【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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第2期ぃぃぃいいい!!! 
一番大好きな『2.5次元編』のアニメ化ぁぁああああああ!!!

あとルビぃぃいいいいいいい!!!!
この後お辛い展開用意しててごめんねぇぇええええええええ!!!

それと1000pt突破ありがとうございます(冷静)


★第十二話★ トライアングル

「はい、司会のケンゴです」

 

「解説のMEMちょだよ〜〜!!」

 

「「『今ガチ』スペシャル後半戦! ドキドキ料理研究会ぅ〜〜!!」」

 

 なんだこれ。いや、なんだこれ。

 

「そして進行役の星野ルビーです!」

 

「お前何やってんだ」

 

「何って……見ての通りだけど?」

 

「見ても理解できないから言ってんだよ」

 

 ただいまの状況。俺たちはスペシャル放送の後半に向けて、臨時的に収録現場に招集された。

 そして案内されたのは校舎の一角にある『家庭科室』である。ステンレス製のキッチンが合計9つあるが、その内3つだけに入念に調整された位置に置かれたカメラが佇んでいる。

 一つのキッチンにはコンロが二つ。向かい側には流し台。そして下の戸棚には調理器具が入っており、隣の準備室には業務用冷蔵庫と冷凍庫があり、そこにはとりあえず王道の野菜一式、肉一通り、調理料全般と結構充実していた。ネット放送の予算でやるとは思えないほどに。

 

 いや料理企画ってのはわかるんだよ。

 問題はそこじゃなくて、根本的な部分なんだよ。

 

「これは『恋愛リアリティショー』なのか? バラエティ企画じゃなくて?」

 

「だってみんな恋愛展開早過ぎて番組の尺だと折り返しなのに、もう恋人ムード全開じゃん。それじゃ保たないからこういう企画を立てよう、ってスタッフが提案してこのようなことになっております」

 

「企画破綻してんじゃねぇか」

 

「でも選ばれた五人は知らなかったんだから、そういう意味では『リアリティ』はあるでしょ!」

 

「それをぶっちゃけた時点で『リアリティ』じゃなくて『リアル』なんだよ。『大人の事情』ってやつなんだよ、バラエティ企画なんだよ、芸能界舐めてるだろ」

 

「はいっ!! というわけでルール説明!!」

 

「無視かよ」

 

「ルールは特になし! 日頃のお礼として相手に料理を振るまうというもの! ゆきちゃんとノブユキくんは1番のキッチンでお願いします!」

 

「「はーい」」

 

 順応してるなぁ、あの二人。

 

「そして絶賛三角関係のあかねさん、先輩、お姉ちゃんは厳重な抽選の結果、お姉ちゃんが抽選漏れしたので、残る二人が2番キッチンに立ちます!」

 

「かなちゃん、料理できる?」

 

「ノーコメント」

 

 ウーバー頼りって言ってたもんな。期待しない方がいいぞ、あかね。

 

「そして売れ残ったお姉ちゃんはボクが助っ人に入って3番キッチンへ!」

 

「お前料理できたっけ」

 

「できないよ」

 

 目玉焼きぐらいは作れるだろ。しらばっくれるなよ。

 

「じゃあ何ができんだよ」

 

「試食」

 

「帰れ」

 

 本当に帰れ。

 

「はい! というわけで料理開始です! 意中の胃袋をつかもー!!」

 

「メンタル太いな……」

 

 気乗りしないが、企画が成立してしまった以上は全力を尽くすしかない。しかし疑問点が一つある。

 

「というかテレビ企画とはいえ、一応未成年ばっかなんだし先生とか管理役とかいないのか?」

 

「安心して! 現代はそれをAIに任せられるんだよ!」

 

「ハイテクだな。でも大丈夫なのか?」

 

「大丈夫、メチャクチャ信頼できるAIだよ。ご入室お願いします!」

 

 AIなのにご入室とはどういうことだよ。ロボットか何かか。

 どんなもんかと期待を込めながら扉の向こうから来た人物を見て、俺は一転して呆れを覚えるしかなかった。

 

 大変見覚えのある黒髪。大変見覚えのある星の瞳。

 うん、これは確かに誰がどう見てもAIだな。星野アイ(AI)だな。

 

「やっほ〜〜! お料理AIです!」

 

 やっぱこれバラエティ企画じゃないか?

 

「食材は私が取り寄せたから、みんな遠慮なく使って大丈夫だからね!」

 

「あの食材一式、全部母さんが用意したのかよ!?」

 

「今の私はお料理AI! みんなのために尽くしちゃうよ!」

 

 そういうところ律儀だよなぁ。

 

「何か分からないことあったら教えるから、頑張ってね〜〜」

 

 そんなこんなで料理開始となった。やっぱこれバラエティだよな?

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「お母様。私にアクアくんの好きな料理を教えてください」

 

 開幕早々、私の前で頭を下げる人が一つ。

 赤い髪の童顔な女子。名前は確か……有馬かなちゃん、だったっけ? うん、多分きっと合ってるはず。

 

「マリン、モテモテだねぇ。あかねちゃんだけじゃなくて、有馬ちゃんからもモテるなんて…………」

 

 いや、でも女の子だよね? そういう関係ってありなのかな?

 今は恋愛の自由とかなんとか言うしなぁ。16歳で産んだ私にとやかく言う権利なんてないか。母たる者、広い心で受け入れるとしよう。

 

「そうだね、マリンの好きな料理と言えば……」

 

「肉料理全般と凝った料理ですよね。特に角煮とか牛すじ煮込みとか」

 

「そうそう」

 

「おっさんくさ〜〜」

 

 あかねちゃん、よくウチに来るから覚えてるもんね。おっさん臭いのは多分センセだった時の好みもあるとは思うけど。

 

「でも最近はローストビーフのサラダとかも好きだよ」

 

「結局手間暇かかる肉じゃない……難易度高そうね……」

 

「そうだね。人によって方法は多少変わるけど、漬け込んで味を浸透させてじっくり焼いて、粗熱取ったらまた冷蔵庫に寝かせて……って感じで絵面の悪さの割に時間かかるからね。これは企画向きじゃない」

 

「まあでも簡単で時間掛からないのも教えられるよ」

 

「え!? どんなのですか!?」

 

「カップ麺」

 

「私が作る意味ないだろっ!!」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「ちぃいちょいちょい。お姉ちゃん? 自分が何作ってるのか分かってる?」

 

「うどんだろ。誰がどう見ても」

 

「そうだけどさ……女子力低過ぎない……?」

 

「そういう偏見よくないと思うぞ」

 

 それに俺は元々男だ。コスパとタイムパフォーマンスを考えるならこれくらいが丁度いいんだよ。

 

「全体的な色合いも地味……」

 

「釜玉うどんにレンチン唐揚げ。別にいいだろう」

 

「う〜〜ん……確かに美味しくはあるんだけどね……」

 

「てかお前も作れ。なんのためのお料理AIだよ」

 

「呼んだ? お母……料理AIのこと?」

 

 レスポンス早いけど素が漏れてる。

 

「ヘイ、お料理AI。ルビーの料理手伝ってあげて」

 

「ヘイ、お任せあれ〜〜」

 

「えっ、進行役だよっ!? 番組の中心じゃないよっ!?」

 

「参加してる以上は最低限働け」

 

「は〜〜い。じゃあママ、料理のコツを教えて!」

 

「色々とあるけど……とりあえず異物混入は絶対に避けようね? 砂抜きできてないアサリとか、炊き方にムラがある白米みたいなの。あと卵の殻とかも、ガラスみたいだからやめようね」

 

 おい、お料理AIの設定どこいった。ママ呼びで反応するなよ。

 

「異物混入しないもの……つまり既製品ってこと?」

 

「そうだね。時短に冷凍食品やレトルトも悪くはないとは思うよ。最近は味もいいし」

 

「でも細かい指示多いレトルトとか、オーブンとかグリル指定する冷凍も多いですよね奥様」

 

「そうですね。だとしたらルビーくんでもできる手軽なのといえば……」

 

「「カップ麺!!」」

 

「その流れさっきやったわよ!!」

 

『あーっと、2番キッチンから有馬シェフのツッコミが届いてきたぁー!!』

 

『大声出すと唾飛ぶから、あまり大声出さないでお願いしますね〜〜』

 

 ごもっともだな。本当はマスクつけたいけど、顔映さないのは番組としてダメだし。

 

「天丼芸はお約束だから〜〜♪」

 

「そうだよ〜〜♪」

 

「とりあえずルビーは『サンドイッチ』でも作ろうか。パンスライサーは包丁の中でも怪我しにくい形状だし、具材にもよるけどレタスや小分けされたハムなら手とかで分けていいから、火とか鋭利な包丁使わずに作れるよ」

 

「急に大真面目な解説がきた……」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

『はい、終了〜〜っ!』

 

『各自料理の紹介をお願いします』

 

 というわけで全キッチンの調理を終えた。料理用の布カバーを被せていて取るまでカメラは料理を捉えることもできない。

 俺もルビーのおっかなびっくりの作業を眺めていたから他の連中の調理工程なんて見てなかったから、本当にどんな料理を飛び出すのかわからない。

 

 ……なんだけど、既に一品分かる。

 鼻を劈くスパイシーな香り。香辛料特有の食欲を唆る香りだ。これだけしか分からないが、この状況下でこの匂いはアレしかないだろう。

 

「はい! トップバッターは私が行きます!」

 

『ではゆきさんお願いします。既に匂いで分かるけど』

 

「だよね〜〜。というわけで私が作ったのは……こちらっ!」

 

 布が取り払われて、デカいステンレス鍋が姿を見せる。

 蓋を開ければ、先ほどの匂いはより強く、より香ばしく立ち込めてきて本能が食を欲求してくる。

 

 ——うん。知ってたけど、やっぱ『カレー』は王道だよな。

 

「というわけで私は王道のカレー! そしてノブくんが……!」

 

「じゃーん! 俺は『ハムカツ』を作りました!」

 

『あーっと! これはまさかっ!?』

 

「「はい、『カツカレー』です!」」

 

『おっと、これは意外な展開ですね』

 

 確かにルール特にないもんな。一緒に作っちゃダメとか、何一つ言ってないもんな。

 

『二人はまさかの初手から『共同作業』! 互いに互いの舌を確認して、互いの好みを知り、互いの口にお裾分けし合うやつだー!!』

 

「え? 違うよ? そんなことしないよ?」

 

『違うの!? じゃあ誰に……!?』

 

「最初に言ってたじゃないか。これは『日頃のお礼として相手に料理を振るまう』企画だって」

 

「だから私達が送る相手は……」

 

「スタッフ含んだ『今ガチ』のメンバー全員ってわけ!!」

 

 あっ、これ負けたわ——。絶対負けた——。

 本物の『いい奴』特有のオーラがすごい。『リアリティ向けのリアル』をゆきノブが醸し出してる。

 

 有馬も仰天しつつも納得した顔だ。「するわ。あの二人ならそういうこと」って言ってる。この数回の収録であの二人の性格は知っているもんな。

 

「というわけで皆さんジャンジャン食べてください!」

 

「おかわりはないけど、そこは勘弁な!」

 

 うめぇ。中辛だけど、甘みのある野菜も混ぜて煮込んでるから後味がマイルドでうめぇ。そこにカツのドカッとした満足感が胃袋を満たしてくれてメチャクチャうめぇ。

 

「これもう企画終わりでいいんじゃないか? 俺なんかうどんだぞ。釜玉うどん」

 

「だったら『カレーうどん』にしようよ。ルーだけは無駄に多いから」

 

「卵も味変の王道トッピングの一つだしな。唐揚げも面白具材の一つとしてありだろ!」

 

 カレーの包容力すげぇ。ゆきノブ並にあったけぇ懐だ。

 

『なんかもうジョーカーが決まった感あるけど、一応他の三人も紹介しようか』

 

「はいはい。星野ルビー、BLTサンドです」

 

「そういう流れ? 有馬かな、ハンバーグ」

 

 二人とも敗北を認めてるから流れ雑だなっ!?

 

『あかねは何を作ったのでしょうか?』

 

「私? 私は二人が『業務用の大きい鍋』で『カレー作ってる』時点でこうなるのは察してたから……」

 

 そう言いながらあかねは布を大道芸人のように大袈裟かつ豪快に取り払う。

 

 その布の下にあったのは一面の緑黄色野菜——。

 しかし全部同じというわけではない。色々と山盛りのサラダが多種多様。キャベツの千切りやレタスを基本にはニンジン、タマネギ。そこに紫キャベツ、パプリカ、ブロッコリー、ラディッシュ、トマトと彩りも豊かだ。

 

「お料理AIさんに協力してもらって『サラダ・ビュッフェ』にしたよ。栄養バランスが偏るのは分かってたし、アレルギーとかも考えて種類豊富かつ色んな味を楽しめるようにドレッシングもいくつか」

 

『ここであかねがジョーカーに対してスペードの3を出してきた!?』

 

『スペ3はローカルだから無効になる可能性もあるけどな。でもこれは胃がもたれなくてありがたい』

 

「あかねってこんな料理上手だったの!? アンタ知ってた!?」

 

「俺は知ってたけど……」

 

 元は彼氏彼女だったからな。あかねの家にお邪魔して何度か味わったけどその度に腕も味も上達してたし。

 

「ぐぬぬ……また負けられないところが増えたわね……っ!」

 

「しょうもない争いするな。役者同士なんだから舞台で決着つければいいだろう」

 

「……それもそうね。まあ今回はゆきノブが持っていったからドローだけど」

 

 そうだな。こんな一面を大々的に見せられたら、間違いなく『今ガチ』の注目はこの二人の集約されるだろう。全体シェアの50%を取られたら勝とうにも勝てない。

 

「タダ飯で焼肉食いたかったな……」

 

「そこまでご執着するほど? まあこれで我慢しときなさいな」

 

 そう言って有馬は俺に一皿提供してくれる。

 その上に乗ってるのは不恰好な形をしたハンバーグ。焼いてる最中に自重で潰れて若干平ら気味になった典型的な失敗型のハンバーグだった。

 

「……何個か失敗した中で、一番まともなのを用意したから」

 

「あかねの分じゃないのか」

 

「一応今のあかねとは番組上はそういう関係性匂わせてるから作ってはあるけどね。これはそういうのなしでアンタの分。日頃のお礼も兼ねてね」

 

 確かに形としては若干悪いけど、匂いも焼き加減も大丈夫そうだ。

 試しに箸を通してみると肉汁も溢れてきて食欲を唆るし、よく見ると微塵切りにした野菜もいくつか見える。

 

 いざ実食——。さて、そのお味は。

 

「どう? ほとんど初めてなんだけど」

 

「美味いぞ。うん、普通に美味い」

 

「悪かったわね、特別に美味くなくて」

 

「そこまで卑下することないだろ」

 

「でも好物の一つだからって聞いたから頑張ったんだから、もうちょい良いリアクション欲しいじゃない?」

 

「ハンバーグが好物? 誰が言ったんだ?」

 

「アイが言っていたわよ。マリンはこれ食べてる時が一番頬が緩んでるって」

 

 そんなことはない……と否定したいができない。

 好きか好きじゃないかで言えば好きだが、特別好きなわけじゃない。肉料理の一つとして好きなだけで、全体として見れば普通である。

 

 まあ……でも思い入れがないと言えば嘘になる。

 

 

 

 だってアイが初めて作ってくれたご飯が『ハンバーグ』だったからな——。

 

 

 

 ………

 ……

 

 

 

 各々のワンポイントとなるシーンを別途で収録したら、後はそのまま打ち上げにも近いお祭りだ。

 

 スタッフと一緒にご飯を堪能する中、前の世界であかねを悪女へと仕立て上げた例のディレクターが、両手に山盛りのペットボトルを抱えたコンビニ袋を持って話しかけてきた。

 

「お疲れ様。これは差し入れだ。好きなのを持っていけ」

 

「ありがとうございます」

 

 遠慮なく適当に物色して一本取り出す。出てきたのはレモンフレーバーの炭酸水。若干ハズレだが、こういうのも一興だ。

 

 ディレクターも一息ついて飲み物を適当に取り出すと、そのまま酒のつまみ感覚でこっちに世話話を振ってきた。

 

「いやぁ、君の弟には世話になったよ。こんな企画を提供してくれるなんて」

 

「……ルビーがこの企画を持ち込んだんですか?」

 

「ああ。聞いてなかったのかい?」

 

 聞いてない。そんな予兆も見ていない。

 そんなことをルビーはしていたなんて今初めて知った。

 

「急なスペシャル拡張で制作班も企画を悩んでいてね。そしたらルビー君が企画書を持ってきてくれたんだ」

 

 ……おいおい。前と同じでディレクターに取り繕うとしてるのか? 今は急に上に登るほどの意味はないだろうに。

 

「借りてる校舎の一室を使うだけだし、機材設置の準備も半日もあれば十分終わる。食材はアイが同じ放送局の別番組の企画で自家栽培した野菜を提供をしてくれたから予算としては安く済んだ」

 

「……なんでルビーはそんなことを?」

 

「さあ? でも『みんなが楽しめるイベント』というのは中心となってる視聴者である学生達にとっては『学校行事』みたいで絵として楽しみやすい。芸能人でも身近なことをすれば『共感』を得られる。そこに『共同作業』が入るとなれば『恋愛リアリティショー』としては一応は企画は成立する」

 

「……まあ、そうですね」

 

「年々規制が激しくなってネタも少なくなるからね。制作側としては願ったり叶ったりさ」

 

「…………ルビーはそちらに要望とかありましたか?」

 

「いや、ないよ。「こういう企画ならみんな楽しめます!」とだけ言っただけで「今後もよろしく」的なことはなにも。まあ鏑木Pには報告するけどね。あの慎ましさは芸能界で生き残りやすく、使いやすいから」

 

 本当にそうなのか? 本当に『みんなを楽しませる』ためだけにこんな周囲を巻き込んだイベントをルビー個人で用意したのか?

 何のために? 今の僕たちには急速に上に登る必要はないというのに? なぜそんな取り繕うことを?

 

 

 

「ねぇ、マリンちゃんも手伝って〜〜!! スタッフみんなの配膳とか間に合わない〜〜!!」

 

「俺は奥から紙コップ、紙皿、割り箸を追加してくるから、ちょっと火の管理だけ頼むわっ!」

 

「……ゆきとノブはこういう時でもそういうのに回るんだな」

 

 

 

 ……でも、楽しかったんだからいいか。

 理由はどうあれ、前とは違う『真っ直ぐな気持ち』なんだろうし。

 

 

 

「だったら私も手伝うよ〜〜♪ もうアイさんからサイン貰って暇だから〜〜♪」

 

「じゃあ俺も手伝うよ。司会役で何もやってないんだし」

 

「なら二人は調理器具とかの洗い物頼む」

 

 

 

 なら今だけは楽しむとしよう。何の企みかも考えずに。

 ルビーもそのためにこの企画を提案したんだろうから。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「ふぅ……今日も大変だった」

 

「お疲れ様ルビー。ママはこの後副音声の収録あって2時間後くらいなら一緒に帰れるけど、それまで待ってる?」

 

「大丈夫。ニノさんに送ってもらうから」

 

『ボク』の言葉に頷いてママは学校に設置されてるスタッフの収録室へと向かっていった。

 

 ……本当今日も大変だった。なんとかいつも通りに『お馬鹿な私(ルビー)』を演じることができた。

 

 バカで失礼で図太い私(ルビー)。それが今のポジション。ズカズカと人の機微なんて最低限しか察しない明るく天真爛漫な星の子。

 

 だけど苦だなんて思ってない。私(ルビー)の在り方はボクの半生だ。

 嘘でもあるけど本当でもある。一度、その感情の線引きさえ知っていれば『演技のスイッチ』を入れるだけでいくらでも演じられる。これはあかねさん、不知火フリル、先輩から「経験を基にしたほうは演技に説得力が出る」と前の世界で教えられたこと。

 

 辛くはない。これでも自分なりに楽しくやっている——。

 嘘しかない人生を生きるのは辛いことだから——。

 

 

 

 …………

 ……

 

『ほ、星野マリンですっ♪ ルビーと一緒にタレントやってます♪ みんなよろしくね〜〜♪』

 

 ……

 …………

 

 

 

 だからこそ、今でもあのキャラで押そうとしたアクアに背筋が凍りそうになる。

 気持ち悪いとか、軽蔑とかじゃなくて、単純明快にそんな『無理したキャラ』なんて収録中にアクアの心が擦り減るに決まってる。

 

 

 

 …………

 ……

 

『いや、誰っ!? お姉ちゃん、陰のオーラを発してる闇系でしょ!? キャラ作りすぎ!!』

 

 ……

 …………

 

 

 

 ——だからぶち壊してやった。アクアが素でいられるように。

 

 ——今回の企画を売り込んだのだって、花火大会で見せた『心の弱さ』を多少強引にでも忘れてもらうため。それ以上の理由なんてないし、みんなが楽しめたのは結果でしかない。

 

 ——『恋のキューピッド』とかいうメルヘンやったのも打算。ああやってアクアの側にいれば、いつでもフォローに回れるから。

 

 ——全部、アクアが楽になるために尽くしてたんだよ。

 

 

 

 アクアが楽しくやれれば何も言わないよ。だって復讐は終わったし、なかったことになったんだ。

 それで全部忘れて『星野マリン』として生きて、男の子を好きになったり結婚したりしてもボクは何も言わないよ。素直に『祝福』するよ。

 

 アクアは全部忘れて幸せになっていいのに。

 自分勝手に幸福とか求めていいのに。

 

 なのに——なのに——。

 

 

 

『ッ……ッ!!』

 

『アクアっ!?』

 

『俺が……私……がっ……僕がっ……償わないと……っ!』

 

『落ち着いてアクア。汗を拭くタオルとか用意するから。そのまま体から力を抜いて。楽な体勢になって深呼吸』

 

 

 

 ボクは知ってる——。知ってしまった——。

 あの日、今にも消えそうな掠れ声で何を言っていたのかを。自罰を求める『破滅的な思想』を垣間見えたことを。

 

 

 

 ——『せんせ』は『贖罪』を選んだ。現実逃避も、精神分裂も起こさずに『自分の罪』として受け入れてしまった。

 

 

 

 納得できない。せんせは自分の幸せを追っていいんだよ。

 あんな奇跡を起こして、みんなが不幸になった世界がなくなったんだよ。初代B小町でさえ助けられたんだよ。それでもう罪の精算を認めてもいいじゃん。

 

 それでもせんせは罪を精算しようとしている。傷だらけの心で、壊れることも許さないまま。

 そんな今のせんせに無茶も無理も絶対させない。どんな些細なことでも、せんせの心に踏み込もうとするのは誰だって許さない。

 

 だってそれは、こんな奇跡を起こしたせんせの些細な幸せさえも踏み躙ろうとしてる非人道的なことだもん。

 

 このまま静かな平穏な世界で、喧騒の只中で罪を忘れられるようにボクが頑張るしかない。

 そのためならボクはいくらでも演じるよ。バカでアホで図太くて天真爛漫な星の子を演じ切って見せる。

 

 

 

 ——あかねさんだって、ロリ先輩だって、踏み込ませない。

 ——もちろんボクも、ママも踏み込まないようにする。

 

 

 

 せんせが見なくてもいい、知らなくてもいい、考えなくてもいいことは全部ボクが引き受けるから。守ってあげるから。

 

 

 

 全部全部、私(ルビー)が背負えばいいから。

 

 そのために、多分私(ルビー)の『願い』は叶ったんだから。

 

 だから『ボク』になるんだ。

 私(さりな)を支えてくれたせんせみたいに。

 

 

 

 ボクがせんせの代わりに『贖罪』の道を見つけて、果たしてあげるから——。

 

 せんせは全部忘れていいんだよ——。

 他の誰も許さなくても、『私』は許してあげるから——。

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