魔法少女になりたくて!   作:陰の手下

10 / 12
魔法少女、私は

 おうにょが誘拐されて、次の日だった。

 ボスが王国の騎士団に連行された。なんでも、アレクシア王女が誘拐される直前まで一緒にいたボスが怪しいとかでだ。

 主導したのは、例のおうにょの婚約候補者のゼノン・グリフィだった。要するに、スケープゴートというやつだろう。

 

 そうして、騎士団に連行されたボスは、尋問……というか拷問を受けていた。

 痛みで嘘の証言をさせて、偽物の犯人を作るという強引な手口だ。拷問をした騎士はゼノンに協力する教団の手先だろう。たぶん。

 

「はぁ……彼なら簡単に抜け出せるはずなのに」

 

 そう言いながら、アルファ様はその拷問官にガチギレしていた。

 目が笑っていない。殺したくてうずうずしている感じだった。

 

 そもそも、ボスがその気なら、騎士団程度では連行なんてできない。この国……ミドガル王国全てを敵に回しても、ボスの方が強いから、ボスがその気ならこんな茶番に付き合わず、国ごと壊してしまえばいいだけの話だった。

 

 だから、心配するだけ無用だし、拷問されているボスは、怯える演技や命乞いをしながらも、普通に余裕そうだった。

 

 こんな茶番に付き合ってあげているのは、ひとえにボスが優しいからだろう。

 

 拷問には五日間かかった。

 結局、ボスは拷問に屈さず、何も言わなかったから釈放される。

 

 そこから、まず、アルファ様がボスに付けられた教団の息のかかった見張りを抹殺しつつ、ボスへとコンタクトを取りに行った。

 

 なぜか、アルファ様は、ガンマのやっている服のお店から、ミドガル学園の制服をもらって着て、会いにいった。

 

「きっと、彼は与えるのでしょうね。あの不届者たちには死の報酬を」

 

 怖い。

 あの拷問官たちを抹殺していいかとアルファが尋ねたら、ボスはむしろ報酬をと言ったらしい。

 明らかに教団側の人間だろうけど、泳がせてから殺すと言ったところだろうか。

 

「ヴィンテージもののワインにグラス……月の隠れた夜に部屋を照らしていたのは、暖かなアンティークランプの光で、壁には幻の名画である『モンクの叫び』があり、いっそ部屋に深みを増していて……」

 

 さっきボスと会ってきたベータは、そうやって私にボスとの間にあったことを朗々と喋っていた。

 

「そうしてシャドウ様はおっしゃられたのです『デルタには悪いが、プレリュードは僕が奏でよう』と」

 

 お姉ちゃんがまず動くことが決行の合図だった。

 お姉ちゃんは待てないからね。

 

 ガンマが全体指揮、アルファ様が現場指揮で、その補佐にベータ。イプシロンは後方支援。私は遊撃で、討ち漏らしを叩く形になる。

 私の元には、各地から映像が送られてきていた。

 

 まぁ、私の身体能力なら、どこへ援護に向かっても数秒とかからない。

 純粋な身体能力なら、七陰の中ではお姉ちゃんの次によかったりする。遺伝的な頭の良さを犠牲にした遺伝的な身体能力だった。

 悲しい。

 

「ボスが一番槍ってことだね」

 

「はい。では、私は手筈通り、シャドウ様のもとへ」

 

 そう言って、ベータは消える。

 各自、持ち場についたようだった。

 

 今回の目的は、ミドガル王都中に点在しているディアボロス教団のフェンリル派のアジトの壊滅、そして皆殺しだ。

 情報の奪取は一切考えず、最初から殺す気で行くという話だった。

 

「変身……と」

 

 私はスライムボディスーツ(魔法少女仕様)を身につける。

 今回は、闇夜に溶けるような黒いドレス……要するに典型的なゴスロリのように仕上がっている。膝下丈のスカートで少し露出は控えめに……一応、肩出しのドレスだが、肌色のスライムで保護して地肌は晒してはいない。

 

 黒いスライムの手袋は、忘れずに、あと、仮面もつける。残念だけど、フードをかぶって耳も隠した。

 あとは、そう、尻尾もスライムで形を変えて、色もグレーに変えておく。

 

「完璧」

 

 鏡をみて全身を確認する。

 戦いやすさで言ったら、全身ぴっちり状態には劣るけれども、まぁ、そんな強い敵は出てこないはずだ。

 

 満足して、映像に視線を戻した。

 

 まず、ボスが騎士団から手紙の届いた場所に向かった。アレクシア王女の靴を使って、ボスを前拷問した騎士団の人たちが、犯人にボスをしたてあげようとする。

 そいつらをボスが始末したことが、皮切りだった。

 

 ずっと遠くから、ドカンと大きな音がする。

 お姉ちゃんだ。お姉ちゃんが、派手に暴れているのだろう。目を凝らせば、お姉ちゃんに殲滅を任せた建物が、斜めに真っ二つに切られて崩れていく様が見える。

 

 派手にやりすぎだと思う。でも、ちょうどいい合図になった。

 

 各自、作戦を開始している。

 順調のようで、みんながみんな、雑魚どもを皆殺しにしている。

 

 順調すぎるくらいに順調だ。

 

「あれ……ひょっとして、私、出番ない?」

 

 このままでいくと、多分そうなる。

 後方支援のイプシロンとかも、いま暇だろう。怪我人とかもいないし。

 

 いや、きっとディアボロス教団の大物がいてくれるだろう。そのときまで私は待機をしていればいい。

 

「むー、ひまー」

 

 待てど暮らせど、そんな大物は現れない。

 もう、適当なところに援護に行こうかと、思ったときだった。

 また、ドカンと大きな音がする。お姉ちゃんの方じゃない。見ればでっかい人形の生き物がそこにはいる。

 

 おそらくは、ディアボロス教団の実験体だ。

 これは出番だと思い、私は急いでそこに向かった。けれど遅かった。

 

「それが、いたずらに苦しめることだとなぜわからない?」

 

 アルファ様が、先に着いていた。

 

 なにやら、赤い髪の女の人……誘拐されたおうにょの姉のアイリス王女と話しているようだった。

 そんななか、私に気がついたアルファ様は、アイコンタクトを送ってくる。

 

 アルファ様の視線を察するに、そのディアボロス教団の実験体のでっかい子が、飛び出してきて出来た地下への穴に向かえということだった。

 そして、私は穴の中に飛び込む。

 

「ここは……」

 

 飛び込んだ先は、当然というか、地下にある下水道だ。ちょっと匂って嫌だ。

 そのうち慣れるだろう。尻尾や髪に匂いが残ったら最悪だけど。

 

 男の人の潰された死体があった。魔力痕跡的には、あのでっかい子と死んでる人の他にだれかいた……というか、多分、誘拐されているおうにょだろう。

 私は痕跡を追って、進んでいく。

 

 追いつくのは、すぐだった。誰だろうか、おうにょの側には、例のゼノン先生がいた。

 なにやら、物騒に、互いに剣を向け合っている。

 

「ご機嫌うるわしゅう?」

 

 適当な感じで話しかける。表の顔と紐づけられるのは良くないから、ボスを見習って、激烈なギャップのあるキャラでいこうかなと考えていた。

 

「あなたは……!? いつの間に」

 

「漆黒を纏いし者……。なるほど、君が近頃教団に噛み付く野良犬か」

 

「我らはシャドウガーデン」

 

 いつもの決まり文句だ。

 初めて聞くのか、おうにょは首を傾げている。

 

「シャドウガーデン?」

 

「我々の小規模拠点化を潰して回っているようだが、しょせん君たちは雑魚ばかりを狙う卑怯者だ。教団の主力はそこにはいない」

 

「……ん? そういえば、この間はナイト・オブ・ラウンズの一人を倒したけれど、ご存じない? 派閥の違い? それとも、情報統制がされて、下っ端のあなたには情報が回ってこなかったとか……?」

 

「なっ、私が下っ端だと……ぉ!? 私は次期ラウンズ十二席だぞ!」

 

 ゼノン・グリフィは怒っていた。

 それと私は激烈なキャラで行こうとしたけど、激烈に面倒だったから、次からはやめておこうと思った。

 

「かわいそうに。きっと、だれかの口車にのせられているのね……。本当に可哀想」

 

「く……っ!? まぁ、いい。貴様をラウンズへの手土産とさせてもらう」

 

 ゼノン・グリフィの振るう剣を、私は軽くステップを踏んでかわす。

 あんまり、強くない。せっかくの出番だったのに、ちょっと気分が下がる。

 

「どうしたの?」

 

「くそ……っ、なぜだ……なぜ当たらない!?」

 

 速さも全然ダメだけど、剣の技量がそもそもが違う。

 魔力を込めて、ぶんぶん剣を振り回すのにちょっと毛が生えたのがゼノン・グリフィの剣だった。ボスの剣技には遠く及ばないだろう。

 私にもかすりもしない。

 

 スライム製、魔法少女ステッキを生成する。キラキラの青紫だ。

 

「そろそろ、私からも」

 

 このステッキは、私の試作機だ。まあつまり……。

 

「なんだ、それは……!? アーティファクト?」

 

「ていや!」

 

 ――魔法が使える。

 

 私の光る魔力の球が、ゼノン・グリフィめがけて飛んでいった。

 

「ぐはっ……。これは……っ!? 魔力を飛ばすアーティファクトか」

 

 私の魔力の球を受けて、口の端から血を流す彼だ。

 魔力は体から離れるにつれて操作が格段に難しくなるから、この世界では、遠距離攻撃は珍しい。

 

 まぁ、七陰の中ではイプシロンが飛ぶ斬撃を放てたりとか、そこまで珍しいものではないけど、世間一般の話だ。

 

「ほらほら、避けないと死んじゃうわっ!」

 

 弾幕をはる。

 そこまで弾速は早くないから、頑張れば避けられるだろう。

 

「クソォ! 道具頼りの卑怯者がぁ!!」

 

 私の攻撃を必死で避けるゼノン・グリフィが、そんなふうに罵ってくれる。

 

「ん? なんて言った? ステッキの駆動音がうるさくて聞こえないのー」

 

 キラキラした音がステッキからは鳴っている。魔法少女ステッキだからだ。

 

 まだまだこれからだ。

 私の魔法少女ステッキには、まだいくつも魔法がある。この男でその全てを試してみるんだ。

 

 弾幕を止める。魔法少女ステッキのスイッチを変える。キラキラの青紫から、キラキラの黄色に変わる。

 これを好機と、ゼノン・グリフィは近づいてきた。

 

「じゃあ、電撃」

 

「こんなものぉ!!」

 

 びくともしなかった。

 

「じゃあ、魔力込み」

 

「グァああああ!?」

 

 やっぱり、魔剣士には魔力のない攻撃はなかなか効きづらい。魔力を電気に伝わせることでなんとかという様子だった。

 

「こんなものね」

 

「はぁ、はぁ」

 

 体を痺れさせながらも、必死にゼノン・グリフィは後ろに下がって雷撃の範囲外へと逃れている。

 

「さて、次は……と」

 

 魔法少女ステッキの、スイッチを変える。今度はキラキラの赤色だ。ステッキを向けて……。

 

「くっ……アーティファクトさえどうにかなれば……」

 

 やっぱりやめる。

 音がした。

 コツコツと、こちらへと歩いてくる音を私の獣人の耳がとらえた。よく聞き覚えのある足音だった。

 

 私は、ゼノン・グリフィの耳元まで一瞬で近づいて、囁いた。

 

「私の出番はこれまでみたいね。ま、私より彼は強いから、頑張って」

 

「な……っ?」

 

 そうして、ゼノン・グリフィに背を向け、さらにその後ろにいる彼に軽く手を振る。去って行こうとする。

 

 その途中すれ違いざまに、おうにょに私は話しかけられる。

 

「あなたはなんなの!? シャドウガーデンって一体」

 

「なにって」

 

 お決まりの文句があったか。

 ちょうど、私の後ろでも、ゼノン・グリフィがボスと向き合っている。

 

「我が名はシャドウ」

 

「陰に潜み、陰を狩る者」

 

 と、私とボスは同時に言った。

 

「陰? その、アーティファクトはなんなの!?」

 

 私の魔法少女ステッキに、おうにょは興味津々の様子だった。

 そこで私はビビッとくる。

 

「私が作ってみたのだけど、いる?」

 

「作った……!? アーティファクトを!? くれるのかしら?」

 

「はい。あげる」

 

 おうにょに魔法少女ステッキを渡した。

 きっと、彼女も私の活躍をみて、魔法少女に憧れてくれたのだ。魔法少女というのは、一人ではない、みんなでやるものだ。仲間は大切だ。

 

 七陰のみんなは、ディアボロス教団の殲滅に夢中で魔法少女ごっこに誘うのは良くないと思ったから、新しい仲間を探せずにいた。

 

「ありがとう。ありがたくもらっておくわ」

 

「いつか一緒に戦えたらいいわね」

 

「え……!?」

 

 おうにょの手の中で、ステッキは収縮して、手のひらだいの円盤に変わる。持ち運びが便利でいいだろう。

 

「まぁ、でも今は……」

 

 遠目に、ボスの戦いを眺める。

 ゼノン・グリフィがお薬を飲んで、魔力を暴走させて、少し強くなったが、それをボスは赤子の手を捻るように相手をしている。

 

「凡人の剣……」

 

 おうにょは、ボスの戦いをみて、なにか呟いていた。

 私にはよくわからなかった。

 

 戦いが佳境に差し掛かり、私は彼女に話しかける。

 

「運がいい。きっとすごいものを見られる」

 

「なんの話?」

 

 どんどんと、ボスの魔力が高まっていく。

 

「借り物の力で、最強に至る道は……ない!」

 

 ボスは、ゼノン・グリフィを蹴り上げたその足で、落ちていた魔力増強の薬の瓶を踏み砕く。

 同時に、世界が青紫の光に染まる。

 

 それは魔力だ。細く、されど可視化するほどに高密度に編まれた魔力がゆらめき、彼の周りを取り囲んでいる。

 それは広がり、私とアレクシア王女の前で止まった。

 

「綺麗……これが、本当に魔力……?」

 

「真の最強をその身に刻め」

 

 あぁ、これこそがシャドウ様の力だ。

 

「アイ……アム……」

 

 瞬間、周囲を取り囲む魔力が、彼の元へと収束していく。圧縮される。

 

「アトミック」

 

 

 ***

 

 

「王都中を染め上げた青紫色の魔力の輝き、まるで天上の楽園のような光景でした」

 

「やつらも存分に思い知ったことでしょう、自分たちが狩られるための獲物でしかないと」

 

 ベータ、ガンマが、それぞれがボスの奥義について感想を述べていた。

 

「あれほどの魔力制御は、いつ見ても感動する。あれを前には、全てが等しく蒸発することになる」

 

 私も一緒になって褒める。

 この一体感は、私たちが仲間って感じがしてとってもいい。

 

「いずれ、敵の全てがあの光の中に消える……」

 

 アルファ様も入ってくる。

 七陰はみんな仲良しだ。

 

 ちなみに、イプシロンとお姉ちゃんもいる。お姉ちゃんは会議だからぐっすりだった。

 反省会だったが、いつの間にか、ボスの奥義の感想会になっていた。

 

 そのあと、欠席しているゼータとイータからの報告を読み上げ、最後の議題に入る。

 

「これよ」

 

 シャドウガーデンが死の裁きを! と書かれた紙だった。

 どうやら、偽物が人斬りをして、死体にそんな紙を置いていくらしい。

 

「ナブラ、奴らは痕跡を偽装しているようだけれど、より詳細に痕跡を解析する道具は作れないかしら?」

 

「わかった。やってみる」

 

 イータはマイペースで、すぐに動いてくれないだろうから、こういうときは基本的に私の役目だった。

 

 忙しくなりそうだ。

 

 

 ***

 

 

「アイリス姉さま……これを」

 

「これは……」

 

 手のひらくらいの大きさの円盤だった。

 

「シャドウガーデンを名乗る人物が使っていたアーティファクトです」

 

「そうですか……実は、こちらも、ディアボロス教団と名乗る宗教団体から押収したアーティファクトがあるのです」

 

「そうですか。アイリス姉さま、では」

 

「ええ、とにかく、今はこれだけが手がかりです。専門家に、解析を頼みましょう。ちょうど、我が国は優秀なアーティファクトの権威を引き抜いてきたようですし」

 

 それは、ミドガル王国では珍しい獣人の研究者のことだった。





 魔法少女ステッキ、まさかのクーリングオフ!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。