1.
「レインくんてぼっちなの?」
「いきなり何をおっしゃるか」
「だって、お昼休みいつもここにいる」
「休み時間におれが何してようとおれの自由だよ」
「端的に言って誰かと一緒にいるシーンを見たことがない」
「不知火さんとはいるじゃん」
「私以外で」
「うーん。だっておれ、この学校には友だち作りに来たワケじゃねえし」
「知ってる」
「ベンキョー頑張りに来たワケでもねえし」
「それも知ってる」
「帰ったらすぐバイト行くし、今すぐ友だちが必要ってワケでもないしさ」
「うん。でも、もうお父さんに復讐とかしないんでしょ?」
「しないよ。誰かさんのおかげで、モチベ消えてるもん」
「それはよかった」
「本当だよ。代わりにいきなり未来設計図が白紙になっちゃったけど」
「いろんなことができるね」
「それはそうなんだよね。自分の未来ってヤツに、いま、ちょっとワクワクしてる」
「…………」
「同時にさ、軽々しく復讐なんて人生の指標にするべきじゃねえなって思った。おれがこの学校に通ってる意味、もとからすりゃ九割ぐらい消し飛んだし」
「学校やめるの?」
「やめないよ。流石に今どき中卒は勘弁」
「ならよかった」
「代わりに、なんか部活でもやろっかなとは思ってる」
「運動部? レインくん背高いもんね」
「おかげでちっちゃい頃から色々やらされてた」
「やらされてた?」
「野球サッカーバスケバレー水泳卓球習字小芝居……色々ね。一芸は身につけろって、親父もお袋も、おれを二世タレントにしたかったらしい」
「あー……」
「だから、色々やらされてさ……ひと通りはできちゃった」
「できちゃったんだ」
「そ。なんか、何やってもそこそこはできちゃってさ」
「運動神経いいんだ」
「ほどほどにね。だから、勝っても負けても、何やっても熱中できなくてさ」
「自慢?」
「逆だよ。おれにはなんの才能もなかったってことさ」
「それは諦めが早くない?」
「引き際がいいって言ったろ」
「『諦めたらそこで試合終了ですよ』」
「それは熱中できてるヤツに言ってくれ」
「贅沢な悩みだね」
「おれもそう思う。そんなもんだから、おれ、どこ行ってもひとりでさ」
「でも、今は違うんでしょ?」
「どーだろ」
「違うよ」
「……そうかな」
「私がいる」
「……そうだね」
「私、レインくんと話してるの好きだよ。たぶん」
「……へへ、そこは言い切って欲しいかな」
「それは贅沢かな」
「それもそうか」
「……やっぱり、やるとしたら野球とかバスケとかバレー?」
「ま、その辺だね。幸いこの学校運動部は全国区とかじゃないし、ほどほどにできそうで助かる」
「中学ならともかく、高校の二年から始めるって珍しいだろうしね」
「本格的なトコなら『舐めてるなコイツ』と思われても仕方ないヤツだよ」
「やろうと思った瞬間にやっていいんだよ」
「『挑戦しようとする人間を止める権利は誰にもない』、かい。」
「うん、『夢を追い求める権利があるなら、その心意気は応援されるべきだ』ともいう」
「ロッキーだね」
「やっぱり知ってた」
「それもザ・ファイナル」
「歳とったスタローンもかっこいいよね」
「歳とったからこそかっこいいと思うぜ、あの人は」
「ああいう風になりたい気持ちも結構ある」
「エイドリアーン!」
「いいシーンだよね」
「いつ観ても泣く」
「レインくんが、あれをいつ観ても泣ける人でよかった」
「その心は?」
「涙は枯れてない」
「おれは泣き虫だよ」
「知ってる」
「ちぇ」
「でも、レインくんのそういうところ、いいと思うよ」
「……不知火さんも大概ズルいよね」
「褒め言葉?」
「もちろん」
「ふふ」
「へへ」
2.
「偉そうに言ったけど、最近は私も挑戦できてないんだよね」
「……あんまり、聞いちゃいけないハナシっぽい?」
「うん、だから今からひとりごと言うね」
「じゃあ、おれはたまたま本を読んでるよ」
「ありがとう」
「…………」
「俳優の仕事にしても、テレビのレギュラーにしろゲストにしろ、私って最優先タレントなんだ」
「そりゃそうでしょ」
「……ひとりごとだよ?」
「おれも独り言だよ」
「……建前ではオーディションとか開くけど、本当は最初っから私を使うことが決まってる」
「……一〇年ぐらい前に、大人気音楽グループでボーカルが抜けて、ニューメンバー探しのオーディションがあったね」
「あったね。あれも同じじゃない……とは言い切れない」
「そりゃあテレビ局側からしたらお仕事だもんね。見知らぬ新人で博打打つより、確実に採算とれる方を優先するでしょ」
「うん、それはわかってるの。プロデューサーも、監督も、企画も、スタッフも、みんな生活がある。お遊びでやってる人なんてまずいない」
「プロだもんね、アマチュアじゃない」
「でも、私は純粋に私をちゃんと見てほしい」
「…………」
「演技の実力でも、歌でも、踊りでも、私より上手い人ってたくさんいるの」
「全部できる人はなかなかいないよ」
「うん、それはそう。でも……プロデューサーたちは、私が『不知火フリル』だから、率先して選ぶんだよ」
「そりゃあね。不知火さんは不知火さんだもん」
「だから今、私が選ぶ側になってるの。オーディションとかでも、私の演技やトークに合いそうな子がいるかどうかが判断基準のひとつになってる」
「『ものさし』にされるのも名実故でしょ。誇ることだよ、それは」
「でも、私は挑戦したいの」
「…………」
「気づいたらマルチタレントになってて、あっという間に選ぶ側にされてて。私、みんなと一緒に鎬を削りたいのにね」
「ゼイタクな悩みだなあ」
「……うん、わかってる」
「不知火さん」
「ん?」
「意外と根っこは熱血少年マンガキャラなんだね」
「…………!」
「はは。そりゃあ、テレビの前の清楚クール系を演じてる『不知火フリル』とは大違いだ。わかんないよ、これは」
「……言われてみれば」
「でも大丈夫だよ」
「そうかな」
「ありがた迷惑極まりないけど、神さまはふさわしい人にはふさわしい試練を与えてくれる」
「それ誤訳だよ。正確にはふさわしくない試練も与えるし、それで躓きそうになったら神に祈ってね、って繋がるやつ」
「聖書のハナシじゃないよ、人生の話さ。不知火さんがそのハートを失わない限り、きっと、きみにふさわしい困難が未来で待ってる」
「…………うん」
「その時は、微力ながらおれも応援させてもらおうかな」
「どこで?」
「え?」
「あ、いや……ごめんなさい。なんでもない」
「さあねえ。近くかもしれないし、遠くかもしれない」
「……近くがいいな」
「死のように、最も近いけど最も遠い場所からかもね」
「レインくん」
「なに?」
「さすがにカッコつけすぎ」
「おれは元々文学少年だよ。こっちが素」
「やっぱりキザだー」
「余裕があるってことさ、不知火さんのおかげでね」
「きざだー!」
「鳴き声みたい」
3.
「『深堀り』炎上してるんだけど」
「燃えてるよね」
「うーん、前からアングラ攻め攻めだったからなあ。正直『とうとうかあ』って感想」
「これは題材が悪いし、テーマに対するリスペクトが足りてない」
「そもそもね、おれもそう思う」
「テーマに対して毒を吐くのはアクアさんの役であって、番組そのものから嫌悪感を出しちゃダメだよ。これは流石に……」
「番組終わっちゃうかな?」
「まだ今後の対応次第の段階だと思うけど」
「一度ケチつくと延々ケチつけるヤツっているからね」
「身に沁みる」
「不知火さんレベルでも、やっぱそういうのあるんだ」
「うん、やっぱり私でも万人に好かれてるってわけじゃないから」
「最近はそっち方面の法律も整ってきてるけど、今回これは一〇〇パー『深堀り』が悪いしなあ」
「黒川さんの時とは何もかもが違うよ。私もああいうのはちょっと……」
「わかった。じゃあこの話題はここまで」
「うん、ごめんね」
「不知火さんのせいじゃないよ」
「いつもそう言ってくれるよね」
「そのぐらいしか能がないのさ」
「……そんなことないよ」
「ははは……ありがとね、世辞でも嬉しい」
「レインくんの」
「ん?」
「そう言うところもいいと思う」
「…………皮肉、じゃないよね」
「解釈は任せる」
「じゃあせめて顔はこっちに向けてよ」
「…………」
「行っちゃったや」
そろそろ連載形式に変えるべきかなぁ