いでしょう。」
「すごーい!だけど、なんでこんな所知ってるの?」
「そんなのどうでもいいから寝かせてくれ…」
「駄目です。」
「そんな…」
「重箱さんはいい質問をしましたね。私は50年間ただ放浪していたわけではありません。秘密裏に情報を集め、その過程で此処の存在を知ったのです。」
「へぇー。じゃあ、ここは私達以外誰も知らないってこと?」
「そうですね。そういう意味では一番安全な所と言えます。」
まるで先生のようにこのトーチカの歴史を語る雨野。2時間近くお腹を持たれながら飛んでいたお陰で今は嘔吐寸前だ。それにしてもここはあの地下よりも綺麗だった。部屋は全部で6室あって、一つの部屋は武器庫、もう一つの部屋は調理場、更にもう一つはトイレとシャワーが一緒になった洋式の部屋だった。
「それで、次の計画はあるのか?」
「ええ、あの地下は元々望み薄でしたから。もう一つ行く場所が有ります。」
「それってどんな所?」
重箱が首を傾げて質問する。
「そうですね…海、とでも言えば良いでしょうか。」
「海?」
「はい。海です。実は此処を見つけた時に一緒にこれを見つけまして。」
そう言って雨野はどこから取り出したのか古めかしい紙束を掲げた。
「特二式内火艇―――『カミ車』と言われる水陸両用戦車を基にした人型戦車の計画案です。」
「だから海軍なのか?」
「ええ、隠されている場所も海中と来ました。中々に難しいですね。」
「じゃあどうするんだ。潜水服でも着ないと行けないんじゃないか?」
「ええ、だからマスターが居るんですよ。」
「え、俺?」
◆◇◆◇
梅雨入り直前の海は冷える。それが夜となればなおさらだ。
近くでレンタルしたダイバースーツを着て、雨野から講習を受けている。
「これはライトです。落とさないようにして下さい。酸素ボンベは30分持ちますが、保管されている高さ的に20分経ったら上がってくるのをお勧めします。潜る前に耳抜きをして、潜る際は落ち着いて、ゆっくり泳いで下さい。」
「わ、分かった。」
「貴方が死んだらこの計画はパーですから。最優先は死なないことです。じゃあ頑張って下さい。」
「ああ。」
岸に立って、下の海面を見る。黒にも近い深い藍色。このまま潜ったら飲み込まれそな気がしてくる。
…怖がるな。きっと楽しい。ライトだってあるんだ。
意を決して水の中へ飛び込む。視界は暗闇に呑まれ、何も見えなくなる。腰に付いているライトを手に持ち、ボタンをを押して電源を点ける。
「うおっ…」
神秘的だ。特に魚が群れて泳いでいるわけでも無いのに、光で照らすだけで何故こんなにも綺麗に見えるのだろうか。もっと奥へと潜って行きたくなる。
3分程潜っただろうか。少し息苦しくなった頃、海底に着いた。辺りは砂に覆われていて、ここに義戦が眠っているとは考えられない。
泡を出しながら周辺を探索する。時々魚を見かけることもあるが、中々目的の義戦は見つからない。本当に此処で合っているのか?酸素の残り時間を見てみると、『14分』を示している。あと四分で引き上げなければいけない。
海上へ上がらなければならない残り時間まであと2分。沈没船を見つけた。船内に這入り、中を探索する。
船体はフジツボや海藻が生い茂っており、中には普通の船ではありえないような機関銃や魚雷管が有った。だが、求めている棺桶らしきものは見当たらない。諦めて船外に行こうとしたその時、一つの蓋が目についた。
…中央にガラスがあって、見覚えのあるレバーが上についている。ガラスの中は藻に覆われて見えないが、この前地下で見た棺桶と同じものを感じた。すぐさまその場所へ向かい、手で藻を退ける。
―――あった。
海面に顔を出し、肺に夜の空気を送り込む。それに続くように少女が一人、海面から顔を出した。
「久しぶりの外ね。貴方が私の新しい『戦車長』?前任は海軍の人だったからからかって『船長』なんて呼んでいたけれど。取り敢えず、名前を付けて下さる?」
藍色の海に溶け込むような碧い髪を揺蕩わせながら彼女は俺に言った。その眼はテレビでは見たことのない大人びた眼だった。
「そうだな。名前、名前な…」
呼び方はカミ車、特二式内火艇…水陸両用車…
「『二水カミ』っていうのは?」
「うーん、大分捻ったようね。だけど気に入ったわ。宜しくね、マスター。」
何かが違う。今まで実際にあった義戦はまだ五体だけど、決定的な何かがある。
「大人だ…」
◆◇◆◇
二釘省直属の病院の一室、一人の義戦がベッドに横になっていた。つい最近砲をくり抜かれたばかりの七四である。
七四は周りに聞こえないほどの声で言った。
「凄い…強かったな。」
七四は今まで攻撃を被弾したことはあっても、実際に砲が壊れることは無かった。いくら現在活動している義戦の中でも古い物が基になっているとはいえ、六一には勿論、花音、九零にはまだ負けないつもりであった。
一瞬で砕かれた。中途半端ではない、いっそ直しやすくなるレベルまでに。
正直憧れを抱いた。長官はきっと、あの義戦ともう一度戦いたいと言っても戦わせてくれないだろう。
自分は創られた物だ。自分が一番理解している。この【兵装】がその裏付けになっている。
管理されていることも薄々気づいている。それからは絶対に逃れられないことも。
だけど、昂るのだ。この気持ちは一体何なのだろうか。
「こ、興奮する…」
梅雨入り前のジメジメした病室が湿った声に更に水分を含ませた。
◆◇◆◇
下関トーチカの中、リサイクル店で買ってきた家具を並べて一息着いていた所、雨野が話しかけてきた。
「うわ…何か寒気したんですけど、マスター何か変なこと考えましたか?」
「何も考えて無いが。」
「この前えっちな事私にしてましたよね?」
「してないが。」
「え、えっちなこと!?」
「だめよミトちゃん。貴方が触れたら駄目な領域なの。」
「いや本当に何もしてない…」
「それはそうと…次の計画をしましょうか。」
「話振ったのお前だろ。」
空気を整えるように雨野が咳払いをして、話を始める。
「次の作戦は…『今度こそチハたんを攫おう作戦』です。」
「雨野って本当は頭悪いのか?」
梅雨が始まる。
良ければ評価、感想等よろしくおねがいします。
人物紹介はお休みです。