突然だが、CVが石●彰(敬称略)になった。
否、我愛羅に成り代わった時から声帯は約束されし石田●ボイスである。がこの度無事に十三の年を迎え、その折にちょっと早めの変声期を終えたことで、どう足掻いても完璧にうさんくさい●田彰ボイスへと変貌を遂げた。こうなると前世でオタクを拗らせて(拗らせすぎたせいか)転生までしている輩はハチャメチャに落ち着かない。
なんせ、「我愛羅今日の夕飯何がいいー?」という問いに「カレー。」と答えても、親の声より聞いた石●彰ボイスが出て来るのだ。親の声をもっと聞けというツッコミはなしである。一先ずとてもソワソワすることだけが伝わればよい。
尚、困ったことは他にもあって、いったん意識がそちらへ引っ張られると「カレーはこないだ食べたでしょ!他のにして!」なる姉の苦言はまんま朴●美(敬称略)に聞こえるし、「いいじゃん、カレー美味いじゃん。」と混ぜ返す兄の声はふぁてごのあの人に聞こえてしまう。こうなるともう駄目だ。
我愛羅に成り代わった男はオタク故に備わってしまったリスニング能力を呪った。
(────木ノ葉に滞在する間、大丈夫か俺。)
あっちのくノ一に推し声優いるんだが、集中力持つだろうか。
風影室にて。中忍試験のエントリーシートを手にはしゃぐきょうだい達を他所に、我愛羅は死んだ目で父を凝視した。もうすぐ大蛇丸に殺される予定の男は、我が子を前にしているとは思えぬ冷え冷えとした眼差しを返すだけだった。
******
我愛羅が十三歳になると起こるイベントといえば、中忍試験編────もとい、木ノ葉崩し(未遂)である。
NARUTOという漫画の前半戦、通称少年編の山場の一つだ。これを終えると綱手捜索編から続くサスケ奪還編が始まり、第一部終幕となる。
ぶっちゃけ我愛羅の人生的には第二部が始まった後の方が大変なのだが、守鶴を暴走させる予定がある分今回の中忍試験の方が気が重かった。
(・・・・・・夜叉丸。)
勿論、単純にトラウマという意味で。
まあ別に夜叉丸は暴走に巻き込まれて死んだわけじゃないんだけどさ・・・・・・その後に守鶴がヒャッハーしてたから、嫌な記憶として紐づいているんだよな・・・・・・。
「我愛羅、妙にテンション低いじゃん。嬉しくねえのか?昇進だぜ。」
「試験を受けたところで、中忍になれると決まったわけじゃないだろう。」
「そんなこと言って、俺たちの実力ならもう中忍になったも同然じゃんよ。」
風影塔近くにある、風忍待機所にて。
フンと鼻を鳴らすカンクロウに、仏頂面のまま我愛羅は視線を逸らした。
作戦実行の要である筈の我愛羅たちには、まだ木ノ葉崩し計画は知らされていない。現時点では、風影に直々の推薦を受けただけだ。
「油断禁物、捕らぬ狸のなんとやらだ。」
「我愛羅は本当に慎重だね。アタシらは下忍の中じゃ頭一つ抜けてるし、そんじょそこらの奴には負けないだろ。」
故に、こうやって嬉しそうにしている姉弟たちを見るのが、かなり辛い。
(おまけに、そろそろ親父殿が暗殺される頃合いなんだよな。)
我愛羅(成り代わり)的には最も大事なポイントだ。布石も作戦も入念にたててあるが、緻密な作戦ほど失敗のリスクが付きまとう・・・・・・ついでに、ここで暗殺を阻止できず親父こと四代目風影がくたばると五代目のお鉢が我愛羅の元へと回ってきてしまうから、割とマジで失敗は許されなかった。
砂隠れの里の上層部は基本“強い輩は祀り上げる”方針で、残念ながら我愛羅はとても強いのだ。少年編中ボスの称号は伊達ではない。二部が始まればインフレに置いてかれるけど。
「もー!なんでそんな渋い顔するんだよ、もっと喜びな!」
「そうじゃん。俺たちまで暗くなんじゃん。」
「ホラ、ニコッってしてみな我愛羅!ニコッ」
山積みの問題にゲンナリしているのが顔に出ていたのだろう。暗い!と苦言を呈された我愛羅は、テマリに云われるがまま口角を上げた。
「全然楽しそうじゃない、やり直し。」
CV朴●美の厳しい駄目だしが入った。
「・・・・・・そもそもどうやって笑えばいいかが分からない。笑うとは。」
「お前の人生乾燥し過ぎじゃねえか?」
「そういやアンタが笑ってるとこ見たことないね。ていうか笑ったことあるの?人生で。」
「一度くらいはあるだろう、流石に。」
「具体的にいつじゃんよ。」
「・・・・・・待て、思い出す。」
「それはもうないじゃん。」
兄に哀れなヤツを見る目で見られた。実際哀れな方な人生を送っている我愛羅は、何も言えずに足下にいたペットのチャボ(オテの方)を抱きあげ、頬ずりした。
ふかふかの温かいお腹から、砂埃と太陽の混じった香りがする。丸々太ったその腹部に、いつか守鶴の腹も撫でてみたいなと思った。あれは絶対触り心地が良い筈だ。フォルムがそう物語っている。決めた、友達になったら初めに抱きつかせてもらおう。
閑話休題。
「────我愛羅、ここに居たか。」
「バキ隊長。」
「風影様がお呼びだ。」
風のように音もなく現れた寡黙な上忍師に、我愛羅は撫でていたオテを降ろした。途端、自分の番!と言わんばかりに膝に飛び乗って来たオスワリを抱き上げ、カンクロウへ渡す。そのまま不満そうなチャボの視線から逃れるよう、椅子から立ち上がった。
「我愛羅だけ呼び出して何の用だ?話ならさっき済ませりゃ良かったろ。」
「風影様の御意思だ。口出しは忍である以上できない、例え実子であってもな。」
不審そうな部下を言外に窘めたバキに、テマリは今すぐ風遁の大技を使いたいです、という顔をした。
娘にここまで警戒される親父へ、我愛羅は若干の憐憫を抱いた。テマリの天秤が弟に傾いている以上父の扱いが雑になるのは致し方ない。が、それにしてもちょっと可哀想。
「良く来たな、我愛羅。」
「・・・・・・。」
心配する姉兄たちを背に、先程まで居た風影室へ赴き、戸を叩く。少しして返って来た入室の指示に従い戸を開けると、厳めしい様子の父がついせんのまま、そこに居た。
「何故自分がここに呼び出されたのか、分かるか。」
「いいや。バキ隊長からは要件とだけしか聞いていない。」
そうか、と言った風影は執務椅子から立つと、「少し歩く、来い。」と我愛羅を促した。
少々逡巡したが、大人しく後について戸口から外へ出る。別に父親に呼び出しを受けるのは初めてではなかった。任務で良い結果を治めれば直接労いの言葉を頂くこともある。が、その程度のことならテマリたちの前で済ませば良い。
(こんにちは死ねでなかったのは僥倖だが、意図が全く読めない。)
塔の横に備え付けられた階段を上り、屋上へ────砂隠れの里を一望できる高台へと上がった我愛羅は、その後何を言うでもない父に困惑しつつ、視線を彼方へと向けた。
そこには砂塵で霞がかった地平線、陽光を受け輝く金の砂地が荘厳に広がっている。険しくも美しい、我愛羅の故郷だ。
「我愛羅、お前はこの里をどう思う。」
「・・・・・・毒と細工物に優れ、他里とはその技術力で一線を画している。大国に属する里として申し分ない。」
「そういった話ではない。」
折角褒めたのににべもなかった。
「お前自身にとって、この里がどんな場所なのか・・・・・・本心でどう思っているのかを聞いているのだ。」と言う父に、我愛羅はお前がそれ言っちゃう?という気持ちで考えあぐねる。本音を晒しては角が立つ、しかし鋭い風影の眼光からは、容易に逃れられる気がしなかった。
「好ましい場所だったことは、一度もない。」
黙考の後、我愛羅は正直に応えることにした。
ほう、と低く呟く風影が怖いが、今は木ノ葉崩し計画の直前。このタイミングで主戦力になりうる我愛羅を手にかけはしないだろう。
「砂埃がしょっちゅう目に入るし、甘味が不味いし、この間なぞ砂嵐に巻き込まれて吹き飛ばされたし、暮らしにくいことこの上ない。」
「・・・・・・そういった話ではなく。」
「だが、俺はここで一生を終えるしかない。ならば好きも嫌いもない。」
我愛羅は人柱力だ。里の切り札だ。
生涯をこの地で暮らし、骨は砂中に弔われる。成り代わりに気がついた直後は、いっそ抜忍になってしまおうかと思ったこともあった。が、それをすれば地の果てまで追われることになる上、捕まれば間違いなく守鶴を抜かれて殺される。それが人柱力の生き方だ。
憂いても歎いても、その事実は変わらない。なら、己が適応するだけだ。と、我愛羅はそう思う。
(だからせめて里を暮らしやすい場所にしたいっていうか、一先ず風影だけはやりたくないっていうか。)
人前に立つのも話すのも苦手なんだよな。できれば人間の群れの中で浮きも沈みもせず、目立つことなく生涯を終えたい。上昇志向なんぞ糞食らえだ。
我愛羅はボンヤリそんなことを考えつつ、微妙な顔をしている父を仰いだ。
「父様、何故そのようなことを今更?」
「否・・・・・・以前、お前は砂嵐に巻き込まれて数日間行方不明になったことがあったろう。」
「ああ。」
と、我愛羅は思考を巡らせる。父の言う以前とは、おそらく駆除任務の後にテマリたちと逸れ、音忍と戦闘になって、地下へ逃げ込み、ホウキ一族のシジマというくノ一と交流した時のことだろう(前話参照)。
要は色々あったのだが、そのために少々帰宅に時間がかかり、テマリとカンクロウに滅茶苦茶に叱られたのだ。もう既に半年以上前の話だった。風影からは大した叱責も受けなかったため、失念しているのかと思っていたが、もしや今から処罰が下るのだろうか。
「お前はあの時、里に帰らぬという選択もできた筈だ。」
「・・・・・・?」
「何故砂隠れの里へ帰って来た、我愛羅。」
一瞬言われたことが分からずに、我愛羅は瞬きをした。
なんだ?帰ってきて欲しくなかったってか?流石に傷つくぞ。
「お前にこの里へ帰ってくる理由はなかっただろう。」
「俺は、」
口を開きかけた我愛羅は、かといって何を言えば良いのか分からず、閉口した。
『あーあー。見てらんねえな。』
と、見かねたのか何なのか。
最近機嫌のよい我愛羅のマブダチ(尚我愛羅が言っているだけ)が、呆れたような声をあげた。同時に我愛羅の意識が建物の屋上から、薄暗い精神空間へと引きずりこまれる。
「守鶴、」
「我愛羅、お前風影に試されてるんだよ。」
「試す?」
「お前もオレ様も、ここ数年は大人しくしてたからな。大方人柱力としての能力が安定してきたと思ってるんじゃねえか。」
「・・・・・・ああ成る程。力が安定した以上暴発という脅威はなくなったが、代わりに故意に力を振るう可能性が浮上したために、危険思想の有無を見極めていると。」
まあそれでいいや。
と、投げやりに守鶴が言った。礼を言って意識を現実へと引き戻し、黙したまま俯く息子を無言で見下ろしていた風影の目を、真正面から見つめる。
「俺がもし抜け忍になったら、そうしたら、もう夜叉丸の墓参りができなくなってしまう。」
「、」
「それは嫌だと思った。それだけだ。」
父が僅かに息を飲んだ。
彼の期待していた返答に近ければいいが、いったいどうだろうか。何も言わぬ風影へ軽く会釈をして、我愛羅はその場を辞した。
『墓参りってよ、お前そんな行ってねぇだろ。』
なお、守鶴にはそんなツッコミをいれられたが、珍しく我愛羅は黙殺した。
自分が殺した叔父の墓参りにそんな頻繁に行けないってば普通。
────こんな会話をしてより、暫く後。
父の気配が変わった。著しく、ではない。常日頃からその挙動仕草を注視し、観察していなければ分からぬような、些細な変化だ。しかしそんなことをしている忍など、幼少より命を狙われていた己くらいしかいないだろう。
(だとしても、上忍や暗部たちも気がつかないとはな。)
父から漂う醜悪な蛇を思わせる毒々しいチャクラへ目を伏せながら、我愛羅はA級任務────『木ノ葉崩し計画』の勅命を、粛々と受けたのだった。
******
木ノ葉隠れの里へは、忍の足で走って三日程かかる。
つまり遠い。
「あー、疲れたじゃん。」
いくら忍と言えど数日走りっぱなしというのは堪えるもんで、あうんの門をくぐった瞬間、カンクロウは不機嫌そうに腕を伸ばした。
「先に宿へ行こうか。部屋はとってあるんだよね、バキ。」
ああ、と肯う上忍師に予約した宿屋の名を聞いているテマリを他所に、我愛羅は瓢箪の上に乗っけたチャボ────オスワリの方を抱っこして、嘴の下を撫でる。
我愛羅は先日した守鶴との取引のお陰でチャクラにも体力にも余裕があったから、生憎そこまで疲労感はないのだ。
(二人が宿屋で休んでる間、一楽とか行ってみようかな。)
なんせ、NARUTOファンが転生したら行ってみたいところナンバーワンである(クソデカ主語)。
これから木ノ葉を訪ねる予定は、我愛羅の計算上少なくともあと二回はあるわけだが、ラーメン屋に寄れる余裕があるかは分からないので、できればこの機会に訪ねたい。
「そういえば我愛羅、結局そのペットは連れて来たのか。試験の役には立たないだろう。」
それを言ったら、任務の役に立ったこともそんなになかった。
一人口寄せ獣(鳥)と戯れている我愛羅を見て何を思ったか、ふとそんなことを言ったバキへ肩を竦める。
「それに、もう一羽はどうした。」
「オテは留守番だ。オスワリより弱いからな。」
「おいおい、大丈夫かよ。誰か世話してくれる人頼んだじゃん?」
「父様に預けた。」
「大丈夫かそれ?家帰った時に焼き鳥とかになってたらどうすんの、ねえ。」
散々な言われようだった。父様が殺そうとしているのは現状俺だけなので、ちょっとは信用してあげて欲しい。
「オテは俺より可愛がられているから平気だと思う。」
「根拠が最低じゃんよ。」
「あと話が変わるんだが、俺は先に里の散策をしたい。別行動の許可は貰えるか?」
バキに指示を仰ぐと、存外すんなりと許しが出た。ここ数年の品行方正が効いているようだ。
一人で大丈夫?と聞くテマリに「もう十三歳なんだが。」と口をへの字に曲げるなどしつつ、二手に分かれる。さてと、一楽ってどこにあるんだろう。
『おい我愛羅、オレ様を出せ。今すぐ戦わせろ。』
ぴちょん。
という雫の音が聞こえたのは、その時だった。興奮したような声音が我愛羅の内で響く。足を止めた我愛羅は、ザワリと己の意志に関係なく逆巻いた砂に息を飲んだ。危機察知能力の高いオスワリが、すたこら我愛羅の肩から逃亡する────守鶴がチャクラを荒立てているのだ。俗に云う暴走状態の前触れである。
(一方的に)友になったからと油断していた。一体何故いま、
『あいつ────九尾だ!』
守鶴との付き合いは長い。しかし思考を遮るように響いたその声音は、どんな時より楽し気で血に飢えていた。
「ぎゃあああああああ!」
おまけに、
思わずハッとして顔を上げる。心臓が早鐘のように打ち鳴らされていた。と、我愛羅が視線を上げるかあげないかの瞬間、すぐ横を絶叫を上げるオレンジ色のジャージを着た少年────金髪碧眼の、紛れもないこの世界の主人公(あとゴーグルをした子供たち)が、転がるように走り抜けていった。一拍遅れて彼らを追う桜色の髪をした少女を見送ってから、我愛羅は一心同体の大親友『違ェが!??』へ話しかけた。
「・・・・・・駄目だ。」
『ハァンッ!契約を反故にする気かよ!?』
「今は、駄目だ。まだその時じゃない。」
落ち着け、と舌の根で転がすように囁いた。歯向かいたそうに唸った守鶴は、それでも渋々といった様子でチャクラを練るのを辞める。
それにホッとした我愛羅は、近くの塀へ背中をつけた・・・・・・ここで尾獣姿になるのはナンセンスだ。我愛羅の思い描いている、我愛羅なりの中忍試験編の結末へ辿り着かなくなってしまう。
(・・・・・・というか、何でナルトたちはサクラに追いかけられてたんだ?)
追いかけっこか?仲いいな。
と先程の光景を思い出しながら、何か忘れているような嫌な予感がして、小首を傾げる。そういや我愛羅とナルトのファーストコンタクトってなんだっけ?
「────こら!この黒ブタ!!そいつを離さないとこのオレが許さないぞ!!」
はるか後方、先程カンクロウたちと別れたあたりから聞こえて来た怒声に、全てを理解した。
うちの兄貴がごめん。
******
我愛羅が「キレやすい若者怖い。」って言ってもブーメラン過ぎて最早ギャグなんだが、それはそれとして言わせて欲しい。
キレやすい若者怖い。
「カンクロウ、やめろ。」
言いつつ、入里早々ぶつかってきた下忍その他数名相手に喧嘩をおっぱじめるキレッキレの兄貴が止まるとは思えなかったので、足元の砂を動かして転ばせた。傀儡まで出そうとしていたのか、指先からチャクラ糸を伸ばしていたカンクロウがどんッと尻もちをつく。
「イッテェ!いきなり何するじゃん我愛羅!」
「お前こそ他所の里で何をしているんだ。」
でもコイツらが先につっかかって来たんだ!とカンクロウが目の前にいる・・・・・・というか元来た道を戻って来た我愛羅とカンクロウたちの間にいるナルトたちを指差す。要は意図せず挟み撃ちの状況にしてしまったわけだ。
ナルトたちもそれに気が付いたのか、速やかに臨戦態勢に入る。サスケなど木の上にいたのにわざわざ皆を庇うように我愛羅の前へ立った。悲しい。
歩を進める度にモーゼのなんたらのように距離を取られながら、我愛羅は兄の傍らへ足早に近寄る。
「そこの三人は見たところアカデミー生だろう。子ども相手にムキになってどうする。」
「けどよ・・・・・・。」
「黙れ。前方不注意は兎も角、わざとぶつかったわけではない子どもの胸倉を掴んで宙吊りにした挙句に殴ろうとしたろう、ちゃんと謝れ。」
「最初っから見てたんじゃねーか!」
ぐいぐいと頭巾に覆われた頭を押さえると、ケッとカンクロウがいじけた。いじけたいのはこっちの方である。
「我愛羅、観光はもういいの?」
「興が冷めた。宿へ向かうぞ。」
「チッ、仕方ねえな。」
「全く・・・・・・ああそうだ、そこの君たち、」
一連の騒動に我関せずを貫いていた姉へ応えつつ、さり気なく忍服の裾を左手で払う。あらかじめ姉弟全員で示し合わせていた“符牒”に、すぐさま意図を察してくれた彼らは素直に撤退を選んでくれた。
それにホッとしつつ、これだけは言っておかねばと背後を振り返る。ジワッと距離を取られた。
「兄が悪かったな。」
さ、行くぞ。と不貞腐れた兄とつまらなそうな姉を促して、場を去ろうとする。
「ちょっと待って!額当てから見てあなたたち、砂隠れの里の忍よね。確かに木ノ葉の同盟国ではあるけれど両国の忍の勝手な出入りは条約で禁じられている筈でしょ!」
が案の定呼び止められた。誰にか、春野サクラにだ。そういえば中忍試験の導入ってこんな感じだったか。本筋に関係なさそうな細かい部分はもう既に曖昧だ。どう答えるかと一瞬口籠った間に、テマリが小馬鹿にしたように口を開く。
「何も知らないのか?灯台下暗しとはこのことだな。」
「これから担当上忍から説明があるんだろう・・・・・・確かに俺たちは砂隠れの下忍だが、通行証も入国審査もキチンと受けている。危惧するようなことはない。」
まああるんだけど。
国崩しとか計画してるんだけど。
「けど、」
「楽しみを奪うのは忍びない。これ以上は上忍に聞くといい。」
言いつつ、少しずつ詳細を思い出して来た我愛羅は、サクラの横に佇む黒髪の少年へと視線をズラした。
ほう、と思わず感心する。確かにテマリが(ていうかNARUTOの女性キャラの大体が)頬を染めるだけある、非常に整った面立ちをしていた。
「────おい、そこの瓢箪のお前。名前は。」
「うちの弟に何か用?」
「喧嘩なら俺が買うじゃん。」
「やめろ。」
そんなサスケへ対し秒速で気色ばむキレやすい若者二人を静止する。
穏便に生きて。これから数ヶ月ずっと不穏なんだから。
「お前たちも試験へ出るなら会うこともあるだろう。じゃあな、うちはの忍。」
「ッ!テメェ、」
「ホラ、行くぞ二人とも。」
渋々引き下がる姉と兄を引きずりながら、大通りの角を曲がる。
ナルトたちの視界から消えた瞬間、テマリが我愛羅の頬に手を伸ばした。
「アンタ大丈夫?体調は?守鶴が暴れそうになったって?」
「別に封印が解けかけたわけじゃないし、今は落ち着いている。一応の報告として伝えただけだ。」
「本当かよ。」
“符牒”・・・・・・守鶴の暴走の兆しを伝えるメッセージに顔を覗き込む姉兄たちに頷くと、胡乱気な視線を投げかけられる。
「道中の疲れが出たのか?どっちにしろ油売ってる場合じゃなかったね。」
「お前は宿についたらもう寝ろじゃん。」
「過保護・・・・・・。」
ボソッと呟いたが無視された。
きょうだい仲が改善されたのは結構なのだが、どうも末っ子に対してオーバーケアなのだ。二人がかりで宿の布団に放り込まれた我愛羅は、もうちょっと放任してもらえるように頑張ろう、と欠伸を噛み殺した。
因みに、サスケに名乗るのも名乗られるのも忘れたことには、死の森で巻物探しをしていた時────要は随分後になってから気が付いた。
******
後日談というほどでもないのだが、宿について暫くのこと。
「あ、」と不意にそのことへ思い至った我愛羅は、傀儡を手入れしている兄へ声をかけた。
「そういえば、カンクロウ。」
「あんだよ。」
「お前が締め上げていたあの子ども、三代目火影の孫だぞ。」
「・・・・・・マジ?」
「俺はこういう嘘はつかない。」
「・・・・・・テマリには黙っといてくれじゃん。」
「うん。」
絶対怒られるもんな。
これから木ノ葉崩しをする予定で、外交問題とか言ったらそっちの方がヤバいのだが、それよりも更に恐ろしい姉なる生き物に決して逆らえない弟二人は、ウンウンと頷きあったのだった。