【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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 総合評価1500pt突破と、赤ゲージ満タン(平均評価8.0以上維持)ありがとうございます。これも全て皆様が長い目で付き合ってくれているおかげです。改めて感謝の意として、ありがとうございます。


★第二十一話★ アンコール

 星野家の夏休みは開幕された。暑さに脳味噌が蕩け切ったかのように、浮かれ頭でそりゃもう意味不明なテンションに任せて堪能しまくった。

 

「若い体サイコー。いくら食っても胃がもたれねぇ」

 

「あ〜〜、それ最近実感する。30代に入ってから、ラーメンとか汁まで食べると胃もたれするようになって……」

 

「アラサー会話やめてくれない? 私の除け者感がすごいから」

 

 浴衣姿で夏祭りを闊歩しまくった。フランクフルト、焼きそば、リンゴ飴と貪りまくって、知らない間に下駄紐が切れるほどに歩き回った。

 

「ペッ……やった! ママよりスイカの種飛ばせた!」

 

「じゃあ今度は鼻から種飛ばそう! こっちじゃ負けないよ!」

 

「流石に絵面がまずいからやめとけ」

 

 宿泊施設の縁側でスイカやかき氷を貪ったりもした。おまけのついでに手持ち花火もしたが、ねずみ花火の奇妙奇天烈な動きにアイが奇声(喜声?)を上げて逃げ回っていたのが今でも目に焼き付いている。

 

「宮崎牛おいしぃ〜〜!! 有名人の子供で良かったぁ〜〜!!」

 

「母さんもっと食べないのか? せっかくの宮崎牛のフルコースなんだし、食べないと損だぞ」

 

「私はこれで十分だから……本当若い子っていいね……」

 

 食い倒れツアーだって実行したさ。宮崎牛は当然に、ご当地感満載の『レタス巻き』とか『完熟金柑』とか『日向夏』を使ったアイスクリームとか詰め込めるだけ詰め込んでおいた。おかげで体重が2キロ増えたけど愛嬌ってことで。

 

「可愛いよマリン! 胸キュンしちゃう!」

 

「それもう死語だぞ、三十路」

 

「じゃあエモい?」

 

「もっと古いぞ」

 

 そらもう意味不明なテンションに任せて水着をアイとルビーに披露して海水浴も楽しみましたとも。

 マリンだけに海物語のアイツみたいな際どい水着で海水浴を楽しんでたり、ラッシュガードを羽織って撮影会が繰り広げられたり、翌日にはみんな日焼け跡がクッキリでアフターケアに回った物だ。特にアイなんかサングラスの跡が結構残ってたから、すごいパンダだった。

 

 けれどこれは夏の思い出から消しておこう。自分でもよく分からないテンションで遊んでたから、私の深層心理に眠る何かが爆発してたような気がしてならない。

 

 

 

 そんな楽しい夏休み——。

 僕は今だと思ってルビーに聞いてみることにした。

 

 

 

「前の世界の僕ってどうなったの?」

 

 

 

 そしたらビンタされた。

 追撃のビンタをかまされた。

 おまけのビンタをくらった。

 

 合計3回分、親父でもここまで叩かない。

 そのルビーは「最低。また一つ幻滅した」と笑顔で溢してくれた。結構怖い笑顔だった。

 

「はぁ〜〜。本当なんでこんな人を好きになっちゃったんだろう……」

 

「ひでぇ言われよう」

 

「思い出は綺麗なままでいてほしかったよね。蓋開けて見れば、私達のB小町だってアクアプロデュースのロリ顔軍団だし、あかねさん利用するために打算でキスするクズだったし、先輩守るためにバーター記事提供したりで……。本当さりなが大好きだったせんせはどこ行ったんだろうねぇ」

 

「それ言ったら僕もルビーに言いたいことあるんだけどな。深夜にアイアンチとクソリプ合戦してたり、母乳を赤ちゃんの権利を駆使して貪ったり、炎上商法で自分のことを売り込むダーティなことしたりとか……。僕が知るさりなちゃんは純粋に良い子で、純粋に変な子だったんだと」

 

「事実陳列罪ぃ〜〜」

 

 とか何とか言ってるけど、口にするほど失望してる様子はない。ある意味ではルビーなりの照れ隠し的な一面もあるだろう。

 それに『私』じゃなくて『さりな』と言ってるところにもルビーなりの線引きが見え隠れしている。当人にとってはもう既に割り切ったことなんだろう。だからこうして笑い話にして許そうとしてくれている。

 

 一通り悪態をついた後、ルビーは僕のこと——アクアのその後を話してくれた。

 カミキヒカルへの復讐を終えて精神が壊れてしまったことを。その面倒をルビーは見てていたことを。余すところなく全部。

 

「だから私は絶対アクアに無理させようとしないからね。こればっかりは過保護になるからね」

 

 カウンセリングを躱して完治したフリをした前科があるから、そういうことを口にされると大変耳が痛い。

 元々復讐を終えた後はまともな人生送れないし、送ろうとも思ってなかったから当然の顛末だとは思ってはいるが……そこまで周囲に迷惑を掛けるほど影響があるとは考えてなかった。

 

「僕のことは過ぎたこととして……」

 

「終わってないからね。私からすれば、まだアクアのことは何も終わってないからね」

 

「その後のルビーの行動について少し言いたいことがある」

 

「そこは……ごめんなさい。本当にごめんなさい。介護疲れで自殺する人の気持ち今なら分かるなぁ」

 

「別に咎めようとする気はない。辛かったなら僕を早々に見放せば良かった、って言おうと思ったんだ」

 

「そうやって自分を蔑ろにするから心配なんだよ! 早速手を引いてないと心配になるほどにっ!」

 

 

 

 ——これでより一層『贖罪』についても、周囲に過度な負担を与えない程度の範囲で収めないといけないんだな。

 

 何やかんやで僕達に必要だったのは腹を割って全部話すことだったのかもしれない。

 あの復讐も素直に誰かに打ち明けていたら、また別のエンディングを迎えたかもしれない。

 

 ……でも別に間違っていたなんて思わない。というか思っちゃいけない。

 間違っていたと思ったら、それこそ『何のために産まれた』と罪悪感が押し寄せてくる。アクアの復讐は無意味になる。

 

 これは既に永遠に手遅れになった話——。

 向かい合うのは、この『復讐』に対してどう『贖罪』をするかだ。

 

 

 

 そんなこんなで楽しい宮崎旅行による療養期間。最後には『山登り』をすることになった。

 一応僕は前世で経験があるとはいえ星野家は初心者三人組だ。となれば引率係は必要になるわけでして。

 

「シノさん、おひさです」

 

「ゆらちゃん、おひさ〜〜。今日はガイドお願いね」

 

 ようやく僕達は『片寄ゆら』さんと合流することになった。こっちが夏休みを楽しんでる間に『市房山』の方に行っていたらしく、自慢気に登山道の最中で入った食事処とか山頂の景色を母さんに見せている。てか結局『シノさん』の由来聞けてねぇな。

 

「山登りに詳しい『フジさん』からレクチャー受けてるので、大船に乗った気でいてくださいね」

 

「登るのは『祖母山』なのにフジさん……」

 

「山なのに船……」

 

 IQ3くらいしかなさそうで不安がいっぱいになる。この人、根本的な残念さがアイに若干似てないか?

 

「山登りに重要な三点! まず『全身装備』! 山の天気は荒れやすいし害虫や野草とか危険も多いから露出させないのが基本! 次にバックパックも胸や腹部で固定して『両手が空く物』ようにすること! 両手が空けばトレッキングポールも装備できるし水分補給や携帯食料も手にしやすい! 最後に歩きやすくかつ負担が少ない『靴を選ぶ』こと! 人間足腰が第一だからね!」

 

 オタクって得意分野になるとすごい早口になるよな。

 

「でもお高いんでしょ? アイちゃん知ってるよ。企画で相場知ってるので。靴だけでも諭吉さんが3人吹き飛ぶでしょ?」

 

「ご安心を! 世は大サブスク時代! 釣り、キャンプ道具から登山道具までレンタルできる時代!! 今なら5000円もあれば一式揃っちゃうんだよ!!」

 

 ここまでくるとダイレクトマーケティングだな。

 身長とか足のサイズとか必要なサイズは全部ゆらさんに伝えておいたし、後は持ってくるまで待つだけ。

 待ち時間は暇なので、役所とかオフィスビルにありがちな意識高い無料冊子を適当に読み耽って過ごすとしよう。

 

「ルビーは何読んでんだ? ここに置いてるカタログじゃないよな?」

 

「そこらへんで拾った冊子だよ」

 

「ゴミじゃねぇか」

 

「でもこれって神話のことが載っててね。ちょっと面白い記述があるんだ」

 

 ルビーは肩を寄せて冊子を見せてくれる。

 それは聞き覚えのある日本神話の神様が1ページに3つくらい載っている簡易的な紹介。そのうちの一つにルビーは指を示した。

 

 その名は『八咫烏』——。

 曰く『導きの神』にして『太陽の化身』とされる存在らしい。

 

「私が過去に名乗った『アマテラス』って知ってるでしょ? あれって『太陽の神様』なんだけど、その使いとしてこのカラスがいるんだって」

 

「……カラスか」

 

「やっぱり同じところで引っかかるよね。カラスって言えば、私達が思い浮かべるのは『疫病神』だもん」

 

「疫病神でも、一応は外見は少女の姿だったぞ。アイツが八咫烏っていうなら雑誌の挿絵みたいに『3本足のカラス』じゃないと整合性つかなくないか? 八咫という意味では身長はそれぐらいだったが……」

 

「八咫烏って使いでしょ? つまりは『手下』とか『部下』って考えるなら、あの少女はカラスの上司ってことになる。八咫烏を使いにできる神様ってアマテラスもいるんだけど……」

 

 ルビーは雑誌を数ページ捲ると、1ページに大々的に書かれた神様を示してくれた。

 

「『タカミムスビ』とかもいるんだよね」

 

「こいつ別に宮崎関係ないだろ。神社もないぞ」

 

「でもこの神様『産霊』として『生成・生産』を意味する『創造神』でもあるんだよ。『縁結び』の神様でもあるから、私達が転生できた理由だって一応理由が……」

 

「いや、あの疫病神がそんな器じゃないだろ。冊子見る感じ、結構上位の神様だぞ」

 

「お姉ちゃんも違うと思うかぁ。じゃあ、あの子の正体なんだろう」

 

「その言い方からしてルビーも違うと思ってたんだな」

 

「こういうの確証バイアスっていうでしょ? 自分にとって都合のいい情報だけを得て、正解を納得させる的な」

 

 ルビーなのに賢いな。客観的に見れるだなんて。

 

「でもね、そうでもしないと分からないんだ。『転生』なんて宮崎の神話には見当たらないし、それこそ『時間遡行』とかもない。何なら前の世界で疫病神が口にしていた『私達の役目』ってのも何もかも」

 

「日本神話はいい加減で解釈幅が大きいからな。フリー素材的な一面も大きくて同一視されてるのだってあるんだ」

 

「あー、分かんない! 何もわかんない! お姉ちゃん考えて!」

 

 ごめん、いつも通りのアホだった。こういうところは赤子の時から何も変わってないというか、アイの遺伝子が強いというか。

 

「それに『神様は神社を渡り歩く』んだ。ずっとそこに引きこもってるわけじゃない。それこそ僕達が一度キャンプ場として立ち寄った『島根県』には『出雲大社』という『オオクニヌシ』がいて……」

 

 ……そうだった。日本神話を語るなら、もっと根本的な部分にあった。神様とか何とかじゃなくて『神様が何をしてきた』というほうが大事だ。

 日本神話を語るのに最古の歴史書である『古事記』と『日本書記』の二つになる。そのどちらにも記された出来事には『オオクニヌシ』の『国譲り』がある。

 

 じゃあその『国譲り』の後には何があったかと言えば——。

 

「あった。一つだけ合致して、僕が生まれ育った『宮崎県高千穂町』に関係していて、ルビーの言っていた『タカミムスビ』も関わりがある場所を」

 

「どこどこ?」

 

「『天岩戸神社』——。ここには神様が数多くいて、その中に『アマテラス』も『豊玉姫』もいる。そしてここは『タカミムスビ』もしくは『アマテラス』の神勅を受けた『瓊瓊杵尊』が始めた『天孫降臨』の舞台の一つでもあって、この逸話がパワースポットの要因にもなるほどだ」

 

「急にこの世全ての悪を語る正義の味方みたいにならないで!?」

 

 オタクは早口になるって言ったが、これは僕にも言えることだったな。

 

「というか『天孫降臨』ってなに?」

 

「日本神話にあるお話の一つだな。わかりやすく言えば、日本を統治するために『瓊瓊杵命』が日向の高千穂の久士布流多気に舞い降りたって話。ちなみに僕たちが生まれた病院があるのが『高千穂』で、日向ってのは『太陽』って意味がある」

 

「それだと『天孫』の意味わからなくない?」

 

「単純に瓊瓊杵命がアマテラスの孫だから」

 

「ああ、そういう」

 

 名前って意外と適当だからな。チゲ鍋とかサルサソースとか希○皇○ープみたいに重複してるのもあれば、僕達みたいな当て字もそうだし。

 神話でも名前そのものを深く気にする必要はないんだ。重視すべきはあくまで『役割』だからこそ神様は同一視されるんだし。

 

「この天岩戸神社って結構歴史があってな。西本宮には『アマテラス』を筆頭に7体いるんだが、東本宮には『イザナミ』と『イザナギ』という神様がいる」

 

「その名前懐かしい〜〜。幼児期のあかねさんが名乗ってたね」

 

「この二人は『日本神話最古の夫婦』で、妻のイザナミに至っては『黄泉の国』の女神なんだ。しかもその黄泉の国は一節にある『黄泉の国の入り口は出雲にあり』の通り、さっき話した島根県の西部だったりと日本神話はとにかく日本中を渡っていて話が大きくて広い」

 

「うげぇ……。全部調べようとしたら、日本横断の旅になっちゃうね……」

 

「だがそうなると僕達の『転生』についても『タカミムスビ』の説も正解でないにしろ遠くもない……。それこそイザナミとイザナギも黄泉関係だし、オオクニヌシも同様だ。何なら『スサノオ』も死者の国の関係者だしな……」

 

「続々と知らない名前出てくるね!?」

 

「日本は『八百万の神』だからな。古今東西、中国からインドまで同一視してるのがあるからすごい多いんだ。『七福神』の『弁財天』とかまさにそれだぞ」

 

 そうしてこうして僕とルビーの考察なのか妄想なのかよく分からない話し合いは長時間に及んだ。

 山登り中も暇さえあればスマホで調べ、圏外になったら冊子を舐め回すように読み込んで仮定を組み上げる。まあどんなに高い仮定を頑張って積み上げても、土台が不安定な時点で地盤沈下するしかない妄言でしかないのだが。

 

 結果としては明確な答えはまだ出ていない。

 だが『天岩戸神社』の関係者である可能性が濃厚にはなった。あのカラスの少女は何者なのか。その答えと『転生』については少しずつ近づいている。その実感自体は湧いてはいる。

 

 

 

 ——だが分からない。それでも分からない。

 ——『時間遡行』と『性別が変わってる』ことに関しては相変わらず何も分からないままだった。

 

 ——根本的な部分を履き違えてるような、ボタンの掛け合わせを一つだけ間違えてるような、そんな違和感はずっと消えずにいた。

 

 

 

「……これが山頂か」

 

 けれどそんな重い思いは、山頂から浴びる風と共に吹き飛んだ。

 眼前に広がる地平線。世界の果てまで続くかのような絶景。目を奪われるのも仕方がないことだろう。

 

「……知らないことは家族だけじゃないんだな」

 

「そうだね。病院のベッド上だとこんなの見れなかった」

 

「山の景色なんてネットで調べれば出てくるのに、実際に見ると違うんだな」

 

「うん。もっともっと見て回ろう。今までのすれ違った時間、取り返しのつかない時間。全部ひっくるめて素敵な景色を見ていこう」

 

「ああ——。だったらやることは一つだな」

 

「「まだまだ夏休みを楽しもうっ!」」

 

 

 

 姉弟の絆を深める傍ら——。

 アイとゆらさんは手頃な岩に腰を置いて、深刻なことを話し込んでいた。

 

 

 

「シノさんなんか元気ないね? 高山病とか?」

 

「違う。これでも三十路だから膝ガクガク……」

 

「まさかの関節痛!?」

 

「どちらかと言えば筋肉痛かな……。連日宮崎回ってるし、運転とかで座ってることが多いから……」

 

「切実なお悩みだった」

 

「ふふっ……ゆらちゃんも数年すれば分かるよ……。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている……」

 

「ひぃぃ……! 年って重ねたくない……!」

 

「本当若い子が最近羨ましい……。今度来る時は我が子の言う通り、新幹線か飛行機にしようかなぁ」

 

 

 

 だからキャンピングカーはやめとけって言ったんだ。

 今後旅行があったらこういうことにならないように、旅行の時は計画的に移動手段を整えておこう。アイを反面教師にするように心に刻んでおこう。

 

 

 

 それでも夏休みは続く——。

 星野家の夏休みは平穏かつ楽しげな夏は終えていく——。

 

 

 

 深淵の話はこれにておしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——カラスは ようやく泣きました。

 ——夕焼け小焼け カーカーと カラスは鳴きました。

 

 

 

「やっと帰ってくれたねー、あの家族達」

 

 天岩戸神社に佇む少女の姿が二つ。

 陽炎に虚ろう二人の少女は、幻想的や神秘的という表現が最も相応しいほどに浮世離れした雰囲気を纏っていた。

 

「知ってる? 鳥居を潜る時は帽子を外さないと罰当たりなんだよ〜〜?」

 

「うるさい。マナー違反を指摘する方がマナー違反よ」

 

「それに手を清めないとね〜〜」

 

「本当うるさいわね、このクソガキ」

 

 皆既日食にでもあったかのように、太陽のような存在感を放つ少女の顔に翳りが差す。

 逆に少女はケラケラと笑う。太陽を遮り、光を一身に浴びる月のように。

 

「でも私は許してあげる。所詮そんな作法は俗世が勝手に決めたものだし。私にはもっと大切なことがあるもん」

 

「何が言いたいの」

 

「さあ? それを知ってるのは他ならぬ貴女でしょ?」

 

 少女の笑みは太陽を蔑む。お前の願いなど届かないとでも言いたげに。

 太陽が輝く限り、夜空を煌めく星達は瞬くことなどないと馬鹿にするように。

 

「約束通り馬車馬のように働いてよね『有馬かな』——。絵馬に記した馬鹿みたいな絵空事を成すためにも」

 

「はっ。馬繋がりで言葉遊びしてるようだけど、私からも言い返してあげる。馬耳東風ってね」

 

「こわーい。これこそ馬の耳に念仏だねー」

 

「ちっ、ああ言えばこう言う……。このクソガキが」

 

 太陽は睨む。少女の淫靡な笑みに影は落ちる。

 二人に友好的なんて感情はない。ただ利害関係が一致しただけの利用し合う同士の関係。利用価値がなければ切り捨てるような一筋だけの細い関係。

 

 好きにしていいよ——。役目さえこなしてくれるなら——。

 それだけを残して少女は何処かに行く。時の流れに攫われるように忽然と。声だけが遠ざかっていく。

 

 そしてまた一人。淀んだ空気で太陽は願う。

 落ちるしかない日の中で、夜にもがき苦しむ迷い人達に道標となる星が照らされますようにと。

 

 虚構に成り、深淵に落ちてなお、真実に辿り着こうとする者達へと向けて星に願いをかける。

 

 

 

 唯ひとりへ向けた喝采(ラストアンコール)——。

 

 

 

 三度、落陽を迎えても太陽は願い続ける。

 どうか贖罪を果たすための、一番星のような道標が灯りますように——。

 

 

 

「……帰って『東京ブレイド』の稽古をしないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——さあ『真実』へと続く舞台の再演(アンコール)は幕を上げようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで第3章【宮崎サマーバケーション】はこれにて終了です。ここで第一章の後書きに書いていた『有馬かなは非常に重要な役割がある』の一端が見えましたね。

 第十七話〜第十八話が意外と反響があり、かつ今までの読者が反転アンチ化しないか内心ドギマギしていたのですが、そんなこともなくて一安心です。こんなのがもうちょいあります。『そして』『だけど』『最後に』って感じに合計3回分。だって過去編はメモ代わりってのもあるけど、下書き段階ならすでに書き終わってるもの。

 あとこれが別に考察したことを感想で書いても問題ないと言った理由でもあります。
 結果よりも『過程』を重視する以上、恐らく皆が想像する以上の地獄をお披露目できるという自信が七話の騙し討ちが成功した時点で少なからずあったので。こんな風に地獄は続いていきます。すごく楽しみでワクワクしちゃう。

 それにYOASOBIさんの楽曲の歌詞を使ったりした言葉遊びをしたり、ルビーの石言葉を使ったり、結構色々と仕込んだりと結構遊んでおりました。これもすごく楽しかった。

 またこの作品を作るコンセプトというか、第一章の動きが『アイ死亡⇄アイ生存』のように反転してるように、この章では『嘘が本当になる』という部分を反転させて『本当が嘘になる』に取り扱っておりました。こういう反転要素自体『TSF』という部分にも出てますね。

 あと過酷を与えて、さらに押し付けて、おまけに叩きつける。それを乗り越えた一生懸命の報酬でハッピーエンドを与える。わえ、そういうのが好き(ヴリトラ並感)
 
 可哀想は可愛いですからね。望んでないTSとかは一種の『尊厳破壊』みたいなので大好きです。挫けないで頑張ってほしい。暗闇の荒野に進む時、道標となる一番星が星の子達を照らしますようにと願ってるから。願うだけだけど。

 一応補足として言いますが、この章では『ある作品』の単語が隙あらば出ています。というか愛の定義を語った時の出てきた『白銀色の母君』とかもろにあの人です。『ミユキ』と『ケイ』とかもろにあの二人です。
 そして第二章の後書きで書いた章ごとの要素抽出……これを推理すれば今後何が起こるのか分かると思います。ただこれをする理由にも単純に「これしたいなぁ」とかもあると言えばあるのですが、今後の『ある展開』をする際に『ある要素の一つ』を補う必要があって、それが『ある章のメイン要素』と合致しちゃったから「もうやるしかねぇな?」って感じに、そこまでの展開に説得力を持たせるための一因でもあります。それをもうこの時点で告白します。過程が重要だから、結果が知られる分には本当どうでもいいんで。

 ちなみにカットされた『星野家の水着回』は番外編で公開するので、無事に七章を迎えられるよう応援よろしくお願いします。

 そんなこんなで第四章は【東京ブレイド】になります。
 次章は今回とは逆でメインは『あかかな』となり、アクルビは舞台裏でスタンバイって感じです。というか完全に脇役です。何なら鴨志田朔夜のほうが出番多いくらいです。それくらいです。

 けれど全体として序盤に当たる最大の山場になりますので、物語の大きな転機を迎える章でもあります。また原作が3巻分使ってるのもあって、今まで章と比べて長めになる予定です。

 テンポ感重視して描きたいけどあんま関係シーンはカット&カットしても、まさの『第四十話』までに続くという濃密っぷりな自分でもドン引きです。主役級が一気に六人+六人を取り扱うことになるからね、しょうがないね。
 しかも現段階だと『第三十七話』までしか完成しておらず、残りの三十八〜四十話は、別作品のSSと並行作業で進めているという過密っぷりにゲラゲラ笑ってます。お絵描きしてぇし、ゲームのイベント系も周回してぇ。
 また『ある場面』に入ったら、ちょっと臨場感を与えるために特殊なタイミングで投稿が始まりますので、そこのところもご容赦を。まあ週1話以上の投稿は原則なので、そこのところはご安心を。

 どのような結末を迎え、どのように物語は変わるのか。それはあろうご期待って感じで後書きは終わりです。

 それでは、また1週間後の定期更新までさようなら。
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