魔法少女になりたくて! 作:陰の手下
きっかけがなんだったのか覚えてはいない。ただ物心ついたときには、もう憧れていた。
――魔法少女に。
「えー、このタイプのアーティファクトなら……今までやってきた式を組み込めば、解析できるだろう。わかる人」
「はい! 先生!」
そんな私は紆余曲折あって、ミドガル学術学園で教師をしていた。
***
二年前に遡る。
「ナブラ。シャドウ様により、七陰の招集がかかりました」
「招集……? なにが?」
「シャドウ様のお姉様……クレア様がディアボロス教団に誘拐をされました」
「それは大変……行かなきゃだね」
シャドウ様には、表の顔がある。
カゲノー男爵領、男爵家の長男。将来を待望される姉、クレア・カゲノーの陰に隠れる冴えない少年。
シャドウ様は、ディアボロス教団の壊滅のために動いているが、家族にもそれを知られることなく、普段はその大いなる実力を隠し、ただの少年として世間では知られていた。
それは、ひとえにシャドウ様の優しさからくるものなのだろうと思う。姉であるクレア・カゲノーは、悪魔憑きであったが、シャドウ様により、悪魔憑きに気がつく前に治癒されている。だから彼女はシャドウ様の正体も、シャドウガーデンの存在も知らない。
無用に家族を世界に蔓延る闇へと関わらせたくないと、そういうことなのだろう。
私たちは、真実を知ってしまったから、復讐を望んでしまったから、シャドウ様は仕方なく知恵に、力をお与えになった。そういうことなのだろう。
私は急いで、招集先へと向かっていく。
襲撃のとき、シャドウ様のお屋敷で、そばにいたのはベータだった。
「ベータ。襲撃は……防ぐことはできなかったの?」
「いいえ。防ぐことも可能でしたが、泳がせるという判断でした。クレア様の悪魔憑きの真偽を判定するのが目的ならば、必ず生かして捕えるはずでしたから。そこを一網打尽に」
「そう。敵のアジトは……全て特定済み?」
「はい。ただ、クレア様のいる隠されたアジトは、資料を一瞬で読み解き、シャドウ様が」
「さすが、ボス」
私たちの未熟で、ボスの手を煩わせてしまうという点は、とても恥ずかしい。
もうすぐボスのもとを離れて、私たちだけで活動するにも関わらずだった。
しばらくすると、七陰が全員集まってくる。普段は外に出ないイータもいた。
最後にボスが、いつのまにか私たちの目の前に突然現れる。
「では、行きましょう?」
突然現れて、突然いなくなるのがシャドウ様だ。
アルファ様は慣れたように、そう語りかける。
「うん、そうしようか」
「一人残らず、狩り尽くしてやるのです!」
「デルタ。作戦とかもあるし、あんまり暴れすぎないようにね」
「眠い……」
「イータ、徹夜で実験してるからよ。いつ招集があるかわからないんだから、これからはほどほどにしておきなさい?」
「早く終わらせて、早く帰ろうか」
みんな賑やかだった。
「ガンマ、緊張してる?」
「え……と、はい。ちゃんと戦えるかどうか」
例の装置を使っての対ディアボロス教団の実戦は初めてだった。
「大丈夫。ガンマならできるよ」
「そうならいいのですが……」
実戦のデータもとって、より良いものにしなくてはならない。
そうして、奴らのアジトに潜入した。
なんというか、やっぱり手応えがなかった。雑魚しか派遣されてこなかったのだろう。皆殺しだ。
ガンマも問題なく戦えている。
気がつけば、ボスがいなくなっていた。いなくなるのはいつものことだ。私たちにはできないことをやってくださっているのだろう。
私はガンマの戦闘の記録をつけつつ、尻尾や髪の毛を汚さないように戦い、みんなについて行って進んでいく。
ふと、みんなが立ち止まって、おもむろにカッコよく整列し始めた。私もその列に加わる。お姉ちゃんの隣だ。
「き、貴様らは……っ!」
男の人だった。魔力の質から言って、今までの雑魚よりは、ちょっと強そう。たぶん、リーダーかなにかだろう。
「我らはシャドウガーデン」
いつも通り、アルファ様に続けて私も言う。
「陰に潜み、陰を狩る者」
すぐに気づく。私だけで言ってしまっていた。
みんなで斉唱するものだと思っていたけど、いつもそうだったけど、一人だけで言ってしまったから、恥ずかしくて耳がしゅんとなる。
「ディアボロス教団の壊滅を目的とする」
「我々は全てを知っている」
「魔神ディアボロスの復活。英雄の子孫」
「そして……悪魔憑きの真実」
ベータ、ガンマ、イプシロン、そしてまたアルファ様と、一言ずつくらいで、みんなが交代でセリフを言っている。
なんだ、そんな感じだったかと、私はちょっと元気になった。
「その名を……その秘密を……。どこで知った……ッ!!」
教団の人は斬りかかってくる。
アルファ様が相手をしてくれるようだった。
リーダーは生け取りで、情報を吐き出させてから殺すという話だったから、私たちは手出し無用で、そのリーダーの周りを取り囲む。
途中、教団の人は薬のようなものを取り出すと、それを飲み込んだ。
教団の人の魔力が活性化する。その魔力は、なんだか悪魔憑きに近くなったような気がした。
強くなった教団の人の力に、アルファ様は軽く勢いに押されて距離が空いた。そうすると、教団の人は今よりも下の階に、床に穴を開けて逃げて行った。
「追いますか?」
「問題ないわ。この先には彼がいるもの」
先回りをしていたのだ。さすがボスだ。
私たちが追いついた頃には全て終わっていた。
教団の人はシャドウ様に斬られて死んでいるようだった。ボスがやると、必ず皆殺しで敵の痕跡も消し飛ばしてしまう。それは、ボスの強すぎる力によるものだろう。
その後、イータや私で教団のアジトの調査を終えて、今回の件は終わった。
誘拐をされたボスのお姉さんは、ボスが拘束を解いて、その場にそっと残してきていたから、大丈夫だろう。
それが、ボスの庇護下で七陰みんなであたった最後の作戦だった。
その後に、教団壊滅のために世界中に私たちは散らばるから、みんなでお別れをボスに言った。
そのとき少しボスが、気のせいか寂しそうな表情をしたのが印象的だった。
それからは、いろいろあった。
霧の龍をシャドウ様が打ち倒し、昔話に伝わる古都アレクサンドリアを私たちの拠点にしたり、聖教の秘密部隊と戦ったり、ベガルタ帝国に行ったり、そう……私たちピンチに駆けつけたシャドウ様が、敵の上層部……ナイト・オブ・ラウンズの一人を討ち取ったりもした。
なんだかんだで、ボスには助けられてばかりだった。
そんな中、シャドウガーデンで活動するにあたり、私たちは表でも地位を得ることになる。
「古代遺跡の碑文を解読するならば、聖地リンドブルムと同じく、魔神ディアボロスの体の一部が封印されると目される地」
「そこは……」
「ミドガル学園。できれば、あなたにはここに潜入してもらいたいわ」
ボスの姉のクレア様が入学した場所でもあり、ボスが入学する予定の場所でもある。
「私が、生徒になる……? でも、あそこは人間の学校じゃ……」
「今のところ、シャドウガーデンにはエルフか獣人しか所属していない。確認されている人間の悪魔憑きはお姉さんたった一人。生徒としての潜入は現実的なものではないわ」
悪魔憑きは、エルフ、獣人、そして人間の順に多い。これは寿命によるもので、世代交代が遅く、魔神ディアボロスを倒した英雄の血が濃ければ悪魔憑きは発現しやすいからだ。
「そうですよね」
「そこでよ?」
***
そうして私は先生になった。
今はミドガル学術学園に在籍している。ちなみに年齢は偽装して、本来より高めな設定だ。前世も含めたら私はそれくらいで問題はないだろう。
いろいろあった。本当にいろいろあった。
まず論文を投稿して、アピールをして、実績を作ったり、大変だった。
獣人に学問が務まるのかと言われたりした。差別……と思わなくもなかったが、お姉ちゃんを見たら仕方ないかなとも納得した。
「アーティファクトの研究は順調かね?」
「はい。滞りなく」
「あぁ、君には娘の個人的な指導も任せているから、そう固くならなくても結構だよ」
「はい。ルスラン・バーネット副学園長」
私がこの学園に来れたのは、彼のおかげと言っても過言ではない。私の学校への就職を、半ば強引に推し進めてくれたのだ。
それでも周りの人達の彼への評価は、義理の娘のためになんでもする人情深い人間と、それほど落ちたようではなかったから、彼の人柄の良さがうかがえる。
ただ、どうしても胡散臭いような、そんな匂いが彼からはした。
「ナビア先生。お夕飯ご一緒しませんか?」
ピンク髪で、アンテナみたいな一房の髪がぴょこっと立った女の子だ。
この子こそが、ルスラン・バーネット副学園長の義娘のシェリー・バーネットちゃんだ。ちなみに本来の年齢で言えば、私より年上だったりする。
それとナビアというのは私の偽名だ。元の名前のセラを使うのでもよかったけれど、さすがにそれはと、ガンマやベータ、アルファ様に止められてしまった。
「あぁ、ご飯なら構わないけど」
「えへへ、よかったです」
「なら、私が奢ろうか」
副学園長もついてくるつもりのようだ。奢ってくれるならありがたいけど、少々この義父は過保護な面が目立ってしまう。
それを割と疑問もなく受け入れているのだから、シェリーちゃんもシェリーちゃんだ。
「ナビア先生は今日ももふもふですね」
シェリーちゃんは私の尻尾を抱きかかえて言った。
最初に触るのを許可してから、私の尻尾を毎日もふもふしている。
「今日も手入れは完璧」
「こら、シェリー。ナビア先生が困っているんじゃないかい?」
「ふふ、もうちょっと……」
「うん、もうちょっとならいい」
ルスラン・バーネット副学園長は、そんな私たちを見て、肩をすくめた。
そうして、私たちは外に出かける。どの店がいいかは決めていなかったが、途中、歩いて買い食いをしていた学生をみかける。
「あ、マグロバーガー……」
「最近、流行りみたいだね」
副学園長は知っているみたいだ。
「ふえ?」
シェリーちゃんはそういうのに疎いから、首を傾げる。
ガンマの始めたお店だった。目玉商品はマグロサンドにマグロバーガー。なんというか、前世のファストフード店を彷彿とさせるものだった。
「間食とか、時間がないときにって感じで、あんまり夕食向きじゃないかな。それに混んでますし」
行列だった。入店まで九十分待ちみたいだ。
「シェリーはどうだい? 行ってみたいかい?」
「私は……えっと、行ってみましょう!」
門限までに間に合ってくれればいいな。いくら副学園長とはいえ、娘を特別扱いはできないだろう。
私は生徒じゃないから、門限はない。
私たちは列に並ぶ。
列に並んですぐに、店員さんに後ろから話しかけられる。
「あの、すみません……。こちらだったら、すぐに案内できるのですが」
「あちらは、特別席用の入り口のように見えるけれど、なぜだね」
反応をしたのは副学園長だ。
「はい。ちょうど予約にキャンセルが入ったので、お声をかけさせていただきました」
それは、流石に厳しくないだろうか。
ガンマの店の店員は、みんなシャドウガーデンの子達だった。私は七陰で、彼女たちは部下。つまりだ……よせばいいのに、私に忖度してくれているのだ。
私とガンマのお店とのつながりがバレないかとピクリとする。バレてどうなるかという話ではあったが、バレないに越したことはないだろう。
私がシャドウガーデンの七陰だとバレて、芋蔓式とか嫌だし。
「それなら、特別席の予約は数ヶ月待ちとも聞くし、二度とないせっかくの機会だ。入らせてもらおうじゃないか」
「かしこまりました」
そうやって、私たちはVIP用の席に案内されてしまう。
私はすっかり縮こまってしまう。
「わー、綺麗。なんだか、お姫様になったみたいですね」
豪華絢爛とも言える装飾の数々に、シェリーちゃんは目を奪われているようだった。目に見えてはしゃいでいる
「シェリー。この幸運によく感謝しなさい」
「はい、お父様」
提供される料理は、前世でいう本格派バーガーを高級食材で作ったみたいな感じだった。
ファストフードの方とは全然違う。
ご飯の方は満足したけど、ガンマが出てこないかと私はヒヤヒヤして、食事に集中できなかった。
途中で出てきたタピオカっぽいフロートのドリンクが私は好きだった。デザートも美味しかった。
「はぁ、とっても美味しかったですね!」
帰り道、美味しいものを食べられて、上機嫌なシェリーちゃんだった。なんとか乗り切れて、私はホッとしていた。
「副学園長、お財布は大丈夫ですか?」
メニューに値段は書いてなかったから、いくらかかったかはわからない。
「なに、このくらいはどうってことないさ。可愛い娘たちのためだと思えばね」
さすがはミドガル学術学園の副学園長か。多少、奮発したくらいでは揺るがない財力の持ち主だった。よかった。
それとも、店員の子達は割引とかしちゃったんだろうか。怪しまれるようなことはしないでほしい。
「それじゃ、私はこれで」
「おやすみシェリー。ゆっくり休むんだよ」
「はい、お父様」
シェリーちゃんは自分の部屋へと帰っていく。
「じゃあ、君も送ってあげよう。女性の夜道の独り歩きは危ないからね」
「そんな、副学園長はご病気でしょうに……」
「君と話したいこともあるんだ」
なんだろう。私がガンマのお店と繋がっていることがバレてしまったのだろうか。それが理由で、シャドウガーデンの七陰だと勘付かれ、実はルスラン・バーネット副学園長が教団のナイト・オブ・ラウンズの一人で、殺されてしまうのだろうか。
さすがにそれはないかと首を振る。
そもそも教団にはガンマのお店がシャドウガーデンと関係しているとは、バレていないみたいだしね。
「シェリー……あの子は、聡明な研究者である君のことを、母親と重ねて見ているのではないかと思っているんだ」
「あの子の、母親ですか」
確か、シェリーちゃんと同じ研究者だったと聞く。あの子は母親の研究を引き継いでいるということだったか。
「あぁ、いろいろとね。あの子は今では明るく振る舞ってるけど、昔はいろいろあったんだ。ナビア先生には、ぜひ仲良くしてもらいたいと思ってね」
「はい、今後ともよろこんで」
ルスラン・バーネット副学園長の後ろ盾があって、私は学園に潜入できているようなものだから、とりあえず、取り入っておくことにする。
というか、私はシェリーちゃんより年下の魔法少女候補だ。母親か……。
「じゃあ、君も……おやすみなさい」
「はい、先生もお気をつけて」
これが私の学園潜入ライフだった。
***
きっかけがなんだったのかは覚えていない。ただ物心ついた時には憧れていた。
陰の実力者に。
アルファたちは、僕の元から離れてしまったが、大人になってしまったのだ。
今までは僕が口からでまかせで言ったディアボロス教団の存在に、友達として、みんなが話を合わせてくれていただけ。ディアボロス教団なんて存在しないし、陰の実力者はごっこ遊びでしかない。大人になれば、みんな卒業していってしまうものだった。
ディアボロス教団が世界規模という設定も彼女たちが作った口実で、要するにごっこ遊びはやめて、自由にやらせてもらいますということなのだろう。
ただ、何も変わらない。みんなが卒業していったとしても、僕だけは陰の実力者を諦めずに目指し続ける。
いつか来る、その時のために。
そうして、僕はミドガル魔剣士学園に入学した。
陰の実力者は、表の顔として目立たないモブの道を極めるのも、また必要だった。モブ生徒Aとして、僕は学園生活を送るつもりだ。
「久しぶり、ボス」
いうほど久しぶりではない、彼女たちは週替わりで、僕のもとへとやってきていた。命を助けてもらった最低限の恩ということなのだろう。
「そう言えば、ナブラはミドガル学術学園に就職したって話だったね。隣だっけ」
ミドガル学術学園と魔剣士学園は同じ敷地にあり、図書館だったりとか、共有する部分もある。
「うん、ボスの授業も担当するよ?」
「僕が通うのは魔剣士学園なのに?」
「魔剣士に計算はできない」
「それもそうか」
魔剣士学園といっても、授業で常に剣を振るっているわけでもない。最低限の教養は身につけるが、なるほど、学術学園と先生は兼任みたいだ。
「楽しみにしててね」
そう言って、ナブラは尻尾を振りながら帰っていく。
今日もナブラは綺麗な毛並みだった。
評価たくさん貰えました。ありがとうございます。高評価だと特に嬉しいです。