東方空高下界 〜リキエルとヴェルサスが幻想入り〜 作:バームクーヘン
異変解決に向け、動きだします。
真っ赤な館に向かって、4人は向かっていた。
霊夢は体1つで空を飛び、魔理沙は箒に乗って空を飛んでいる。
その一方で、リキエルとヴェルサスは、2人に付いていこうと、必死に走っていた。徐々に差が離されていくが、飛んでいる側はそれに気付かず、ペースを上げていく。
霊夢「リキエル、ヴェルサス、きちんと付いて来なさい。」
ふわふわと浮きながら進んで喋る2人に、ヴェルサスが苦言を呈した。
ヴェルサス「ハァ、ハァ、ハァ...そうは、ハァ、言っても、ゼェ、こっちは走りだぞ...ウッ」
その少し後に付けるリキエルは、ヴェルサスをたしなめるように、言った。
リキエル「確かに....ハア、俺たちは、身体能力に関しては、一般人だからな...お前たち2人のように、空は飛べないんだよ...オエッ」
魔理沙「お前たち、もうへばってるのかよ?まだまだ館までは遠いぜ。」
これ以上走り続けていても仕方がないので、休憩時間を少し取ってから、再び出発することにした。
走っていた2人がぐったりと倒れ込んでいる間に、霊夢と魔理沙は座り込んで、異変について話していた。
魔理沙「とりあえず、今の時点では、あの真っ赤な館が異変の中心地ってことでいいんだな?」
館を指しながら、魔理沙は尋ねた。
霊夢「ええ、そうなるわね。少し前に建てられたみたいだけど、挨拶とかもなかったから、まさか、とは思ったわよ。何人が越してきたのか、何の種族なのか、何も分かっていないわ。」
2人は空を見上げた。先程までの雲一つない快晴の空は、今では見る影もなかった。
魔理沙「なんかロマンチックだよな。神社の境内の裏ってさ。こんなに赤い空も相まってか、なんでか特別な風景にも思えてくるぜ。」
霊夢「意外とそうではあるかもね。でも、この空の赤さ、単純に夕暮れとかの自然現象によるものではないってことは分かるわよね?」
霊夢はさらりと受け流し、再び異変の話題に切り替えた。
魔理沙「ああ。元の空を、あの紅い霧が覆い隠したって感じになってるな。」
よく目を凝らして見てみると、霧が渦を巻いたり、左右に流れたり、気流の流れが見えるのが分かる。
霊夢「赤い霧...この異変を、”紅霧異変”とでも名付けておきましょうか。さて、そろそろ2人を連れていくとしましょうか。あまり休憩ばかりじゃ、人里に被害が出るかもしれないし。」
霊夢が立ち上がり、2人のもとに向かおうとしている時だった。
ズオオオオオオオ
突如として、巨大な黒い球体が、霊夢の方向へ突き進んで来ていた。周りを飲み込んでしまいそうな、ドス黒い色をしていた。
魔理沙「霊夢!攻撃だ!」
霊夢「分かってるわよ!そんぐらい!」
軽く上方向に飛び、そのまま浮かび上がっていく。
霊夢の足下を通過した球体は、消滅したかと思うと、中から1人の少女が現れた。
小柄で華奢な体、金髪の赤い目、白黒の、シンプルなデザインの服。
どこかおぼつかない飛び方で、霊夢の方へ向かってきた。
少女は十字架のようなポーズをとり、右手をぐっと握りしめる。
霊夢「あなた誰?異変を起こした奴からの命令で、私を攻撃してきたの?」
少女を見ながら、尋ねた。霊夢の目は、いつも以上に鋭さを増した、妖怪退治の時の目をしていた。
「さあ?異変って何?...あっ、この赤い空の事?」
「ああ、名乗り遅れたわね。私はルーミア。」
ルーミアは、紅霧異変については、何も知らない様子だった。あっけらかんとしていて、イマイチ人柄が掴めない。
霊夢「もひとつ質問良いかしら?」
ルーミア「何よ?」
霊夢「その十字架みたいなポーズ、さっきから気になってるんだけど?」
ルーミア「これね。
会話のキャッチボールをしているとするなら、どれも違う方向に投げられているようだ。
薄々勘づいていたが、話が通じない。ここで逃がしておくのは危険だと、霊夢自身の勘が言っていた。
霊夢「人間は暗い場所では物の姿がよく見えないのよ。」
「あんたをこのまま放っておくのは危険だわ。ここで
ニタ、と口角を吊り上げ、ルーミアは笑った。
ルーミア「さあ?それがあなたの目論見通りに行くとでも思っているの?」
霊夢「あんたなんか、戦いの1つにも入らないわ。精々準備運動ぐらいね。」
空中に浮かぶ2人の少女、皮肉を交えながら話しているが、見つめ合ってそこから動かない。
夢の中の光景としか思えないが、幻想郷ではこれがほぼ常識である。
2人の様子を誰よりも真剣に見つめていたのは、魔理沙だった。
魔理沙「くう、霊夢の奴!早速弾幕勝負を始めそうだぜ!私だってできるだけ早く戦いたいんだ。」
混乱でも、苦言でもなく、弾幕勝負がしたい、という願望だった。
ある程度は体力が回復し、同じく霊夢の方を見上げていたリキエルとヴェルサス。
その不思議な光景について、リキエルが尋ねた。
リキエル「なあ、あれが幻想郷での戦闘って奴か?」
魔理沙「ああ。見ての通り、基本的に空中戦だ。妖力、魔力を一塊にした、“弾幕”を撃ち出し、攻撃する射撃戦になる。時たま、スペルカードを使うこともあるが。」
ヴェルサス「スペルカード。」
あまりの専門的な用語の多さに、ヴェルサスは既に、初耳のワードに疑問符を付けておくことをやめていた。
魔理沙「必殺技みたいなものだな。ほら、この紙に名前が書いてある。これを使って、宣言した後に打つことになってる。弾幕勝負の基本ルールだ。」
魔理沙はお札のようなものを取り出し、2人に見せた。英語ではなく、日本語、さらに、昔の字体で書かれていたので、慣れていない2人には、解読することすら困難なものになっている。
魔理沙「スペルカードの真髄は、その華麗さ、そして避ける難易度だ。」
ヴェルサス「華麗さ?戦闘に美しさを求めてどうするって言うんだ?相手を倒すことが最優先のはずだろ?」
魔理沙は、静かに視線を落とした後、再びヴェルサスの方を向きなおした。
魔理沙「金髪は、こんな一般常識も分からないのか?」
「私たちみたいな人間と、あいつみたいな妖怪では、どうしても力の差があるだろ。腕っぷしとか体力とかな。それは、
今までに見せたことのない、霊夢のような鋭い表情を見せる。
魔理沙「よく聞いておけ、金髪。あと牛柄。」
「弾幕勝負の目的は、殺し合いとか、本気の戦いをやるためじゃない。物事を決めるときとか、ケンカの代わりにやってる。だから、スペルカードは、どんなに無茶苦茶に見えても、確実に避けられるようになってるんだよ。無傷でな。」
ヴェルサス「....一種の競技みたいなものか。」
リキエル「決闘でも、戦争でも、喧嘩でもない。だが、それに極限まで近い。」
魔理沙「ま、そんなのが日常的に行われてるのが、ここの良さの1つでもあるんだがな。」
弾幕勝負を誰よりも楽しむ、魔理沙だからこそ言えている発言だった。
それがこの世界の絶対的な理であって、中心となるもの。種族や年齢が違っていようが、公正な果し合いであること。
2人は、体に刺青を入れる代わりに、脳に刻みつけておこうと思っていた。
霊夢がチラ、とこちらを見た。
霊夢「あんた達、私はこいつをすぐ退治して追いつくから、先に向かってなさい。」
仲間を先へ行かせるための声掛けだった。
魔理沙「そうだな。お前の戦いのためにも、ここを離れよう。」
箒を自身の元に呼び寄せ、飛び乗り、浮かんだ。
リキエルとヴェルサスは、果し合いを行う霊夢に、エールを送っておいた。
リキエル「ボロ負けでこっちに来れない、なんて事無いようにしろよ!」
ヴェルサス「なるべく早く来い。味方は1人でも多い方が良いからな。」
霊夢は2人の方を向き、真っ直ぐに見つめる。見つけた頃には既に走り始めていて、木々の中に消えていった。
霊夢「あいつら....。」
何も返す必要はなかった。
ただ、仲間の前進を願っておく必要があった。
すぐに目の前の相手を向き直す。陽の光はもちろん、風も、虫の動きすら感じない。自分と妖怪だけの、絶対的な閉鎖空間が、どこまでも広がっているように感じた。
「「さあ、始めましょう。」」
両者の意思が合致したことで、戦いの火蓋は切って落とされた。
次回、霊夢とルーミアの戦闘です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!