東方空高下界 〜リキエルとヴェルサスが幻想入り〜 作:バームクーヘン
人里へ行きます。
霊夢と別れた後、リキエルとヴェルサスは、「人里」へ向かうため、再び石の階段を下りていた。
「しかし、俺たち以外にもここで特殊な能力を持っている人がいるなんてな。」
「…俺はそれよりも、戦いに身を投じるも同じの宣言をしてしまったのを、ずっと気になっているんだが。」
ヴェルサスの弱音のような小言に、リキエルは反応を示した。
「お前、あんなに熱く幻想郷に居たい、死ぬことだって覚悟してるって言ってた癖にか?今更もう怖いものなしだろ。」
リキエルは冷静に、正論をぶつけた。
「あの時は完全に冷静さを失ってたんだよ!もっとテーマパークみたいに、楽しい場所かと思ってたのによぉ~、戦闘なんて言葉持ち出されたら誰でも委縮するっての。」
自分が、何かに熱くなり過ぎて怒りっぽい所は昔からだった。一体誰の血が流れているのかは不明だが、一丁前にプライドは高いらしい。
「まあ、言ったもんは言ったしな。もう戦うしかないだろ。」
「…チクショウ。」
深く後悔しながら、階段を重い足取りで降りた。
階段を完全に降り切った後は、霊夢が言っていたことを思い出しながら歩いていた。
「確か霊夢が言ってたことには、神社から人里へはこのまま地続きになっているらしい。このまままっすぐに進めば到着するだろうな。」
博麗神社と人里が地続きになっているのは、地理的なものなのか、神社を建造した時に何かしらの事情があったのか、あまりよく分かっていないようだ。
人里に到着すると、開けた一本道の通りが広がっていた。
「これが...人里」
「フロリダとは全然違う。古風な街並みだな。」
建物がすべて木造で、目にダメージの入るような電光掲示板、ましてや交通標識も見当たらない。そもそも、幻想郷では車すらも存在していないものになっているのだろうか。
「日本の、昔に存在していた江戸って場所と似てるって聞いたが、こんなもんか。」
ヴェルサスが呟きながら歩き、リキエルはそれに応えるようにし、後に続いた。
手前の団子屋では、子供たちの列がなされている。人通りも多く、幻想郷における「都市」の役割の役割を果たしているのだな、と考えてみた。
奥の方にも、団子屋と双璧をなすほど、子供たちが集まる場所があった。何やら見世物が行われているらしく、無邪気に楽しんでいるようだ。
「なんかありそうだな。行ってみよう」
2人が向かうと、そこで行われていたのは、紙芝居の読み聞かせだった。
「ほーぅ。読み聞かせだったのか。
「そりゃあ子供たちもこぞって集まるよなあ。」
書店員と思われる男がちょうど読み聞かせを終え、子供たちは力一杯の拍手を贈った。書店員の男は、軽く頭を掻き、かなり照れている。
「せっかくなら、ここの書店に入ってみるのもいいんじゃないか?何か文献とかがありそうだ」
「…それもそうか。それじゃ、入ってみるか。」
読み聞かせを終え、静まり返った店内に足を踏み入れる。店内は小ぢんまりとした、いたって普通の本屋だ。しかし本棚にきっちりと並べられている本、そのどれもがかなり年季の入っているもので、言語や大きさ、ジャンルに至るまで、バラバラだ。
「
「さすがにないだろ。」
2人が流すようにして店内を物色していると、
「いらっしゃいませ。」と、明るく弾むような少女の声がした。
声のした方を見てみると、華奢で笑顔を浮かべている少女が、自分たちに向かって話しかけていた。その奥には何か人影のようなものが見えた。
「何かお探しですか?本の具体的な分類を言っていただければ、ある程度はお探しできますよ。」
(ここは一旦、さらに深く幻想郷について知る頃が重要だ。ついでに、「能力」についても知見を深めておいた方が良い。)
リキエルは少し考えこみ、
「俺たちはつい先日にここに来た外来人?だから、幻想郷についてと、「能力」についての文献は無いか?」
と、質問を投げかけた。
少女は首をかしげて考えこみ、ハッと驚いた。
「おお!あなた達も外来人なんですか!なんだか奇妙ですね。ここの店員も、つい先日幻想入りしてきたばかりで、うちが雇ったんですよ。」
「俺たちと同じ外来人だな。少し早くにここに来たらしい。
「おーい、すみませーん!会わせたい人がいるんです!ちょっとこっち来て、顔を見せてあげてくださーい!」
少女が呼びかけた後、さっきの人影がこちらに近づいてきた。
2人は、何か力のようなものを感じた。磁石を近づけ、引き合うように、自分たちでも突然だった。
「は~い、今来たぜ。それで、小鈴ちゃん、何しに…」
姿を現した書店員はチラリとこちらを見たまま、店員は固まって、動かなくなってしまった。
1人と2人が見つめ合う。お互いのことを知っているという確信があった。
「あー...失礼だが俺はあんたら2人組を知っているよな?」
「「…もっともだ。」」
歯切れの悪い受け答えに、少女は、少し困った表情をしている。重たくなった空気を何とか軽くしようと、少女はとりあえず店員に話しかけた。
「えーっと、ウンガロさん、そちらの2人とは何か面識があるんですか?」
「「「やはりか」」」
知っている名前が出てきたことに、驚きを隠せない2人。
自分と少なからずも関わりのある2人の来店に、混乱する1人。
書店員は、自分たちの腹違いの兄弟、「ウンガロ」であった。
「で、なんでお前はここに来てるんだ。」
ヴェルサスが尋ねる。リキエルと出会ったときのように、言葉にはほんの少しの温かみが感じられるようだった。
兄弟という事を意識しての事なのか、それとも同じ外来人の出身という事が嬉しかったのか。言葉を投げかけた本人も分からない。
「…あんまり人前じゃ話しづらい話題だからな。一旦表へ出ようぜ。ごめんな、小鈴ちゃん、ちょっと3人で話してくる。」
3人は店の外へ出ていき、話し始めた。
「俺はスタンド能力が無効化されたことに対して、すげえ絶望したんだぜ。もう終わった、またあの頃の生活に逆戻りだってな。」
ウンガロは、それによって、自決もかくや、との覚悟を決め、山奥へ逃げ込んだのだという。
「もうこのまま消えたかったんだろうな。無我夢中で、そこかしこを走り回っていたんだがよ、そしてたまたま森を抜けたら、たまたま人里の近くに行き着いた、たまたま”幻想入り”したんだよ」
自分たちと同じように、偶然にも幻想入りしてしまった者の1人だった。
「そんなに偶然性をアピールしたいんだな。俺はまた違った方法で...」
リキエルは、世界が急に加速して、不可抗力のように幻想郷へ来たことを伝えた。
「ウンガロ、何か知っていることは無いか?世界の急加速についてだ。」
リキエルはいつになく真剣な顔で尋ねた。
「俺はその前に来たから、よく分かんねえな。」
しばらく考え込んでいたようだが、ウンガロも結論を出せなかったようだ。ますます、謎は深まっていくばかりだった。
「話は聞かせてもらった。ありがとう、さあ、早く本を出してくれ。」
ヴェルサスが急かし、
「おうよ。幻想郷と能力の本なら、溢れるほどにはあると思うぜ。」
ウンガロが2人を再び案内しようと、店の方に回り、歩き始めた。
だが、後方で何かが猛スピードでこちらへ通り過ぎていった。全力で走っているような音に、リキエルは振り向いた。
音の正体は、いかにも高級そうな宝石を胸いっぱいに抱えながら走る、浮浪者のような男だった。
憎らしい、悪意に満ち溢れた表情で、全力疾走している。
「おい!!強盗だ!!」
「あっちへ逃げたぞ!!」
すぐさま、男の犯行に気づいた人々が、声を上げた。
(金目のものを盗んで逃走している...許せねえ!)
感情に身を任せ、自分も男の方に向かって走る。
彼の目には、
「スカイハイッ!!」
すぐさまスタンドを出現させ、ロッズたちを招集する。
「あの男の方だッ 行け!ロッズゥゥ!」
“ロッズ”は男の方に向かって飛んでいく。人が走る速度よりもはるかに速い。静止している状態以外は、スーパーカーで走ってみて、視認できるか分からないほどである。
「こ、これだけありゃあ少なくとも1ヶ月は安泰だぜ、またあそこで賭けてみて、何倍にも増やしてみるのも良いかもなあ〜!」
頭をロッズが通過、正確には、「貫通した」瞬間、男は視界が遮断された。
「な、なんだあ」
「ぐぼあっ」
男はそのまま前に投げられるように転び、地面に叩きつけられる。
背後から、一人追いかけて来ていたリキエルが、怒りを込め、呟いた。
「人からよくもそんなものを盗みやがって...!」
「あ、あ、うわああああ」
男は本能的に、ほふく前進で逃げようとしていた。
「この期に及んで...! 逃さねえぞ!」
ロッズは男の足を通過した。
男の足は、通常ではありえない方向に曲がり、まるで使い物にならなくなってしまった。
「ぐぎゃあああああ」
男は悲痛の声を上げる。だがリキエルは容赦をしなかった。
「ロッズで足の体温を奪っておいた...せいぜい詫びてろ、大人しく刑務所でな!」
すぐさま、ヴェルサスとウンガロが追って来た。
「おいリキエル、こいつは...」
「おそらく、スカイハイで動けなくしたんだろう。そうじゃなきゃ、こんなに痛々しい足にはならねえ。」
リキエルのスタンド能力を知るヴェルサスが補足を入れる。
「…お前、正義感の強い面もあるのな。」
ウンガロが、静かに佇むリキエルを見つめながら呟いた。
「強盗事件....もう終わっていたみたいだな。」
動けなくなった男の前に、スラリとした女性が現れた。
特徴的な帽子、少し水色が混じったような銀髪の長髪を持っている。
「この男を止めてくれたのは、あなた達でしょう。ウンガロさんと、そのお2人。外来人の方ですね?」
あまりの察しの良さに、若干たじろいでしまった。
「はい。この悪人は、俺の“スタンド”で懲らしめました。あとはそちらに任せます。」
女性は軽く考えるような仕草をしたかと思えば、すぐにそれをやめ、こちらに話を続けていた。
「スタンド...本当に、ありがとうございます。私は、
「俺の名前はリキエルと言います。ウンガロの前にいるのは、同じ時期に幻想入りしたヴェルサスです。」
「…どうも」
慧音はここでは力を持っている、というか、かなり慕われているように思えた。
「人里の寺子屋を開いています。外来人を案内するのも、私の仕事のうちの1つです。とりあえず、2人はひとまずここに住む、という事で大丈夫ですか?もしそうならば、一応、住居の確保はこちらで行いますが・・・」
トントン拍子で進んでいくが、自分たちにとっては、住む場所を手に入れることのできる絶好のチャンスだ。
「もちろんです。ありがとうございます。何から何まで」
「正直、少し不安だったからな。」
「そうですか。では、私についてきてください。ちょうど最近、1軒だけ空いたんですよ。」
2人は、内心大はしゃぎながら、夢にまで見たマイホーム?へ向かうのだった。
何気にスタンドの描写を、デモンストレーション以外では初めて書きました。上手くできていましたか?
次回、第8話「空が紅く染まる時」です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!