東方空高下界 〜リキエルとヴェルサスが幻想入り〜 作:バームクーヘン
少女は仁王立ちの体制で、こちらをじっくりと伺っている様子だった。
相も変わらず辺りには猛吹雪が吹き荒れ、視界がはっきりとしていない。
俄然こちらに不利な状況に、2人はぼやいていた。
「なんて野郎だ…猛吹雪を起こしたのか?自分だけの力で...」
「あの高圧的な口調…俺たちをなめ腐ってやがんだろ、チクショウ!」
しばらく2人を見つめていた少女の表情は、段々とムスッとした硬い表情に変わっていく。
「そこの金髪!あんた、湖に吐き戻したでしょ!」
鋭くヴェルサスを指さしながら、吐き捨てるようにして言った。
どうやら、湖を吐き戻しで汚されてしまったことに対して怒りを向けているらしい。
冷水で気分が害されていたヴェルサスは、一切空白の時間を空けることなく、すぐに反論の言葉を少女に向けた
「吐き戻しただと...!お前が水を無駄に冷やすからだろうが!」
「そんなの、飲み干せば良かった話でしょ!加害者の分際で、うるさいわね!」
「このガキ「ヴェルサス!!」
またもヴェルサスを制止するリキエル。
彼の表情からは怒りが見て取れ、銃でもあったら少女を撃ち飛ばしてしまいそうな勢いだった.
少女に背を向け、2人はこそこそと話し始めた。
「あんな奴だが、俺達にとっては格上の相手だ…。ここで無理にケンカを売る必要はないだろうが!」
「チッ…お前の方で勝手にやってろ。俺は絶対アイツを許さねえけどな。」
リキエルは少女の方を向き直す。
「とりあえず、俺たちがここの湖を汚してしまったことは謝ろう。すまなかった。」
深く頭を下げ、少女に謝罪をした。
「お、おい…そんなにへりくだるのかよ?調子に乗るかもしれねえ」
不満げな顔で、リキエルを見た。
人里でも見たように、どこか正義感の強い一面はある。本人は当たり前のように行っているのかもしれないが、自分の非を認め謝る、という事は、そこらの若者でも難しい。
きっちりと落とし前は付け、ここで事を終わらせるつもりだった。
(この吹雪の中、アイツとやり合うのはさすがに分が悪い…。とにかく、戦闘だけは避けなくては!)
本当の狙いは、ここでの戦いを避けるためだった。
「あんたたちの様子、見てたわ!」
再び仁王立ちの体制をとった少女は、最初からそんな話題なんてなかったかのようにして語りだした。
「黄色い魔女と、3人であの紅い館へ向かっていたみたいね。」
「全く持ってその通りだ。」
徐々に落ち着きを取り戻してきたヴェルサス。
自分たちがずっと見られていたことによる焦りなのか。
それとも嫌いな相手の言葉への反応だったのか、冷静になってきた理由が分からない。
「大ちゃんと戦ってたのがあの魔女でしょ?」
「大ちゃんだと...?悪いが、俺たちはその人のことは知らない。」
リキエルは冷静に少女に応対する。正直、早く館に向かいたい、というのが本音だ。
しかし、これ以上少女の神経を逆撫でするようなことがあれば、自分たちの命はないだろう。
人間と妖精。
2つの種族の力の差を実感した。
ここではたった2人だけの、スタンド使いでも、埋められないほどに。
応対を黙って聞いていた少女は何かを取り出し、こちらに提示した。
(今までのあのカスみたいな態度から…逆切れしてくると思ったが、随分しおらしくなったじゃねえか。)
下側の方に白の波線がデザインされた、藍色の布切れだった。真四角の綺麗な形になっているわけではなく、無理にちぎられたような、いびつで歪んだ形をしていた。
(なんだありゃあ…?ハンカチ…長く使ってるとしても、ボロボロだ。)
(やっぱりガキかよ。変な形の布切れなんか使いやがって!)
しばらく物悲しく布切れを見つめ、少女は2人の方を向きなおした。
なにかを叫びたがるように、思いが口から飛び出してしまうようだった。
「これは大ちゃんの服の切れ端よ!」
「「!!!」」
2人は、
「あの切れ端…やっぱり。」
「…ああ。」
「「魔理沙はアイツを倒した」」
(あの少女とあの妖精は友達だった…そりゃ、手を出されたら黙っておくわけにはいかないよな…)
(俺たちに因縁を持ち掛けてきやがった!めんどくせぇから避けてえなぁ~)
「あんた達も見てたんでしょ!大ちゃんが魔女と戦ってるところ!」
「大ちゃんの仇!このチルノ様が取ってみせるわ!!」
チルノが再び姿勢をピシッと整えると、ただでさえけたたましい吹雪の勢いがさらに強くなり、先ほどまで直面していた状況がみるみる悪化していく。一面は白の世界に包まれた。
瞼も開けられなくなり思わず目をつぶる。
「こいつ…やる気だ…!」
「俺たちをマジでやっちまう気かよぉ~!」
消していたスカイ・ハイを再び装着するリキエル。一方、スタンドも出現させていないヴェルサス。
チルノは手を合わせて、目を閉じる。
すぐさま目を開け、手を開き、ビームでも打つような体勢を取ると、手からは弾が発射された。
「あれが弾幕か!」
「あれが弾幕って奴か!」
一直線に放たれた弾幕が、2人の元へ向かってきていた。串刺しにして貫かんとするばかりの勢いで突っ込んでくる。
矢の放たれるような速度で、太い槍が向かってくるかのような脅威だった。
「これは簡単か…?」
「ああ。ここはとりあえず…右に避ける!」
リキエルが先導し、ヴェルサスはぴたりと後ろに付くようにして動く。
余裕をもって右に走り、弾幕はその遥か左を通り過ぎていく…ように思えた。
「こっ、これは!横に広がったぜ!」
「ま、まずい…!!」
突如として広がり、当たる範囲を掻く出してきた弾幕群。
2人の避ける速度よりも弾が広がる方が早く、これでは間違いなく被弾するだろう。
「くっ…!」
鋭い氷の槍。こんなのを喰らってしまったら、一発でも致命傷になりうる。
どうにかして、せめて被弾だけは避けなくてはならなかった。
「こんな
ふと、リキエルの頭にある事柄が浮かんだ。
霊夢の元を離れる際に、魔理沙が言っていた言葉だった。
”スペルカードは、どんなに無茶苦茶に見えても、確実に避けられるようになっている”
瞬間、リキエルは、ヴェルサスの方に意識を向けた。
重要な意思を伝えるためだった。
「おい!ヴェルサス!!お前も聞いてたよな?魔理沙の言葉!」
「あ、ああ…どれの事だ?」
ヴェルサスは、そんなこと今聞くのか、とでも言いたいばかりに、苦い表情を浮かべている。
「どんな弾幕でも避けられるって話だ!」
スペルカード…魔理沙が言っていた、弾幕勝負における必殺技のようなものだったと覚えている。
ある程度は激しい攻撃のはずだが、それが回避することができるとなると、それは今の名前の無い弾幕にも当てはめられるはずだ。
「本当か!?そいつは良いな!だ、だけど、おい!」
ヴェルサスは声を荒げ、弾幕の方を向き直す。プレス機で押しつぶされるごみと、自分たちが置き換えられた状況に、焦りは最高潮に達した。
「こんなの俺たちの速さじゃ避けらんねえぞ!?どうすんだよ!!このままここでアレに当たるのを待つのか!?」
「このままここで...確かに、それでも良い…いや、それが良い!」
ヴェルサスは避けようにも先頭が動かないので、何もできず、おどおどとしている。
「ぶつかってくるぞおおぉぉぉぉ!!」
次の瞬間、リキエルは前へ勢いよく飛びだした。すると、弾幕の間に割って入り込んだ。
「はぁ!?」
突然の移動に混乱したものの、このままここにいても、自分は被弾してしまうだろう。
どうしようもなくなり、それについていくヴェルサスは、リキエルが何の意図を持って、間に入り込んだのかとしているのかが分からなかった。
次々と、目の前に体一つ分の隙間を見つけて入っていく2人。アスレチックで足場を渡るように、軽快な足取りで弾幕を避けていた。
体の半身が、冷気によって冷やされていく。少しでも立ち止まれば、そのまま氷漬けにされてしまいそうだった。
十数秒も経たないうちに、目の前に弾幕が見えなくなった時、ヴェルサスは驚いた。
「し、信じられねえ…弾と弾の間を潜り抜けて避けるなんてよ…」
何も言わず、ただ真っすぐにチルノの方を向いているリキエル。
「ここでは、完全に避けられなくなるような攻撃は存在しないってことだ。」
ヴェルサスだけに聞こえるように、そっと呟いた。
ドザァァァァァァァァァァ
後ろから何か巨大な音が聞こえる。少なくとも良い知らせではないようで、おどろおどろしい。
いち早く気が付いたヴェルサスがふと後ろを振り向くと、凍り付いた樹木があった。これだけが何百本も取れそうな、とても太い木だった。
「!?」
驚きを隠せなかったが、すぐにその事実の正体が分かった。
(…一発でも貰ってたら、だいぶヤバかったぜ…)
内心、腰を抜かしていた。幻想郷の住人たちは、こんな命がけの戦いが、ケンカになるのかと。
「まだまだこれからよ!永久に、冷凍保存してやるわ!」
再び先ほどのような弾幕群が襲い掛かってくる。
「感覚は掴んだぞ!俺にぴったりとついて来い!」
誇らしげにヴェルサスに呼びかけるリキエル。
やはり、弾幕の広がり方は先程と変わらず、パターンを掴み、幾分か簡単に避けられるようになっていた。
「やられっぱなしじゃこっちとしても悔しいからな…。一手打たせてもらう!」
「来い!!!ロッズゥゥゥ!!!」
リキエルが力一杯に叫ぶと、茂みをかき分け、大量の未確認生物、「ロッズ」が出現した。
これらを操るのが、彼のスタンド能力。
壁を作るように、リキエルの背後に広がり、留まっている。
ロッズの壁に阻まれ、リキエルを見られなくなったヴェルサス。
(リキエルが操れるヤツか…。本当にそこら辺にいるんだな。)
「狙いはアイツだ。行けっ!!ロッズゥゥゥ!!」
ロッズたちはチルノの方へ向かう。
「何よこの弾!?今まで見たこともないわ!」
空を飛べるアドバンテージが活きているが、取り囲うようにして飛行していたロッズに接触してしまう。
「ッ!?何!?」
ロッズはチルノの腹部を思いきり突き抜けていく。不思議なことに、通った後の穴も、それによる出血もない。
「よし!やったぞ!アイツの体温を奪った!!」
攻撃対象の体温を奪い、体調不良や器官の機能停止をさせて追い込んでいくのがリキエルの戦い方。
即死など、すぐ決着がつくのは難しいが、じわじわと攻撃できるのが強みだった。
「今のはどこの体温を奪ったんだ?」
始終を見ていたヴェルサスは、リキエルに尋ねた。
「俺の目視じゃ…おそらく、今ロッズが奪ったのは…肝臓だ!とりあえず、一杯食わせられたなら、それで良い!」
(肝臓にダメージが行ったなら、ある程度は飛行が困難になるはずだ。無理にアイツを倒そうとせず、ここから逃げるべきだな。)
しかし、チルノは自分の体を、何が起こったのか分かっていない、という風に見まわしている。
「…今の所、全然ダメージは受けてないわね…!拍子抜けしたわ!」
「なッ!?」
今この場にいる者で、一番拍子抜けしたのはリキエルだろう。自身の攻撃が全く効いていないようだったからだ。
「た、確かにロッズたちはアイツの体温を奪ったはずだ…。どうしてあんなに元気に浮いてられるんだ!?」
「あいつが撃ってた弾は、多分氷に近いぜ…」
ヴェルサスが、ボソッと呟いた言葉が、リキエルの耳に入った。
その時、はっとなった。空条徐倫との戦闘を思い出した。そして、今の状況とよく似た経験だった。
エルメェスやエンポリオの体温を奪い、まずはヘリを墜落させた。序盤こそ完全にリキエルのペースに乗せていると思っていたものの、徐倫の奇策によって一転攻勢となった。
その奇策とは、
自分の体を燃やしているようなものだが、彼女には”覚悟”があった。
今、目の前の少女は、
「自分の体を急速に冷やして、ロッズが体温を奪える部分を断っているのか!」
「ヤツが氷を操るとか、とにかく自分の体を冷やすことさえできるなら、それで確定だな…」
「もさもさ話してるようだけど、容赦はできないわ!」
チルノは自身の周りを、彼女の体の2倍ほどはあるか、という程の大きさ氷塊で覆い始めた。
「くそッ…計画が狂った…!」
リキエルは、早々に焦りを見せ始めていた。
ここでの戦闘は避けられず、決着をつけるしかない、と2人は悟った。