【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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★第十話★ バズ

【悲報】マリンちゃん、TVデビューに失敗する【かわいい】

 

ーーーーーーー

 

1.名無しのガチ恋してます。

 かわいいよね。高校デビューで友達ができなかった事も含めて。

 

2.名無しのガチ恋してます。

 お労しや、姉上。

 

3.名無しのガチ恋してます。

 仕事に真面目だからこそ姉はウケるキャラ作ったのに、天然な弟に全部台無しにされるのかわいそう(でもかわいい)

 

4.名無しのガチ恋してます。

 姉は抜けてるところが、弟は天真爛漫なところが母親似。

 

5.名無しのガチ恋してます。

 ではここで幼年期のデビュー作である映画を見てみましょう。

 https://www.youtube……。

 

6.名無しのガチ恋してます。

 >5

 草。昔の方が賢そう。

 

7.名無しのガチ恋してます。

 >5

 主演で思い出したけど、そういえばマリンとルビーはアイの子供だったね。こうしてみると遺伝子強いな。姉弟共に美形で特徴出てる。

 

8.名無しのガチ恋してます。

 これは淫のオーラを発してる病み系。

 

9.名無しのガチ恋してます。

 このレスは削除されました。

 

10.名無しのガチ恋してます。

 >9

 本人が見たら卒倒しそうな性癖長文やめーや。

 

ーーーーーーー

 

 …………

 ……

 

「見事にお姉ちゃんのキャラ決まったね。こってりとしたオタクつくよ、これ」

 

「半分お前のせいだよ」

 

「でも良かったんじゃない。こうやって素が出せる環境ができて万々歳でしょ」

 

「そうだねぇ。アクア君、嘘つくの苦手だから……」

 

 2回目の収録。その待機室にて。

 いつもの四人組で簡単なメイクチェックを終えると、全員揃ってスマホを眺めて飲み物を口に含むという、一種異様な光景を収録時間まで洒落込む。

 

「しかし9番目のレスが気になるわね。どんな性癖をぶち撒けてたのかしら」

 

「そんな際どいこと書いてたかなぁ。結構共感できる内容だったけど」

 

「あかね、このスレに住んでる?」

 

「うん。自分が出た作品の評価って気にならない?」

 

 こういう生真面目で律儀なところがメンタルやられる原因の一環でもあるんだが、そういう勤勉なところが女優として大成したとも考えられるからな。演技に対して自論が薄い俺ではなんとも言えない。

 

「やめときなさい。所詮ネットの書き込みなんて、便所のラクガキ同然。いちいち気にしてたら身が保たないし、クソだと思って水に流しときなさい」

 

 汚い言葉使うな、二重の意味で。

 

「でも、不思議に思ったんだけどかなちゃんはどうしてアクア君誘ったの? 今は女同士だし、流石に番組内でキスシーンはちょっと難しいと思うよ?」

 

「ただのリベンジマッチよ。子役時代に一度ボロ負けした返しをしてなかったから」

 

「それ言ったら、私だってかなちゃん相手にまともに戦ったことないよ? 東ブレの時は勝ちを譲られたものだし……」

 

「じゃあアンタも一緒にやる? ただ勝者は一人。私だけじゃなく、アクアとも戦うことになるけど」

 

「アクア君と……ねぇ」

 

 あかねから視線を向けられる。瞬きを一つ重ねる度に、瞳の星もまた瞬く。

 興味、高揚感、闘争本能——。やがてそれは好敵手でも見つけたかのような、あるいは狩りがいのある獲物でも捉えたかのような、艶やかな笑みを浮かべた。

 

「すっごい面白そう——。私も乗らせてもらおうかな」

 

「えー!? だったら私だけ仲間外れじゃん!? 私も入れてよぉ〜〜!!」

 

「はいはい。じゃあルビーも追加で四つ巴ね」

 

「私の扱い軽っ……。でもせっかくこうなったんだから、何かしらの優勝賞品欲しくない?」

 

「金メッキのトロフィーとか用意できないぞ。何をトロフィー代わりにするんだ?」

 

「高級焼肉奢りとか、なーんて……」

 

「焼肉……」

「焼肉……」

「焼肉……」

 

「え、御三方にはそんな魅力的に聴こえたの?」

 

 いや、単純に他人の金で食う飯は美味いじゃん? それが焼肉ならもっと美味いじゃん?? しかも高級なら格別に美味いじゃん???

 

 だったら断る理由ないだろ。もうすでに空気が「それで行こう」と言っている。

 

「いや〜〜遅れてすいません! ちょっと寝坊しちゃいまして〜〜!」

 

 さて、ここで収録が始まらなかった原因であるノブユキの到着だ。

 俺達もさっさと合流して収録準備に移らないとな。

 

「もう遅いよぉ。朝眠いのは分かるけど」

 

「そうだよ。朝はみんなで番宣用のショート動画上げるって言ったじゃん!」

 

「そう思って皆の朝飯買ってくるついでに、これも買ってきたから許してくださいよ〜〜、メッさん」

 

「それで許すとでも……。ってこれ巷で有名な七色アイスじゃん!?」

 

「でもこれ一色で一玉だから一人食えないぞ」

 

「俺を気にせず皆で食ってくれって。詫びなんだからさ」

 

「もー。ノブくん、そういうところズルいよね。収録中ならキュンとしちゃうのに」

 

 ノブユキは本当こういうところがあるから許してしまう。

 たった一回の収録で、皆はもうすでにアイツが裏表のない好印象なやつってのが分かっていて、裏ではもう皆の中心人物となっている。

 

 あかねの炎上騒ぎの時も一見何もしてない様に見えたが、その実裏方として買い出しをしてくれたり、仮眠を取るから時間が経ったら起こしてくれと頼んだら起こしてくれたりと、誰よりも率先して雑用を引き受けてくれるような本当に良いやつだ。

 

「……熱い視線送ってるけど、やっぱコレ?」

 

「ちげーよ。お前の腐った脳味噌を重曹に漬けるぞ」

 

「辛辣ぅー」

 

 なんて言いながらも、自然体の空気のまま俺達も『今ガチ』四人組に合流してSNS用の写真を撮るために各自で一つずつ持つ。

 

 俺はブルーハワイ。ルビーはチェリー。

 MEMはレモン。ケンゴはバニラ。

 あかねはブルーベリー。有馬はストロベリー。

 

 そしてゆきはグレープ味。ノブに合ったイメージを持ち、気持ち強めに身を寄せて写真に写ろうとする。

 

 本当に『今ガチ』のメンバーは何も変わらずに居心地が良い場所だな——。

 こういう青春があったからこそ、あかねの炎上騒ぎを我が事のように解決してくれる青臭さもあったんだよな。何の損得もなく、ただただあかねを救いたい一心で。

 

「せーの……はいっ!」

 

 一瞬という名の思い出を永遠にするシャッターの合図が響く。

 そんな中、俺はふと思った。思ってしまった。

 

 

 

 ——本当に今の若い子って「はいチーズ」を言わないんだな。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 ——さて『キャラ付け』が終わったら次はどうなると思う? そのままキャラを活かして展開を膨らませ、メディア受けする場面を収録するかと言われたらそうじゃない。

 

 これはあくまで『リアリティショー』だ。台本なんてない以上、そんな緻密な構成までは番組側では用意できない。

 

 でも演出なら示唆することができる。今の見栄えだと『アレが足りない』とか『これが欲しい』という部分。そこを指示して誘導するくらいには。

 

 つまり番組内での『ポジション』とか『役回り』ってやつだ。

 前の世界で言うなら、これをゆきが中心となって行なってきた。

 

『小悪魔系で番組内の恋愛事情を引っ掻き回す』のが、前の世界でのゆきのポジション。

 ゲームメイカーとして機能を果たし、番組全体の流れを生んだ。ポジションが確立すれば、フリや言葉のパス回しも明確になって受け止めやすくなり、番組全体の流れがスムーズかつ華やかに面白くなる。

 

 無論、この地位を築き上げたのが必然的に『今ガチ』の出演時間を取れることにもなる。一話あたり大体1時間。放送期間は1クールと3ヶ月を目安にしていて、その合計放映時間は13時間。分単位だと780分だ。

 長い収録を得て、この780分を食い合うのが『恋愛リアリティショー』における唯一発生する出演者側の『リアル』な事情だ。

 

 出演者は計8人。一人当たりの目安としては大体100分だ。それくらいの総出演時間が取れれば成功と言えるだろう。

 ……冷静に考えたら番組後期まで総出演が10分ほどしかなかったあかねって、結構向いてなかったんじゃないか? リアリティショーそのものが。

 

 もちろんこれに対してどう考え、どう向かい合うかは個人の自由だ。

 そもそも性格的に向いていないケンゴやあかねは影が薄くなりがちだが、別に何も恋愛ゲームの中心にならなくても番組の枠を取れるポジションは築くことができる。それこそMEMの『おバカ系癒し枠』という画面にいるだけで清涼剤となるポジションとかそうだ。

 

 だったら俺のポジションはどうするか——。生憎とゆきのポジも、MEMのポジも俺には合わないから無理だ。

 

 じゃあ影薄く立ち回るか? それも無理だ。

 ルビーの存在感が強いからというのもあるが、今の俺は『実績』と『結果』が欲しい。テレビで目立ち、世間に『星野マリン』という存在がいるということを認知してもらわないといけない。

 

 だって今回の『今ガチ』は、今まで戦ったことがない有馬、あかね、ルビーとのタレントとしての実力勝負だからな。

 利用できるものは可能な限り利用する。そんで優勝者には高い焼肉店で3人に奢られてタダ飯にありつける。他人の金で食う肉ほど美味いもんはない。ビバ焼肉。

 

 

 

「でさぁ。ルビーが洗剤を間違えて鍋に入れちゃったわけ」

 

「ははっ。ここぞとばかりにルビーの失敗談を話すなよ」

 

 

 

 確かに不可抗力で付与された『真面目系ポンコツ末っ子タイプの俺っ娘』という属性はそりゃ強い。お姉ちゃんぶってるのに、末っ子というのがコアな視聴者には『萌え』というのも感じるだろう。

 

 だけどこれを前面的に押し出すのは違う。これを自覚して推してしまうと、視聴者には『作ったキャラ』だと認識が変わってしまい、一転してヘイトを請け負う役回りに早変わりだ。カメラに映るといっても『悪い意味』で注目を集めてしまう。それではダメだ。

 

 だったら今は自然体のまま。活かすなら『俺っ娘』と、もう一つの強みである『双子ポジ』という部分だ。

 これだけが今の俺とルビーにある唯一無二の武器。使い方を間違えなければ、強力な個性と不動のポジションを得ることも可能だ。

 

 今の俺はノブと一緒に談笑中だ。そして向こうからはルビーとゆきが来ている。

 

 

 

 ——ここを狙う。

 

 

 

「そっちはゆきと一緒か、ルビー」

 

「うん。お姉ちゃんはノブと一緒なんだ」

 

「あれあれ〜〜? もしかしてマリンちゃんもそういう感じ〜〜?」

 

「そんなことねぇよ。ノブとは気が合うだけ」

 

「良いと思うよ、そういうツンデレ感。ひっついちゃえ〜〜、くっついちゃえ〜〜♪」

 

「俺の属性に『ツンデレ』も追加しようとするな。デパートじゃないんだぞ」

 

 俺とルビーは双子であると同時に男女だ。これは視聴者的には『異性関係が発生しない男女』ということでもあり、この二人の絵面がある時は必然的にこれがクッションとなって『学生同士の仲のいい雰囲気』が自然と演出される。

 

 だから距離も縮まりやすい。二人にそんな意識があるかどうかは置いておいて、その気の緩みを俺とルビーは逃しはしない。

 

「ところでゆき。『マリンちゃんも』ってなに? も、ってことはゆきはノブのこと気が合ったりする?」

 

「えっ!? いやそんなこと…………あるかもだけど……」

 

「マジ? ゆきって俺のこと好きなわけ? うれしー!」

 

「そこまではまだ言ってない!」

 

「まだだって、お姉ちゃん」

 

「おーおー。お熱いことで」

 

「ちょっと二人とも〜〜!」

 

「じゃあ、俺達はこれで〜〜♪」

 

「あとはお二人でどうぞ〜〜♪」

 

 そして『双子』が離れたらどうなるか——。

 決まってる。空気は一転して『ラブコメ』だ。学生達はこういう『分かりやすい演出』を好む。

 

 この番組は『恋愛リアリティショー』だ。

 視聴者が求めてるのは『ありそうでない日常感』と『甘酸っぱい青春』のバランスとドラマ性だ。

 みんなが見たいのは『リアル』ではなく『リアリティ』——そこを吐き違えなければ、画面として映えるチャンスを最大限増やせる。

 

 

 

 ——早い話が『恋のキューピッド』って役割だ。

 

 

 

 もちろん見せ場を作りやすくしてくれるのは製作陣にもありがたくて仕方ないだろう。監督にも言われていた。芸能人には『コミュ力』だと。

 これで番組全体を活性化させ、常に視聴者に飽きさせない一定の視聴者数を提供して手堅い人気を得る。これが俺達の戦い方だ。

 

「私達、結構小賢しいことしてるよね。こうして共同戦線張ってさ」

 

「今だけだ。俺達がまともに有馬とあかねに勝てると思うか?」

 

「あかねさんなら何とか勝てるんじゃない? 前回があの騒ぎだったし……」

 

「アイツには既に経験がある。立ち回りも心得ているし、以前みたいに地味に終わるわけがない」

 

 とはいっても、番組後期から人気を稼ぎ出した『アイの演技』をあかねは利用することはできない。男性である以上、アイの演技をそのまま出力するのはアンバランスになることくらい分かっているはず。

 

 だったらどうくるか——。

 俺とルビーが中心となった視聴者層だと、あかねのキャラ受けはちょっと厳しいぞ——?

 

 

 …………

 ……

 

 

 焼肉っ、焼肉っ! トップは高級焼肉っ!! しかも奢りでいくらでも食べていいっ!!

 

 モチベーションを上げるなという話が無理な話である。だってこの身体は『体脂肪がつきにくい』体なんだから。

 

 女優業をやってる時は肌面積が多かったり、ボディラインが出やすい舞台もあるし、片手間にモデル業もあったりでダイエットという単語が常に付き纏っていて……ただでさえ食事制限が多い中、とにかく『脂肪になりやすい肉とか糖類』が本当口にする機会が少なかった。

 

 だけど男性の体は代謝が高いから、食生活のバランスとカロリーを気にするだけで結構理想的な体型への雛形はできた。

 そこにちょっと筋トレを加えるだけであら不思議。今まで苦労していた体脂肪10%前半を簡単に達成できてしまった。

 

 こんなに食事に自由度が上がるなんて……割と素敵な話。

 

 ああ、脂っこいもの最高——。

 お腹に反映されにくい男性ってズルい——。

 

「……そのためにも頑張らないとっ!」

 

 しかもタダ飯。ちょっと負い目はあるけど、それはそれとして魅力的で甘美な響き。負けるわけにはいかない。

 

 とはいっても私は元々の性格がリアリティショー向けじゃない。私自身は割と個性が薄いというか、特徴が薄いというか。

 前の世界でバラエティ番組に呼ばれてないのがある意味それを裏付けている。普段の私って『女優としての私』よりも覇気がないみたいだから。

 

 じゃあ華のあるキャラの演技を乗せようにも私は元の世界だと『女優』だったんだから、女性のキャラしか演技したことがなくて男性を演じるために必要な『知識』と『調査』が足りていない。

 

 だから演技を乗せようにも乗せられない。正確には身近な男性の演技をするサンプルとして『アクア君』と『姫川さん』と、一応は『カミキヒカル』もいるにはいるんだけど……。

 

 

 

『あーら、また誰かの猿真似をしそうな雰囲気ぃ? 自分で戦う勇気ないんだぁ?』

 

 

 

 ……なんてかなちゃんに煽られたらムキになってしまう。アクア君とかの演技をしたら負けな気がして。

 というか口の悪さ直ってない! 子役やってなくて、下積み長くやったからそういうのも頑張って直したのかと思ってたのに!!

 

 負けるわけにはいかない——。

 アクア君にはまだいいとして、有馬かなに負けるわけにはいかない——。

 

「でも私地味だから分かるわけないよ〜〜っ!! 男遊びなんてアクア君としかしてないんだから〜〜っ!!」

 

 

 

 頭を悩ませるついでに、少しだけそのアクア君について考えてしまう。あの日から、何か思考に余裕があるとアクア君のことがチラついてしまう。

 

 幼少期、彼は突然吐きそうな顔になって立ちくらみを起こしていた。否が応でも『パニック障害』こと『PTSD』が再発したんじゃないかって感じてしまうほどに。

 

 だって復讐を終えたとしても、即座に精神疾患が治るわけではない。長い時間をかけて治すしかないんだ。

 

 実際ルビーちゃん(ルビー君?)もそれは分かったのだろう。私より早く、私よりも手際良く、私よりも的確に——。

 

 

 

『落ち着いてアクア。汗を拭くタオルとか用意するから。そのまま体から力を抜いて。楽な体勢になって深呼吸』

 

 

 

 

 あの時のルビーちゃんの動きは『手慣れていた』——。

 それに雰囲気も異様だった。まるで『何かに取り憑かれた』ようにルビーちゃんの焦燥は尋常じゃなかった。

 

 だから聞いてしまった。ほんの少しだけポロッと。

 

 

『ルビーちゃんすごいね……。どこで覚えたの?』

 

『……あかねさん。前の世界のこと、どこまで覚えてる?』

 

『え? アクア君と同じだけど……?』

 

『——そう、なんだ』

 

 

 

 ルビーちゃんは私に何か隠してる。恐らくルビーには『もう少し先の未来の記憶』を持ってこっちに来ている。

 

 そしてあの日からアクア君は少しおかしくなった。

 具体的な変化までは分からない。でもおかしくなる兆候だけは掴んではいる。

 

 

 ——『弱気になってる時』

 ——『私達といる時』

 ——『一人でいる時』

 

 

 大体この三つの時、アクア君の雰囲気が少し変わる。間違いなくこの三つに分けられてはいる。

 それでも表向きはいつも通りだからタチが悪い。指摘しようにも指摘ができないんだから。

 

 もっとタチが悪いのが本人もまだ『気づいていない』部分もあること——。

 少しずつ人格が解離していこうとしている不安定さに、本人はまだ気づいていない。キッカケ一つで壊れてしまいそうな在り方に私はどうしたらいい? どうやってアクア君を救えばいい?

 

 

 

「心配だよ……本当に壊れちゃうんじゃないかって」

 

「そりゃ壊れないか心配だよ。何やってんの」

 

 突如として声をかけられ、思考はすぐに現実に戻される。

 振り返れば明らか染めてるのが分かる金髪の少女——いや、少女(?)なんだけど……ともかくMEMさんがいた。

 

「MEMさん……。ちょっと考え事してて……」

 

「考え事でこんなことする?」

 

「こんなことって……どんなこと?」

 

「誰がどう見てもおかしい『タワー』のことだよ!?」

 

 MEMさんが指差した方に視線を向ける。

 そこには本やらコインやらで消しゴムやらボールペンやらで、かなり不思議なバランスで聳える歪なタワーがあった。

 

 

 

 ……そういえば前の世界で、アクア君と別れてから暇でしょうがなくて身につけてしまった変な特技があったんだ。しかも考え事しちゃうと無意識にやっちゃうタイプの。

 

 

 

「面白いし、写真撮っとこ〜〜。動画も上げるからもう一度やってみて」

 

「こんなの撮っても面白くないよ? MEMさんが言うからやるけど……」

 

 

 

 ——ところがどっこい。これがあかねの意志に反して思わぬことを起こした。

 

 ——何気なく投稿したあかねの珍妙な特技。それは普段のキャラの『ギャップ』というのも相まって、反響が反響を呼び24時間後には約2万RT4万いいねを達成するというバズりを見せたのだ。

 

 ——この極技は『今ガチ』に興味を示してなかった新規視聴者層を獲得し、見事にアクアとルビーがコントロールしていたゲームバランスを一瞬で崩してみせた。

 

 

 

 後にアクアは語る。「あいつ、良くも悪くもネット受けしやすいんじゃないか?」と。

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