1.
「病む」
「やむ?」
「病んでる」
「病んでる? なして?」
「レインくんさ」
「おれがどーした?」
「ある日突然、知ってるけどよく知らないおじさんに、勝手に内密のハズのお仕事の心配されたらどう思う?」
「……所感でいい?」
「どうぞ」
「キモい」
「だよね」
「いやキモいわー秘密なんでしょ? なんで知ってんの? って思うね」
「知ってるだけならまだいいよ」
「確かに、わざわざ話としてフってくんのはどうかと」
「うん。初手で『お疲れ様フリルちゃん、そういえば今の◯◯の仕事拗れてるっぽいね(汗の絵文字)』ってカード切ってくる」
「す、すげえ……言葉だけなのに背筋が凍るわ」
「イケメンとかおじさんとか関係なく、そーいうことされると怖い」
「話のフックにしちゃあ強すぎるなあ、それ」
「そういうのを見ると、病む」
「いやそれはしょうがない、病むよ」
「この業界、情報統制とか土台無理だから仕方ないけど……」
「道理でため息も深いわけだ」
「……私を相手にお近づきになりたい人や、承認欲求を発揮したい人が多いのはわかってるけど……わかってても視覚化されると耐えられないよ」
「……おつかれさん」
「うん、ありがとう」
「…………」
「…………ごめんね」
「うん、なにが?」
「久しぶりなのに、初手から暗い話しで」
「いや、まあ電話越しならほぼ毎日だし……」
「寝落ちも増えてごめん……」
「疲れてるなら無理しなくていんだぜ?」
「疲れてるから話したいんだよね」
「そっか」
「勝手でごめんね」
「いいよ、別に。不知火さんいっつも人のためにガマンしてるでしょ? 愚痴の吐きどころぐらいは確保しとかなきゃ壊れちまうぜ」
「……ありがとう」
「いやどういたしまして? いやむしろ愚痴の吐きどころに使ってくれてありがとう? ……わからんな、まあいいか」
「そこまでへりくだらないで」
「ご、ごめん……」
「ごめんも言わないで」
「ご……わ、わかった」
「よろしい」
「でも、不知火さん最近働きすぎじゃね? なんか最近マジで毎日テレビで見てる気がするんだけど」
「どこかの誰かさんと違って、みんなは美人に三日で飽きてくれなくてさ。引っ張りだこだよ」
「この美貌に三日で飽きるたあ大したやつがいるもんだ。どんなやつだよ、そいつ」
「…………」
「……に、睨むなよう。冗談だって、わかってるって」
「まあ、聞かなかったことにしてあげましょう」
「ぐぬぬ、なんか少しづつ弱みを握られている気がするなあ」
2.
「レインくん私のいいところ一〇コ挙げてみて」
「えっ、いきなり?」
「言えないの?」
「えっ、と。ちょっと待ってね」
「だめ、待てない。あとさん、にぃー、いち……」
「まってまって! えと、顔が良いでしょ? 声が良いでしょ? 性格面白いでしょ? それから……」
「ふむふむ。他は?」
「いきなり言われたからなあ。言葉にならないよ」
「頑張れ文学少年」
「逆に聞くけど、じゃあ不知火さんおれの良いとこあげられる?」
「…………」
「…………」
「……身長が高い?」
「間が、長い! しかも疑問系!!?」
「ごめん咄嗟に出なかった」
「ほらあー言われてみたらわかるでしょ?」
「ほんと。いっぱい思いつくのに、いざ言葉にしようと思うと全然出てこないね」
「い、いっぱい思いつくんだ……」
「うん。たくさんあるよ、レインくんの良いところ」
「それはそれで、断言されるとムズ痒いなあ」
「いっぱい照れていいよ。照れてるの可愛くて好きだから」
「うむむ、男としてはなかなかフクザツな評価点だ」
「あ、あとおにぎり作るのがお上手」
「それは嬉しい。でもおれの弁当のひとつを勝手に取るのはもう勘弁してほしいかな……」
「あの時は私、お弁当忘れちゃってたからごめんね」
「いや良いんだけどね、そのあと代わりを奢ってもらったし、うん。うん、あれは、二重の意味で恥ずかしかっただけで……ごにょごにょ」
「……楽しいなあ」
「いきなり何を?」
「楽しくない?」
「楽しいよ」
「青春だなあ」
「まあた年寄りみたいなこと言いなっしゃる」
「うん、だって高校入った時は、こんな風に学校生活送れると思ってなかったから」
「…………それは、おれもだよ」
「じゃあお揃いだね」
「いやなペアルックだこと」
「私はそんなに嫌じゃないかな」
「……ふふ」
「うん、その顔が見れたなら、全然悪くない」
「いやだおれ今すげえキモい顔してなかった?」
「見る?」
「あ! 写真撮ってたな!?」
「保存した」
「消しなさい!」
「いや」
「いやじゃない!!」
「いーやーだー!」
3.
「芸能人だって、人間なんだけどなあ」
「愚痴パート?」
「病みパート」
「良い加減休んだら? 仕事しすぎでしょ」
「今が旬なの」
「不知火さんレベルなら、引退するまで芸能人やれるでしょ。変な意味じゃなくて」
「……レインくんは、私のタレントとしてのいちばんの強みってなんだと思う?」
「清楚系クールなトコ?」
「まあ、それはそう」
「顔がいいトコ?」
「自信はある」
「演技が可愛いトコ?」
「そろそろ悪女系もやってみたい」
「イメージ大事に」
「わかってる、ただの願望」
「あとは、性格が面白いトコ?」
「それは封印してるかなー」
「じゃあ、安定感あるところとか?」
「どれもハズレじゃないけど、一番じゃないよ」
「じゃあなんだろう?」
「若さ」
「……はい?」
「現役女子高生なトコだと思うの、不知火フリルが業界人に最も評価されているのは」
「いや、その、身も蓋もないね」
「身も蓋もないよ」
「もったいない」
「え?」
「不知火さんを若さだけで評価するの、もったいないなあ」
「私もそう思う。けど、私と同年代で私と同じぐらい売れてる子はほとんどいない」
「まあ、不知火さんレベルかつ歌って踊れて演技できる……って子は知らんね」
「そう、学生っていうのは、冗談でもなんでもなくステータスなの」
「一〇で神童十五で才子、二〇過ぎればただの人ってやつだ」
「そう、今のところ、私の能力は年齢との相対性で評価されてる部分も大きいんだよね」
「前に言ってたもんね。私より演技できる人はいる、って」
「演技だけじゃないよ。歌って、踊れて、動けて、トークができて、笑いがとれる……今の芸能界でトップタレントとされる人は、だいたいどのジャンルでも一流の能力は持ってて当たり前になる」
「よくよく考えてみりゃあ、国民的アイドルグループだったおっさんたちも、歌にドラマにバラエティにMCにと、なんでもやってたなあ」
「そう。あの人たちはなんでもできたからこそ重宝された。それが一般認識になるほど定着していたしね」
「不知火さんだって、ほぼほぼお茶の間の顔じゃない」
「うん、それはそうだと思うけど、私が成人した後で今と同じ役どころで戦えるわけじゃない」
「……それは、まあ。客層ってもんがあるしなあ」
「私が大人になった時、視聴者が求める不知火フリルと、業界が求める不知火フリルと、私が求める不知火フリルは必ず合致するわけじゃないと思うの」
「三倍フリルかあ」
「界王拳みたいに言わないの」
「和ませようとしたんだよう」
「だから、今私はできるだけ仕事をしておきたい」
「でも、おれは不知火さんは成人してもやってける人だと思うけどなあ……」
「うん、それはありがとう。でも、芸能界の流行り廃りのサイクル、賞味期限の短さは、レインくんならわかるでしょ?」
「…………うん、そだね」
「頑張る時に頑張らないと、華々しい活躍も、あっという間に過去になる」
「美しい過去があるだけ、めっけもんでもあるけどね」
「うん。まあ色々言ったけど、この業界でダメになったらその時はその時なんだよね」
「あらま、温度差激しいね」
「だって、いつ誰が売れるとか、いつ売れなくなるとか、誰にもわからないんだもん。期待もしてなかったものが、たまたま陽の目をみて、ある日突然社会現象になる。売る側がこれぞと推したものが、誰からもそっぽをむかれて忘れられることが稀に良くある」
「社会現象を意図して起こせるなら苦労はしないよね」
「そう。だから、ある日私が忘れ去られても、それはそうなったら仕方がない」
「ひとりの人間の力じゃどうしようもないモンだなあ」
「そう。だから、そうなった時を考える」
「でも、それって目に見えない不安じゃない?」
「不安だし、期待でもあるよ」
「むつかしいことだなあ」
「だから義務教育終わっても学校に通ってるんだよ。私だって考える。たぶん、私じゃなくてもね」
「……芸能界で揉まれてんだもの、不知火さんならどこででもやってけるさ」
「そうだね。自慢じゃないけど貯金もすごいあるし、だから、そうなったらそうなったで、私は私の好きに生きても良いかなって、思ったりもしてる」
「あはは、それこそ取り越し苦労の無用の長物だよ。明日の歩みは誰にもわからない。神様だって賽子は振らないんだもの、心配するだけソンってもんだよ」
「…………」
「……なぜ睨むの?」
「別に、ちょっとむっとした」
「……そういう態度取られると、おれも、いらんこと妄想するよ?」
「いいよ」
「いいの?」
「だって、たぶん、その妄想は私の理想……でもある」
「…………!!」
「あと、一年半」
「はやいなあ」
「光陰矢の如し、そろそろ覚悟を決めてね」
「…………いっちまったや」
「ああもう、ドキッとするなあ」
「……はあ。おれもハラ、くくるしかないか」