魔法少女になりたくて! 作:陰の手下
「ねぇ、ゼータ」
「なに……」
ゼータはお姉ちゃんのことをかなり嫌っているけれど、私のことはそんなに嫌いではないようだった。
それなりに、話してはくれる。
ただ、お姉ちゃんのフリをして、騙すようなことをしてしまったからだろう。私とゼータの間に流れる雰囲気はかなり微妙なものだった。
「お姉ちゃんと、仲良くしてくれないかな?」
「無理でしょ」
「そっか……」
即答だった。
私たちは、同じ家で生活をしているわけなんだけど、頻繁にケンカをされると困る。というか、お姉ちゃんに私も巻き込まれてしまう。
予想をするに、ケンカの原因は、二人のプライドの高さにある。
デルタお姉ちゃんは、好きあらば他人に対してマウントを取ろうとするところがある。
ベータとか、ガンマとか、イプシロンとかはそんなに真に受けることなく軽く流してそれで終わりなんだけど、ゼータは反応して煽り返す。二人は自分が下に見られることを絶対に許さないタイプだった。
まぁ、その点、アルファ様は力で捩じ伏せる獣人スタイルで対抗していたりするけど。
ゼータとお姉ちゃんは、正面からぶつかった場合はお姉ちゃんが強いから、ゼータが獣人スタイルを使えないのが面倒さを増している。
「お姉ちゃんなんか、適当にご機嫌取ってればいいと思うんだけどなぁ」
「どうして、私があんなバカ犬のご機嫌をとらないといけないのさ」
ベータとか、ガンマとかは、お姉ちゃんと言い争ってる時間が無駄だと思っているから、適当に聞き流しているのだろう。
仲良くとは言わないから、そのくらいの扱い方を私はゼータにしてほしかった。
「それはそうだけど……こういうのは、賢い方が譲るしかないからね」
「そうやって、ナブラはあのバカ犬を付け上がらせてきたんじゃない?」
「あはは、手厳しいね……」
とはいえ、私は常にお姉ちゃんにマウントを取られて生きてきたような気がする。
弱っちぃとよく言われた。
「でも、お姉ちゃんは優しいよ? いいところもたくさんある。一緒に悪魔憑きになったときは、お姉ちゃんも辛いのに、私のことを守ってくれていたし……」
「……っ!?」
少し、ゼータの雰囲気が変わる。苦しむような表情をしていた。なにかまずいことを言ってしまったかもしれない。
「大丈夫?」
「うん、いい……。……私は守れなかっただけだから」
ぼそりと言ったその声を、私の獣人の耳は聞き取ってくれる。
察しがつく。ゼータにも姉妹、あるいは姉弟がいたのだろう。しゅんと耳と尻尾が垂れ下がって、私も悲しい気持ちになる。
「とりあえず、できる限り、お姉ちゃんと仲良く……ね?」
「うん、まぁ、善処しとく」
気のない返事だった。
ゼータは飽き性で、面倒を嫌うが、プライドが高く、自分を貫き通す性格だ。他人から言われたことはのらりくらりとかわすから、手応えがない。
「はぁ……」
まぁ、二人のいさかいで、面倒ごとにならないといい。
***
シャドウガーデンのメンバーが増えた。
シャドウガーデン第七席、イータ。暗色の髪のエルフの女の子だ。
シャドウ様を除いて、シャドウガーデンには女の子しかいない。悪魔憑きの発症は、基本的に女の子にしか起こらないかららしい。
それと、アルファ様が悪魔憑きの治し方を習得した。アルファ様は積極的に悪魔憑きの救出、解呪をおこなっているが、シャドウ様が解呪をおこなった私も含めて八人が実力が飛び抜けているため、七陰と呼ばれることになった。
八人だけど、七陰なのは、私とお姉ちゃんの二人で第四席だからだ。
私たちは第四席だが、表裏とか、左右とか、あった方がいいだろうか。
シャドウガーデンも賑やかになった。
そうして、イータ、エルフの女の子だが、やはり、エルフ……頭が良かった。
「実験……ベータ……これ飲んで……」
「えっと、これは……」
「飲んで……? 味は保証しない……」
「えぇええ。はぁ、仕方ありません。なんの薬かは飲むまで教えてくれないんでしょう? うぅ……美味しくない……」
「飲んだ……? どんな感じ……?」
「なんだか、体が火照って……結局、なんの薬だったんですか?」
「踊り薬。踊りたくて……たまらなくなる」
「えぇ!? なんてものを……はっ!? 体が!?」
と、まぁこんな感じだ。
薬の他にも、装置をいじったりだとか、シャドウさまの陰の叡智を再現しようと、イータはたくさん実験を繰り返していた。
「ナブラ……今度……実験。装置……借りる」
「あ、うん。わかったよ」
ただ、イータが来たからと言って、私の研究がどうにかなるわけじゃなかった。彼女の性格では、私のコンピュータになってくれそうもなかったし。
なんというか、私とイータは研究をするという点では一緒だが、ある意味真逆だった。
私はアプローチの仕方として、まず理論をと、言うなれば演繹的なやり方を好んでやることが多い。対してイータは、実験、実験、実験と繰り返して、そこから現象論的に式を組んだりとか、要するに帰納的なやり方がおもだった。
どっちが優れているとかはないが、イータと私は、そこまで一緒になにかをするようなことはなかった。
だからこそだろうか。
事件は起こった。
「イータ、それにナブラ。シャドウガーデンの資金は限られているわ。だから、無尽蔵に研究をするわけにもいかない。彼に相談をしたのだけれど、そこでコンペティションをやろうと思うの」
「えっ……!?」
コンペ……要するに、プレゼンをして、予算の割り振りを決めるということだ。
私の研究にもお金はかかっている。
比較的安い物とはいえ、アルファ様がアーティファクトを手に入れて、時には買い付けたりしているわけだ。
イータは、まぁ、よくわからない魔獣の素材を買ったりして、薬を買ったり色々としている。
いったい、一回の実験にいくら使っているのだろうかはわからない。けれど、私の数倍はお金がかかってるんじゃないかという使い方だった。
アルファ様の作った概要を眺める。
参加者は七陰のみんなだ。ガンマに、アルファ様もいるということは、誤魔化しはきかないだろう。
いろいろ考えているうちに、一週間が経った。もうコンペの前日だった。
今、私が手に持っているものは、研究報告書だ。このままでは、少し前に提出した研究報告書を朗読するだけのコンペになってしまう。
「どうしよう……」
まずい。本当にまずい。
予算減額なら、まだいい。最悪、私のコンピュータが没収されてイータの実験動物にされる可能性がある。それだけは避けるために、なんとか形だけでも整えなければならない。
なにか、いい案はないか……。なにか……。
ふと、コンペの参加者のガンマの名前が目に入る。シャドウガーデンのお財布事情を管理しているのはガンマだ。これは、そうか……ガンマに寄り添ったプレゼンをすればいいかもしれない。
「ふふ、ガンマ。ガンマありがとう」
ガンマとは親しい。シャドウガーデンの中ではお姉ちゃんの次くらいだ。
ガンマは、頭がいいが、運動神経はすごく残念だった。自他ともに『最弱』と認めるガンマだが、己の弱さを認めることを強さに、その『最弱』を誇りに変えて頑張っている。
そんなガンマだが、スタイリッシュにシャドウさまと一緒に戦うことに憧れていた。
「ふふ、コンセプトはガンマでもカッコよく戦えるスライムスーツ一体型戦闘補助装置。うん。これなら完璧。今までの研究も流用できるしガンマのハートもキャッチできる。急いで資料作ろう」
なにより、前世の魔法少女スーツも応用できそうだった。
なんとか、今回のコンペを乗り切る算段がついてホッとする。
三時間くらいだろうか。
私は資料作成にのめり込んだ。ひと段落して、私は水を飲んで、一息休憩を入れる。
ちなみに台所には、みんなのコップが置いてある。自分のを使って、いつも飲んでいる。
「はぁ、もう朝イチでやれば間に合うかなー……」
ちょっと休憩を入れたら、気力がなくなってしまった。というか、とてつもなく眠い。
瞼が重くなって、私の意識は椅子の上で遠くなってしまう。
「……実験……成功……」
最後に、そんな声が聞こえてきたような気がした。
***
なんだか、面白いことをやるみたいだから、僕は七陰のみんなのところに来ていた。
「あえて競争させることで、緊張感を持たせ、今後の研究にも身を入らせる。さすがシャドウ様です」
「ふ、わかるか。これが我が陰の叡智」
ナブラとイータでコンペティションをやるというそこで、僕はベータのアカデミー級の演技に陰の実力者ムーブで応えていた。
「ナブラ、来ないわね……」
アルファは心配そうに、そう言う。
「なにか、あったんでしょうか?」
僕が適当に提案したコンペティションだけれど、ナブラには相当な心労になってしまって、結果としてバックれたのかもしれない。だとしたら、申し訳ないことをしちゃったか。
「ナブラ……来ない……。不戦勝……」
ブイ、ブイと、イータはピースサインを決めていた。
「あの、私、見てきましょうか?」
「あ、じゃあ僕が見てくるよ。ガンマたちは、先にイータのプレゼンを聞いておけばいい。シャドウガーデンは任せてあるしね」
シャドウガーデンは、僕が作ったけれど、運営をしているのはアルファたちだった。
「ごめんなさい、シャドウ。任せられるかしら?」
「いいよ。じゃあ、行ってくるよ」
そうして、僕はナブラを探しに行く、と言っても、すぐには見当たらない。部屋にはいないみたいだし、どこへ行ったのだろうか。
「あ、ボス! なにをしてるのです?」
「あ、デルタ」
デルタは、難しい話はわからないから、今日のコンペティションの審査には、唯一参加してない。
「ボス、ボス。暇ならデルタとお昼寝をするのです」
「暇じゃないよ、今、ナブラを探してるんだけど」
デルタは、ナブラのお姉ちゃんだし、なにか聞いているかもしれない。
「がう? そういえば、昨日の夜から見てないのです」
「一緒に寝てるんじゃないの?」
「こんぺいとう? かなんかの準備で忙しそうだったのです。だから、昨日は、一緒に寝なかったのです」
金平糖は、デルタにこの間、伝えたような気がする。食べてみたいとはしゃいでたんだっけ。
「そっか、実はナブラがいなくなったんだけど」
「なら、デルタが匂いで探すのです。くんくん」
さすがは犬の獣人だ。デルタはかなり鼻がきく。
それに、デルタはほとんどはナブラと一緒だから、匂いも忘れたりはしないだろう。
「どう? わかる?」
「こっちなのです」
そのままデルタについていく。
目的地は、すぐ近くにあった。
「お風呂場か……」
そのまま、脱衣所で止まる。
入浴中なのだろうか。だとしたら、気持ちよく入っているなか、僕が邪魔をするのは気が引けてしまう。
「ナブラー、ボスが探してるので!!」
遠慮なく、デルタは風呂場への扉をいっきに開ける。
「むー、むー!!」
「なんで?」
そこには、簀巻きにされて口を塞がれたナブラがいた。似たような修行なら、僕はやったことがあるが、そういう状況でもなさそうだった。
「ナブラ、大丈夫なのです?」
すぐにデルタは爪で縄を切って、ナブラを解放する。縄に混じって、魔封の鎖も巻き付けてあった。
「お姉ちゃん……ありがとー……ぉ」
「ナブラは、弱っちぃから、そうなるのです!」
「うぅ、でも……」
「それで、ナブラ、どうしてこんなことに?」
「そう! イータ! あの子が、多分、私のコップに眠り薬を塗って……うぅ、ブラッシングしてない……」
「あぁ、うん」
確かに、イータならやりかねない。不戦勝とか言ってたし。
そうして、僕は戻って、アルファたちにこのことを伝えた。
「イータ! あなた、なにをやっているの!!」
「戦わずして勝つ方法……実践した。成功だった……」
「そんなわけないでしょ……。どうしてこんなことを……成功しても、あとでバレるだろうし」
アルファは頭を抑えて呆れ果ててしまっていた。
「あとで薬で……ナブラの記憶を消せば……万事解決」
「そんなことはないでしょうに……イータ、研究費は大幅減額よ? これに懲りたら二度とやらないことね」
「そんな……!?」
イータは驚いているが、七陰のみんなは当然だろうという表情だった。
「それで、シャドウ。そのナブラなんだけど……」
「あぁ、ブラッシングして、体を洗ってから来るって言ってたよ?」
「そう。あの子もなかなかマイペースよね」
その後、よりいっそ毛並みをもふもふにさせたナブラが、優雅にやってくるのだった。
カゲマス、ついにシャドウ様降臨。アトミックできます。
この作品にもついに評価がつきました。本当にありがとうございます。