魔法少女になりたくて! 作:陰の手下
「あれは、生まれながらの辻斬りだよ」
「おうにょ?」
「うん。おうにょ、おうにょ。というかナブラ、見てたの?」
「うん」
アレクシア王女から、ボスはまだ交際を続けないかという提案を受けて、ボスは断っていた。目的を達したからだろう。
そうしたら激昂したアレクシア王女が、剣を抜き、ボスはその斬撃を甘んじて受けた結果、校舎裏に大量の血痕が残ることになった。死体のない殺人事件として、騎士団は捜査していた。
「そっか」
「服、いる? 新しいの、お店からもってくるけど」
「んー、どうだろ。スライムで制服は作れるから、でも血がなぁ」
今は血が止まっているようだが、ボスは大量に出血していた。服も血みどろだ。
ガンマに言えば、すぐにボスの体のサイズにあった制服は手に入るだろうとは思う。
ふと、目に入る。ふらふらとたくさんの本を抱えてこっちに歩いてくるピンクの髪の女の子がいた。
というか、シェリーちゃんだった。
「たい……なら……をして……。ともに……かうと……」
本を解読しながら歩いている。すごく危ない。
「あの子、知り合い……?」
私が見ていたからか、ボスもそっちを向いてきいてくる。
「うん。そうだけど」
「ふわあああ!?」
私たちの目の前で彼女はバランスを崩して転んだ。
なんというか、うん。そうなるだろう。
「大丈夫?」
ボスはシェリーちゃんに手を差し出す。
「…………」
シェリーちゃんは血みどろのボスを呆然と眺めていた。
ちょっと様子がおかしい。見惚れるように彼女は頬を染めていた。シェリーちゃんはだいぶ感性の変わった子だ。私には彼女の考えていることがわからない。
そっと、シェリーちゃんはボスの手をとった。
私は、シェリーちゃんの抱えていた床に散らばるたくさんの本を拾って集める。
「これから研究室? なら、私も一緒に行くけど」
本は私が持っていくことにする。ほっといたら、絶対に危ない。
「え、ナビア先生?」
私の姿を確認して、シェリーちゃんは驚いているようだった。
「それじゃあ、僕は」
「うん」
そう言って、ボスは帰っていく。結局、血みどろのままだ。ボスだし、大丈夫なのだろう。
「ナビア先生、今の人は……?」
「魔剣士学園の生徒だよ」
「質問ですか? 熱心な生徒なんですね!」
「うん」
表向きは、私とボスは教師と生徒の関係でしかない。シェリーちゃんの勘違いは、私にとっては嬉しいものだった。
「そういえば、お義父さまが言っていました。アイリス王女が私たちに用件があって、近々尋ねてくるらしいです」
「そうなの?」
何の用だろう。まさか、まえのディアボロス教団との戦いで、私の正体がバレてしまったとか。
おうにょに見破られてしまったのだろうか。そうして姉に密告したとか。
「詳しいことはその日じゃないとわからないみたいですけど、なんでも、解析してほしいアーティファクトがあるみたいです」
全然違った。
「アーティファクトね」
アイリス王女といえば、新しく紅の騎士団というよくわからない部署を立ち上げたという話も聞く。それにアーティファクト。
このタイミングだ。ここまで聞けばだいたい想像はついた。
先の殲滅作戦では、ディアボロス教団のアジトの壊滅に重点をおいていた。
調査は二の次で、私たちの回収し損ねた教団のアーティファクトが騎士団に渡ったということだろう。
それで、ミドガル王国の研究機関でもあるこのミドガル学術学園に、解析の依頼が回ってきたということだ。
「国からの依頼なんて、ナビア先生はすごいですね」
「私は忙しいから、たぶん、シェリーちゃんにやってもらうことになるけど」
「ふえ!?」
私は、いま、アルファ様に言われて、魔力痕跡をさらに詳しく判別する装置の作り方を考えている。学校での授業もしなきゃだし、そんなに時間はなかった。
***
「これは、シャドウガーデンという組織を名乗る人物が使っていたアーティファクトです」
「…………」
私は呆然としてそれを見つめる。
見覚えがあった。というか、私がアレクシア王女にあげた魔法少女ステッキだった。
おうにょは、目の前にいるアイリス王女の隣に座っている。ちらりとそちらをみるが、真剣な顔をしているだけだった。
「ディアボロス教団のものとも合わせて、私たちにはこの二つのアーティファクトの詳細はわからない。そこで、アーティファクトの権威と名高いドクター・ナビアに、この二つのアーティファクトの解読を頼みたい」
論文を提出して頑張ったから、国を超えて認められ、前世のドクターに近いそれっぽい学位というか、称号というかを貰っている。
「こっちはもらう。いい?」
私は、おうにょにあげた魔法少女ステッキを手に取った。
おうにょの顔をまた私はちらりとみるが、やはり真剣な表情のままだった。魔法少女ステッキを手放す悲しさはそこにない。
私は、騙されたような気分で悲しくなった。
「では、こちらのアーティファクトも」
「そっちは、この子が」
「ふえ!? ナビア先生。本当に言ってますか!?」
予定通り、シェリーちゃんに任せようとしたけど、やっぱりシェリーちゃんは乗り気ではないようだった。
「なるほど、シェリー・バーネットですか。ナビア先生、あなたの弟子は、こちらのアーティファクトの解読を任せるに足る人物だと」
「うん」
まぁ、できるだろう。一目見た感じ、たぶんこれには、シェリーちゃんの研究している強欲の瞳を制御する機能がある。
彼女への課題として、ちょうどいい難易度だ。
「で、でも、私はまだ学生ですよ? それに、ナビア先生から教わらないといけないこともたくさんあるし……」
「単位だすよ?」
「ふえ……?」
隣にいる副学園長に視線を送る。
学校の単位とかは私の管轄ではないため、適当に言った。実現するかは副学園長次第だろう。
「いい機会だ、シェリー。受けてみなさい。単位の方は私が調整しよう。独断となると難しいのですが、アイリス王女殿下からも、学園の方にお口添えいただければ……」
「ええ、こちらの都合を押し付けたようなものです。できる限りの援助はさせていただきます」
たぶん、このアーティファクトの研究で、シェリーちゃんの単位は一つ出ることになった。
「私が……」
「大丈夫ですよ。シェリー先輩が優秀な研究者だという噂は、隣の魔剣士学園にまで聞こえてくるくらいです」
アレクシア王女だった。シェリーちゃんを励ましてくれている。
シェリーちゃんは学生という領分を超えて研究の成果を出していたから、それなりに名前を知られているのだろう。
魔剣士学園と合同の表彰式で副学園長が表彰をしていたりもしたし。
「うん。できるよ」
シェリーちゃんの髪をなでなでする。
最近は私が彼女の髪の毛の手入れもしているから、すごく綺麗になっている。
「はい……! 頑張ります!」
これで、研究で私のキャパシティに限界が来る心配はなくなった。
シェリーちゃんが受けてくれなかったら、私がここで一目見て感じたことをレポートにそれっぽくまとめるだけになっていたから、騎士団も幸運だっただろう。
「それでは、護衛には『紅の騎士団』の者たちをあたらせます。万が一、ディアボロス教団やシャドウガーデンが、アーティファクトを奪い返すために襲ってくる可能性も考えられますから」
残念。私はシャドウガーデンだ。もうすでに私は魔法少女ステッキを回収してしまった。
アイリス王女は、そのまま、副学園長に視線を向ける。
「護衛は二名までという話でしたね」
「ええ、物々しい雰囲気を生徒たちに感じさせては、あまりよろしくはないですから」
「本来なら私が警備にあたりたいところですが、そうもいきませんか。では、グレン、マルコ。よろしく頼みましたよ」
「はっ!」
ヒゲの人と、冴えない感じの青年の人だった。
「護衛はいらない。自分の身は自分で守れる。私は……」
「はい……? 確かナビア先生は、魔剣士では……」
「アーティファクトで戦える」
正直、四六時中護衛につけまわされるのは嫌だった。私は、ずっと、学園の研究をしているわけではない。なにをしているか、素人にはわかんないだろうが、気付かれるリスクが増えるのは普通に嫌だ。
「ナビア先生は、個人で戦闘用のアーティファクトを所有しているのですか!?」
あ、しくじったかも。
どうしようか、だいたいアーティファクトというのは、国に管理されていたり、市場に出回っても記録を追跡できたりする。
「もらった」
「もらった……?」
「自衛のために、友達から……もらった」
「友達……?」
私は、疑いの眼差しで見つめられている。
まずい。
「まぁ、いいでしょう。アーティファクトを譲れるくらい力や余裕のあるナビア先生のお友達に、今度、紹介していただけたら嬉しいです」
「はい、機会があれば」
なんとか、この場だけは乗り切れた。
これからどうするかは、未来の私に任せることにする。頑張って、未来の私。
「そうです。アーティファクトに詳しいナビア先生には、ぜひお聞きしておきたいことがありました」
「なに?」
「先日の事件の際……王都中を紫色に染め上げた魔力の光……あれを起こしたアーティファクトと、その対策について……」
「姉様。だからあれは、アーティファクトじゃないって……あれはシャドウが」
「アレクシア。では、ここで専門家の意見を聞いてはっきりさせましょう」
私は一つため息をつく。
シャドウ様の奥義についてだ。どう答えたらいいだろうか。
「まず大前提として、アーティファクトでは、あれほどの威力を出すものを、私は知らない」
「アーティファクトでも難しいというのなら、いわんや人の身では……」
「でも理論をこねくり回せば、あの威力も現実になる。現実に起こったということは、なる。なるでしょう。たぶんそれは、アーティファクトでも、人の身でも。ただ、可能性の話。見てないから、どちらかはわからないけど」
「それほどのことを、シャドウはやったということなのね」
「そうなる」
私と一緒にボスを見ていたアレクシア王女は、そういう反応だった。
感心して、他人のことを認めている……上を見上げて、前を進んでいく人間の言葉のようにそれは思えた。
「いえ、話によればシャドウガーデンはアーティファクトの開発もおこなっているようだった。つまりはナビア先生、そのアーティファクトを解析することが、奴らの増長を止めるための一歩となる。そのためなら、私たちは協力を惜しまない。ナビア先生、どうかよろしくお願いします」
「うん」
とりあえず、うなづいておく。アイリス王女の考察は全然違うけど。
どうしようか、いつも通り、適当に昔の研究内容を薄めて大事な部分は隠しながら、レポートで提出しよう。それがいい。
「ナビア先生、私も頑張ります!」
「先生として、アドバイスならするから」
「はい! 頼りにしてます!」
シェリーちゃんなら、たぶんそういうのなくても大丈夫だと思う。強欲の瞳の制御装置だし。
それから、アレクシア王女と、アイリス王女が姉妹っぽい話をしていた。偽シャドウガーデンについてだったか。
新しい情報はなく、私には関係ないから、ぼうっと聞き流して、あんまり覚えていなかった。
そうして、私たちはようやく応接室から解放される。
いつもと違う部屋に行くと、匂いが気になる。私のテリトリーじゃないってやつだ。帰ってブラッシングでもしようか、はぁ。