魔法少女になりたくて! 作:陰の手下
コンペティションは、イータの反則負けだった。
まぁ、そうなることがわかっていたから、私はゆっくり、毛並みの手入れをできたわけだ。
それで、ガンマでもスタイリッシュに戦えるスライムスーツの補助装置の製作が始まり、今は佳境に差し掛かっている。
「どう、ガンマ」
「かなり違和感がありますね」
スライムの流した魔力の強弱による伸縮を利用し、身体へと外側から補正を加えるという道具を製作していた。
スライムの制御装置として、ガンマには腰に小さな機械をつけてもらっている。
ちなみに、この小さな機械が私たちのやってきたアーティファクト制作の成果であり要だ。
スライム制御装置……これに魔力を流すと繋がっているスライムを記憶させた形へと変化させることができる。
ちなみに、シャドウ様の言葉の通りに、コンピュータには魔力と電力を扱い、小型化にガンマはだいぶ成功させていた。
スライムだけでなんとかしようとして、私は魔力にこだわりすぎてしまっていたみたいだ。
それはともかく、今はそのスライム制御装置に、スーツの形を覚えさせる作業の仕上げだ。
コマ送りみたいな感じで形を覚えさせていって、最終的には動きの補助をスーツにしてもらおうという計画だ。その覚えさせた動作をガンマに実際に試してもらって、修正を加える作業になる。
ボスの教えてくれた基本的な剣の型で、まず、実験をしている。
「どう……?」
「何回か繰り返したら、かなり……」
スーツの伸縮で、ガンマのはちゃめちゃな動きに外から修正を加えているわけだ。
最初は違和感はあるだろうが、繰り返していけば、その動きに慣れてきで、違和感もなくなるだろう。
「そう……?」
「これは……!? これは、いいですね!!」
ずっと素振りをしていたガンマだが、なんだか今、すごく楽しそうだった。
覚えさせた動きはベータのもので、堅実に基本の型を守った剣の振り方だ。
「ナブラ、今、わたしカッコいいですか?」
「うん。すごいよガンマ。大剣豪」
「大剣豪ですか。ふふっ」
楽しそうなガンマを見ると、コンペを通すためという不純な動機だったとはいえ、作ってみて良かったと思えてくる。
「よし、じゃあ実際に戦ってみようか。いつでもいいよ?」
私もスライムで剣を作る。
私だって七陰の一人だ。研究の合間に戦闘訓練は受けてきたし、それなりには戦える。
模擬戦ではガンマに全勝していた。
「い、いきます!」
ガンマは、今までできなかったお手本通りの踏み込みで、私をその剣の間合いに入れる。
ついで、基本の型を叩き込んでくる。初期動作をきっかけにアシストが開始するようになっているから、作った私にはなんの技が来るかわかってしまう。
それを私は受け流す。
「ぷぎゃ!?」
「んー。ダメかー」
ガンマは受け流された後、盛大にコケてしまった。
基本の型はかなりよくなるが、そこから少しでも外れるといつものガンマに戻ってしまう。
コケた際に手放してしまったガンマの剣が降ってくるのを私は掴む。危ない。
「も、もう一回いいですか?」
「いいけど、鼻血拭いてからね」
「はい……」
立ち上がったガンマの鼻血を拭いてあげて、剣を返してあげる。
また、私は剣を構える。
「じゃ、いいよ?」
「ていやー! シュシュシュシュ」
掛け声と一緒に、さっきと同じようにガンマは剣を振るってくる。私はさっきと同じように、ガンマの剣を受け流した。
「まだまだ!」
今度は、また受け流した先でガンマはアシストを発動させる。
「へぇ」
要するに、ガンマ本来の動きが表に出てしまう前に、アシストを繋いで攻撃を繋げようということなのだろう。
ただ、やっぱり私にはどんな攻撃がくるか丸わかりだから、対応は簡単だった。
そのまま何度か打ち合う。
たびたび、ガンマは少しふらついているようだったが、その度にアシストでなんとか転ぶのだけは避けている様子だった。
最後は、アシストを繋ぐことに失敗したガンマがコケることで、やっぱり模擬戦は終わってしまった。
「うぅ、もう少しだったのに……」
「うーん、課題が見えてきたね……。今よりもモーションをたくさん作れば、ずいぶん戦いやすくなりそうかな。あとは、モーション中に分岐が発生するようにすれば、動きが読まれづらくなって、いいかも」
「そうですね。これなら、私でも戦えるように……」
今回の実験で、ガンマはかなり手応えを感じているようだった。
「でも、よく繋げられたね」
「主様の剣技は、相手がこう来たらこうする、みたいに型を繰り返して……何と言えばいいでしょう……陰の叡智でいう詰将棋のような、論理立った剣技なんです」
考えたこともなかった。
私は魔力を込めて言われたとおりに剣を振ることしかやっていない。教えられる剣の型のその背景を考えたこともなかった。
「そっか、じゃあ、ガンマは頭がいいから、強くなれるかもね。何手先も読んで戦う感じで……」
「私が……強く……?」
思いもよらなかったというような顔をガンマをしていた。
そんなにおかしな話でもないと思うけど、今までがダメダメすぎて、ガンマは戦闘に関して自信がまるで失っていたのかもしれない。
「そう。一緒に頑張ろう?」
「はい!」
ガンマはとびっきりの笑顔を見せて頷いてくれた。
***
今日はナブラの研究報告会だった。
是非にと、ガンマに呼ばれて、僕も来ている。いつも面白そうな道具が出てくるから、最近の僕の楽しみでもあった。
この世界は、さすが中世といったところか、娯楽もなかなか少ないからね。
さて、今日はなにが出てくるか。
「じゃあ、ガンマ。あと、ベータ。前に出てくれる?」
前で発表をするナブラが二人を呼んだ。
「ガンマはわかるんですけど、私……ですか?」
「ガンマの相手をしてもらおうと思って……急で悪いけど」
「いえ、そうですね。わかりました」
そうやって、ベータも前に出る。ベータはどうやら、これからなにがおこなわれるか知っているようだった。
そうして、ナブラは話し始める。
「それじゃあ、今日はこのスライム制御装置をお披露目する。これは、こんなふうに、魔力を流せば、魔力操作いらずに事前に読み込ませておいた形にスライムを変形させる優れもの。こんなふうに」
そうやって、ナブラは装置に魔力を流して、スライムでワシのような鳥を作って見せる。
羽根の形から、細かい部分までしっかりとできている。あれくらいの魔力操作ができるのは、僕か、アルファ、イプシロンくらいだ。
イプシロンはそれを見て、どうしてか苦い表情をしているようだった。
「記憶した形状をコマ送りに、動かすこともできる」
ナブラの作ったスライムのワシは、首を動かしたり、ときおり羽を広げてみたり、生きているように動いてみせる。
少し気になったのが、動きが鳩みたいだったということだ。インパクト重視でワシの形にしてみたけど、ワシを捕まえて観察するのはナブラには難しかったのかもしれない。
まぁ、それでも、スライムで動物園が作れそうだ。
「そして、ここからが本題。これをスライムスーツに同期させて、動きの補助に使う。ガンマ、これ付けて」
「はい!」
そうして、腰のあたりに、ガンマはその装置を装着した。
装置を起点に、ガンマのスライムスーツに魔力が浸透していくようだった。
「事前に、ボスの剣技における体の動きを装置には入力してある。それじゃあ、ベータ。ガンマと戦ってみて」
「はい。わかりました。じゃあ、ガンマ手加減できませんよ?」
「ええ、全力でお相手をよろしくお願いします」
互いに剣を構えて、ガンマとベータが向き合う。
「それじゃ、始め!」
「はぁ!」
ナブラの合図とともに動いたのは、ガンマだった。
そのしっかりとした踏み込みに、僕を含めて、アルファや他の見ていたみんなは目を奪われる。
「……っ!? これが、ガンマ!?」
相手をしていたベータも、動揺を隠せずにいた。ただ、落ち着いて、堅実に対処できている。さすがは、『堅実』のベータだ。
「ガンマがへなちょこじゃないのです!?」
デルタも驚いている。
面白い道具が出てくるから、僕と同じくデルタも見学をしていた。
「さぁ、まだまだこれからです」
「フェイントまで……!?」
ガンマはベータの相手をしていてかなり余裕を持っているようだった。
間合いを的確にはかり、搦手を用いながら、着々とガンマはベータを追い詰めて行っているように見える。
「どうです? ベータ」
「強い……」
僕の目には決着は明らかだった。
このまま、ガンマがベータを追い詰めて勝つだろう。
二人の動きは、ほとんど互角……いや、ガンマの方がわずかに劣っているように見える。けれども、自分のできる動きの中から最善をガンマは選び続けているようだった。
それに最初に、ガンマの動きに動揺したわずかな綻びが、この結果の要因の一つにも見える。
「ベータ。私の勝ちです」
「そんな、ガンマが……」
そのままに追い詰め、決着がつく。
なんと、あのガンマが、ベータに勝ってしまったのだ。みんなはとても驚いて、言葉を発せないようだった。
「ふ、よくやった」
万感の思いを込めて、僕は拍手をする。
僕にとっては、初めての挫折だった。
デルタは頭が悪くて、ガンマは運動神経がわるくて、僕の教えた剣技をまるで使えなかった。
デルタはともかく、ガンマは剣が使えないことを気にしているようだった。
もう僕は諦めて、ガンマはその賢さを長所に頑張っていけばいいと伝えていた。
けれどもガンマは諦めなかった。僕が陰の実力者を目指しているように、ガンマは他人になんと言われようとも諦めなかったのだ。
そんなガンマに、素直に僕は感動している。
「ガンマ……形はどうであれ、よくぞ我が剣技を体得した」
「主様からお褒めいただくなんて……光栄です。今日の日は決して忘れません」
ガンマは感涙をしていた。
ガンマにとっては、僕の剣技を実践することは、それほどのことだったのかもしれない。
改めて、そんなガンマに僕は敬意を表する。
「こんなふうに、このスライムスーツ制御装置を使えば、正しい動きへと身体を補助してくれるため、ガンマでも強くなれる」
そういえば、ナブラの新しい道具の発表だった。
ナブラは道具の使い方についての概要を話してくれる。なんというか、決まった動きを繋げるみたいだから、格闘ゲームのコンボみたいだった。
「すごいわ、ナブラ。正しい動きを知れるということは、補助なしの剣技の習得を早めることにもなる。すぐに増産をして、シャドウガーデンの新人のみんなに配備しましょう? まずは、どのくらい作れるかしら?」
いつになく、アルファは乗り気なようだった。とても笑顔で機嫌がいい。
確かに、これがあれば、剣技の習得も数段、早くなるだろう。ただ、それでも魔力の扱い方を学べるわけではないから、修業は必須になる。
「ボスー。デルタもあれ使ったら、強くなれる?」
「デルタには難しいんじゃない? デルタって、他人の動きを真似したりするの苦手でしょ?」
「そう! デルタはデルタのやりたいようにやるの!」
ま、デルタは仕方ないかな。
それから、アルファとナブラにガンマは、その新しい道具について相談しているのを、僕は難しい話はわからないから、適当に相槌をして聞き流した。
***
「シャドウガーデンの規模も大きくなった。そろそろ、この廃村も使えなくなるわ」
私たち七陰が集まって、定例の会議が始まった。
「では、アルファ様」
「ええ、ついに来るのよ。私たちが、彼のもとを離れる時が」
私たちシャドウガーデンは、ディアボロス教団を倒すための組織だった。
ディアボロス教団とは、私とお姉ちゃんを攫おうとして、ボスにやっつけられた悪奴らの仲間のことだ。
「敵の規模は巨大。我々も世界に散る必要が出てくるでしょう」
「ええ、今はまだ……だけれど、寂しくなるわね」
アルファ様は、シャドウガーデンを、特に七陰のみんなを家族のように思っている。悪魔憑きを発症したときに、捨てられたかららしい。
いや、アルファ様にとっては、私たちは家族以上の繋がりなのかもしれない。
私にとってはお母さんみたいだった。
「でも、そっか……」
シャドウガーデンに所属する新人が増えて、今はイプシロンに無茶を頼む必要もない。
ただ、それでも、みんなとわちゃわちゃと過ごす生活は、私は、楽しかったと思う。
そうだ、楽しかったんだ。
そして、これからも私の研究は続いていくだろう。ディアボロス教団を倒すため、そして、魔法少女になるために!
第一部、完!
七陰列伝は飛ばして、原作の方に入ります。
評価、色がつきました。本当にありがとうございます。