魔法少女になりたくて! 作:陰の手下
シャドウガーデンという組織に入ってから、私たちは戦闘訓練を施されていた。
「わーん。私の方が先輩で、年上なのにぃー」
「ナブラより弱っちいのです」
私たちよりも先にシャドウガーデンに所属していたガンマに対して、サラお姉ちゃん……改めて、デルタお姉ちゃんは、のしかかってマウントを取っていた。
「次はベータなのです!」
「ふぇええ。助けて、アルファ様ー」
ベータ……泣きぼくろの銀髪エルフは、アルファ……金髪のエルフの人の後ろに隠れる。
アルファ様がシャドウガーデンのリーダーで、取りまとめ役だ。
「ふーっ!」
「デルタ、ステイ」
「がうー!」
アルファ様にデルタお姉ちゃんは噛みつきにかかる。
アルファ様は、それをひらりと躱して、地面にお姉ちゃんを抑え込む。
「いい加減、どちらが上か理解したらどうかしら?」
「あうー。痛い……痛いのです!!」
痛みにより、アルファ様は上下関係をお姉ちゃんに理解させようとしている。彼女はエルフだというのに、なかなかに獣人スタイルだった。
「お、アルファ……調子はどうだい?」
「シャドウ……!?」
突然現れた少年は、私たちのボスであるシャドウその人だ。
「シャ、シャドウ様……」
ベータはアルファの後ろに隠れる。どうにも、彼女はボスのことを怖がっている様子だった。こんなにカッコいいのに。
「それで、アルファ……なにをしてるんだい?」
「なにって、躾けよ?」
「痛い……もうやめて、なのです……!」
「あぁ、うん。そうか……」
私は、お姉ちゃんが可哀想でしゅんとなる。
「やめてほしかったら、もう無闇に襲いかからないって約束できるかしら?」
「弱っちぃ奴らがいけないのです!」
「約束……できるわよね……っ?」
「痛い……! 痛いっ! わかった、約束するのです」
「はぁ……本当に守るのよね?」
「約束、守るのです。だから、早く放すのです」
アルファ様はそうしてお姉ちゃんを解放する。
「本当に守るのよ……? はぁ」
このやりとりは何回目だろうか。
お姉ちゃんは、偉くなりたいから、よく三席や二席の人にマウントを取りにかかる。けれど、たぶんこれは入った順番だ。お姉ちゃんが勝っても、第四席から変わることはないだろうと思う。
その度に、アルファ様に怒られて、しめられていた。
「なかなかに、大変そうだね」
シャドウ様は、私の隣に来ると、私の髪や耳を触ってもふもふし始める。
お姉ちゃんは少しクセが強いから、私は手軽なもふもふ要因だった。
「えぇ、本当に。デルタも、その子くらい大人しかったらよかったんだけど」
「双子とは思えないくらい、性格が違うよね……」
まぁ、私は前世の方に性格が引っ張られている。
なにもなかったら、お姉ちゃんくらいになっていたのかもしれない。
「あのー、ナブラ」
ガンマだった。黒髪エルフのガンマが私に話しかけてきている。
「なに?」
「尻尾、触ってみても、大丈夫ですか?」
ゆらゆらと尻尾を振る。
ふさふさの尻尾だ。ボスがもふもふしているのを見て、ガンマも触りたくなったのかもしれない。
「がうー、ガンマはダメなのです!」
「えぇー!?」
私ではなく、お姉ちゃんが答えてしまった。
お姉ちゃんは、ガンマのことはよく思ってないから、私に触らせたくないのだろう。
「こらこら、喧嘩はしない。デルタじゃなくて、ナブラの意見を聞こうか」
「いいよ。でも、この後ちょっと手伝って?」
「はい、なんなりと……」
ガンマに向かって私は尻尾を差し出す。
緊張をしたようにガンマは近づいてきて、おそるおそる私の尻尾の毛並みをなでる。
「ふわふわでしょ? 手入れ頑張ってるんだ?」
「はい、とっても……」
髪の毛だけじゃなく、尻尾の毛まで手入れしなきゃいけないのだから、獣人は大変だ。
でも、シャドウガーデンに入って、私たちの居住スペースには、シャンプーやボディーソープがあった。やっぱり、私の過ごしていた獣人の集落はすごく旧時代的な場所だったのだ。
「ボスー、デルタもなでて!」
「いいよ? よーしよしよしよし」
「キャハハ」
ボスに撫でられてお姉ちゃんは嬉しそうだった。
それから、私たちはボスに教えられて、戦闘の訓練に励んだ。
***
「えっと……これは……? 算術ですか?」
「これ、全部、計算しておいて……?」
十ページに渡る計算の手法を書いた紙に、数ページの求めるべき式の書かれた紙をガンマに渡す。
ガンマは賢かった。どのくらい賢いかと言えば、ガンマの賢さをデルタお姉ちゃんの賢さで割った場合、無限大に発散していくんじゃないかと思えるくらいに賢い。
「これを、まさか全部私が……ですか……?」
動揺をするのも無理からぬ話だろう。
本来ならスーパーコンピュータでシミュレーションするべき内容なのだから。
「私の尻尾、もふもふしたでしょ?」
「そ、そんなー!?」
本来は私がやるべきなのだろうが、今生において、私は頭が回らなかった。獣人の頭の回転速度は鉛でも付いているかのように重い。
「時間かかっても怒らないから」
「それにしても、これ……見たことのない計算手法なんですが……」
地球の最先端の計算方法だ。前世で密かに研究をして発表をしなかったものもある。みたことがなくても仕方ないだろう。怪しいだろう。
「ボスに教わった」
「シャドウ様に!!」
ボスは見識が深いから、ボスのおかげといえば、だいたいなんとかなる。前世の知識だって、怪しまれる必要もない。それに、懐が深いボスは察して、私になにも言わずに話を合わせてくれたりもする。
ありがとう、シャドウ様。ありがとう、陰の知識。
「ガンマ、魔力の性質はわかる?」
「魔力……ですか?」
私たちは魔力を使える。魔力を使うと、身体能力が上がったり、剣の切れ味が上がったりする。
「魔力には、おそらく魔力どうしで惹きつけあう力がある。でも、条件付き」
「それは……」
私たちが魔力を集められたりするのは、魔力どうしの引きつけ合う力のおかげだ。たぶん。
でも、それだけだと重力と同じになる。
「それとは別に、束ねられた魔力同士で相互に反発しあったりもする。魔力は、いくつかの状態を行ったりきたりして、性質を変更している可能性がある。計算がとても複雑。可能性があるものを、全部書き出したから」
魔力の性質は、電気の力や、重力よりずっと深淵の底にある。それを探り当てようということだ。
この世界の法則は、魔力を除いて、前世とほとんど同じだったからこそ、前世と違う現象は、魔力によるもののはず。
それにしても、シャドウ様はとてもすごい。なぜ、あんなふうに魔力を自在に操れるのか……人間の域にないだろう。
「ちょっと、待ってください! 可能性があるものを全部書き出したって……結果として計算量が膨大になるんじゃ!?」
「うん、ガンマ。頑張って……! 私は計算に頭が向いてないから、残念」
この世界には私のコンピュータがなかった。
ガンマは私の新しいコンピュータだ。
***
「それで、これはできるね」
「うん」
僕は実験と言われて、ナブラとガンマに付き合っていた。
いくつか、ナブラが表に書いたことがあって、それを僕が魔力を使って実際におこなってみている。
「それにしても、魔力でこんなことができたなんて……」
僕のてのひらの上では、電気の球がくるくると回っている。魔力操作による身体強化や、細かい制御は鍛えてきたけれど、こんなふうに応用することができるなんて知らなかった。
いやあ、魔力って、なんでもできるね。さすが、魔力。
また一歩、僕は陰の実力者に近づいたというわけだ。
「次は、これ」
「へぇ、どれどれ……?」
また同じように書いてある手順の通りに、魔力を動かす。けれども今度はなにも起きない。まぁ、打率は三割といったところだ。
ガンマやナブラは実験とは言ってるけど、いわゆる子どもの遊びなんだから、三割も当たればいい方だろう。
真剣にやっているナブラやガンマに、遊びだなんて言うほど僕は野暮じゃないしね。陰の実力者ごっこにも付き合ってもらってるし、今は僕が大人になって、彼女たちに付き合ってあげているわけだ。
「これは、ダメ……次はこれ」
「次は……お、できたね」
理屈はわからないけど、ナブラに言われた通りに魔力を操作すると、手に持った石が金属に変わる。
すごいや。これをすれば、ただの石を金属として売ることができるかもしれない。錬金術だ。
僕は陰の実力者コレクションとして美術品を揃えなきゃだから、常に金欠だ。
ナブラは僕の懐の救世主だ。
「次は、これ」
「じゃあ、どんどんいくよ」
他にも、試してみる。陰の実力者的に使えそうなめぼしいものはいくつかあった。
自分だけでは、見つけられそうにない魔力の使い方だったから、有意義な時間だった。
どうやら、ナブラとガンマの二人だけで考えたみたいだ。よくやっている。
全て終わると、近くでナブラの尻尾を抱き枕にして倒れているガンマに、ナブラは話かける。
「ガンマ、わかった。どの特性が有効かわかったから、あとは式を特定するだけ……」
「待ってください……しばらく休ませて……」
「ダメ……起きろ、ガンマ」
「ひぃ……!? あいた」
疲れて休んでいたガンマを、ナブラは無理矢理にもふもふの尻尾で叩き起こしていた。
「これ……ガンマ、どう?」
「えっとこれは」
作った表をまじまじと二人は見つめる。
僕も試しに覗いてみるが、なにもわからない。
「哀れな獣たちの群れは、闇の中で惑うことになるだろう」
正直、意味がわからなかったから、紙に書いてある文字が、僕にはのたうち回る獣のように見えてしまった。
「主様!? は……まさか!?」
「ガンマ、なにかわかったの?」
「群れ……群……。今までやっていた群の単純な拡張では失敗する? これは……あえて、ここは」
「そうか。うん、多分、構造はこうなる」
「そうなると、重力との関係から、式はこうなって……」
うん、さっぱりわかんないや。
それにしても不思議だ。デルタとナブラは双子なのに、ナブラはガンマの難しい話についていっているようだった。
獣人の神秘……いや、それともデルタは賢さをナブラに生まれる前に奪われたとか……?
「できた……これが……!?」
「この式だけで、この世界の全てを記述できる……?」
「やった、ガンマ」
「えぇ、ナブラ。やりました!」
二人はあつく抱擁をかわしていた。
いつのまにか、二人は仲良くなっているようだった。
いや、わかる。女の子二人だからね。男の僕は、どうしても除け者になってしまうだろう。
「ボス。ボスもありがとう。ボスがいなかったら、実験で検証ができなかったから……えへへ」
そうやって、ナブラは僕に近寄ってくる。
「うん。どういたしましてだね」
そんなナブラの頭を撫でる。どうにもナブラはこうされるのが好きみたいだ。
さて、僕もこうしてはいられない。
陰の実力者になるための資金集めを始めなければ。
数日後、僕はたくさんの石ころを金属に変え、売りに行ったが、同じ金属が、ここ数日のうちに大量に出回っていたため、買い取ってもらえなかった。
生放送見ました。陰の実力者になりたくて! 二期が10月から12話で放送決定したみたいです。盛り上がってくれると嬉しいです。