救世屋(めしや)はじめました。 作:タラヴァガニ
お楽しみいただけると幸いです。
「───キミのためなら運命だって、世界だってなんだって奪ってみせよう」
癖のついた黒髪を揺らし、目元を仮面に隠した、黒い外套に身を包む青年。かつて一世を風靡した怪盗団のリーダーにして、世界を救ったトリックスター『
仮面に包まれているが故に、その表情の仔細を汲み取ることはできない。が、それでもただならぬ想いを抱いて彼がここに立っていることはわかった。
「だから、もう俺の前から居なくならないでくれ.......」
消え入るような声で、嘆願にも似た声がその場に木霊する。
どうしてこうなった。
崩れてゆく世界をよそに、僕はただ眼を閉じて己の過去を顧みた。
◆◆◆
───死
それは、人類が長い歴史の中で最も恐れてきたもの。
そして、今、まさに我が身に訪れんとするもの。
僕はもとより持病が原因で、物心ついた時から病院暮らしであった。そのため外というものを知らず、逆に、病院の天井というものはもはや見慣れた天井となってしまった。ただ、その代わりと言ってはなんだが、長い病院生活の中でも得るものはあった。
というのも、自由な時間が存外多く、両親に与えられた教材をやる傍ら、僕はゲームやアニメにハマった。中でもペルソナ5の存在は僕の中でとても大きい。
同世代の主人公が、僕が未だ知り得ない「外」の世界で仲間との絆を深めつつ、幾度もの困難に見舞われながらも折れずに自らの信念を貫き、勝利を収め突き進む。そういった彼、ないしは彼らに魅せられた。外の世界に憧憬を抱きながらこのゲームを何度もプレイし、共に闘病生活を歩んできた。
だが、そんな生活ももう直に終わるだろう。
案外、自分の死期というものはわかってしまうもので、自分が思っていた以上に早くにその時が来たと言う驚きと共に、
意識が遠のく感覚が明瞭に感じられる。
どうか......もし僕に来世というものが訪れるのならば、そのときは『外』を感じられますように。
目が覚めた。視界が霞んでいて周囲の状況がいまいち掴めない。その上体の自由も効かない。ただ、微かに香る薬品の匂いなどから考察するに、今までの経験でわかるのはここが病院であるという事。
死んだと思ったけど、ただの勘違いだったのだろうか?
それはない。と自身の本能が告げる。霞んだ視界で徐に自分の手を覗き込んでみると、そこには病弱で痩せ細っていた頃とはまた違う、齢18歳とは思えないほど小さな、それでいてふっくらとした小さな手が横たわっていた。
まさか、これは所謂転生というヤツでは?あまりにも非現実的で、稚拙な考えではあるものの、僕はその可能性を否定出来ずにいた。
結論から言うと、本当に僕は転生していたようだ。それも、病知らずの身体という願ってもないオプションをつけて。
外見は変わらないままで、名前もちょっと漢字が違うだけで読みは同じの
前世のことがあり、今世ではとにかく『デカイ風呂』と『運動』、そして極め付けは『料理』が僕の主な趣味になっていた。
物心ついた時から親の手伝いをして、前世で暇さえあれば見てた動画の知識も使って、家庭料理全般においてはかなり美味しく作れるようになったと思う。お菓子系はちょっとニガテだけど....
『健全なる精神は、健全なる肉体に宿る』とはよく言ったもので、美味しいものを食べた時の幸福感は底知れない。やはり生きていく上で
かの地上最強の生物も言ってたしね『強くなりたくば喰らえ』ってさ。いや、それはちょっと違うか。
幼稚園では、唯一の不安であった人間関係も思いの外上手くいった。なんというか、身体に精神が引っ張られたのか......意識せずともその年代のノリに付いていけたっていうのが大きかったんだろう。
順当に小学生となり、3年になった頃『
名前が完全に一致している上に、色々と特徴が似ているためかどうしても前述のゲームの主人公と重ねてしまう。
しかし、超珍しい名前というわけではないし、おとなしめの男の子なんてどこにでもいる。だから、他人の空似ということで区切りをつけて、あくまで別人として接することにしていた。
まあそれでも、だいぶ彼に傾倒してたかもしれない。
だって仕方ないじゃん。皆もやったでしょ?メル画とか、某チャットAIでロールプレイングしたりとかさ。あれ、してない?
ま、まあそんな感じで、先入観もあるけどやっぱりちょっと会話の端々に『ぽさ』があるのが楽しくて、ついつい話し込んでしまったりして。
そうこうしている内に、楽しい時間はあっという間に過ぎていき中学生活ももう終盤になっていた。
小学生の時までは僕の方が背が高かったのに、すっかりそれも負けてしまって。あのちょっと頼りなかった背中も大きくなって、運動じゃあいい勝負をするのがやっと。日々頑張っている彼を見ていたら、いつの間にか勉強くらいしかマトモに勝てるところがなくなっててそれはもう焦った。成長速度おかしくない、キミ?
友情ってここまで人のポテンシャルを引き出すものなの?もしそうだとしても当の本人は複雑なんだけど......
前述の通り僕たちはもう中学3年生。つまりは受験シーズンというわけだ。当然僕たちは進路選択というものを迫られる。
じきに夏休みに入るっていうのに僕は進路について悩んでいて、学校のコンピュータ室で色々と高校について調べていた。外はひどい雨で、風で窓はガタガタと揺れる。そんな日だった。
無難に地元の高校にするか、それとも自分の学力にあった高校にするか......はたまた一髪発起して東京に出てみるとか。
そんなとき、興味本位にある高校の名前を検索エンジンに打ち込んでみた。
───その高校の名は『秀尽学園高校』
何を隠そう、ペルソナ5の舞台となった高校だ。もちろん『検索』の欄をクリックするまでは本気でヒットするなんて思いもしなかった。
けれど、その予想とは裏腹に液晶に映し出されたのは、偏差値やら住所やら、今時は卒業した有名人とかも出るのか.......まあとにかく、詳細な学校の情報───すなわち、本当にこの学校が実在するということの証明だった。追加で調べてみたら八十稲羽だってあったし月光館学園だってあった。つまりこれが示すのは、この世界がペルソナシリーズの世界だということ。
いや確かに子供の頃フェザーマンとかやってたし、ちょくちょく聞いたことあるような名前もテレビで見たけどさあ!まさかホントにペルソナ時空だと思わないじゃん!?
この世界が僕の大好きなゲームの世界で、もしかしたら親友がその主人公かもしれない。これがはたして興奮せずにいられるだろうか。いや、ない(反語)
いやでも
そんなあまりの情報量とショックを処理しきれず脳がパンクしたようで、椅子から転げ落ちてパソコンの前でしばらく気を失っていたらしい。
これを後から担任の先生から聞いた時はなんと情けないことかと自分を呪ったものだ。仕方ないと言えば仕方ないかも知れないけど、それでも気を失うって相当よ。
その上こんな理由で気絶したなんて知られたら、笑い物にされるかトンチキな奴だとドン引きされるかの二択じゃん。誰が信じるんだよ『この世界がヤバい!!』なんて。シ○タゲかよ。オムライスに書いてやろうか。
とにかく、この事実は 絶 対 に ! 墓まで持っていこうと、ダイヤモンドよりも硬い意志でそう決意した。
とまあ、こうしてこの世界はほぼ確実にペルソナ5の世界と決まったわけだけど、そうと分かったなら原作に多少なりとも介入したいというのがファン的思考だろう。世界滅びるかもしんないけど。今更感あるよね、もはや。
ただ、僕としてもこの天然記念物級の世界を終わらせてしまうのは嫌だし、なにより今世の目標は大往生!とにかく生を謳歌していたいのだ、だから世界が滅びてしまったら意味がない。
それに、原作介入って言ったって別にそんな大した役柄が欲しいって訳じゃない。一瞬映るモブでもいい、ほんのすこしのフレーバーテキストに映るくらいでもいいのだ。そうやって、この世界に自分がいたという事実を残したかった。
だから、とんでもなく俗な考えでとても身勝手ではあるけど、僕は大都会東京へと足を進めることにした。もちろん、しっかりと親と先生にはしっかり話を通して。
向こうも、僕がいきなり東京に行きたいなんて言い出すもんだから、そりゃあもう困惑していた。お金はどうするんだとか、なんでわざわざ東京になんて行くのかとか色々。
ゲームの舞台だからとか、そんな頭おかしいこと言えないし、必死こいて学校のこと調べて正当性を提示して......多分、側から見たら世界で一番真面目に進路決めてたんじゃないかなと思う。理由はアレだけど。
でも、一番の猛反対を食らったのは蓮からだった。伝えたのが卒業式だったってのはあるけど、それはもうスゴかった。剣幕というか、圧というか諸々。目が据わってたんだよね、目から光という光が消えてたもんだからあの時は怖かったよほんと。
でも事情を彼に伝えてしまったら全てが台無しだったし「やるべきことがあるから(キリッ」の一辺倒でなんとか押し通した。今考えるとよくこんなんでなんとかなったな、と我ながら思う。
そうして色々な問題を押し切って、晴れて僕は秀尽学園高校へと入学することができた。
.....ここから始まるんだ、全ては。
───さあ、見せてもらおうか。間近で、この世界の行く末を!
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