東方空高下界 〜リキエルとヴェルサスが幻想入り〜 作:バームクーヘン
「ウオアアァァァァ」
ヴェルサスは上から降ってくる氷海を見上げ、切羽詰まった表情を浮かべていた。
「まずいッ!離れろッ!」
リキエルはヴェルサスに対して注意をし、一歩一歩近づいていく。
コツッ、コツッと、凍った地面と靴が触れる音が、寒冷な世界に響き渡った。
落下してくる氷塊の影が、凍ってスケートリンクのような状態になってしまった湖面にうっすらと移る。
日が昇っていない状態で、どこに影があるのか、よく目を凝らさなければ、視認することもできない、圧倒的に不利な状況に陥っていた。
「喰らいなさい!!」
チルノはバンザイ状態で上げていた両手を、下に振り下ろした。
「まずい!あの氷塊を…」
「丸ごと落としてきやがる!!」
氷塊が落下し、2人の元に向かってくる。まともに喰らえば、
パキィン
すると、氷塊が粉々に割れ、いくつかの破片に分かれて飛び散った。
「あ、危ねえ…」
ほっと胸を撫で下ろしたヴェルサス。
しかしながら、リキエルは何か
(失敗したのか…?さすがに自分であの氷塊を砕くことはないはず…何か裏の事情があるな。)
いつの間にか吹雪も止み、すっかり視界も開けていた。
(さっきから止んでは降り、止んでは降りの繰り返し。弾幕を撃つごとに止んでいるな...攻撃と妨害、どちらか片方しかできないのか?)
開けた視界に、何かキラキラと光るものが見える。目をカッと刺してくるような、鋭い輝きを帯びていた。
「これは…?」
謎の光に意識を向けつつ、スカイ・ハイでロッズたちを打ち出す。
何体もチルノの体を貫いてこそいるものの、当の本人には効き目が全くないようだ。
「今まで一度も見たこと無かった弾の種類だったけど、このぐらいなら全然どうってことないわ!」
と、余裕の表情を見せている。
そんな表情があらわになり、さらに焦る。
「アンダー・ワールドッ!!」
ヴェルサスも自身のスタンドを出現させ、能力を発動しようとした。
(魔理沙を掘り起こした時とか、オーランドのスーパー・ボウル掘り起こしたときとか、地面の記憶を掘り起こせば、アイツにダメージを与えられるかもしれねえ!)
が、現実は無情なものであり、この世界に何人といないであろう、
「か、硬えッ!カチコチに凍っちまった湖の上では、記憶を掘り起こせねえッ!」
謎の光の輝きが増していき、今度は光で覆いつくされていく。
「前…前が見えねえ…」
激しい光をさえぎるため、腕を顔の前に動かす。
が、それが攻撃となったのは、たいして時間も経たない頃だった。
腕には痛みが鋭く走り、破れた服からは細かな傷だらけの状態になっていた。動物にかみつかれたかのような、ひどい有様になっている。
「ううッ うぐああああああ」
「ヴェルサス!?お前、何やってる!?」
ヴェルサスの方に視線を向け、走って向かおうとするも、伸ばした手にも激痛が走り、あっという間に傷だらけになり、二の舞になった。
「痛ってえ!!なんだこれは!?」
その場に立ちつくし、周りを見渡す。
しかしながら、チルノが直接弾幕を撃ってきたわけでも、何かしらの武器を使った様子もない。
湖の周りには、場の雰囲気もあってか、3人しかおらず、外野から弾幕を撃ってくるような介入者も見当たらなった。
「一体…どういうことなんだ?俺たちの腕がボロボロになったのは…」
しばらく傷だらけの自身の腕を見て呆然としていたヴェルサスは、チルノに体を向け、キッと睨みつけるようにした。
「おい、ガキ…よくもオレ達をコケにしてくれたな…」
静かな怒りを向ける。臨界点に一度達していた怒りは、今度は下り坂を歩いている途中だったのだろう。
「さっきまでのアタイに向けた怒りは何だったの?しぼんでってるわ」
わざとらしい大ぶりな身振りを見せた。
「よく見てみなさい!それとも、人間達にはちょっと複雑で分からなかった?」
2人は辺りを再び見まわした。
「リキエル、これは罠だぜ…ヤツが仕掛けてきた、俺達には分からない罠だ!」
「ああ。アイツが直々に攻撃してきてるとは考えづらいからな…」
痛みに耐えきれないリキエルは、湖面へへたり込んでしまう。しかし、更なる謎の痛みは加速していくままだった。
リキエルはそのまま下を向き、何かを考え始めた。
「おい?何を考えてるんだ?」
リキエルのしている行動が理解できず、呆気にとられている。
弾幕を始めて避けた時のこともそうだが、お互いにやろうとしていることの真意が良く分からないまま事が進んでいる。
が、どうにかして進んでいってしまうこと自体が不思議なものだったのだと、改めて思った。
「いや…ちょっとこの状況を打開する方法を考えた。」
ヴェルサスが感嘆する間もなく、声を上げる。」
「来いッ!」
手首にぴたりとついたスカイ・ハイと、再び現れたロッズ。
リキエルの精神力の消耗によって、ロッズの制御が効かなくなり、そのまま解放されたうちの一匹が、呼応するかのように戻ってきたのだった。
「…すまない」
ロッズは2人の元へ全速力で向かってきていた。
そんな飛行物体を見上げていたヴェルサス。
(何をする気だ…?)
ロッズが自分たちの周りに移動した瞬間、突如体が切り裂かれ、ドロドロに溶けてゆく。
もはや取り返しのつかない状況に陥ったその一匹は、そのまま墜落してしまった。
「お、おいロッズが「これだ、これを狙ってたんだぜ、ヴェルサス。」
「今のロッズは、俺たちと同じように切られたんだ。そして切られた場所は俺たちの周囲だ。」
大体の察しがついたヴェルサスは、口を開いた。
「俺たちに近づいてきたタイミングで攻撃…俺たちの周りに罠が...かよ!?」
「そうなるな。そして、その正体は…!」
墜落したロッズへ向けて手を伸ばし、遺体の一部を掴んだ。既にドロドロに溶けており、体積がみるみる小さくなっていく。
「こ、これは!」
ロッズの体には、
「氷の破片。破片をばらまいてたってことだ。」
「あの時砕かれたと思った氷が、破片となって空中に浮かんでいたのか。画鋲みたいなモンだよな…」
「あの様子…どうやら種がばれたみたいね。もうやめにしましょう。」
2人を密かに取り囲んでいた
「そろそろあんたたちの相手も飽きてきたわ。ここらで終わらせましょう。」
「それは俺たちも一緒だぜ。テメーにはたっぷり恨みがあるんだ、ここできっちり返してもらうぜ。」
勝負は最終盤に移っていた。
「凍符 パーフェクトフリーズ」
チルノが組んでいた腕を横に向かって開くと、赤、青、緑、黄など、色とりどりの弾幕が出現していた。
「あれがスペルカード…何やらヤバそうだ、油断はできない」
弾幕が放たれ、2人の回避の時間が始まった。
「うおおおおーーーーーッ」
「があああーーーーーッ」
必死に、我を忘れるように避けていた。氷の弾幕ではない通常の弾幕とはいえ、ただの人間の自分たちでは十分な致命傷となりえる。
「この弾、1つ気づいたことがある…飛んでくる方向、進む軌道、どれも完全にランダムなんだ!」
チラリとヴェルサスに視線を向ける。
「死に物狂いでよけるしかねえかよ!」
リキエルに視線をひっそり返した。
「ここで終わりよ」
激しく動いていた弾幕群はその動きを止め、みるみる白く凍り付いていく。
「なんだ…?止まったのか!?弾幕が凍って止まったのか!?」
「よし、リキエル!!このままもう一度アイツにロッズを」
リキエルの右足の一部を、緑色の弾幕が直撃した。
「うわああああああああああ」
氷の破片とは比べ物にならない程の痛み、今までの戦闘で石を投げつけられたり、顔が悲惨な状況になるほどに殴られた時とは、また違ったものになっていた。」
やけど後のように、真っ赤な円形の痕がくっきりと刻み込まれた。
「ッ…痛い...」
「リキエル!!立て!!今度こそ氷塊が降ってくるぞ!」
上を見上げると、先ほど切りつけられる攻撃をされた、巨大な氷塊が浮いていた。
数も大幅に増え、形は鋭いドリル状になっている。
「やる気だな...本当にやっちまう気だな...!」
確実に、ここで決着を付けようとしていた。
自分たちの敗北、相手は敵討ちに無事成功、という儚い結末が、既に約束されている。
「ただの人間の癖に、良くここまで生き残ったわね。でも、もう終わり。精々あがきながら、大ちゃんに全力で謝って消えなさい!!」
チルノは荒々しく手を振り下ろすと、集中豪雨の如く氷塊が落下してきた。
影が迫り、あっという間に飲み込まれてしまった。
(クソ…今の足じゃ動けねえ、だめだ...もう終わりだ…)
(結局俺は、こうして無残につぶされていくだけだったのか…俺は、スタンドを操れるようになったんじゃなかったのか、このまま何もできないのか…)
「リキエルゥーーーーーーーーー!!!」
ズガァァァァァァァァァン
氷塊が落下し、辺りは氷の破片で覆いつくされる。
そこから見えてきたのは、特筆すべきものは何も無い風景と、派手に開けられた、人が出入りできそうなほど巨大な大穴だった。
「ふう、これで3人のうちの2人は敵討ち完了したわ!残りはあの魔女だけね…」
チルノは始末された親友を思い浮かべながら、気分良く湖から飛び去ろうとする。
「おいおい、まだ終わってねえぞ」
「…!?」
先に穴から出現したのは、彼女が苦にしなかった弾幕だった。
墓から這い出てくる死人のように、手が地面を掴み、体を持ち上げていた。
そこにいたのは、氷塊に押しつぶされたはずのリキエルだった。
「な、なっ、さっきの!?どうして!?」
後ろを向かずに、すっと指をさしてみるように促す。
「お前の氷塊でできた穴の中に何とか生き延びてみせたんだ。」
「俺はこんなところで終わらない!!お前たちのような妖精よりも精神力と執念は上だ!」
「この…これで本当に終わりよ…!」
瞬時に手から1本のレーザー弾を打ち出した。
「なっ!?しまっ」
胸を真っすぐに貫き、穴がぽっかりと開いた。
「うぐおおおおおおおッ」
「よしっ、これで今度こそ…!?」
ヴェルサスの体は、風化する岩のように、バラバラに崩れ去った。
「な、なんなのアイツ!?お、おかしい!」
「人間が死んだとしても、いくらなんでもこんなバラバラにはならないはずよ!?」
湖から何十メートル離れたかもわからない。樹齢100年はあるだろうかという程の大木の近くに、2人は逃れてきた。
「しばらく休んでおけ、なんとか湖からは離れた。」
「ああ、サンキュー…」
大木の根元に座り込み、そのままがくりとうなだれた。
「アイツの能力は、ハッキリ言いたくないが、今の俺達じゃ歯が立たねえ。そこで、俺はお前を連れて逃げることを選択したぜ。」
「アンダー・ワールドで、
「アイツがあんだけでかい氷塊を落としてくれなかったら、掘り起こすことはできなかっただろうな...不幸中の幸い、いや、断然幸いだったな。さあ、思う存分休んでおけ、お前が良いっていうなら急ぐぜ。」
「ああ...本当にありがとう。」
ヴェルサスは、リキエルに目もくれず言い放った。
「お前がいなけりゃ、アイツの弾幕でやられてたからな...」
「俺と一緒に行動してくれないと困るんだよ。既に何個も貸し作ってるんだからよお~。」
「…。」
やはり、2人は血の繋がった兄弟なのだったのだろう。