【完結】不知火フリルは【おもしれー女】   作:ロウシ

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1.

 

 

「不知火さんて、やっぱ変わってるよね」

「そうかな? どういうところで?」

「いや、なんつーか。悪い意味じゃなくてさ、不知火フリルほどの芸能人が、なんだかんだと一年ちょい毎日の如くここでおれと話してるのだいぶ変わりもんじゃね?」

「そうかな? 私は楽しいと思える時間を過ごしてるから自然と通っちゃってたんだけど」

「正直、最初はすぐどっかいっちまうだろうなって」

「…………」

「不知火さん?」

「すごい、考えたこともなかった」

「そんなに!?」

「うん。もしかして、レインくんは私と一緒にいるのイヤだった?」

「いやいやいやいや、そんなことはないよ。ただ……」

「ただ?」

「ほら、よからぬ噂がたってもメーワクだろうと思って……」

「……前も言ったけど、学校の中までメディアの目は届かないよ」

「それはそうだけど、やっぱり不知火さん的にはもっと華やかな人脈とかさ、せめてクラスメイト……」

「前にも言ったと思うけど、私は業界の人相手だと却って気を使うの」

「…………」

「私、レインくんにああして欲しいとかこうして欲しいって言ったことないと思うけど」

「それは、うん。そうだけど……」

「それって、つまり私はこの状況をとても気に入ってるってことじゃないのかな?」

「…………!」

「レインくん、もしかして自分じゃ私に釣り合わないとか考えてる?」

「……まさか、そんな大それたことは……」

「思ってるでしょ、その顔は」

「……正直に言うよ」

「どうぞ」

「おれは、不知火さんが気になって仕方がない」

「…………」

「おれだってちゃんと男だ、健康優良元不良少年なんだよ。不知火さんほど……その、綺麗な人といつも一緒にいると、嫌でも意識しちゃうよ」

「…………」

「不知火さんと一緒にいれて、話せて、おれも毎日嬉しいし楽しいけど……じゃあこのままでいいのかって思うんだよ、色々と」

「ならひとつ課題を出すね」

「課題?」

「私はそうは思ってないけど、今のレインくんが不知火フリルと一緒にいれないと思ってるなら、一緒にいても恥ずかしくないと思うほど立派になって欲しい」

「……そ、それは」

「大丈夫。別に一流の芸能人になって欲しいとか、大企業の社長になって欲しいとか、そういう話じゃない」

「じゃあ、どういうこと?」

「自分に自信を持って欲しいの」

「────!」

「世間体なんて、自分に自信が持てれば関係ない。自分が正しいことをしている。間違った道を進んでないって思えるなら、きっと大丈夫なはずだよ」

「軽く……言ってくれるなあ」

「軽く言うよ。それでレインくんがここにいてくれるなら」

「……まいったなあ」

「存分にまいってほしい」

「ひょっとして怒ってる?」

「割と。前から思ってたけど、レインくん自己肯定感妙に低いよね」

「ぐはっ! く、くく。いってェところ刺してくるなあ不知火さんは」

「つんつん」

「物理的にツツくなよ……」

「つついてたらなんだか怒りが込み上げてきたから、もっとつつくね」

「こ、こら! やめなさいって!」

「ててててい!」

「こら、落ちちゃうから待って待って!」

 

 

2.

 

 

「とりあえずバスケ部に入った」

「そうなんだ」

「思ったより白い目では見られてない」

「よかった」

「朝練と放課後に練習あるぐらいだし、昼は変わらず時間取れるよ」

「バイトは?」

「とりあえず入る日を減らしてる」

「お給料少なくなっちゃうね」

「まあね。でも、この一年ちょいでだいぶ貯まってるから、今すぐ慌てるようなもんでもない」

「頑張ってたんだね」

「不知火さんには負けるよ」

「まあ、おれとしては今さら友だち作れるかって不安だけど」

「友だちできたら、そっちを優先してもいいからね」

「本音は?」

「私を優先して欲しい」

「だよね」

「今のはずるい」

「不知火さんて、たまーに気が抜けてる時がある」

「そう?」

「一年ちょいこうしていて、やっと気づいた隙だよ。普通の人にはわからないと思う」

「あ、レインくん自分は普通じゃないって言ってる」

「普通ではないと思うよ、不知火さんに対する関心はね」

「……心がふたつある」

「なんですって?」

「このままのレインくんでいて欲しい気持ちと」

「のと?」

「もっと近くに来て欲しい気持ち」

「…………」

「変だなー。私、推しとは一定の距離を保つタイプなんだけどなあ」

「じゃあ推しじゃないんだよ、おれは」

「────ッ」

「不知火さん?」

「ご、ごめんなさい。今日は、うん……」

「……行っちゃった」

 

 

 

「ちょっと、からかいすぎたかな……」

 

 

3.

 

 

「そういえば、レインくんはまだ私のドラマは観たことないんだよね?」

「……すごい今更だね」

「うん、今更だよ。思い返してみれば、いろんな作品や番組の感想は語り合ってるけど、私の出てるドラマに関してはやったことがないと気づいた」

「気づかなくていいのに……」

「と言うわけで私今からこの場で演技します」

「なんで!?」

「感想が欲しい」

「いや、だったらちゃんと帰って観るし。ていうかスマホで今から観るよ」

「ダメ」

「なんで!? 第一もう休み時間終わるぞ」

「今この場で見て欲しいし、今この場で感想が欲しいから」

「…………はあ」

「観念した? 大丈夫、二.三分で終わるから」

「わかったよ」

「じゃあやるね」

 

 

 

 私──初めて会った時から、あなたのことが気になっていたの。

 あなたが私のことを知らなかったように、私もあなたのことを知らなかった。

 

 あなたは不躾で、ガサツで、太々しい態度だったけど、その中に臆病な自分を隠し持っていることが私にはわかった。

 私、あなたに興味が湧いたの。 

 ひと目見た時から、ずっと、気になっていたのよ?

 

 あなたの言葉は刺々しくて、でも、いつも、不必要なほど私を気遣っていてくれて。

 あなたの言葉はいつも、私の心に土足で踏み入んでくるのね。

 でも──私はいつも、それが心地よかった。

 

 一緒にいて、気を張り詰める必要もない。

 肩を預けられる友だち。

 そう、あなたは私のことを『友だち』と呼んだわ。

 

 私も、その時はそれでよかった。

 下手に口を出して、この関係が崩れるのが怖かったから。

 でも、あなたは私を綺麗だと言ってくれて、私のことを意識していると口にしたわ。

 

 そうなったらもう──私だって、抑えが効かないの。

 

 どうしたらわかってくれるかな?

 どうしたら伝わるのかな?

 毎日そんなことを考えてて。

 胸がきゅっとなって。

 苦しかった。

 

 だから、私、閃いたの。

 言ってしまえばいいんだって。

 気づいたの。

 口に出して伝えるべきなんだって。

 

 私、ずっと、ずっと。

 言いたかったんだよ。

 我慢してたんだよ。

 

 私も、

 私も、あなたのことが────

 

 

 

「………………ッ!!」

「こんな感じかな? どうだった?」

「え? あ、ああ。演技ね、うんうん」

「設定は『ひと目惚れしていた少女が隠していた想いの丈を告白する場面』なんだけど」

「いや、うほん。うん」

「…………」

「まず、不知火さんが前に言ってた、『自分より演技が上手い人はいくらでもいる』ってのが、その通りなのはわかった」

「あら、ひどい」

「その上で、不知火フリルってタレントがなんで芸能界のトップを走れてるのか、よくわかったよ」

「その心は?」

「不知火さんの演技は、人の意識を吸い寄せる魅力があるんだね」

「つまり?」

「とても、その……目を離せなかった」

「…………」

「いや、綺麗だなあって」

「…………そう」

「ごめん、凡百の感想だよね」

「ううん、嬉しい」

「ここでその笑顔は反則でしょ」

「あれ? 私笑ってた?」

「こ、この人はもぉ〜ッ」

「ふふ、ごめん。ほんとに嬉しくて」

「ほんとにい?」

「掛け値なしだよ。それじゃあ休み時間も終わるし、私は戻るね」

「不知火さん」

「なに、レインくん?」

「心に届いたよ」

「じゃあ、頑張ってね、レインくん」

「うん」

 

「あ、そうだ──」

「なに?」

「ひとつ、演じわすれてた」

「なに─────ッ!!」

「これで、全部」

「────」

「それじゃあまたね、レインくん」

「────────」

 

 

4.

 

 

『三日も学校休んでるの?』

「ちょっと心身ともに疲労がね」

『大丈夫?』

「こうやって電話越しに喋れる程度には」

『よかった、ズル休みじゃなさそう』

「おいこら、それはどう言う意味だい」

『いやー健康優良元不良少年には刺激が強すぎたかなーって』

「うぐ、あ、やべ!!」

『どうしたの? ガタガタ言ってるけど』

「スマホに鼻血落ちた」

『どこかぶつけた?』

「拭こうと思ってスマホ落としただけ」

『……ふぅーん』

「今ニマニマしてるだろ」

『ふふん、そっかあー』

「病床に伏してる人間をからかうなよ……」

『レインくん』

「なに?」

『えっち』

「──────ッッ!!!」

『わっ! ちょっと大丈夫?』

「ベッドから落ちただけ、いてえ」

『図星だった?』

「それはもう」

『ふふ、今顔真っ赤でしょ?』

「全部お見通しとは恐れ入る」

『レインくんわかりやすいもん』

「不知火さんだって、結構わかりやすいぜ」

『あれー? ほんとかなあー?』

「正確には、だいぶわかってきたって感じ」

『先に進んじゃったね』

「そうだね。踏み出した以上、頑張らないとなあ」

『早く来てね、待ってるから』

「あ、おれが追いかける側なのね」

『それはそう。私はこう見えて不知火フリルなんだよ?』

「うん。不知火さんは推しも押されぬ不知火フリルさ」

『だから、楽しみにしてる』

「今、おれの未来設計図が組み上がる音がしてるよ」

『ふふ、それは本当に楽しみかな……』

 

 

5.

 

 

「お久しぶり」

「いやあ、ほんとにお久しぶり」

「体調はどう?」

「八割ってところかな」

「引きずってるね」

「おれの人生で二度目の大打撃だったからね」

「一度目は?」

「親父の失踪」

「ああー……」

「刺激が強すぎた、これはプラス方面だけど」

「プラス方面なんだね」

「なんでちょっとホッとしてるし」

「いや、重荷になってないかと」

「このぐらいでへこたれる程生半な人生送ってないよ」

「でも四日も休んだよね?」

「まいった、反論できねえ!」

「ふふーどうだ」

「……ドラマ、観たよ」

「…………!」

「配信サイトにあった古いヤツだけどね」

「そ、そう」

「あとユーチューブのまとめ動画」

「……ファスト的なヤツじゃないよね?」

「違うよ。不知火さんのシーンだけまとめたヤツ」

「うわあ、なんだか恥ずかしいかも」

「なんでよ」

「面と向かってそういうこと言われるの、実は珍しいから」

「よかったよ」

「どんなところが?」

「美少女なところが」

「ありきたり」

「目の保養になったさ」

「喉鼻風邪にも効いたでしょ?」

「ああ、バリバリの特効薬だった」

「たいへんよろしい」

「……観てよかった」

「ほんと?」

「ああ、確信が持てたからね」

「確信?」

「うん、おれ、テレビの前で一億人に知られる不知火さんの、別の姿を知ってるんだって思った」

「そうだよ。レインくんは、宝くじに当たるぐらいにレアな不知火フリルを知ってるんだよ」

「悪い気はしないね」

「もっと素直に」

「とても嬉しい」

「もっと不知火フリル風に」

「寿命が伸びたわ〜」

「四〇点かな」

「厳しくない?」

「がんばれ、文学少年」

「いや、ここでラディケとかで喩えてもわからんでしょ」

「それは小難しすぎるかな」

「だろー?」

「でも気持ちは伝わったよ」

「不知火さんが教養ある人で良かった」

「釣り合うでしょ?」

「……それ、先に言われると立つ瀬がないんだけど」

「機先を制するのは勝利の鉄則だよ」

「喧嘩に先手無し、って言葉もあるよ」

「それは知らなかった」

「ふふ、じゃあこれから知っていけばいいよね」

「そうね、知らないことがあるって、幸せなことなのかも」

「おれも最近そう思う」

 

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