魔法少女になりたくて! 作:陰の手下
きっかけがなんだったかは覚えていない。ただ、物心ついた時には憧れていた。
キラキラと輝いて、強く、可愛く敵を倒し、陰ながら人々を守っていく無敵の存在。
――そう、魔法少女に。
少女なら誰しもテレビを見て、子どもの頃には憧れるだろう。かくいう私もその一人だった。幼稚園の頃の将来の夢は、当然のことだが、魔法少女になることだった。
けれどもそれは、幻想の中の世界の話でしかない。多くの人は、この世界に、魔法も奇跡もないんだと成長と共に悟ってしまう。現実を見て、夢は夢でしかないのだと理解してしまう。魔法少女にはなれないものだと諦めてしまう。
でも、私は違った。魔法少女になることを、決して諦めはしなかった。
理由は簡単だ。私は人よりも
だれかが言った。発達した科学は魔法と変わらないと。
単純な話だ。奇跡が起こらないのならば、必然を奇跡に見せかけ自分の手で起こせばいい。魔法がないなら、科学を魔法に見せかけ自分の力で作ればいいだけだ。
だから、私は表では天才研究者として、そして裏では魔法少女になるために、予算をちょろまかし、世に出回らない魔法少女セットの密造に勤しんでいた。
自然科学の法則の数々は、魔法少女になるために必要と思えば、なんでも私は習得した。
けれど、時間が経つにつれて、私は焦る。
魔法少女に必要なのはなんだろうか?
魔法……もちろん大切だ。
キラキラの衣装……これも欠かせない要素の一つだ。
年齢……そう、魔法少女と言うのだから、少女でなければ当然いけない。
もう私は少女ではない年齢になってしまう。どんなに魔法が使えようが、少女でなければ魔法少女でないのだ。
魔法を使える妙齢の女性といえば、それはもうただのお伽話に登場する魔女だろう。私がなりたいのは魔法少女だ。
そうして私は『誰でも少女化マシーン』の制作に取り掛かった。
***
「君はだれだい?」
いかにもな研究所があったから、これは怪しいぞと思い僕は不法侵入をしてみた。
なるべく気配を消せる歩き方をと思って、こっそりと歩いていたのだけれど、見つかってしまったようだ。やれやれ、この程度で見つかってしまうようじゃ、まだまだ陰の実力者は遠いみたいだ。
「俺か――? 俺はただの……スタイリッシュ悪の研究者スレイヤーさ」
うん、こんなふうに怪しい森の中で研究をしているんだ。
水槽の中ではいかにもな感じで、猿とか、そういう陸の生き物が漬けられているし。なかなかの雰囲気だ。
絶対に悪いことをしているに決まっている。脱税とか。
「ふん、財閥の暗殺者か……? 何者かは知らないが、見られてしまったら仕方がない。ここでは若返りの研究をしていたんだが、まだだれにも知られるわけにはいかないんだ。死んでもらう」
お、お姉さん。なかなかノリがいいね。
というか、この人の顔、見たことがある。あれは確か、さらに力を求めて核兵器に関する
たしか、原子核融合について解説していたはずだった。
「そうか……」
それにしても、若返り……いいねぇ。
若返りができれば、何百年後かに復活して、あれは伝説の……ムーブができるということだ。夢が広がる。
「ならば、その研究。俺がもらおう」
「やれるものなら……ね!」
速い……。おおよそ人間のものとは思えない踏み込みの距離だった。
けれども、お姉さんは素人なのだろう。間合いの感覚もなっていないし、いくら早くとも狙いがバレバレであっては意味がない。
「踏み込みが……甘いっ!」
「な……っ、バッ……」
お姉さんは、やけにゴテゴテしたステッキで殴りかかり、そして僕はバールを持って、その攻撃を防いでいた。
「バールはいいぞ?」
「ふざけた真似を……!」
右に左に、お姉さんは、やけにファンシーな装飾をしたステッキで殴りかかり続けてくるが、それを両手に持ったバールをトンファーのようにして防ぎ続ける。
一撃一撃の重さが、どうしても女性のものとは思えなかった。
まぁ、力がいくら強くとも、お姉さんの攻撃じゃ、簡単に受け流せるんだけどね。少し気になる。
「なんの手品だ?」
「手品……? 魔法だよ」
「そうか、魔法か……ならばその正体、見極めてやるさ」
簡単には教えてくれないみたいだ。
僕は魔力の修行をするために、この森に来たが、お姉さんの出立ちは、白衣で、明らかに研究者といったような恰好だ。魔法使いとは正反対の存在だろう。
彼女は自分の研究を隠すために魔法と言っているのだ。
お姉さんがステッキを振り下ろしたところをかわし、地面にぶつけて体勢を崩したところで、バールを投げ上げ、ステッキのファンシーな装飾の部分を掴む。
「な……ステッキが……っ!?」
ステッキを捻って、お姉さんの手から奪い去った。
「テコの原理だ」
装飾の部分が、持ち手の部分より太かったから、こうなる。要するにドライバーと同じかな。
奪い取ってみて思うが、明らかに実践向きではないステッキだった。
右手でお姉さんのステッキを持ち、左手で落ちてくるバールを一本回収する。もう一本は、お姉さんの手に収まった。
「武器の交換といこうか……?」
「く……」
ステッキを使い、お姉さんへと殴りかかるが、やはりというか間合いの差が利いてくる。
バール一本では、こちらの攻撃を捌き切れずに、ステッキにバールを打ち上げられ、お姉さんはよろめいてしまう。
そこを狙い、すぐさま、バールのエル字の部分で殴りかかる。それをお姉さんは、バールを持たない方の腕で防いだ。防いで見せる。
生身の腕にしては、硬い感触が伝わってくる。
「精密機械なんだ……。今のでダメになった」
「なるほど、パワードスーツか……」
いやー、科学の進歩ってすごいねぇ。こんなものが、すでに開発されていただなんて。
けれど、パワードスーツに負けるようじゃ、陰の実力者とは言えない。
「ハッ……仮初の力に頼るか」
「そんなことより、お前本当に人間か?」
「無論……。続きといこうか」
片腕のパワードスーツが壊れたからか、今までのような動きをお姉さんはできなかった。
何事も、左右のバランスというのは大切だ。バランスが悪いのだから、まだ生きているもう片方の腕のそれも捨ててしまえばとも思う。なんにせよ、決着はすぐだった。
「く……、煮るなり焼くなり好きにしろ……」
全身のパワードスーツが壊れて、お姉さんは地面に大の字に倒れている。
降参をしてくれていた。
「ならば、研究のデータをもらっていく」
「データならその機械だよ。パスワードはmhsj」
「そうか……」
そうして僕は、お姉さんの研究データを機械ごと、持って帰った。
家に帰って開いてみたが、小難しい英語のレポートがたくさんで、僕にはちっともわからなかった。
***
目出し帽の不審者にボコボコにされてから数日が経った。
最初は西野財閥の暗殺者かと思ったが、どうやら違うようだった。海外のエージェントだっただろうか。なんにせよ、誘拐されないだけ温情だった。
それはそうと、ついに『誰でも少女化マシーン』が完成した。
マウスや、猿での実証実験もすんでいる。あとは私が入って少女になるだけだった。
あぁ、ついに長年の夢が叶う。
それにしても、魔法少女になった後はどうしようか。契約獣を作って、他の少女にも力を与えて、敵獣を作ってマッチポンプするなんてのもいいだろう。
最高の気分だ。
***
結果として、私は若返った。
だが、予想した結果と違うことがある。
なんと、赤ん坊まで若返った私には、犬耳に、犬の尻尾が生えていたのだ。
生後数ヶ月、意識がはっきりしてきた頃には、とても驚いたものだ。
なんというか、私が新しく生まれて育ったこの場所は、少数民族の部落みたいなところだった。
まぁ、多少の人種や場所の違いは、魔法少女になることに対して、些末なことだ。重要なことじゃない。
「なに、そんなところで、ぼうっと突っ立っているのです? 早くお母さんのところに、水を持っていくのです」
「ふぇえー、お姉ちゃん早いよー」
そうして今は、双子の姉と一緒に、お家の手伝いをしていた。水桶を忘れた姉は手ぶらで、私だけが水桶を持って歩いている。
「弱っちいセラはそれくらいしかできることがないのです。キリキリ働くのです」
「ふぇえー」
少し前まで姉はとても優しかったが、最近は強者こそ正義の部落の価値観に染まりつつあった。
これでも、姉は悪い子じゃない。
時たまいじめに来る兄たちに対しては、身を挺して私のことを庇ってくれるし、病気で弱っていく母のために、自分にできることをしようとしてくれている。
私だって、魔法少女スーツさえあればと思う。
だが、現状、あれを造るにはあれを造るための道具に、またその道具を造るための道具……と、なにもない少数民族の部落のような場所では何もできない。
私にできることといえば、前世で覚えた知識を忘れないように反復することくらいだった。
祝、カゲマスハーフアニバーサリー。
ちなみにデルタと同じ種類の獣人に転生したので前世と比べて知能は下がってます。