魔法少女になりたくて!   作:陰の手下

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お友達大作戦!

 ブシン祭……二年おきだったかに開催される国際的な武術の大会がある。

 その学園代表選抜大会がミドガル魔剣士学園では開かれていた。

 これに優勝したら、ブシン祭の本戦に参加できるという。

 

 私はそれを観戦席で眺めていた。

 隣には、シェリーちゃんも一緒だった。

 

「シドくんは、いつでしょう?」

 

「少し時間がかかる。一回戦の最後の方」

 

 学園代表選抜はトーナメントだ。

 ボスの相手は、学園で一番強いと噂のローズ王女。こういうのは、たいてい強い人同士が決勝で当たるように、トーナメントが組まれている。

 実力者を隠して、魔剣士学園では弱い演技をしているボスは、その一番強い人に一回戦で当たる感じの弱い人専用のポジションだった。

 

 シャドウ様はおっしゃっていた。自らの剣は、ただ陰を狩るためにあるのだと。

 ブシン祭で得られる名誉も、ボスにとっては価値のないものなのだろう。

 

 あぁ、誰もボスには敵わないのは、当然すぎる結果だ。確かめるまでもないことだ。

 

 ちなみに、ローズ王女は芸術の国オリアナの王女で留学生だった。

 

「楽しみですねー!」

 

「うん。そだね」

 

 なぜ、シェリーちゃんが、ボスの試合を見に来ているのかといえば、それはシェリーちゃんがボスにチョコレートをもらったからだった。

 

 ルスラン・バーネット副学園長は、それを一目惚れのプレゼントだと言っていたけれど、私にはやっぱりボスの思惑はわからない。

 

 まぁ、一目惚れの真偽はさておいて、チョコのお返しにクッキーを焼いてプレゼントをしようという話だった。ちょうどブシン祭代表選抜大会にボスが出るから、試合の終わりに捕まえようという作戦だ。

 

「なるほど、クレア・カゲノー。彼女は彼の姉だったか……その年の大会の質次第では、優勝もあり得る。素晴らしい剣だね」

 

 ちなみに、ルスラン・バーネット副学園長も来ていた。うーん、すごく過保護。

 

 ボスのお姉さんが、ちょうど会場で対戦相手をしばいている光景が見える。

 

「副学園長は、ブシン祭の優勝経験がおありでしたっけ?」

 

「あぁ、昔の話だよ。今はこのとおり、病身で剣を振るうことも難しいがね……」

 

 副学園長は、若い頃は、すごく強かったという話だ。

 

「副学園長は、ブシン祭、今年は誰が優秀すると思いますか?」

 

「順当に行けば、アイリス王女になるだろう。久しくなかったブシン祭の二連覇を、我が国の魔剣士が果たせるというのは……いや、これはアイリス王女が優勝した時に言うべきことだったかな」

 

 副学園長は言葉を飲み込んだ。取らぬ狸の皮算用みたいなことは、よくないと思ったのだろう。

 

「アイリス王女、そんなに強かったんですね」

 

「あぁ、うん」

 

 正直、あれだ。

 向き合えば強さはなんとなくわかる。アイリス王女は、たぶん私よりも弱かった。そんな王女が優勝できるというのは、国際大会ということで大仰に催すけれど、実はたいしたことがない大会なのかもしれない。

 

「今年のブシン祭はベガルタ帝国で開催でしたっけ、開催する国も大変ですね」

 

 大会の時は魔剣士が剣を持ってうろうろできるとも聞く。

 大会目当てに魔剣士じゃない人も集まってくるし、治安維持もけっこう大変だろう。

 

「今年のブシン祭は、ここ、ミドガル王都でだね」

 

「あれ?」

 

 違った。

 私はしゅんとして、恥ずかしさで、尻尾をゆらゆらさせる。

 

「ナビア先生は、こういう魔剣士の大会には興味がないみたいだけれど、これを機に少し外聞を広めるというのもいいかもしれないね?」

 

「はい……」

 

 そういうのはガンマがよく知ってるから、私はあんまり知らなくても……。ガンマは私の外付け記憶メモリーだ。

 

「大丈夫ですよ、ナビア先生! えへへ、私もぜんぜん知りませんから!」

 

「ありがとう、シェリーちゃん」

 

 この子も研究一筋だった。

 なぜだろう。慰められたが、ちょっぴり悲しくなってしまった。

 

「シェリー。研究も大事だけれど、そればかりではなく、他のことにも目を向けなさいと、いつも言っているだろう?」

 

「はい! お義父様!」

 

 元気よくシェリーちゃんは返事をして、にっこりと笑った。

 

「はぁ、まったく……」

 

 副学園長は、そんなシェリーちゃんに少し呆れるようだった。

 

「ん、始まった」

 

 ローズ・オリアナ対シド・カゲノー。

 

「この幸運に、感謝しないとな……」

 

 なにか、ボスが呟いたのを私の獣人の耳は聞き取る。

 

 合図で始まり、一瞬だった。

 

「ぎょっぺー! ぶほっ!」

 

 一瞬でボスは吹き飛ばされ、錐揉み回転をしながら血を撒き散らし、地面に衝突する。

 本気を出すまでもなく、ボスは彼女を倒せるだろうに、見事なまでの負けっぷりに、私は感動する。

 

「勝者、ローズ……」

 

「まだだ!」

 

 審判を制止し、ボスは立ち上がった。

 そして、何度もローズ・オリアナにボスは挑んでいく。

 

「勝者、ローズ……」

 

「まだだ!」

 

 溢れる血の量に、会場の歓声はもはや悲鳴に変わっていた。

 それでもボスは立ち上がり、ローズ王女に挑んでいった。

 

 たぶん、周りの血溜まりはぜんぶ道具の血糊だ。ボスの血じゃない。

 

「あなたを侮っていたことは、謝罪します。だからこそ、この一撃で終わらせる!」

 

 ローズ王女は、剣に、今までで一番の魔力を込める。でも、魔力の使い方はあんまりだ。

 

 その剣が、ボスへと向けて振るわれる。

 

「そこまで! 勝者、ローズ・オリアナ!」

 

 審判がボスを庇い、試合が終わった。

 すぐさまボスは医療の人たちに運ばれていく。

 

「まだ……僕のモブ式奥義は、まだ三十三も残ってるんだー!」

 

 そんな声を、私の獣人の耳は捉えた。

 

「シドくん……かっこよかったです」

 

 ボスの演じたその不屈の精神は、シェリーちゃんの心を打っていたようだ。

 そうして、シェリーちゃんのお友達大作戦か、今、始まる。

 

 

 

 ***

 

 

 

 残りの三十三の奥義もいつか披露する機会があればいいな、なんて思って歩いていたら、ピンク髪の女の子から声をかけられた。僕のモブムーブをかっこいいと言う、変わった感性の子だった。

 クッキーをもらったけど、たぶんいいモブムーブのお礼だろう。そんなにモブが好きなのだろうか。

 

 そのままに、彼女のお友達申請を僕は了承すると、違う席からこちらを見ていたルスラン副学園長と、ナビア先生が僕たちの席へとやってくる。

 どうやら、近くで見ていたようだ。

 

 そこで僕は思い出した。ピンクの髪の子はシェリー・バーネット。ルスラン副学園長の娘で、ナブラの弟子だ。

 そういえば、ナブラと一緒に一回会ったことがある。シェリー、彼女はまごうことなきネームドキャラだった。

 一般モブを演じる僕としては距離を置きたい存在でもある。しくじってしまったか。

 

「それで、どうしてナブ……ナビア先生も一緒なんですか?」

 

 ナブラは、年齢を詐称して先生をしている。そしてそのせいかはわからないけど、ナビアって名前をここではミドガル学園では使っていた。当然僕も、友達としてそれに合わせる。

 

 副学園長は、娘が心配だったとして、まだわからなくもないが、どうしてそれにナブラも一緒なのかは不思議だった。

 

「なりゆき」

 

「なるほど、なりゆきか……」

 

「そう、なりゆきだった」

 

「わかった。なりゆきなんだね」

 

 なりゆきみたいだ。

 ナブラは、ルスラン副学園長によくしてもらっているみたいだから、きっとその延長だろう。

 

 副学園長が、やってきた店員の人から注文を取っている。どうやら、居座るつもりみたいだ。少し長くなるかもしれない。

 

「コーヒーを二つ……いや、ナビア先生は飲まないんだったか……」

 

「うん、お腹壊す。私はミルク……」

 

「じゃあ、コーヒーを一つとミルクを一つ、頼むよ?」

 

「かしこまりました。コーヒーお一つと、ミルクをお一つですね」

 

 そうして、注文をとった店員さんは下がっていく。

 存在を主張しない、いいモブ店員ムーブだ。

 

「やっぱり、犬の獣人だから、コーヒーはダメなのかな……?」

 

 犬にカフェインは、与えてはいけないものだ。

 僕も前世では実家で犬を飼っていたから、そこら辺の知識はある。ジョンに……それとレクイエムか、懐かしいな。

 

「私、犬じゃないもん……」

 

 耳をぴこぴこさせながら、ナブラは言った。

 まぁ、確かにナブラは犬の獣人だが、犬そのものではない。

 

「ふむ、確かに人間にもコーヒーが苦手な体質な者もいる。けれども、犬に近い性質が現れている犬の獣人は、人間と比べてどうなのだろうね」

 

 副学園長が興味を持ったようだ。

 

「私、犬じゃない。コーヒー飲める」

 

 注文を持ってきた店員さんから、ナブラはコーヒーを受け取る。

 

「無理はやめておきなさい」

 

 それを見て、副学園長は、サッとナブラの受け取ったコーヒーを、ミルクと入れ替えていた。

 そもそも、コーヒーは副学園長が頼んだものだろう。

 

「はい」

 

 しゅんとして、ナブラは副学園長に従っていた。

 あれだ。アルファやガンマに聞いた話だけれど、昔、いろいろ学術の発表をした時、ナブラは獣人であることを理由に馬鹿にされたらしい。だから、今みたいにな反応になったのだろう。

 少し悪いことを言ってしまったかもしれない。

 

「うん、犬じゃなくて、犬の獣人ですね」

 

「うん、そう。犬の獣人」

 

 ナブラにとっては、それが大切なことなのだろう。

 だから僕も、友達としてそれは尊重しておく。

 

「シドくん、シドくん。ナビア先生の尻尾、いつもとってももふもふなんですよ?」

 

「うん、もふもふだね」

 

「私、いっつも触らせてもらってるんですよ?」

 

「それは、とってもよかったね」

 

 ナブラの方を見る。

 ナブラは自分の毛並みにとても気を使っているから、それを褒められて、嬉しそうに尻尾を振っていた。

 

「それで、それで……シドくん、シドくん――」

 

 それから、僕はシェリーの話に適当に相槌をうつ。

 たいていが、ナブラやルスラン副学園長と行った場所だったりとかの思い出話のようだった。

 

 一区切りついて、僕は思い出す。

 副学園長に尋ねておきたいことがあった。

 

「ルスラン・バーネット副学園長。ナビア先生から、例の件は聞いてますか?」

 

「例の件……? 例の件……あぁ、例の件のことか。例の件なら、確かに聞いているよ」

 

「えぇ、例の件です」

 

 ナブラは、副学園長をディアボロス教団の構成員だと疑っているという話だった。

 シェリーの話からしても、仲はとても良いようだし、陰の実力者ごっこのディアボロス教団として、話が通っているのか知っておきたかった。やっぱり、そうなのだろう。

 

「ナビア先生。例の件は、確か六日後じゃなかったかい?」

 

「例の件……あぁ、例の件ですね。そうですね。六日後の予定です」

 

「なに、シド・カゲノーくん。ナビア先生と親しいようだね。君は何も心配をすることなく、その日を過ごしていればいい。そうだね、ナビア先生」

 

「うん、大丈夫」

 

「なるほど……。わかりました」

 

 六日後だ。きっと、六日後に、ルスラン・バーネット副学園長が主催のビッグイベントが起こる。

 それまでに、僕も陰の実力者ムーブを磨いておこうか。

 

 

 

 ***

 

 

 

「お義父様。例の件って、なんだったんですか?」

 

 ボスが帰った後だった。

 カフェから学園へと帰る途中、シェリーちゃんが思い出したように言った。

 

「ナビア先生。シェリーには伝えてなかったのかい?」

 

「ん。忘れてた。六日後、私、外の会場で研究発表会をするから学園にいない」

 

「なるほど、研究発表ですか……」

 

 ま、私が研究発表をするのそれほど珍しいことではない。シェリーちゃんも、驚かなかった。

 

「それでなんだけど、学術都市ラワガスの人も来て、そう、ラワガスの研究所に誘われてる。明日、誘いに乗るかどうか返事をしろって」

 

「そう……ですか……。ラワガス……あの学術都市ですもんね。きっと、ミドガル学園よりすごい研究ができるはずですし……」

 

 シェリーちゃんは目に見えて落ち込んでいた。

 なんというか、私が答えがわかっているかのような反応だった。でも私はそれを否定する。

 

「私、行かないよ? あそこには、私を犬だって馬鹿にした研究者もいるの。あそこにだけは絶対に行かない……」

 

 ラワガス……。私は一年半前を思い出す。

 

「シェリー。ナビア先生はここに来る前は学術都市で研究をしていたんだ。それを私が、無理に引っ張ってきた形になるね」

 

 そうなんだ。昔、業績を手っ取り早く挙げるために私はあそこで活動していた。

 あぁ、思い出しただけでも腹が立ってきた……。絶対に許してなるものか。

 

 思い出したくないから、そういうことはシェリーちゃんには言ってなかった。というか、知っていると思っていた。

 

「そうなんですか……? じゃあ、ナビア先生は」

 

「うん、とうぶんここにいるよ?」

 

 そもそも、私の本来の目的は、ディアボロス教団の遺跡の調査だ。それが終わらない以上、まだここにいなければならない。

 

「そう……なんですね! 私、ナビア先生からたくさんまだまだ教われるんですね!」

 

 目に見えて、シェリーちゃんは元気になる。

 私の尻尾に抱きついてきた。

 

「シェリーが迷惑をかけるね」

 

「構わない」

 

「えへへ」

 

 まぁ、私のもふもふが褒められるのなら、悪い気はしないしいい。

 

 それにしても、例の件として、研究発表のことをボスが尋ねたのはなぜだろうか。あのときはとっさに話を合わせて、ちょっとドッキリした。

 きっと、なにかがあるはずだ。ガンマに後で知らせておいてみよう。

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