我愛羅成り代わりによる四代目風影救済RTA   作:とんでん

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『アナタは愛されてなどいなかった。』

 そう、今際のあの人は言った。
 成り代わりを自覚してから思えば、あの言葉は大嘘もいいところだったわけで、既に大した傷痕ではない。予定調和かつ、順当な台詞だった。それだけである。
 代わりに胸の奥深くを占めたのは、鋭く抉るような冷えた疑念であった。
 手づから育てた姉の末子に、全身の骨を砕かれ、ぐんにゃり弛緩した四肢をその眼前に投げ出して。死にゆく虚ろな面で滔々と任務を全うした彼は────彼自身は、果たして我愛羅を愛してくれていたのだろうか、と。


成り代わり、取引する。

 

「────砂縛柩!」

 

 前回の引きで戦闘が始まると思った方へ。すまん、秒で終わった。

 

 

 思い出して欲しいのだが、我愛羅は一部の中ボスである。つまり(インフレ前は)わりと強かった。

 更に風影になれる程度のポテンシャル・ステータスに加え、ついでにここは砂漠。地の利のアドバンテージがあるのだから、早々敗走することはない。

 具体的に言うと、実力が砂隠れの暗部程度なら確実に勝てる。今のところ六回ほど退けているし。(実体験)

 

「それで、」

「っひ!」

「・・・・・・どうして、音の忍に襲われていた?」

 

 暗部以下だったらしい、凄まじい絶叫と共に大自然の染みとなっていく男を背に、襲われていた少女を振り返る────と、普通に悲鳴を上げられた。

 うん、もう慣れたぞこの感じ。懐かしい、数年前のテマリとカンクロウを思い出す。

 

「見たところ、俺と同じ下忍だろう。」

「あ、えっと・・・・・・。」

 

 取り敢えずオテを受け取ろうと手を伸ばすと、また少し肩が跳ねた。が、大人しくチャボを手渡してくれる。

 砂色のフカフカの身体を抱き上げ、また瓢箪の上に置いた。のだが、何が不満なのか強めに耳朶に噛みつかれる。

 鳥類を飼って初めて知ったのだが、嘴はかなり痛いのだ。胸元を後ろ手に撫でて宥めたが、今度はソッチの手を突かれた。オテは脅威と判断されないのかオート防御も反応しないため、我愛羅はされっぱなしである。

 

「近くにチームメイトはいないのか?下忍は大概班を組まされる筈だが。」

「いやあのそれより、凄く突っつかれてるけど・・・・・・。」

「そうだな。」

「そうだなって。」

「実はとても痛い。」

「だよねえ!」

 

 ドスドス首の裏を刺されながら真顔で言うと、なんだか先程と違う意味で慄かれた。

 閑話休題。

 

「────わたし、実は。」

 

 躊躇いがちに口を開きかけた少女は、再び噤み、惑ったように庇っていた肩口を握りしめた。

 もしや機密任務でも請け負っているのかと思ったが、そんなハイランクが回って来るような実力には見えない。とはいえ、怯えている子どもに無理に先を促すのも気が引けた────その上に。

 

(どこかで会ったことがある、か?)

 

 少なくとも、見覚えはある。と思う。

 少女の面差しに脳裏を擽られた我愛羅は内心首を捻った。自分で言うのもなんだが、そこまで広い交友関係は持っておらぬ。故にすぐに思い出せる筈なのだが、なかなか正解に辿り着けなかった。

 

 それぞれ黙した互いの間に、気まずい沈黙が落ちる。

 

「・・・・・・兎も角、ここを離れるぞ。」

 

 音忍の仲間がいるかもしれない。

 付け足した言葉にゆっくりと肯った少女にホッとしつつ、我愛羅はその場から踵を返した。否、返そうとした(・・・・・・)

 

「ッ!?伏せろ!」

 

 鼓膜が微細な投擲音を感じ取る。と同時に自動防御が展開した。

 続いてクナイが盾に当たる金属音、そして火薬の爆ぜる音───起爆札だ。別に二三十枚同時に食らったって持ちこたえられるが、動きを封じられることに代わりない。(先程からピカチュウポジションで我愛羅を突きまわしていたオテが「だから言ったじゃん!!!」とでも言いたげに襟足を引っ張って来た。返す言葉もない。)

 

(なぜ感知を切った、俺の馬鹿野郎ッ!)

 

 倒したと思って安心したからです。あたしってホント馬鹿。

 舌打ちしつつ地面にチャクラを叩き込んだ。イメージは君麻呂のなんちゃらの舞だ。肝心の技名覚えてないんかいっていうのはナシで。舞系のネーミング多すぎんのよ、ジャンプ界隈。

 

「ぐぁあああッ!?」

「さっきの輩の増援か。」

 

 縦横無尽に生えた砂の剣山に、我愛羅達を囲もうとしていた音忍が突き刺さる。

 砂塵を操作し、貫いた音忍達を接触感知で捉えた人だかりに放り投げた。死体に殴られた生者が鈍い音をたてて気絶する・・・・・・そこそこの数は減らせたか。

 

「オウオウ、酷いことするなぁ。」

「忍なものでな。」

 

 ニヤつく音忍集団───既に半数が戦闘不能だが、小隊一つ分ほどか───の頭と思しき男に素っ気なく返す。

 

「どうだかな。その砂と額の“愛”の字、手前“砂瀑の我愛羅”だろ。」

「・・・・・・。」

「流石、バケモノ様はすることが違えな。」

 

 うん、もう慣れたぞこの感じ。(二回目)

 いやー実績しかない悪評が立つとてえへんだなー!

 

「砂漠の、我愛羅?」

 

 ふと、戸惑いがちな声が上がった。

 背に庇っていた少女から困惑の視線を向けられ、砂の影で印を組んでいた我愛羅は(オテは嫌がったが下に降ろした)キョトンと瞬きをする。てっきりそれで脅えられたのだとばかり思っていたが、違うらしかった。

 

「砂忍と言っても、辺境のお姫様なら知らねえか。なら教えてやるよ────手前が今庇われてる相手、はッ!?」

「風刃の術。」

 

 それを見た音忍が悠々と話し出したが、わざわざ最後まで語らせてやる謂れもない。

 風の刃で喉笛を切り裂かれた音忍が鮮血をまき散らしながら体を傾がせるのに合わせ、我愛羅もその場から飛び出した。

 獣のように低く地面を疾駆し、振り下ろされる忍刀の中に躊躇なく突っ込む。

 

「なッ!防御?」

「風遁・風切り羽!」

 

 無防備な背へと真っ直ぐに切りかかった忍は、自在に蠢く砂に忍具を絡めとられ瞠目した。

 その隙に下から腕を振り上げ、纏わせた風でそっ首を薙ぐ───我愛羅と言えば砂の術であろう。寧ろそれ以外使ってるところあんま見たことないが、実は父親由来の磁遁も使える。そして、磁遁とは風遁と土遁の混合による血継限界だ。

 きょうだいの中ではテマリが一番得意としているが、別に我愛羅だって使えないわけではない。

 

「ど、土遁・土波ッ!」

 

 突如弾力を持った大地がぐわりと揺れたが、残念ここは砂漠である。

 宙に浮かせた砂粒の上を走り回避しつつ、瓢箪から出した砂───一番多くチャクラを練りこんである砂を手の中で圧縮した。

 

「グッ!ど、どうやって空中を、」

「遺言がそれで良いのか?」

 

 砂製の刀で音忍の最後の一人へ斬りかかった我愛羅は、咄嗟にクナイで受け止めた相手と鍔迫り合いをしながら、クイと指先を動かす。

 ハッとした音忍が背後を振り返るが、もう遅い────砂上は全て我愛羅の攻撃範囲内なのだ。

 

「────砂縛柩。」

「う、ぎゃああああああッ!!!!」

 

 ごり、ごり、ごうり。と人体が摺り潰されていく。

 とっくに慣れ親しんだ光景だが、我愛羅は目を伏せた。数十秒もせず足元から砂に飲み込まれた音忍は、僅かな血痕のみを残して、此の世から消えていった。

 

******

 

 少女は震えていた。

 敵へではない、命の恩人である少年────我愛羅というらしい忍にである。

 

(あんなに、人を簡単に・・・・・・。)

 

 返り血の一滴も浴びずに、あっという間に十数名を屠る人間に、少女は今まで見えたことがなかった。己とて忍の家系である。自身もその資格を得ているし、生き様のなんたるかを知らぬほど青くはない。

 だが、だからこそ分かってしまった。彼は異質だ。さながらバケモノのように。

 

「あの、何をしているの?」

「不可解でな・・・・・・タイミング的には、潜伏していてもおかしくはないが。」

 

 形の残った方の屍を検分をする少年に思い切って尋ねると、存外普通に返事が返って来た。

 後半は返答というよりも独り言のようであったが、察するに少女が無知なだけで、彼は相当名の通った忍であるらしい。

 他国の忍者衆である音忍が熟知していたようだから、さもありなんである。

 

「私も手伝う。」

「いや別に、」

「医療忍者なの、検死もしたことがある。ホントだよ。」

 

 少女の生家は、優秀な医療忍者をよく輩出していた。長子として生を受けた少女も、当然その知識を叩き込まれていた。

 

「それに、すぐ近くに連中のアジトがあるから。検死をするなら手早くして、離れてしまった方が良いし・・・・・・。」

 

 言いながら、はたと足を止める。

 殺戮の間、少女はずっとそれを後方で見ていた。だから誰がどこに倒れ伏したかも記憶している。

 

「ねえ、その人そんなところに居たっけ?」

 

 不自然な格好で地面に崩れ落ちている忍を指差すと、少年がそちらを振り返った────その時、

 

忍法・毒々煙霧!

 

 ぐるんと死体の首が前を向いた。折れ曲がった四肢をバネ代わりに地に叩きつけ、飛び上がった音忍が少年へと迫る。

 モクモクと紫の煙がその口から吹きだしたが、砂の防御で難なく防いだ少年が後方へ飛びずさった・・・・・・そして、ガクンと砂に膝をつく。

 

「苦しいか?苦しいだろ!?大蛇丸様特製の毒煙さァ!」

「・・・・・・チィッ!」

 

 死体の唇からドロドロと泡が溢れ、見る見るうちに爛れ溶けていった。

 少し吸ってしまったのだろうか、不自然に呼吸を荒れさせる少年が悔し気に舌打ちする。それを他所に、一番最初に少年に気絶させられていた音忍は、フラフラとその場に立ちながら死体を操っていたチャクラ糸を切り離した・・・・・・仲間の屍を傀儡に使ったのだ。分かってはいたが、酷く悍ましい。

 

「・・・・・・ホントーに手古摺らせやがって、小娘もクソガキもよ。」

「ッ!」

「知ってるか?俺たち音忍が任務に失敗したらどうなるか。」

 

 応えられずにいると、そもそも答えなど求めていなかったのだろう。歪に笑んだ音忍が着こんでいたベストを引きちぎった。

 その下、胴から胸にかけてびっちりと貼られている起爆札に、少女は目を見開く。

 

「このッ!」

 

 少年に駆け寄りながら、手近にあったクナイを拾い上げ音忍へ投擲した。当たったかどうかは分からなかったが、どうだっていい。

 音忍が起爆の印を組むのと殆ど同時に少年の頭を抱き込んで、地に伏せた。砂が隆起し視界が暗くなって、次の瞬間に火薬の炸裂する巨大な音が一帯へ響き渡る。

 

(マズイ、脳震盪・・・・・・!)

 

 が、凄まじい衝撃波に頭蓋を揺さぶられた少女は、そのままどっぷりと暗闇へ落ちて行くことになった。

 意識を失う寸前、何言か呟く少年の声が聞こえた気がしたが、果たして何と言っていたのか。酩酊する脳では、終ぞ分からぬままだった。

 

 

******

 

「────流砂瀑流。」

 

 断続的に続く爆発音から、地上は危険が多いと断じた。

 周辺の砂を渦を描くように動かしながら、屍や忍具たちごと、共に下へ下へと落ちていく。腕の少女とチャボが潰されないよう、酸素を失わぬよう、周りの砂を殻のように固めて。

 

(確か、この辺りに。)

 

 地の底を砂で探りながら、目当ての場所を探す。

 やがて先程感知で見つけたソレに再び触れることができた我愛羅は、消耗と毒によって点滅する意識をどうにか繋ぎ止めながら、その場所へと手を伸ばした────。

 

******

 

 ────ぴちょん

 

「よぅ。」

「・・・・・・守鶴。」

 

 雫の音と共に、ここ数年通い詰めた精神空間に呼び出された我愛羅は瞬きをした。丸っこい巨体を屈めた守鶴は、自分の頭の上で呆ける我愛羅に、フスンと鼻腔を鳴らす。

 

「えらい派手にやられたじゃねえか!あんくらいお前ならすぐ片付いただろ。わざわざ風遁でチャクラを温存(・・・・・・・)したりして、ナニをそんな気にしてたンだ?」

 

 最近は会話もそれなりにスムーズに進むので、守鶴の方から話しかけられることも多々あった。が、身体的な接触(まあ精神体なのだが)は初めてだ。

 単なる好奇心で守鶴の体表を撫でる。意外と柔らかい。

 

「俺が音忍を手にかけたという証拠を残したくなくてな。証拠隠滅をするために、元から大技で一帯を飲み込んでしまうつもりだった。」

 

 風影の暗殺阻止を計画している以上、現時点から音忍を殺めた犯人として大蛇丸に目を付けられるのは避けたかった。

 勿論自分ごと流砂に巻き込むつもりはなかったが、まあ結果オーライである。

 

「ハンッ、それでやられてちゃ世話ねえだろうよ。」

「面目ないな。」

「なら面目なさげにしろっつーの!」

 

 たくよぉ、とボヤいた守鶴を他所に。ふと違和感を感じた我愛羅は手を何度か握って、感覚を確かめる。

 

「何だよ、今度はどうしたよ。」

「否、かなり消耗していたにしては、回復が早いなと・・・・・・あ。」

 

 てんてんてん。と沈黙が落ちた。

 暫く無言で震えていた守鶴に「ああ、それで接触の必要が。」と納得すると、ギャオオンと吠えられる。

 

「ば、ちがッ!!!勘違いすんなよオレ様のチャクラを分けてやったくらいでよッ!こんなん分福にもやってたしィ!?オレ様のチャクラ量からしたら雀の涙もいいとこだしいィ!!!?」

「照れ方独特だな。否、良い友人を持って嬉しい。感謝する。」

「だから友達なんかじゃ、ねえっつーーーのッ!!!!」

 

 折角距離が縮まったと思ったのに、また追い出された。悲しい。 

 

 

 

 ゆるりと瞼を上げる・・・・・・守鶴の空間に居た時間、もとい、気絶していた時間は短かったようだ。

 背に当たる堅い岩の感触と、頬に触れる微細な空気の流れから、きちんと思った通りの場所────砂漠の地下深くに広がる、枯渇した地下水脈へ出られたことを察して溜息をつく。

 接触感知でたまたま見つけただけだったが、これのお陰で助かった。

 

「ああ、気が付いたのね。」

「・・・・・・ッ、」

「どうしたの?」

「・・・・・・いや。」

 

 夜叉丸、と呼びそうになった口を慌てて噤んだ。

 我愛羅を覗き込んでいた少女は不思議そうに首を傾げる。視線を合わせたくなくて、我愛羅は気絶していた己にぴたりと身を寄せていたオテに手を伸ばした。

 

 そうして、そうか、と独り言ちる。少女に会ったことがあるわけではない。ただ、似ている人物を知っていただけだったのだ────彼女の容貌は、驚くほど叔父の夜叉丸に似ていた。血縁が疑われるほどに。

 

「私、ホウキ族のシジマって言うの。助けてくれてありがとう・・・・・・我愛羅くん、でいい?」

「構わない。」

「毒の影響は平気?熱があったりとかは。」

「少し痺れるが、大事ない。」

「そっか、良かったわ。」

 

 口内が乾く。舌の根が重い。

 奇妙な緊張感に支配されながら、ホウキ、と反芻した。

 

「知らなくても無理ないわ。火の国との国境沿いにある辺境集落の、なんていうか、まとめ役をしてる一族だから。」

「いや、こちらが浅学だった。悪い。」

「いいの。私も君のことを知らないから。」

 

 起き上がって、壁に背をつける。

 少女ことシジマもそれに倣って、我愛羅の隣に座った。二人の間にちょこんと座して主人の指先を甘噛みしているオテだけが、恨めしいほどリラックスしている。

 

「耳に入れるのも悍ましいような悪評だ。知らなくていい。」

「我愛羅くん悪い人なの?」

「とても。」

「・・・・・・きっと違うわ。悪い人なら何も聞かずに、私を助けないでしょ。」

 

 キッパリと断定するような口調だった。おそらくそう思いたいだけだ、と我愛羅は思考を巡らせる。

 彼女は大蛇丸の手の者に追われていた。何かしらの関係はあると見ていい。そんな中、もし助けてくれる人物がいたとして────その人が善人であれば、きっととても安堵する。

 

(心が痛い・・・・・・。)

 

 が、生憎と我愛羅はそれには当てはまらぬ。

 なにせ“本物の我愛羅”と違って、己が良ければそれで良いのだから。

 

「問い詰めはした筈だが。」

「でも私は何も答えなかった。なら聞いていないのと同じじゃない?」

「・・・・・・助けるという話なら、お互い様だろうに。」

「そうかもね。でも私が何もしなくたって結果は変わらなかったでしょ、違う?」

 

 違わなかった。

 渋面になった我愛羅に、してやったりの顔になったシジマが、なぜだか得意げに胸を反らす。

 

「本当にありがとう。嬉しかったの、誰かに助けてもらえるなんて思ってもいなかったから。」

「・・・・・・。」

「勿論ちょっと怖かったけどね、年あんまり変わらないのに強すぎるし、音忍を壊滅させちゃうし。」

 

 ああスッキリした。言い切った、と笑う横顔が在りし日の夜叉丸そのもので、我愛羅は「そういえばアニメスタッフは夜叉丸役に女性声優起用しようとしてたらしいなー。原作者が男だよ!?って言わなかったら多分女ってことになってたよなー。」と現実逃避した。

 因みにだが、岸影様的には名前に丸ってついてるのは男らしい。未来で性別不詳になっている大蛇丸もつまりはそういうことである。なお俺はNARUTOは単行本派だった+CVく●らという偏った情報だけで長いこと女だと思ってました。何の告白?

 

 閑話休題。

 

「あのね、我愛羅くん。」

「ああ。」

「私ね、実はね────」

 

 ふと笑みを潜め、シジマが語りだす。というか語りだそうとしたその時。

 クウ、と折悪しく良い音が鳴った。我愛羅の腹の虫であった。一瞬の沈黙の後、シジマが小さく吹きだす。我愛羅は無言で顔を覆った。

 思えば早朝から何も口にしていない上、チャクラを大量に消費した。空腹になるのは当然の摂理である。

 

「水場を探してこようか、食べ物も見つかるかも。」

「いや、いい。」

「我慢しなくていいのに。」

「・・・・・・携帯食ならあるから、本当にいい。」

 

 夜叉丸の顔で優しくされるのが本気でいたたまれず、我愛羅は少し乱暴な手つきでウエストポーチを探った。

 備品が入っている巻物を取り出し、“水”と“食”の項目にチャクラを込める。ポン、と良い音をたてて現れた食料に、シジマが興味深そうに身を乗り出した。

 

「これ何?コンビーフ?」

「味はそれに近い。」

「へえ、ホウキの集落だとあんまり見ないな。」

 

 缶詰の肉(テマリに「賞味期限近いからどっかで食べちゃっといて!」と渡されたものである)、乾パン、それから紅茶や小さめのカセットコンロ等々を黙々と広げる。

 途中で「ん、」と鉄製のマグカップを手渡すと「いいの?」と驚かれた。

 

「というか、一人で食べるのは気まずい。」

「それもそうか。ご相伴になります・・・・・・中央の忍っていつもこう?」

「いつも、とは。」

「私たちは兵糧丸とかで済ませちゃうことが多いの。だからきちんとした食事が出て来るとは思わなくって。」

「常にではないが・・・・・・そういえば国境線の生まれと言うことは、砂漠には詳しくないのか。」

 

 火の国の近くということは、緑の方が多い地域である。

 里の中枢とは物理的にも政治的にも離れていた────我愛羅の噂を知らぬのも頷ける。

 

 案の定返って来た肯定の意に、我愛羅はポツポツと理由を説明した。

 自分も里をそう遠く離れたことはないから、カンクロウからの又聞きだったが(なんならこの食料セットもカンクロウの助言で揃えたのだが)────要は体温を上げるためである。

 

「体温?」

「ああ。夜の砂漠は急速に体温と糖分を失う。丸薬では補給が追い付かぬから、こうして対処するそうだ。」

「・・・・・・そっか、もう日が落ちる頃合いよね。」

 

 我愛羅は敢えて応えず、水筒の水を注いだヤカンを火にかけた────思えば長い一日だった。

 

 その後、しばらくは静かな時間が続いた。乾パンを一つ個包装の上から割り、粉にした物を掌に出してオテに与える。

 チャボがそれを食べきってしまうと、袋に水を注いで飲ませた。腹が減っていたのだろう、食いつきが良い。背を少し撫でて、シュウシュウと鳴り出したヤカンをコンロから下ろす。

 ミントと茶葉を入れ、それから少し躊躇する程大量の角砂糖を放り込んで蒸らした。

 

「・・・・・・あの、甘い物、好きなの?」

「人並みには。甘すぎる物は苦手だ。」

「それにしては物凄い数入ってたけど・・・・・・。」

「こういうものらしい、兄曰く。」

「ねえそれ騙されてない???」

 

 意外とお調子者のきらいがあるので否めなかった我愛羅は、口をへの字にした。

 茶を若干慄いているシジマと己とで半分に分け、携帯カップに注ぐ。フウフウと息を吹きかけ、唇を付けたシジマは甘い・・・・・・と呟いた。だろうな。

 

「肉は塩辛いぞ。保存食だからな。」

「バランス悪いなあ・・・・・・ごめんね、文句ではないのよ。さっきから本当に何から何までありがとう。私何のお礼もできないのに、後で必ず埋め合わせをさせてね。」

「気にしないでいい。乾パンいるか?」

「だいじょ・・・・・・分かったよ、貰います。」

 

 満腹して眠くなったのか、オテが自分の翼に嘴を突っ込んでウトウトし始めた。暢気なものである。

 

「・・・・・・それで。聞かなくっていいの、我愛羅くん。」

「良くはないな。が、大方の推測はできている。」

「そう。」

 

 ひと心地着いた頃、ぽつんと言ったシジマに、我愛羅は肉の乗った乾パンを口に放り込んだ。喉を焼くほどに塩辛かった。

 

「大蛇丸、と音忍は言っていた。俺の見当が外れていなければ、木ノ葉の伝説の三忍の一翼だろう。音隠れも良い噂は聞かんし、繋がっていたとしても驚きはしないな。」

「そうね。大蛇丸と言えば、S級犯罪者の最悪の抜け忍だもの・・・・・・人体実験にも手を染めてる、ね。」

 

 溜息をついたシジマは、静かな語り口をようやっと開いた。

 

「────ホウキ一族は他国に隣接する国境線を任されている。けど、元々は火の国の領土で、ホウキも木ノ葉に属していたの。それが、先の大戦で砂隠れの民になった。」

 

 だから里にはあんまり信用されてないのだ、とシジマは言った。成程、と筋書きの見えて来た我愛羅は嘆息を嚙み殺す。

 大蛇丸と言う男は、なぜこうも他人の弱みに付け込むのが上手いのか。

 

「加えてホウキは医療忍者ばかりで、戦闘力はそこまで高い一族じゃない。国境は何かと不穏だけれど、私たちには正直、捨て身にならない限りは荷が重くて。だから・・・・・・」

「大蛇丸に協力する形で戦力の増強をはかったということか。」

「そう。風影様に対する、立派な背信行為というわけ。」

 

 遠回しに己の一族を捨て駒と評し、暗い表情をするシジマに我愛羅は黙するしかなかった。

 ていうか大蛇丸云々はもうやっちまってるとしか言い他ないが、その風影様本人が一年以内に大蛇丸の手を取って木ノ葉襲うんだよな・・・・・・アレ?本当に生存させていいのかウチの親父?

 

「・・・・・・私が大蛇丸の実験体になることが、大蛇丸が提示してきた条件だったの。」

「そう、か。」

「一度は納得したよ。でも、逃げ出した・・・・・・とても怖いところだった。彼のアジトは。」

「そういえば、この近辺に大蛇丸一派の隠れ家があると言っていたな。」

 

 砂隠れのセキュリティガバガバ過ぎでは、と思ったけど砂隠れだしな・・・・・・。

 そして既に風影と大蛇丸が同盟を組んでいたら、黙認もしくは土地を貸していることもあり得る。

 

「うん。あの周辺にある大きな岩場の中を改造して、アジトに使ってるみたい。」

「・・・・・・岩場?」

「ええ。」

「・・・・・・一応聞くが、ジャイアントスナサソリが住めそうな規模の?」

「それどころか、大群がまるまる住めちゃうような大きな岩山だったわね。それがどうかした?」

 

『ジャイアントスナサソリってのは、全長十メートルにもなる馬鹿でかいサソリでさ。』

『岩場とかに単独で生息してて、本当なら群れつくって村を襲ったりしない筈なんだけど。』

 

 脳内にリフレインするテマリの声に、我愛羅はイヤナンデモと棒読みで返した。

 ────バケモノサソリの群れが生息できる規模の岩山がある。そして、彼らを追い出した其処に、大蛇丸率いる音忍たちが拠点を作る。

 

(で、住処を追われたサソリを、俺たちが討伐したと。)

 

 元凶大蛇丸だったんかい!

 至極どうでもいいような良くないような新事実が発覚してしまった我愛羅は、「まあ逃げたっていうか、普通に追手に捕まっちゃったんだけどね。」と続けるシジマに、無理やり脳味噌を本題へ切り替えた。

 

「そこに通りがかったのが俺だった、というわけか。」

「そういうこと・・・・・・一族はきっと失望してるでしょうね。」

 

 まんじりと今聞いた話を熟考した我愛羅は、俺に話して良かったのか、と聞いた。シジマはきょとりと首を傾げ、逆に尋ね返してくる。

 

「どうして?」

「正直に全てを話す必要はなかっただろう。シジマは適当に誤魔化して、場を濁すべきだった。」

「我愛羅くん、私に騙されるの?」

「・・・・・・看破したろうな。だが、」

「いいんだよ。」

 

 いいの、と言ったシジマに閉口した。他里の、しかも抜け忍と一族ぐるみで接触していたことが露呈すれば、ただでは済まない。

 勿論道理は通すべきだが、我愛羅としては困った・・・・・・今後の計画的にも。

 

「音忍に追われてる以上、一族は私を受け入れないだろうし、里なんてもっとそう。私にはもう居場所がなくて、それが正しいことだと思う。そもそも大蛇丸と手を組むべきじゃなかったんだもの。全部風影様にお知らせするわ。」

「・・・・・・ホウキ一族の没落は免れんぞ。」

「そんなの今更だよ。」

「考え直せ。」

「我愛羅くんって変なの。どうして君が止めるの?」

 

 不審そうなシジマに、どう答えたものかとあぐねた我愛羅は「一つ、方法がある。」と言った。

 

「方法って、なんの?」

「ホウキ一族の名誉とシジマの居場所を守り、ついでに大蛇丸を砂隠れの里から追い出す方法だ。」

「・・・・・・そんなことできるわけない。」

 

 眉根を寄せ、憤慨の表情になったシジマだが、そこに僅かに迷いが混じっているのを見とめた我愛羅は、更に言葉を連ねた。

 

「できる。というか、する。」

「・・・・・・分からないな。我愛羅くんはどうしてそこまでするの?ホウキ一族を助けたって、なんにも出てこないわよ。」

「シジマの一族のためではない。俺自身の計画のためだ。その協力の見返りとして、ホウキも救われる術がある────それに、礼をしてくれるんじゃなかったのか?」

 

 敢えてシジマの目を真っ直ぐ見つめて言い切った。

 切なくなるほど愛した、大切な親代わりに生き写しの瞳が、惑ったように揺れ動く。

 

「さっきの、訂正するよ。我愛羅くんは悪い人じゃないかもしれないけど、意地が悪いな。」

「忍なものでな。」

「それを言えば良いと思ってるでしょ。いいよ、聞くだけ聞く・・・・・・どうせ私縛り首だもん。」

 

 不貞腐れた様子のシジマに、我愛羅はホウッと肩の力を抜き、計画の一端を口にした。

 風影救済への、第一の布石を。

 

 

******

 

 

 ────三日後、砂隠れの里にて。

 憔悴した姉に付き添っていたカンクロウは、里の入口から聞こえて来たざわめきにはたと顔を上げた。

 

「生きて帰って来たってよ。」「それどころかピンシャンしてるってさ。」「とっととくたばりゃいいのにな。」「つーかよく里に顔を出せたよな、あの恥さらし。」「どっかいってくれればいいのに、あんな化け物なんて。」・・・・・・

 

 そんな陰鬱な罵倒を投げかけられる存在は、砂隠れには一人しか───己の弟しかおらぬ。

 

「我愛羅!」

 

 と叫んだのは一体どちらだったか。

 駆けだしたカンクロウたちの存在に気付いた我愛羅は、すぐさま胸元に抱きかかえていたチャボを頭上に上げた。次の瞬間、姉と兄の本気の体当たりが胴体に直撃し、ウグッと呻き声をあげる。

 

「ごめん!あたしがワガママ言ったせいで!」

「別に砂嵐はテマリのせいじゃ、」

「馬鹿お前!どこほっつき歩いてたじゃん早く帰るじゃん!」

「・・・・・・ごめんなさい?」

 

 カンクロウたちの様子に呆気にとられていた我愛羅は、片や半泣きの、片や怒り心頭のきょうだい達に何ぞ思うことがあったのだろう。

 酷く小さな声で、

 

「ただいま。」

 

 と呟いた。

 カンクロウとテマリはなとなく顔を見合わせ、それからハァーッと脱力する。

 

「おかえりなさい、我愛羅。」

「ホント、おかえりじゃん。」

 

 返って来たセリフに末の弟は安堵したように微笑むと、もう一度同じ言葉を口の中で転がしたのだった。





 その夜。

「────守鶴、俺と取引をしよう。」

 そう切り出した人柱力に応えるように、ぴちょんと水滴の音が響き、水面に静かに波紋を広げていった。


******

一話7000字以下という縛りをこっそり設けていたんですが、三話で余裕で破りました。しかも本編どころか前書き・後書きにも侵食してます。噓やん?
これでも削ったんですが、戦闘シーンが入るとどうしても長くなりますね。あと我愛羅、君の戦闘スタイル動かないから描写し辛いね・・・・・・。
 
因みにホウキ一族のシジマちゃんさんですが、小説『我愛羅秘伝』に登場するキャラクターです。
つまりシジマちゃんさんが「顔が夜叉丸に似ている」のも「元大蛇丸の実験体(この話では未遂)」なのも公式設定です。(ホウキ一族の医療忍者が優秀なのも公式ですが、シジマちゃんさんはゴッリゴリの武闘派なので医療知識があるというのは捏造です。)
我愛羅がうちはだったら即座に脳が焼き切れる設定ですよね。なおシジマちゃんさんは我愛羅曰く「冴え冴えとした月のような美人(要約)」だそうです。この一行でとんでんは我シジとかいう狭き門を開きました。本当になんで?
更に因みにですが。小説ではそれ以外にもイチャイチャシリーズを読んだり、テマリの惚気話に付き合ったり、カンクロウに酒を飲まされたり、お見合いしたり(これがメイン)するとっても面白い我愛羅が見られます。なんならテマリのくっ殺とかもあります。気になった方は是非に。

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