魔法少女になりたくて! 作:陰の手下
「えへへへ」
アルファ様やボスは、最初に見た時には黒いボディスーツを纏っていた。それがシャドウガーデンの装備なのだが、その正体は、なんとスライムだという。
スライムの魔力の伝導性は高い。
金属で言えば、ミスリルと呼ばれる金属が五十パーセントの魔力伝導率で最高峰なのに対して、スライムの魔力伝導率は、九十九パーセントだった。
シャドウガーデン制作のスライムボディスーツは、魔力操作だけで形状を変えられ、硬化させることもできるため、着てよし、武器にしてよしの優れものだ。
そんなボディスーツ用のスライムを使って、私はヒラヒラのドレスを作っていた。
魔力の使い方次第で、光らせることもできそうだから、きっと、謎の光も再現できる。
「なかなか個性的なデザインね」
「あ、アルファ様……!?」
私が魔法少女っぽい服を作っていたら、アルファ様に見られてしまった。
今の私は、ヘソだし肩出しひらひらのトップに膝上のミニスカートだ。
「戦うにしては、露出が多いと思うのだけれど……」
「これは――」
「いえ、そうね。可愛い服を着てみたいというのも当然よね。戦いのことにしか意識を向けていなかった私が、おかしかったわ」
アルファ様はそう納得してしまった。
この服で戦おうとしていたなんて、言い出せる雰囲気じゃなかった。
「ごめんなさい……」
「別に謝ることではないわ。それはいいけど、何かガンマと面白いことをしているみたいね。彼から聞いたわ」
シャドウ様と別れた後、ガンマの提案で、そこら辺の土くれを金属に変えて、大量に売り払った。
お金はほとんどがシャドウガーデンの活動資金になったが、少しだけちょろまかして、私のポケットに入っている。
アルファ様にはガンマから報告していると思ったが、その前にボスが伝えていたみたいだ。
「はい! 魔力の研究です! 第一原理は解き明かしたので、次はいくつかのアプリケーションについて、計算中です」
ガンマが。
人種での頭の良さの違いをまざまざと見せつけられる。エルフはすごいと思った。
第一原理を解き明かしたからといって、それで終わりではない。現実の事象に当てはめて計算してみて、現実の事象をモデル化したりとかするわけだ。
「それで、どうなるのかしら?」
シャドウガーデンは研究機関ではない。
悪い奴らを陰ながら倒す魔法少女みたいな組織だ。実利がなければ研究は打ち切られるかもしれない。
「計算過程を道具に食べさせて、道具に計算した事象を再現させることが目標です!」
夢は大きく。それが研究費を引き出すコツだ。
「つまり、シャドウガーデンでアーティファクトを作るということかしら?」
「そういうことになります!」
アーティファクトというのは、人間ができないことをやってくれる古代の品のことだ。
古代文字が書かれていて、だいたいがミスリル製だった。
「そうね。楽しみにしているわ」
そうして、微笑んで、アルファ様は去っていく。
なんとか、今のところプレゼンは乗り切れたみたいだ。研究の中止は嫌だから、私は気を引き締めることにする。
アーティファクト解析しなきゃ……。
***
シャドウガーデンのメンバーが増えた。
シャドウガーデン第五席、イプシロンだ。青い髪で、エルフの女の子だった。
そう、エルフ。エルフということは、当然頭が良いだろう。
「ちょっと、全然終わらないんだけど……っ!」
イプシロンは、私の新しいコンピュータだ。
「ガンマだったら終わっていた」
でも、ガンマほど頭が良くはなかった。
ガンマといえば、商品開発だとかで私にはあまり構ってくれなくなった。悲しい。
シャドウガーデンの資金調達のために、動き始めるそう。
「ねぇ。ていうか、この計算、何のためにやっているの!?」
「未来のため」
「そんなあやふやじゃ、わからないわよ!?」
悲しいかな。コンピュータは、自分が何の計算をしているかわからずに、計算をして計算結果を吐き出していく。
計算過程を見るだけで、何の事象の計算か理解していたガンマはすごかった。
「じゃあ、私はやることがあるから」
「え、これ、ほんとに私だけでやるの!?」
「頑張って」
そうして、私はイプシロンを置き去りにして場所を移る。
そこには、アルファ様が取ってきてくれたアーティファクトが置いてある。
ミスリル製の古代文明が書かれたそれがアーティファクトだ。
これは、起動すると、すごい速度で移動する力がある。
「この古代文字が怪しい」
呪文とか、文字を書くことによって、なにか現象が起こるわけがない。けれど、アーティファクトには決まって古代文字が書かれている。
おおよそ、見当はつくだろう。
ミスリル製の本体の部分には、いわゆるコンピュータで言うところの基本ソフトウェアが埋まっていると考えて良いだろう。その表面に古代文字を入力することで、特定の事象を起こすアーティファクトが出来上がると考えるのが妥当か。プログラミングみたいなものだ。
仮説だが、まぁ、それっぽい。
でもそれだと、古代文字を書き換えれば、違う事象が起こせるような気がしてくる。
「古代文字、読めないや……」
獣人の頭では、新しい言語を理解するのも難しい。エルフの誰かを召喚して、覚えてもらうしかない……現代人な私は翻訳をするのもコンピュータに任せることにした。というか、アルファ様、古代文字読めたっけ?
まぁ、古代文字はいいだろう。
大切なのは中身の構造だ。魔力の伝導性から言って、ミスリル製のアーティファクトから、素材をスライムに変えるだけで何倍もいいものができるのは自明だろう。
もちろん、魔力の通りが良すぎると、逆に機能しなくなったりするかもしれないが、そこは工夫次第だ。不純物を混ぜていくらか実験をすればいい。
丁寧に部品を取り外して、内部構造をスケッチする。魔力を流して、機能を確認したり、地道な作業を何回も繰り返す。
完全にバラバラにして、どの部品がどんな動作をしているか、完全に書き付けることができた。
「なにも、わからなかったんだけど……」
これは、あれだ。コンピュータがどういう理論で動いているかみたいな専門知識を持っていないと、難しい。
大まかな概要は知っているが、私の前世の専門からは若干外れる。知識がない。
とりあえず、スライムで同じものが作れるかどうか、まずは試してみることにする。
悪戦苦闘をして、あっという間に時間が経つ。
「ナブラー! アルファ様が、お風呂入れって!」
「あ、もうそんな時間?」
デルタお姉ちゃんが、私を呼びにきていた。
いじっていたスライムは元に戻す。魔力を通していないと、スライムは形が保てないから、そこは不便な部分だ。まぁ、スライム自体をいじるんじゃなくて、流し込んで閉じ込める容器を作ればいいか。
「ナブラ、急ぐのです! お風呂、デルタ一番風呂するの」
「待って、お姉ちゃん!」
お風呂までお姉ちゃんは駆けていく。
脱衣所で服をバッと脱いで、そのままに一直線だ。ちなみに私たちは獣人の集落の時の風習のままに、下着は着けていない。
慣れとは恐ろしいものだ。無理につけてみたら、あまりの煩わしさにムズムズして我慢できなかった。
「いっちばーん!」
「だから、待ってって……」
そのまま浴槽に飛び込もうとするお姉ちゃんの尻尾を掴んで止める。
「ナブラ、邪魔するなです」
「身体、洗ってから入ろうね。髪の毛に、特に尻尾……アルファ様にまた怒られるよ?」
「怒られる!? くーん……それは嫌なのです……」
お姉ちゃんの尻尾は、外で訓練をしたり、森で狩りをしたりと、それはもう汚れている。
このまま浴槽に浸かったら、その日のお風呂はおしまいだ。まぁ、どうしても入りたいなら、お湯は取り替えるしかないだろう。
「おとなしくしててね」
「毛繕いはナブラに任せたのです」
ここで姉妹の上下関係が発揮された。私はデルタお姉ちゃんの尻尾に頭の毛を洗う係だ。
一度、よく濯いで大まかに汚れを落とす。シャンプーをしっかり泡立てて、デルタお姉ちゃんの頭をわしゃわしゃとする。
「大丈夫? 目に入らない?」
「しっかり閉じてるのです」
毛並みに合わせて、丁寧に洗っていく。獣人の私たちは、耳が上の方にあるから、シャンプーで洗うとき、泡が入らないようにちゃんと注意する必要がある。
「濯ぐよー?」
「わかったのです」
耳に注意しながら、毛並みに合わせて上から下へとしっかりとお湯で濯いでいく。
触った感じ、濯ぎ残しはない。
「はい、綺麗。次は尻尾ね」
「まだなのです?」
「あんまり急がないでねー」
濯いで……やっぱり、すごく汚い。水が泥水になる。一度ではダメだから、何回も丁寧に濯ぐ。
私の毎日の手入れのおかげで、お姉ちゃんの尻尾の毛の色艶はいい。あまり、毛の艶に対して、お姉ちゃんは感心がないみたいだが、ケアする私を褒めてほしいと常日頃から思っていた。
泡立つまでシャンプーで洗って、髪の毛より丁寧に濯ぐ。どうしても、尻尾は湯船に浸かってしまう部分だから、できるかぎり洗い残しがないように、心がける。
「身体も洗って……はい、おしまい」
「一番風呂なのです!」
ざばーんと、お姉ちゃんは湯船に勢いよく浸かる。
そんなお姉ちゃんを見届けて、今度は自分を洗う番だ。
本当は濡らす前にブラッシングをしたかったけど、お風呂の時間を忘れていたから、今日は仕方ないだろう。
濯いで、髪と尻尾を丹念に洗う。
ブラッシングは大切だ。朝起きてのおはようのブラッシングに、お風呂前のお疲れ様のブラッシング、そして寝る前のおやすみなさいのブラッシングだ。
私の日々の努力によって、私の尻尾はもふもふしている。
最近はトリートメントやコンディショナー、ブラッシング用のローションも備品に追加されていた。嬉しいばかりだ。
「ナブラも早く入るのです」
「ダメ、まだ。尻尾の毛は獣人の命だから」
最低限のケアしかしないお姉ちゃんと、私は違う。私は髪の毛も、尻尾の毛も最高の手触りでいたいんだ。
「ナブラは、もふもふでボスに褒められたいのですか? デルタみたいに強くて狩りで褒められれば、そんな面倒なことをする必要もないのです」
「そういうことじゃないんだよね。お姉ちゃん」
自分の髪の毛や尻尾の毛が綺麗だと、幸せな気分になれる。
そこに理屈はないだろう。お姉ちゃんには理解できない話だとは思うけれど。
ちなみに、シャドウガーデンのみんなは髪が綺麗だ。
これで整えなくていいと思えるのは、お姉ちゃんくらいだろう。
「よし、おしまい」
また、上がったら手入れをし直すとして、浴槽へと私は浸かる。
お風呂は生まれ育った集落ではなかった習慣だ。水もそんなに贅沢に使えなかったし。
「気持ちいいー」
ゆっくりと、リラックスをする。
手詰まりのアーティファクトの研究のことも、今は忘れて、のんびりと……。
「思い……出した……!?」
それは、前世の記憶だ。
大学の時代に受けた退屈な講義の一つに、コンピュータの仕組みをマニアックに詳しく解説したものがあった。他の専門分野で適当に取っていたやつだ。すっかり忘れていた。
私は浴槽から、飛び出して、さっきいじっていたアーティファクトの場所まで走っていく。
「ちょっと、デルタ! ちゃんと体を拭いてから上がりなさい!! 床がびしょ濡れじゃない!!」
「アルファ様……デルタはこっちなのです」
「え、じゃあ、今のはナブラ……?」
スライム製コンピュータ試作機が完成した!
その後、私はアルファ様にこっ酷く叱られてしまった。
アルファ様は私のお母さんだったかもしれない。
毛並みの手入れの製品に関してはガンマが頑張って開発していますが、ナブラちゃんは普通に買ってきてるだけだと思ってます。