【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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★第二話★ 少年法

「てか、ルビーはよく気づかなかったな!? 俺と違って風呂入ってる時も目開けてただろっ!?」

 

「いや〜〜……。二度と見れないママの裸を拝めると考えたら、そっちばかり見てしまって……自分のことなんて全然……」

 

 そうだった。ルビーは重度のドルオタなうえに、オギャバブランドとか言ってアイに甘えるヤバイファンを体現してる前科があった!

 

「というか、お兄ちゃんこそ気づきなよ! 自分のち○こと金○がないんだよっ!?」

 

「赤ちゃんの生殖器は未発達な上にオムツで圧縮されて潰れてる状態だぞ!? 感覚で分かるわけないだろ!!」

 

「そういうもんなの?」

 

「そういうもんだぞ。寒い日なんか萎れたり、身体的な本能で生殖器が体内に引っ込もうとするからな」

 

「うわっ、そういう生々しい話は聞きたくなかった」

 

「いずれお前もそうなる未来だ」

 

 というか『そうなる未来』なのは俺もだよっ!!

 

 これでも産婦人科医とはいえ医者は医者だ。基本的な病気ぐらいなら俺でも知ってるし、何より担当が違うから触診しなかっただけで、そういう女性特有のお悩みで病院に来る年頃の娘を何度だって見てきた。

 

 俺の場合はそれに加えて『性同一性障害』から来るメンタル的な不安定さも考慮しないといけない。

 病は起きてからでは遅いのだ。こういうのは事前に対策を立てておかないと、必ず後で痛い目を見ることになる。これは前世で医者をしてたからこそ肝に銘じてることだ。

 

「……所詮は幼年期だ。この問題は今は目を瞑るとしよう」

 

 だが、それが如実に出てくるのは思春期からだろう。具体的には小学4年生とかその辺り。今は1歳になったばかりなのだから、深刻に考えるのは後でいいだろう。

 

 

 

 何より大事なのは『アイの命』——。まずはそこからだ。

 

 

 

「警察に事前相談するとか?」

 

「子供の悪戯電話で片付けられるな」

 

「じゃあセキュリティが厳重なマンションに引っ越す!」

 

「それも難しいだろうな。だってアイだぞ?」

 

「それもそうか」

 

 流石のルビーでも、その嫌な信頼は持ってるか。

 

「他にあるか?」

 

「ミヤえもんに全部話す!」

 

「流石にそこまでの超常を信じ込ませるのは無理だろ……。カードの切り方次第ではありだがな」

 

「ねぇ、やけに消極的じゃない? お兄ちゃんは……いやお姉ちゃん?」

 

「アクアでいいだろう。もしくは前世の呼び方でもいい」

 

「あまり昔のことは引き摺りたくないからアクアにしとくよ。…………あっ、だからママは『マリン』って呼んでたのか」

 

「そこは気づきたくなかったな……」

 

 アイは人の名前と顔を覚えるのが苦手だから、今世はそういう呼び方になっただけのかと思っていたが……俺が『女の子』だったと考えたら納得いく。

『アクア』と『マリン』だったら、そりゃマリンのほうが女の子っぽい名前だからそう呼ぶに決まってる。アイのことだから難しいことを考えずに脊髄反射的にそういうものだと考えるに違いない。

 

「お前はルビーって名前で良かったな……。どっちの性別でも違和感がなくて」

 

「キラキラネームなのは変わらないけどね」

 

 漢字で読めるだけマシだぞ。俺なんか『愛久愛(アクア)』まではまだいいとして『(マリン)』と典型的なものになるし。

 

「話は戻すけど、アクアはママを助けたくないの? 数年後のストーカーに対抗する手段を考えないと繰り返しちゃうよ……? あんな疲れ切った復讐を……」

 

「俺だって復讐劇は二度はゴメンだ。だが、そもそもとしてストーカーを対処したところで意味が薄いんだ。カミキヒカルが生き続ける限り、あの危険は常に付きまとう。抜本的な解決をしなければならないが……」

 

「だったら何でそんなに乗り気じゃないの!? ママを助けないと……また復讐を始めるんだよ!? 始めなきゃいけないんだよっ!?」

 

「この時期のカミキヒカルはアイより一つ年下の16歳なんだよ! 『罰』を与えるのは難しいことなんだっ!!」

 

「なんでっ!? 相手は人殺しだよっ!?」

 

「…………今はまだ違う」

 

「せんせのことを殺したのだってアイツが加担してるっ!! それに姫川さんの母だって……!!」

 

「……雨宮吾郎は1年前に死んで証拠は不十分で難しい上に、カミキヒカルの性質とリョウスケくんの精神的な部分を考慮すれば、この殺人は独断で突発的に行った可能性の方が高い。俺の転落死とカミキヒカルを結びつけるのは難しい。姫川の母だって当時11歳との性行為と浮気という問題の方が世間から焦点が当てられる」

 

 そうだ。どの場面においてもカミキヒカルは『実行犯じゃない』し、何なら『未成年』であり、供述次第では『被害者』側に回るシナリオなんて用意することが可能だ。

 俺があの復讐劇に成功できたのは、根本的に『カミキヒカルが成人していた』のと、そこに『アイが残したテープ』と『片寄ゆらの殺人の実行犯だった』という要素を中心にカードが揃っていたからだ。

 

 今の俺たちは白紙も白紙。コネもなければ、身体能力もガキとあまりにも無力だ。

 

「だったら殺人を立証できればいいんだよねっ!? なら今からでも、せんせの……『雨宮吾郎の殺人』を警察に言えば、そこから一年前の事件の捜索が始まって、結果的にあのストーカーに目をつけてくれる!」

 

「東京育ちのガキが突然電話をして「宮崎で失踪した医者が死体になってるの知ってます」と言ったところでイタ電扱いされるのがオチだ。警察だってバカじゃない。この一年で捜索しても見つからない時点で警察の見識を変えるのは望み無しだ」

 

「でも正確な場所さえ言えれば……」

 

「そういえば俺が転落死した場所と発見された場所って別だったよなぁ。どうやって探し出せたんだ」

 

「……アクアも知ってる『疫病神』に導かれて」

 

「社会的に保証できる証言じゃない時点でアウトだ。それに子供が向かうには自然が濃すぎて違和感もある。オカルトが頼れるのはアニメだけだぞ」

 

「オカルトなのは私達もだよ……」

 

 今は転生とか諸々に目を瞑って、現実的に話をしてくれ。

 

「そもそも日本には『少年法』って法律があるんだ。『この時期の少年法』は14歳以上20歳未満は『少年事件』として扱われて『更生』を目的とした処置しか与えられない。それに……」

 

「それに?」

 

 これをルビーに言うのは少し気が引けるが……状況を明確にするためには仕方がない。

 

「……アイが出産したのは16歳。妊娠の時期を逆算すれば、アイが性交した15歳の時はカミキヒカルは14歳。この状態でカミキヒカルが捕まって肉体関係を追えば『青少年保護育成条例』で逆にアイのほうに危険が及ぶ」

 

「うっ……改めて聞くとキツイね」

 

「同じ未成年だとしても、悪役を作るなら社会的立場がまだ明確で責任を追求される『歳上』のほうが標的にされやすい。そして一度子供を産んだ……つまり性行為をした経歴があることがバレれば、世間的はアイを『売女』やら『淫乱』とか『マグロ』とか根も葉もないことを言われる。それに伴って関係者にも酷い風潮が浴びせられるだろうな」

 

「あんまり聞きたくない単語がたくさん……」

 

 大人の社交場だと割と聞くんだけどな。主に酒の摘み的な感じで。

 とはいってもルビーには酷ではある。ルビーの時も、さりなちゃんの時も成人を迎えたことがないのだから、そういう黒い話には免疫がないだろう。

 

「ともかくレッテルを貼られてアイのイメージは底の底だ。アイドル以前に個人として、そしてその子供である俺達も満足に日の目を浴びれない後ろ暗い生活を強いられるだろうな」

 

「人間社会ってそんな冷たいもんなの……?」

 

「ああ、集団社会に『嘘』も『本当』もいらない。あるのは『真実』だけだ。大衆が求め、崇める『都合のいい真実』ってやつをな。それこそ『恋愛リアリティショー』とかの炎上騒ぎはまさにそれだ」

 

「……そうだったね」

 

 だからこそ『旧B小町』のアイが潜在的に内包する弱さと、そのSOSを見て見ぬふりをして押し潰した。

 それが完璧で究極の『嘘吐き(アイドル)』であるアイの真実でもある。まさに偶像とは言い得て妙で、皮肉だらけのあり方である。

 

「だから下手にリークしようものなら、アイとカミキヒカルの同士討ちだ。そしてこの性被害は事務所の管理問題になる以上、これは『苺プロ』と『劇団ララライ』に深刻な影響を与える。事務所や団体が潰れるのが普通だろうな」

 

「『劇団ララライ』は姫川さんやあかねさんが所属することになる演劇事務所……ママの未来を守るために、何も知らないララライ達の未来を巻き込むわけにはいかないよね」

 

「だから手を出すことが難しい。ハッキリ言えば今のカミキヒカルは『最恐で無敵』なんだ」

 

「じゃあどうするの?」

 

「最も簡単な方法は、直接的に『殺す』しかない——」

 

「ダメだよ。そんなことは私がさせない。アクアに同じ道を歩ませない」

 

 あまりにも早い反応。こちらの思考も言い分も許しはない。

 元々する気なんてないが、こうなってはその案は断固拒否だ。となれば社会的なメンツを保てる打開策を見出すしかない。

 

 アイに『正当性』があるようなシナリオが必要だ——。

 もっとわかりやすく『被害者』という形で——。

 

「……ならリョウスケ君を『ストーカー容疑の現行犯逮捕』をするようにしないといけないな。リョウスケ君はカミキヒカルと接触したことくらいはあるはずだ。となれば顔や場所も把握してる可能性がある。そうすれば『共犯』という形で逮捕することも……」

 

「でもママが20歳の時はアイツは19歳……少年法に守られるんでしょ?」

 

「それでも何年間はアイに接触するのは難しくなる。それまでにこっちも盤石にする手筈を整えるくらいはできる」

 

 正直、今この時期が一番ネックだ。だってどんなに未来のことを知っていても、俺たちは『赤子』で『幼児』だ。身体的にどう足掻いても立ち向かうことはできないし、アイの代わりに刺されるということも難しい。

 

 なにせアイは、その名の通り『愛』というのものが知りたくてアイドルをやった。

 それでも『愛』を理解しきれなかったから、男女間の『愛』を求めてカミキヒカルと性行為をした。

 

 だけど理解できない。だから今度は子供を『愛』したいから、俺たちを産んだ。その末に、アイはようやく——。

 

 

 

 ——「愛してる」

 ——「ああ、やっと言えた」

 

 ——「この言葉は絶対」

 ——「嘘じゃない」

 

 

 

『愛』というものを知ることができた。どういう形であれ『子供と離別』をすることでアイは愛というものを理解した。

 

 それでもし——もしも代わりに俺たちのどちらかが刺されたらどうする? 

 子供の体は大人よりも遥かに貧弱で外傷に弱い。アイが死んだ以上、子供である俺たちは即死になるだろう。

 

 そうなったらアイはどうなる? 

 自分の代わりに死んでしまった子供を見て、前とは違う『子供と離別』を見て、どういう風にやっと知った『愛』を捉えてしまうのだろうか。

 

 

 

 きっと——俺たちよりも根深い『復讐心』に駆られる可能性がある。

 

 そんなことは万に一つも与えさせはしない。

 

 

 

「もしかしてだいぶヤバめに詰んでる?」

 

「ああ。どうにかして大人の助力を増やさないといけない……」

 

 とはいっても信頼できる大人なんて限られてる。ミヤコさんでも聡明で流暢に喋る赤子には半信半疑だというのに。

 ミヤコさんみたいに頭が回って、こういう現象を信じてくれる頭が抜けてる人なんてそうそういるわけないが……。

 

 

 

「仕方ない。子役として売りこむか」

 

 

 

 そういう男は一人知っている。俺にとって義父みたいなもので、同時にカメラ映像の知識に対しての師匠でもあり、いい年扱いても夢に向かって邁進する熱意ある男に頼るしかない。

 

 

 

 …………

 ……

 

「これを業界では『バーター』っつんだ。基本だから覚えとけ『早熟ベイビーズ』」

 

 前回同様、例のドラマ撮影の端役として出演したアイを通して面識を得た五反田監督に接触することに成功した。

 今日はアイが主演の映画撮影のために呼ばれ、ミヤコさん共々頭を下げて演者としての礼儀は通しておく。距離感近いほうが監督の好みではあるが、それはそれとして親しき者には礼儀ありというやつだ。つまりは最低限のコミュ力というやつだ。

 

「ねぇ監督。『有馬かな』はいないんですか?」

 

「あ? 有馬かな?」

 

 ルビーの指摘はごもっともだ。俺たち二人は『気味の悪い子供A・B』という役で抜擢されてロケに励んでいる。そのうち一つは元々だったら有馬かなが演じるはずの役だ。

 

 有馬かなの実力は本物だ。実力勝負なら今の俺とルビーでも、子役時代のアイツには到底及ばない。

 

 いくら監督が俺達に面白さを見出してるとはいえ、それで有馬かなを降ろすほどの影響力はない。

 だからこそ『急遽追加』という形で前は俺の役をシナリオに捩じ込むしかないほどに、監督は有馬かなの実力だけは影ながら認めている。

 

 疑問に対する返答がすぐにきた。想像もしてなかった言葉を紡ぎながら。

 

 

 

「俺が知る限り、そんな奴——『この業界にはいねぇぞ』」

 

 

 

 その理由に絶句するしかなかった——。

 あまりの衝撃に、収録中の記憶が薄らいでしまうほどに。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 収録を一通り終え、速攻でインターネットを徘徊して『有馬かな』について検索する。

 だけど、あの小生意気な天才子役の写真なんてどこにもない。出てくるのは『もしかして:有馬記念』とか『もしかして:有馬頼寧』と、有馬かなには全く関係ないものばかりだ。

 

 だったらアングラ関係か? と思って演劇、地下アイドル、オワコン系とかが集うマイナーな掲示板を覗いてみるが、そこには俺が目にしたい名前はなかった。

 

「あのクソガキ時代でさえ図太くて失礼で、子役で売れなくなっても雑草魂で芸能界にしがみ付いていたロリ先輩がいない!? そんなことってあるの!?」

 

「前者に関しては鏡見てから言えよ? まあ俺たちの性別が変わってるしな……なくはないだろう」

 

「あっ! だったら先輩も私みたいに『男の子』になってるって可能性! それで『名前が変わってる』とか……!」

 

「それも考えて『有馬 子役』と入れて検索してみたが、これでもヒットしない。いくら性別と名前が変わったとはいえ、苗字まで変わるのは家庭的な問題でも起きない限り難しいだろう」

 

「じゃ、じゃあ本当に先輩は……」

 

「ああ。どういうわけか『芸能人としての有馬かな』は完全にこの世界から消えている」

 

 ……だったら話は色々と変わるな。有馬かながいないと、後々の問題が見えてきてしまう。

 

「だとしたら、あかねさんも……」

 

「ありうるな。『黒川あかね』が役者を目指したのは有馬かなのファンになったからだ。有馬かながメディアにいない以上、あかねも表舞台に出てこないと考えるのが自然だろう」

 

「あと、メルトくんが大根役者のままだよっ!?」

 

「それもまずいな。今日あまの悲劇が東京ブレイドに襲いかかる」

 

 いや、流石に東ブレは実力面を第一にしてくれたから大丈夫か……?

 

「……とりあえずは目先の問題だ。東京ドームのライブ当日——アイの命日までにこっちも可能な限り手を揃えるぞ」

 

「分かってるよ」

 

 宝石のような眩い瞳をルビーはこちらに向けてくる。

 まだまだ赤子の瞳。成長途上の研磨される瞳。だけどその段階では至高と呼ぶに相応しい固い意志を持っていて、ある種凛々しいとも言える目つきで告げる。

 

 

 

「今度こそアクアを一人にさせないから」

 

 

 

 俺の知らない間に妹(弟?)が成長してたようで思わず笑みを溢してしまう。

 だったら今世は期待させてもらおう。一緒にカミキヒカルに立ち向かうために。

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