魔法少女になりたくて!   作:陰の手下

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流星を探して

 少し時間が経つ。

 

「セラはなにをしているのです?」

 

「魔力について考察をしているんだ」

 

 地面には絵を描いていた。

 粒子の力の伝搬を書き表す際によく使うダイアグラムだ。

 

 言い忘れていたが、この世界には魔力がある。

 魔剣士という存在がいて、魔力を扱うことができるそう。魔力を込めると身体強化や、剣を切りやすくすることができる。

 ただ、魔法使いのような存在はいなかった。

 

 魔力……前世にはなかった素粒子だ。

 前世の手法に従い、魔力の性質を方程式に書き下そうとするが、うまくいかない。これは、重力並、あるいはそれ以上に厄介かもしれない。

 

 それにしても、魔力を込めると簡単にパワーが上がるみたいだ。前世の魔法少女スーツはいらないみたいだった。

 完全に私は研究を魔力の方にシフトしている。

 

 魔力の可能性は無限大だ。うまくいけば、私はこの世界で初めての魔法使いになれるかもしれない。目指せ魔法少女だ。

 

 ただ、まぁ、人種の問題なのか、前世ほど頭が回らない。前世では簡単にできたことも二倍、三倍苦労するところが辛かった。

 

「ふぁー。退屈なのです。セラは弱っちいから、サラみたいに狩りの練習をするのです」

 

「それなら、電気を使って魚をたくさん取れたでしょ? あれでいいんじゃない?」

 

 魔力から電気を発生させる方法は開発した。

 いや、私って、天才。魔力が物質に影響を与えたりしていることはわかったから、電磁気かなって思ったら正解だった。

 ほら、私たちは、原子の持つ電気の力で物に触れるわけだし。

 

 モーター……ではないが、魔力式発電機を作って川に置いてある。

 

「むー、ずるはいけないのです。セラが強くなるのです」

 

 まぁ、魚ばっかりの生活も飽きちゃうか。

 

 とはいえ、姉の気持ちもわからなくはない。

 最近の出来事だが、私たちの母が死んだ。自分の子どもを愛するとても優しい人だった。

 彼女の死に顔に、弱っちいやつは死んで当然なのですと、泣きながら呟く姉の姿はとても私には印象的だった。

 

 たぶん姉の中では、弱い=すぐ死ぬの等式が成り立っているのだろう。

 姉なりに、私のことを思い、私のことを強くしようとしてくれているのだ。

 

「いいよ、私は……。サラお姉ちゃんが私のことを守ってくれれば、強くならなくても!」

 

「サラも、いつまでも一緒にいられないのです。弱い奴は、群れから追い出されるのです」

 

 子どもっぽい無邪気さを装って言ってみたが、獣人の理屈で返されてしまう。

 

「じゃあ、お姉ちゃんも私を追い出すの?」

 

「……っ!? サラは……、っ……サラも弱っちいお前のことなんか、追い出してやるのです!」

 

「いひひ。サラお姉ちゃんには、そんなことできないよ! 私のために一緒についてくるの!」

 

 イタズラっぽく私は笑ってそう言う。

 お姉ちゃんは、少し悲しそうな顔をした後、すぐに呆れた顔になる。

 

「のんきなヤツなのです。お前は……。ふぁー」

 

 あくびをして、お姉ちゃんは昼寝をした。

 私はまた、あーでもない、こうでもないと式を何度も書き直して、魔力の探究に勤しむのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ここに、隠れているのです。おとなしくしているのですよ?」

 

「うん」

 

 あれから、私たちは悪魔憑きなった。

 悪魔憑きというのは、身体が黒くなって、腐っていく病気だ。

 原因は魔力の暴走。

 

 魔力を使って狩りをしていたお姉ちゃんがまず発症した。そこから一日も経たないうちに、私もお姉ちゃんと同じ症状が現れた。

 

 考察をするに、私とお姉ちゃんは双子だ。

 魔力の特性には個人差があるが、共鳴をして、私の魔力も暴走してしまったのだろう。

 

 私はすぐさま、ここで魔力の研究の成果をと、治そうとしたが、とにかく時間がなかった。

 悪魔憑きは忌み嫌われ、見つけ次第、処刑というふうになっている。これだから、人権もなにもない少数民族の部落は困る。伝染病じゃないのに、伝染病のような恐れ方をしているのだ。

 

 私たちは、二人で逃げて森へと隠れた。

 部落の長も、私たちの捜索にやってきたのだが、お姉ちゃんのおかげで、撒くことができた。

 

 どうにか悪魔憑きが治らないかと、自分の体で魔力をいじってみているが、うまくいかない。

 理論上はできるはずなのだが、うまく魔力が制御できない。

 

 そうやって試行錯誤をしているうちに、お姉ちゃんが戻ってきた。

 

「鹿を狩ってきたのです。これを食べるのです」

 

「うん……」

 

 私が下ごしらえをして、簡単に捌いて魔力で焼く。

 

 お姉ちゃんは、生でよく食べているが、さすがに血生臭すぎる。文明人の私は焼いた方が好きだった。

 

「セラは弱っちいけど、器用なのです」

 

 作業する私のことをみて、サラお姉ちゃんはそう言う。

 まぁ、肉の捌き方はこっちで覚えたものだ。このくらいは、そこまで難しいものでもない。

 

「はい、これ」

 

「ありがとうなのです」

 

 骨付き肉に、お姉ちゃんはかぶりつく。

 私もお肉を食べる。

 

 私は、こんな時間が嫌いではなかった。雨風を凌ぐ家はないが、それでも他のなににもわずらわされない二人の時間は好きだった。

 あの村では、いつもお姉ちゃんは、私を強くしようとヒリヒリとしていたのだ。

 

 それにやっぱり、魔法少女は一人よりも複数人だろう。いつか、私の夢が叶った時には、お姉ちゃんも一緒に魔法少女だ。

 

 鹿三頭を私たちは二人で食べ尽くした。お腹いっぱいだ。

 

 そうして、私たちは逃亡生活を送った。

 徐々に進行していく悪魔憑きに焦りを感じつつも、私たちは森を抜ける。

 

 とにかく、私たちを知っている獣人がいるところから離れたかった。もうかなり歩く。

 

「セラは、痛くないのです?」

 

「大丈夫だよ? お姉ちゃんは?」

 

「このくらい、なんてことないのです」

 

 悪魔憑きの症状は、首や顔にまで広がっていた。

 何度か試してみたが、悪魔憑きを治すような緻密な魔力の操作は私にはできなかった。

 

 もっと、……もっと練習をする時間があれば、できるかもしれない。いや、あと、少し、あと少しでいいから、時間がほしい。

 

「お前たちが、情報にあった獣人の双子の悪魔憑きだな……?」

 

「がぅううう……!!」

 

 見つかった。

 人間だった。耳も尻尾も生えてない。初めて見る。

 

 お姉ちゃんは、初めて見る人間に対して唸って、警戒している。

 

「そう威嚇しないでくれよ――」

 

 人好きのするような笑みで、男は笑って、お姉ちゃんを手のひらで制そうとする。

 

「しゃー」

 

 けれども、姉さんは威嚇をやめない。

 その男はいかにもな胡散臭さを纏っていた。

 

 腰に刺した剣に男は手を触れる。

 

「威嚇をしても、意味がないんだ。なぜ、それがわからない」

 

「がは……っ」

 

 一瞬だった。一瞬で姉は斬られ、地に伏してしまう。

 

「チルドレン1st。次期ラウンズ候補の『冷血無惨』のアッキだ」

 

「ひっ……」

 

 ギロリとこちらを睨まれる。まるでヘビに睨まれたカエルだ。

 今の私ではこの男を倒すことができない。従うしかない。

 

 

 ***

 

 

「サラが悪いのです。サラが弱いから、セラも……」

 

「お姉ちゃんは悪くないよ……」

 

 私たちは、馬車で拘束されて運ばれていた。魔力封じの鎖に繋がれているため、魔力を使って、脱出することも難しかった。

 

 それでも私は、何かできないかと頭を巡らせている。おそらく、許容量を超える魔力を流せば効かない。あとは、そう、感知されない細く繊細な魔力ならば……けれど、理論の上での話だ。今の私ではそんなこと不可能だった。

 

 周りから、話を拾えば、私たちはどこかの研究所に移送されるようだった。また、双子の悪魔憑きは珍しいから、アッキ様は次期ラウンズに内定だという話も聞こえてくる。

 

 胸くそが悪い。

 どうやら、こいつらは悪魔憑きという病気を研究して、なにかに利用しようとする悪い奴らみたいだった。

 

 このままだと、私たちはモルモットだ。どうする……どうすればいい。

 前世の知識を思い出しても、打開策は見つからない。こんなとき、私の愛する魔法少女たちだったら、こんな苦難をどうやって……。

 

 

 ――爆発音が聞こえる。

 

 

 とっさに私はうずくまった。

 

「お前は……」

 

「我が名はシャドウ……陰に潜み、陰を狩る者」

 

 声が……地の底から響くような声が聞こえる。

 

 おそるおそる顔を上げる。

 空が、見える。馬車の天井に、壁が吹き飛んでいた。

 

 外では男が二人、対峙していた。

 

「我々に手を出すか……愚かなことだ……」

 

「ふん、どちらが愚か者かは、今にわかる」

 

 その男は漆黒を纏っていた。

 黒いフードに隠れて顔は見えない。

 

「俺は、『冷血無惨』のアッキだ」

 

「無惨……? 悪鬼……?」

 

 少し、黒を纏った男は困惑をしたようだった。

 

「俺の名を聞いて慄いたか……?」

 

「戦いを前に、名などさして重要なことではない」

 

「その通りか」

 

 黒を纏った男を前に、『冷血無惨』は剣を構える。

 それに倣い、黒を纏った男も、剣を……男の操る流体が剣を形取る。

 

 勝負は一瞬だった。

 

「貴様……何者……!?」

 

 血を吹き出し倒れたのは『冷血無惨』だった。

 一瞬でなにが起こったのかは理解できなかった。

 

「お前は、この世界に存在してはならない生き物だ」

 

 倒れた『冷血無惨』に男はそう溢すと、剣の血を軽く払い、こちらへと近づいてくる。

 

「がうぅうう」

 

 お姉ちゃんが、近づいてくる男に対して威嚇をする。

 

「獣人……双子の悪魔憑きか……」

 

 男が手をわずかに動かしたと思えば、私たちを縛る鎖が粉々に砕けていた。

 この人は、強い。

 

「がうー」

 

 お姉ちゃんも、取り押さえられて沈黙させられている。

 

「まず、悪魔憑きを治してやろう」

 

 男からは青紫色の魔力が溢れる。暖かくて、優しくて、その魔力を浴びて私はどうしてもお姉ちゃんに抱きしめられて眠る時のように安心してしまう。

 

 そうして、私は瞼を閉じて――、

 

 

 

 ***

 

 

「目が覚めた……?」

 

 私の顔を覗き込むのは、素朴な、どこにでもいる少年のようだった。

 でも、匂いでわかる。私たちを助けた男と、彼は同じだった。

 

「セラ、起きた!? ボスが新しいボスなの!」

 

「いや、だからマーキングはやめてって……」

 

 そんな少年に、姉は体をこすりつけていた。

 

「サラお姉ちゃん。その人は……?」

 

「ボスはボス! サラたちのボス!」

 

 ちょっと、お姉ちゃんの話はよくわからない。それでも興奮していることはわかる。

 うん、この人が私たちを救ってくれたのだろう。

 

「私はセラです。救ってくれて、……あと、悪魔憑きも治してくれてありがとうございます」

 

「あ、セラ。そういえば、サラ、もうサラじゃないの。新しい名前もらった!」

 

「新しい名前……」

 

「えっと……あれ……? なんだっけ!?」

 

 お姉ちゃんは首を傾げる。

 

「デルタだよ」

 

「そう、デルタ! サラ、デルタになった! しゃどうがーでん……? ていう群れに入る! セラも入るの!」

 

 お姉ちゃんは群れと言っているが、秘密結社のような組織だろうか。

 

「わかった……じゃあ、私も……」

 

「我らは陰に潜み、陰を狩るもの……表での名は捨てることになる」

 

「名前を捨てる……? うん、構わない」

 

「では、お前は……五番目だから……イプシロ……。いや、君たちは双子だったっけ?」

 

「うん」

 

 なにか考え直したのか、少年は首を捻る。

 

「じゃあ、君はナブラだ。お前たち二人で、シャドウガーデンの第四席を務めるがいい」

 

「ナブラ……」

 

 それに、四という数字。

 覚えがある。四番目のギリシャ文字はデルタ……Δだ。そして、そのデルタを上下反転した文字がナブラ……∇だ。

 

 偶然か、あるいは前世の世界の知識がこの世界に流入しているのかもしれない。

 なんにせよ、前世につながるような一致に、私は感傷を覚えた。

 

 ふと、知らない声が聞こえる。

 

「ねぇ、シャドウ……この男は、ディアボロス教団でどんな立場だったのかしら……」

 

「その男は……決して名前を言ってはいけないものだ……」

 

「名前を言ってはいけない……? それほどの立場だったということ! それを倒すなんて、さすがシャドウといったところね」

 

 少年は、外にいる私の知らない金髪で黒いボディスーツの少女と、『冷血無惨』の死体について、そんな会話を繰り広げていた。





 ギリシャ文字でシャドウの前世に気がつかないのは、獣人の村にいたせい。

 ナンバーズも違うし、七陰を十二陰に拡張するのも違うと思ったので、それっぽい文字でナブラを使いました。よろしくお願いします。
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