【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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※第3章は『原作:【推しの子】第百二十二話』が公開される前に完成されたものになります。設定の齟齬や矛盾についてはご了承くださいませ※


〜第3章〜 【宮崎サマーバケーション】
★第十四話★ Travel Stars Fresh


 果たすべき一つ目の精算は来たれり。

 

 此度の章は『深淵』の話。背負うはずの罪を背負えなかった罪の贖い。

 少女は寄り添い続けた。彼のために最後まですべてを捧げた。

 

 独りぼっちで過ごす彼に、かつての自分を重ねながら愛しくも優しく献身した。

 独りぼっちになった彼に、かつての母を重ねながら悍ましくも吐きそうな顔で献身した。

 

 

 

 星に祈ることもなく、少女はただ後悔を馳せる。

 

 

 

『皆と同じところに私も行きたい』——。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

『今ガチ』の収録を終えて早1ヶ月。僕達の学校は『夏休み』を迎えることになった。

 仕事に集中できる時期でもあるのだが……残念ながら『今ガチ』の出演をキッカケにオファーはあっても、そのほとんどが小さい仕事ばかりだ。カタログ雑誌の服やらトラベルグッズのモデルとか、もしくは広告動画のイメージキャラとかそういう類。

 

 前の世界ならルビーがアイドル志望だったのもあってJIFに向けて色々としていたが、今世の僕とルビーはマルチタレント志望で何をしようにも定まっていない。故に仕事も泣かず飛ばずなわけだが。

 

 おかげで夏休みは暇な時間の方が多くなりそうだ。ララライで定期的にレッスンを重ねて演技と作法を身につけ、陰ながら実力を身につけていく。ついでに前回だと諦めるしかなかった医大受験に向けて勉強も頑張らないといけない。

 

 そして定まらない『星野アクア』に対する『贖罪』にも——。

 こいつは本当不思議だ。別に特段何か締め付けてくることはない。一貫して『忘れるな』という強迫観念を押し付けてくるだけ。忘れなければどういうことはない。こいつは一体『何を求めてる』?

 

 

 

 ——もしかしたら潜在的な部分で気づいてるのか? 僕はこの『贖罪』の方法を? だから何も言ってこないのか?

 

 

 

 …………何を考えても答えなんて出るはずがない。

 超常には勝てるわけないんだから。そういう意味では何で女の子になったかも不明。前途多難だ。

 

 とりあえず計画的に宿題を片付けようと思った矢先——。

 

 

 

 

 

「ねぇ、宮崎旅行行こうっ! 今仕事ないでしょ!?」

 

「子供をニート扱いするな」

 

 なんて開口一番、アイの大変不躾な発言が冷房が効いたリビングに轟いた。

 ルビーも俺も汗だく状態で理解が若干定まらない。イチイチツッコミを入れるのも面倒なので、とりあえずは話だけでも聞こうと参考書を閉じ、伝う汗を拭いながらアイへと意識を向けた。

 

「あ〜、流れる汗も綺麗なマリン……きゃわ〜〜」

 

 我が母がキモいこと言ってる。暑さにやられてるのかもしれない。

 

「てか、なんで唐突に旅行?」

 

「ふふん、これなーんだ?」

 

 アイは自慢気に一つの小さいカードを見せてくる。

 そこにはアイとは思えないほどに真面目で仏頂面な写真が一枚。住所、年齢、発行期限などなど……俗に言う『運転免許証』とか呼ばれるやつだ。

 

「そう、これは私の深夜番組で手に入れた『中型免許』ならびに『大型免許』! これさえあればトラックから、大型のキャンピングカーも運転できるんだよ! これでキャンピングカーを借りてレッツゴー!」

 

「なんでだろう。すごい不安なんだけどお姉ちゃん」

 

「同じく。『アイが運転する』ってことだよな」

 

 これほどまでにデンジャラスな響きはない。真夏の暑さが、一転して背筋に氷柱をブッ刺されたかのような悪寒を感じた。

 

「普通車で無事故無違反のゴールド免許だよ! 安心・安全!」

 

 ペーパードライバーでもゴールド免許は取れるからな。3人に一人は地雷と呼ばれるゴールド免許だからな。アイがそれなんじゃないかっていう嫌な信頼がある。

 

「金はあるんだし、新幹線とか飛行機で個室利用して行かない? 駅弁とか機内食とか意外と美味しいぞ?」

 

「嫌だ〜〜! 行きたい〜〜っ!! 私の運転で行きたい〜〜っ!!」

 

 これで三十路か。下手な二十代前半より肌ツヤ良くて、スタイルも良いからあまり考えることはなかったが、これで三十路かぁ。推せる。

 

「アクアどうする……? ママの運転見たことある……?」

 

「いやないな。都内だからアパレルとか雑貨系は徒歩圏内で済ませられるし、食品の買い出しはセキュリティも兼ねて基本的なのは全部定期配送。仕事の遠出はマネージャーの運転だし……」

 

「だよね……。それに長距離運転なのにママ一人任せるのもね……」

 

「ああ。東京から宮崎までは道路で行こうものなら片道だけでも1000km以上は間違いなくある。時速40〜60キロで走行で淀みなく行ったとしても累計走行時間は24時間は覚悟したほうがいい。帰り道も含んだら48時間。丸2日もアイ一人に運転させるなんて無謀だ」

 

「頑張るからぁ〜〜! ママ頑張るからぁ〜ー!!」

 

 頑張って何とかなるならトラック事故は発生しないと思う。

 

「私達がしっかりフォローするしかないね。ナビゲーションとか諸々全部」

 

「そうだな。助手席には必ずどちらかが交代しながら入って、2時間ごとに休憩とエコノミー症候群対策に軽い運動とストレッチ。そして必ず一日8時間以上の休息を設ける。絶対アイに無理はさせるなよ」

 

「私の信頼がないっていう、信頼度の高さにひくぅ〜〜」

 

 そんなわけでキャンピングカーで2週間くらい宮崎旅行に行くことになった。アイに無理をさせることにはなるが、俺としては方針が定まらない中での唯一示された道筋。願ったり叶ったりでもある。

 

 

 

 ——宮崎。そこはあの『疫病神』がいる始まりと終わりの場所。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「ふんふふふふ〜〜ん♪ ふふふふふん♪」

 

「ママが上機嫌な上に、これはB小町の『サインはB』の鼻歌……」

 

 早速、高速道路走行中。ジャンケンの結果、最初はルビーが助手席に座ってナビとか眠気防止用のガムとかを提供できたり、集中力を削がないレベルで軽く会話をして意識をキープさせたりと常にスタンバッている。

 ちなみにアイが借りたキャンピングカーは、運転席と居住部分が独立したタイプではなく扉一枚で経由できる一体型だ。高級式なのもあって運転席はリクライニングを効かせられる回転式であり、簡易テーブルさえ用意すれば運転席近辺をダイニングにできるくらいには広い。

 

 おかげでルビーと交代しやすい上に道中で買った食料や飲料を渡しやすくて助かる。

 とりあえずコンビニで適当に買い揃えておいた食料を一式渡しておいたら、ツナマヨおにぎりを片手に、宮崎に着いたらどうしようかと思想に耽ることにした。

 

 さて結論だけ言おう。考えるだけ無駄だった。それが10秒くらいで分かった。

 だって考えたところで意味がない。あの『疫病神』の正体なんて未だに掴みきれていない。だからあったところで「なんで俺達の性別が変わってるんだ」というしかない。それで「知ってる」にしろ「知らない」にしろ、それ以上話が進まない。仮にその後「目的はなんだ」といったところではぐらかすのがオチだ。それくらいのことは分かる。

 

 ……ダメだこりゃ。仕方なくネットサーフィンでもして気でも紛らすか。皆の活動とか気になるしな。

 

 特にMEMは気になる。前の世界だとアイドルに誘ったが、今回は色々とあって誘うタイミングがなかった。

 今でもYouTuberを続けているとすれば、いったいどんな活動をしてるのか、少し気になった。

 

『はい『ふぐたD』です』

 

『『へいちゃん』です』

 

『ナイスガイの『菅井』ですっ!』

 

『え〜〜、今日はクイズ●ックのコラボ企画! 黒川あかねさんに来てもらってます!』

 

『ど、どうも〜〜』

 

 ……って、あかね何やってんの!? YouTubeのトップページで急上昇部門に上がってたから気になって見てみたけど!?

 

『私、昔からクイズ●ックのファンでして……特に好きなのが『2極点』の動画です』

 

『アレね! あっははは!』

 

 ……まあいいか。とりあえずあかねがバズの影響で変な方向にメディア露出してるのはこの際いいだろう。今はネットマーケティングを怠ったものが滅びる弱肉強食の世界なんだからな。

 

『MEMちょで〜〜す♪ みんな『今ガチ』の視聴ありがとね♪ 今日はそこで手に入れたお宝を紹介しちゃうよ〜〜♪』

 

 どうやらMEMは元気にやってる様子だ。

 しかも背景にはチャンネル登録者数10万人以上突破で貰える『銀の盾』の横に『アイのサイン色紙』をクリアケースに格納して大事に飾ってある。本当に『B小町』の熱狂的ファンだったんだな。

 

 他のみんなも上々だ。ノブは『ぴえよん』と一緒にダンスコラボ動画上げてるし、ゆきのモデル業は転機を迎えて大手のコスメ宣伝の広告塔として抜擢されている。ケンゴはメディア露出を確認できなくて地味かと思って、Wikipediaで経歴を見たところ某大手レコード会社に楽曲提供しているのだから凄まじい。

 

 そして有馬は既にド級のニュースが入ってきている。

『あの大人気漫画『東京ブレイド』の舞台化! 人気キャラ『つるぎ』役・有馬かなに決定!』という見出しを確認できた。

 

 ……もう『東ブレ』の時期なんだよな。あの『東京ブレイド』の舞台が。

 

 あかねにも既にオファーは来ているのだろうか。

 てか、オファーが来たところで役はどうなるんだ? 前と一緒で『鞘姫』なのか? あかねは髪の長さがショートのまま以外は外見的な変化が薄いし、ウィッグとメイクでワンチャンいけるか? 歌舞伎役者みたいに女型としてなら。

 

 だとしたら『刀鬼』役は誰になるのか……。少なくとも僕じゃないだろう。だってタッパない上に女性だし。やるならルビーが適任だろう。

 てか、そうなると僕の役こそ何になるんだろうか。それこそあかねがやっていた鞘姫が僕になって、刀鬼があかねになるパターンもあり得るか。

 

 考えたところでしょうがない。オファーが来るまで何もできないのだから。

 とりあえずはネット巡回は終わり。ふと外を見るとやたら大きい富士山が目に入り、自分がいるのが大体静岡とか長野あたりだと察せられる。

 

 さてまだまだ関東圏内。宮崎がある九州地方まで全然遠いぞ。このまま安全第一の運転で何のトラブルもなく辿り着けるといいんだが。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「どう? これが私のドライビングテクニック……つまりアイドリング力は!」

 

「アイドリングの意味を調べてこい」

 

 走行時間4時間ほど経過したところで、パーキングエリアで昼食休憩となる。

 意外にもアイの運転は堅実で、思っていたよりも快適だったのが驚くべきところだった。てっきりドリフトでもするんじゃないかという妙な想像というか、先入観があったのもあって申し訳なさを感じてしまうほどに。

 

 そんなアイのキャンピングカーが止まっているパーキングエリアというのが岐阜県の境目だ。

 ここの名物は『カレーパン』らしい。こういう手持ちで美味しいものが食えるのが、パーキングエリアの醍醐味だよなとか思いながらも、それはそれとしてエコノミー症候群対策に星野家全員揃って軽いラジオ体操をしていると——。

 

「あーあー! もしかしてシノさん!?」

 

「むっ……その頓珍漢な呼び方は……!?」

 

 本当に突然その女性は現れた。

 有名人特有の謎に深い帽子と色濃いサングラス。そして黒いマスク。見方によっては『不審者』にも見えなくもないのが、それでも隠しきれない芸能人特有のオーラが溢れ出ている。

 

 どことなくアイと似ているような。存在感というか。

 そう——。『星の欠片』でも宿してるかのような存在感。

 

「あっ、やっぱり『ゆらちゃん』だ!」

 

「シノさん、お久しぶりです〜〜!!」

 

 その正体は前の世界でカミキヒカルに殺された被害者の一人である『片寄ゆら』さんだった。

 

「見ましたよ、主演映画の『ライアー』! 流石はシノさんって感じで……!」

 

「いや〜〜、そんなこと……あるかもね?」

 

 相変わらず母さんの妙な自己肯定感の強さはなんなんだ。

 

「というかその『シノさん』ってなに? だいぶ特徴的ですけど」

 

「おっと君は娘のマリちゃんだね。『今ガチ』見たけど、可愛かったよ〜〜」

 

「ゆらちゃん見てくれたんだね! マリンすっごい可愛かったでしょ、ポンコツで」

 

「うん、ポンコツだったね。それなのに健気に頑張ってるのが、母性を擽るというか……」

 

「井戸端会議みたいに話弾まないでもらえます?」

 

 こちとら元々はアラサー男性だったんだから、そういう目で見られるのは色々と複雑なんだよ。

 

「ゆらちゃんオフ? どこ行くの?」

 

「山ですよ、山。私って趣味が登山なんで」

 

「そうなんだ〜〜、じゃあ行くのは富士山? シーズンだもんね」

 

「ちっちっち……。甘いですよぉ、シノさん。富士山は日本の最高峰。登頂するには経験値がまだまだ足りません。まずは肩慣らしで無理のない山に行かないと。免許取り立ての若者じゃないんですから計画的に挑戦しないと」

 

「うぐっ……!」

 

 あっ、これは我儘でキャンピングカー決行した母さんには突き刺さるなぁ。てか、結局シノさんの意味聞けてねぇ。

 

「私が行くのは『市房山』と『祖母山』の二つ! 両方共に標高約1700mと富士山の約半分! 道も険しさがなくて、初心者向きって評判なんだよ! それにね——」

 

「……あれ?」 

 

 地元だから知ってる。その二つって確か宮崎県にある山だ。一つは熊本県沿いで、もう一つは大分県沿い。

 

 

 

 ——ちょうど僕が勤めていた病院が間にあるのが、その二つの山。それが『市房山』と『祖母山』だ。

 

 

 

「やっぱり挑戦したいのは初心者コースと上級者コースが両立している『祖母山』だよね! 山道にうどんとか蕎麦とか美味しいのが揃ってるらしいけど、私が見たいのは山頂にある『豊玉姫』の祠!」

 

「なにそれ?」

 

「シノさん、役者ならちょっとくらい神話の元ネタくらい知ろうよ? 『豊玉姫(トヨタマヒメ)』というのは日本神話に出てくる女神様の一人。『神武天皇』こと『初代天皇』の父の母という割と身近な神様なワケ!」

 

「私の学の無さ芸能界で語り草でしょ。もっとメジャーな関係性で……」

 

「んー。『アマテラス』の姪っ子……なのかな? 神様の家系図的に」

 

 

 

 おい。おいおいおい。なんだ、このピースがハマるような感覚は。

 偶然か? それとも何かの因果か? アマテラスって『ルビーが赤ちゃん時代にミヤコさんを騙す』ために使った神様の名前だ。

 

 それが宮崎に祠がある豊玉姫の叔母って——。

 いや、難しく考えてるな。ルビーは元々さりなちゃんだ。さりなちゃんだって四六時中アイのライブビデオを見ていたわけじゃない。偶には宮崎のローカル放送でも見ていて、それで覚えたと考えたほうが自然で合理的だ。

 

 

 

「アマテラスって言われたら分かるけど、トヨタカーって結局何の神様なの? ご利益とかある?」

 

「豊玉姫ね、バチ当たりますよ? まあご利益としては『縁結びや子宝、安産守護』って感じ?」

 

「おー。10年以上前に拝んでおけばよかったかも。私手頃な神社で済ませちゃったから」

 

 

 

 ……『縁結び』『子宝』『安産守護』? 偶然で片付けていいんだよな? いや偶然で片付けていいはず。

 僕だって神話の一部は知ってる。そのいい加減さというか、自由度の高さというものも。そういう類のご利益なんてあるあるじゃないか。

 

 でも——もしも——そうだとしたら——。

 

『あんな小さな体で双子を産んで』でアイが無事だったのも——。

『そもそも双子』という子供に恵まれたのも——。

『僕がアイの子供』として縁を結んだのも——。

 

『豊玉姫』じゃないにしろ、宮崎にある『神話』とかのご利益がかかってるという可能性も——?

 

 

 

「馬鹿馬鹿しい……。まだ『かぐや姫』のお話の方が現実味がある」

 

 

 

 けど気になったらしょうがない——。

 もしこの予想が合っていたら、転生した時に思った『いずれ仕組みを解き明かす』ことに繋がるかもしれないし、『疫病神』の正体にも近づけるかもしれない。

 

 もしかしたら『転生』と『時間遡行』の関係も——。

 

 一刻も早く宮崎に行く必要がある。

 まさかこんな旅行が、あの『疫病神』に近づくのに重要な旅になりそうなんてな。

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