【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜 作:かにみそスープ
夜の宿泊施設——。
アイと一緒に浴衣姿で本膳料理を堪能し終えたところでルビーは帰ってきた。
別段特に変わったところはない。いつも通りのルビー。だがこのいつも通りこそルビーが今被ってる仮面だ。
その奥底にいる『アクア』をどうにかして引っ張り出さないといけない——わけじゃない。もっと引っ張り出さなきゃいけないのは『今のルビー』だ。
ルビーという仮面の下にいるアクアという肉体を引き剥がし、ルビーの心に触れないといけない。
「おかえりルビー。ご飯はどっかで食べてきた?」
「……まだ」
「じゃあ女将さんに頼もうか。追加料金掛かっちゃうけど」
「食欲ないからいい」
「でもお腹は減ってるよね?」
「減ってない」
「減ってるよね」
「…………うん」
ゴリ押しじゃねぇか。
「じゃあ、ちょっとコンビニ行って軽食買ってくるから。それまでにお姉ちゃんと仲直りするんだよ」
アイはそそくさに出ていく。
すれ違う最中、アイだけにアイコンタクトで「上手にね」と言いたげに目を細めて激励をくれた。僕はそれに「任せとけ」と眉を力強く絞って返答をする。
深呼吸を一つ、二つと重ねて決心を強くする。今から行うのは人間としては結構無遠慮なことだ。
でもそうでもしないと見えないし、聞こえないものもある。有馬が舞台練習の時に「アクアくん。もしお母さんが死んじゃったらどうする?」と言ってくれたから、僕は感情演技と向き合うキッカケができたように。
あまり口したくないが、今回ばかりは『荒療治』で挑ませてもらうぞ——。
「確かに側から聞いてると反抗期だな。家族に素直になれない子供って感じだ」
「なにそれ。私を子供扱いしないで」
「子供扱いはしてない。家族として心配してるんだ」
「それを子供扱いって言ってるんだよ。分かってないなぁ」
「分かってないのはルビーの方だ。そうやって意固地となる方がよっぽど子供っぽいぞ」
「売り言葉に買い言葉だね。喧嘩売ってる?」
「ああ売ってる。『姉弟喧嘩』をするためにな」
そうだ、今は会話のボルテージを上げろ。
どんな言葉でも紡いで結んで心の鍵穴に何度も差し込め。心の扉を情けなく無様に何度も叩き続けろ。
「喧嘩? 馬鹿にしてるの? ふざけてるの? 今日の一件を考えたらデリカシーのカケラもないね」
「馬鹿にしてないし、ふざけてるつもりもない。ただ深刻に考えすぎてただけなんじゃないかって思っただけ」
そうすれば素が滲み出てくる。ルビーとしての面が強く出てくる。
それでいい。心苦しいがそれが正しい。僕が向き合うのは『ルビーの中にいるアクア』ではなく『ルビー自身』なんだから。
「僕もルビーも『家族』として、しっかり向き合ったことあったか?」
「家族として一緒に生きてたんだから向き合ってたに決まってるじゃん。今更そこに猜疑心向ける?」
「向ける。お互いに『星野アクア』と『星野ルビー』としての仮面を被って、お互いに『雨宮吾郎』と『天童寺さりな』という存在に幻想を抱いている」
「……そんなことない」
「いや抱いている。だからこそルビーは『アクアがアイの情報を流した』時に激怒したし、今の僕の『デリカシーのない発言』に幻滅してる」
ルビーの苛立ちが募るのが表情から分かる。すごい心苦しい。僕だって君のことを貶すようなこと言いたくはない。
でもおかげで見えてきた。ルビーの奥底に眠る本心が少しずつ姿を見せ始めてきた。
「お互いに良いところも悪いところも見せた事なかったからこうなる。所詮『家族』なんてそんな物なんだ。『相互理解』を心掛けなければ、こんな簡単に幻滅もするし、怒りもするし、信頼もなくなる」
「……そうだよ」
「だからこそ『その一面だけを本当のこと』と思い込むのも間違ってる」
「……分かってるよ! 私自身、アクアの復讐の一面しか見てなくて、ママの死を暴いた時は本当に軽蔑したよ! 心底嫌になったよ!」
「でも僕達はまた家族として過ごしている。これがすごいことかと言われたら、意外とそうじゃない。キッカケ一つ、すれ違い一つを解消するだけで『家族』は新たな一面が見えてくる」
「それも分かってる。あの映画でアクアの真意が分かったんだから。せんせがいつも私のこと気にかけてたのを知ったから」
「それを踏まえてこれが関わってくる」
ようやく互いに裸となった心が対峙できた。
ここまでは舞台設定。演目にさえ移ってない。でも投げ渡した一つの『冊子』が開幕の合図だ。
「何このパンフレット」
「あの霊園のやつだよ。ちょっと今から昔話をさせてくれ。雨宮吾郎の時の話をな」
「……いいよ。聞いてあげる」
ルビーはそこでようやく腰を置いてくれた。
逃げ出そうとしない態度。最後まで聞こうとする姿勢の表れ。やっと面と向かって話し合うことができる。
「今から話すのは、医者や薬剤師とかそういう関係者しか参加できないコンパで出会った『元・製薬会社の社長婦人』のことだ」
「え、今せんせの女性関係の話聞かないといけないの? 惚気とか自慢? 流石に過去の栄光引きずりすぎて引くよ?」
「自慢半分なのは認めるが、この人の在り方はすごい歪でな……」
「認めちゃうんだ」
「とりあえず真面目な話だ! とにかくその人が言っていたんだ」
記憶の中を巡って当時の記憶を思い出す。
さりなちゃんの死後。アイの応援とは別に、心の空虚さを埋めるために出会いを求めていた時期。そこで出会った『白銀色の母君』の話を。
「『どう足掻いても人間って自分が幸せならそれで良い生き物でしょ?』——だと」
「うわっリアリスト〜〜」
「『でも人間は情を持つ生き物でもあるから、子供達が幸せじゃないのは私もイヤ』——だと」
「そしてエゴイスト〜〜」
正直それは当時の僕もすごい思った。控えめに言って「こいつ最悪だな」って感じに軽蔑してた。この人の『愛』は『愛情を総量として算出する利害関係』だって言葉の節々で分かった。
アイとは真逆の在り方。アイのは『『愛』の定義が曖昧』だったのに、あの女性は『『愛』の定義を明確』にしていた。
それが彼女なりの『愛』だった。子供達にそう接する事が彼女が表現できる『愛情表現』だった。
「あの人にとって『愛』は数値化されたもの。減点方式か加点方式か。そこまでは分からないけど、何にせよ酷く引いたのを今でも覚えているよ。世の中にはこういう母親もいるのかって考えさせられた」
「それが今の私達に何の関係があるの?」
「人の愛し方なんて人それぞれだってことだ」
そうだ。この世界には愛の形なんて様々だ。
創作でいう『ツンデレ』『メンヘラ』『ヤンデレ』とかいう属性も愛情表現の一面でしかない。ホストに貢ぐような『売上』という数値化された愛もあれば、ファン投票という形で『人気』という順位付けされた愛だってある。
どれもこれも全部『愛』だ——。
正しいとか間違ってるとか歪んでるとか、色々あれど『愛』は『愛』なんだ。
「さりなちゃんも同じだ。産まれた時は愛されていた。でも病を患ったことで愛を失っていった。愛せなくなった」
「……そうだね。古傷抉るのは楽しい?」
「楽しいわけがない。それでも——天童寺家は『壊れた愛』を証明したかったことを僕は言いたい」
踏み込め——。まだ踏み込める——。
ルビーの仮面を踏み躙れ。心の中に土足で上がれ。愚弄混じりでも、罵倒混じりでも、そうでもしないとルビーは『僕の心に踏み込もう』としないだろうから。
踏み込んで、踏み込まれて——やっと『対等』になれる。
「社長婦人の話はまだ続く。ある日『社長婦人の娘』は『父親と兄』の元に逃げた。家庭的な環境からくるストレスが原因だと、社長婦人は言っていたし、その原因を生み出したのが自分だというのも自覚していた」
「……反省してるなんて、まだまともな母親だね」
「そんな彼女は酒に任せて、見ず知らずの僕に弱音を吐いた。『伝わらないものね。愛しているのに』——と」
「随分自分勝手な愛だね」
「僕も思う。でもそっからはボロが次々に出てくる。『なんも上手くいかない』『ミユキ、ケイ、大好きだよ』って弱音を吐き出しまくったよ」
「社長夫人さん病んでない? てか『ミユキ』と『ケイ』って誰?」
「病んでたし、それは知らん。普通に息子と娘の名前だろ」
「その場合、どっちがどっちの名前なんだろ……。名前だけなら『ミユキちゃん』『ケイくん』って感じで前者が娘っぽいけど」
「……確かに『ミユキ』が息子で、『ケイ』が娘の名前の可能性あるな」
——って、それは今関係ない。話が脱線してる。
漫画とかによくある『前作主人公』がシャシャリ出てくるみたいな話なんじゃないんだから、話を本筋に戻さないと。
「要は『愛なんて見えない』んだよ。『知ろうとしない』限りは。子供に伝わらない愛は、どんなに愛してたとしても愛として証明できない」
「一種の『ネグレスト』を正当化してるように聞こえるけど」
「それは認めるよ。愛なんて我儘なもんさ。だから『愛されてる』かどうかも知ることから始まる。確かに君のお母さん『天童寺まりな』は君への愛をなくした。でも本当だった愛が嘘になるなんて、それは辛いに決まってる。心の奥底のどこかで『伝わらない愛』が、自分勝手なエゴイズムな愛があるんじゃないか?」
「————ッ」
そこでルビーの呼吸が一度詰まった。何かしらのワードがルビーの心に刺さったからだろう。
ここからが勝負所。切り札を出す時だ。
「その答えがここにある」
「……このパンフレットに?」
ルビーはようやく目を通してくれる。
天童寺家の歪みと愛が詰まった冊子へと。
「この霊園は『天童寺が代々受け継いできた土地』だ。だけど遺産相続の関係で、祖母と祖父の死後は『地域の自治体に寄贈される』ことになって公共の物になった。つまり『天童寺の運営主体者から外れた』ことになるんだ」
「まあ色々面倒だからね……相続税、贈与税、固定資産税とかうるさいの関わってくるし、手放したい気持ちも分かるよ」
「ルビーのくせに難しいことを知ってるな」
「一応芸能人だからね? 税金関係は地獄見るの分かるでしょ?」
「……所得税とか住民税とか自動車税とかあるもんな」
なんだろう。ブルーな気持ちになってきた。
「ともかく君の遺骨が埋められた樹木——あれは『君の死後に植樹した』ものであり、あの樹木の樹齢は『今年で32歳』になるんだとさ」
「へー、ママと同い年だ」
「同時に『さりなちゃんが生きていた場合の年齢』でもある」
「…………それがなに? お母さんは土地を手放した。つまり『見捨てた』ってことでしょ。私と同じように」
「ああ、手放した。そこは否定できない事実だ」
「ならここで話は終わりにしよう。もう割り切ってるから深くは傷つかないけど、聞いてて良い気分にはならないから」
「続けるさ。この話はここで終わらないんだから」
「これ以上は蛇足でしょ」
「蛇足だろうな。終わった物語に続きを紡ぐ出来の悪い創作のように」
「じゃあエタろうよ。駄作の烙印を押される前に」
「でも、こうでもしないと『都合のいいハッピーエンド』ってのは掴めないんだよ——」
そうだ。僕はアイの子供だ。子供は親の後ろ姿を追うものだ。
この策を実行する前にアイが伝えてくれた激励を思いだすんだ。
…………
……
「マリンはどうしたい? 罪滅ぼしを優先する? それともルビーのことを優先する?」
「『両方』だ——。ルビーも助けるし、僕の贖罪も果たす」
「流石私の子だ。欲張りさんだね♪」
……
…………
貪欲かつ強欲に。堅実かつ誠実に。
星野アクアマリンは欲張りなんだから、ハッピーエンドの一つくらいもぎ取ってやる。
僕が
「『樹木葬』の木は他の木と違って建築用じゃない。霊園の運営に必要な資産だ。よって『森林法』にあるいくつかの条例に則って『自然的な腐敗、損害で周囲に危害が及ばない限りは伐採できない』んだ」
「法律の話関わるの!? せんせって医者だよね!?」
「カミキヒカルを合法的に捕まえるために『六法全書』とか法律関係一通り見たんだよ!」
おかげで法律って色々と派生していて、面倒なの多いってことにも気づいたけど! 意外と政治家とか総理大臣って大変な手続きあるんだなって知ったけど!
「もちろん霊園だって色々な人骨や飼い犬とか飼い猫の骨も埋葬してるから土地開発にも使えない。となれば、寄贈された土地の使い方は限られるよな」
「自治体が霊園を続けるしかない……」
「そういうこと。近代化で地主として既に低迷を迎えていた天童寺家は、霊園の土地を自治体に渡すことでここの運営を恒久的な物にしようとした」
「……結局何が言いたいの?」
「もう僕から説明する必要もないし、ここからは僕の推測にしかならない。答えを決めるのはルビー自身だ」
これは君の人生。誰のものでもない。
それは答えなんてない。自分で選ぶ道なんだから。
もう呪縛は解いて——定められた『
…………
……
答えを決めるのはルビー自身——。
そこから先はアクアは何も言うことはない。これ以上の質問は門前払いって感じ。
だったら見てやろうじゃないか。娘の墓を観光名所気分にしてる親の歪さを。
そう思って開いたはずなのに、一端の役者としての本能が叫んでいた。
このパンフレットに込められた意味を解釈しろと。私の全神経が理解を促そうと躍起になっているのを。
「……樹木の種類はスギ」
意味合いとしては『素直』や『深遠』——。
そして『あなたはそのままで素晴らしい』——。
「——この樹木に添えて良いのは『赤い彼岸花』だけとさせていただきます」
赤い彼岸花の花言葉には『あきらめ』『悲しい思い出」とかあるけど——。他にも『情熱』や『独立』もあるけど——。
そこには『また会う日を楽しみに』という意味もある——。
「……バーカ。生まれ変わりなんてフィクションだよ」
まあそんなフィクションが、私にとっての
お母さんは生まれ代わりを信じていた? 馬鹿馬鹿しい。本当馬鹿馬鹿しい。変な宗教にでもハマったんじゃないかって逆に心配になっちゃう。
「それにスギなんか植えたら『花粉症』になっちゃうの分かってないのかなぁ。本当エゴイズムだね」
「周りの迷惑考えろって感じだよな」
「うん。周りの迷惑考えないくらい……私のことを思ってたってことでいいのかな」
「さあな。本人から聞いたわけじゃない。解釈の一つにしかならないさ」
スギに
あなたはそのままで素晴らしい——。
また会う日を楽しみに——。
綺麗事で片付けようとしてるのは、それはそれとしてムカつくんだけど——。
「……葬式とか埋葬っては区切りをするための物だよね。いつまでも引きずっちゃったらダメだよね」
これで許そうなんて到底は思わない。でも納得はしたし、ママも言っていた。
それはそれ、これはこれ。今のセンセとさりなちゃんは『星野アクアマリン』と『星野ルビー』なんだからって——。
親離れしないとね——。さりなとして。
「さよならお母さん——。さりなとしては、もう満足のいく物語になったから」
さりなはさりなのまま——。
ルビーはルビーのままの方がいいのかな——。
私がアクアになろうとしたら、今ここにいるルビーはいなくなってしまう。
それは『そのままで素晴らしい』と言ってくれたお母さんの思いを台無しにすることになる。
それこそ思いを踏み躙って、今度こそ『本当だった愛を嘘にしてしまう』——。お母さんの歪な愛さえもなかったことにしてしまう。
繰り返さないとか言ってたのに、また同じことやろうとしてたんだね。
今度こそ『本当が嘘』になっちゃうところだったね。
「……っ」
そうだ——。私の心の深淵にあるのはそれだった。
本当が嘘になるのが怖かったんだ。私は自分の愛が嘘だったことになるのが怖かったから身投げした。
だけど自分を愛せないと——。誰を愛しても、嘘にすらならないよね。
愛がない言葉で愛を紡いだって、本当にさえなれないんだもんね。
——
「ルビーが考える必要はない。これは私の、俺の、僕の問題だ。贖罪はしっかり果たす」
未だにアクアの心は不安定で揺れ動いてる。それでも踏み出そうと頑張ってる。
代わりになれないなら——せめて支えになろう。隣に立って同じ景色を、同じ気持ちを分かち合おう。
——だってこの世の二つとない血を分けた『兄妹』で『姉弟』なんだから。
「だから手伝ってくれ——。代わりじゃなくて、手を取り合ってくれ。僕が罪悪で落ちそうになった時は、ルビーが引き上げてくれ」
「……しょうがないなぁ」
「それだけで僕はこの道を進める。迷いなく、躊躇いなく、真っ直ぐに」
硬い契りの握手。愛は愛でも『家族愛』として交わり。
私は私として……『星野ルビー』として『星野アクアマリン』を支えることをここに誓います。
——さりなの初恋は、これで本当に終わったね。
——あのラブレターは、あそこでひっそりと置いておこう。
——さようなら。せんせ、さりな。
——私はもう誰でもない『星野ルビー』です。
「大体なルビー。お前がアクアになれるわけないんだよ」
「なんで? これでも私は役者もやってたんだよ。あかねさんほどじゃないけど、演技できるの自負してるよ?」
「焼肉堪能して胃袋凭れない嬉しさが分かるか? 徹夜して動画編集して死ぬ様な思いできるか? ぴえヨンのマスク被って坂路を走れるか? アヒル声で熱血レッスンできるか? 澄まし顔でオタ芸できるか? 電動キックボードで宮崎をゴロゴロと回れるか? 毒舌クールキャラができるか?」
「……割とコミカルなことしてるね!? てか、ぴえヨンの正体ってアクアだったの!?」
「あのレッスン中はな」
「……プッ! アハハッ!! アクアがあんなアヒル声で喋ってたとか笑い死んじゃう!!」
「ほら、知らないことなんて意外とあるだろ」
「うん——。こんな小さなことでも知らないことはあるんだね」
「じゃあ問題。僕の嫌いな食べ物って何だと思う?」
「ピーマンでしょ。全部ピーマン味になるから」
「正解。じゃあそれ以外は?」
「それ以外? ……パプリカ?」
「春菊だ」
「それは知らないっ!?」
「あと先に謝っておくことがある」
「謝ること? それなら私の方が……」
「陽東高校に入る前。俺が裏から手を回して、ルビーをアイドルオーディションから落選させた」
「最悪じゃんっ!!?」
そこからは子供の夜遊び。
くだらないことを打ち明けたり、口にしたら怒られそうだから秘密にしていたことを共有したり、実は隠れた趣味を暴露したりと本当に色々と知らないことを交流していった。
知らなかった。知らないことなんてたくさんあった。
せんせの愛車とか恋愛経験の多さとか。アクアがSNSで裏垢持ってるとか、実はあかねさんとはプラトニックな付き合いをしてて前の世界は童貞だったとか。些細なことだけど本当に知らないことが多かった。
「みなみちゃんのこと見てると、ムラっとしちゃうの嫌だよね……。友達なのに、そういう目で見ちゃうのが……」
「あー……あー……。生存本能だからなぁ……」
「アクアは性のお悩みある?」
「言わせるな。分かるだろ」
そりゃもう赤裸々に。とにかく隠し事なんて知らんと言わんばかりにぶっちゃまくった。
その裏で『押し殺した笑い声』とか『足をジタバタさせる音』とか聞こえたところで私とアクアは暫しの沈黙と共に察し、沈黙が合意となる。
今日は無礼講だ。とことんやり合おう。相手が誰だって関係ない。
そうやって全部をぶつけ合って、吐き出し合ったほうが絶対気持ち良いだろうから。
「ここからは『親子喧嘩』の時間だな——」
「そうだね。壁に耳あり——」
障子に
話がひと段落ついたところで即座に襖を開き、向こうにいる星の眼へと狙いをつけた。
「おかえり、母さん」
「おかえり、ママ」
「……ただいま♪」
「私、お腹減ったんだけど」
「僕もお腹減ったんだけど」
「「コンビニ行ってきたんだよね?」」
私とアクアの言及にママは目を逸らした。それが答えになる。
ウチのママは本当によく分からない。嘘が得意なんだか苦手なんだか。
そう、私達はまだまだ知らないことも多い。
だから理解し合おう。綺麗なところも、汚いところも。それこそ目を覆いたくなって幻滅したくなるようこともあるだろうけど。
——きっと、そうすることで私達はようやく『星野家』になれるんだ。
「いつから盗み聞きしてた?」
「……最初から♪」
——許すまじ。
「子供にもプライバシーはあるんだよ!?」
「だって二人とも目を離したら、すごい変なこと話す時あるんだもん! 実体験で知ってるから不安なんだよ!?」
「実体験? いつ頃の話だよ」
「子供時代に処女受胎とか決めつけたりとか、ヒカル君を掴まえようとしてたりとか」
「ヒカル君!? ママってアイツのことそう呼んでたんだ!?」
「これでも結構親密だったんだよ? じゃないとヤらないからね?」
「だからママ、ドアチェーンもインターホンチェックもしなかったのか……親密ゆえに警戒心ゼロだったのか……」
「そういう無防備さが危ない目にあうんだぞ。というか、リョウスケ君を抑える時に失敗してたらどうする気だったんだよ」
「ダメでした、って割り切る予定だったよ。遺書も用意してたし」
「無謀だな!? どれだけ僕達が焦ったと思ってるんだよ!」
「だったら遺書探そう! 公開処刑っ!! ママの恥ずかしいところ晒さないと気が済まないっ!!」
「遺書は捨ててるし恥ずかしいところなんてないよっ! おっぱいもうんちも公言してるからっ! 妊婦だった時期の写真も既にSNSで公開されてるからっ!」
「クソっ! レスバに強いっ!!」
「というか歩く黒歴史じゃん!!」
「16歳で子供産んだ私にまともな倫理観があると思わないでねっ!!」
「「それは誇るなっ!!」」
こうやって少しずつ積み上げていこう。
今日も明日も明後日も。一年先も十年先も百年先も。愛を紡いでいこう。
それこそクルクルと回る『遊星』のように移り変わるのだろう。
寄り添い合いながら。誓い合いながら。喧嘩し合いながら。分かち合いながら。馬鹿にし合いながら。愛し合いながら。
それが『家族』としての一つのあり方。
星はいつか一粒になるけど、星が集えば新たな絆となって未来を照らす。
「というか仲直りしたんだから今後の予定決めないと。宮崎県は海沿いだし、山もあるし、花火大会もできる! やることはいっぱいあるっ!」
「そうだね! せっかくの夏休みなんだから楽しまないとっ!」
「その前に宿題な。ルビーはプチ家出してたんだから今日分片付いてないだろ」
「はいムード台無しぃ〜〜。第二次姉弟喧嘩の勃発ですぅ〜〜」
「私も加勢するよ! 一番星だけにね!」
「一番星は金星だよ、火星じゃねぇよ」
「ありゃ、一番星って金星なんだ。つまり私は
「なら一番繋がりで聞くけど、太陽系第一惑星つまり太陽に一番近い惑星は何だと思う?」
「月でしょ。日曜日の次は月曜日なんだから」
「『水星』だよ。そもそも月は衛星だよ、惑星じゃねぇよ」
「流石センセ、頭いい〜〜」
「ルビー、こうならないためにも勉強しような」
「はい、星野ルビー宿題やります」
いつかその胸に秘めた『贖罪』が『復讐』を断ち切るまで、決して一人にさせない。ずっと共にいる。
この『星』に生まれたこと——。
この世界で生き続けること——。
その全てを愛せる様に——。
目一杯の『祝福』を