【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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★第二十三話★ 考察

「かなちゃん。『東ブレ』の出演者についてどう思う?」

 

「思うところはあるけど妥当って感じじゃない。実力派は揃えてるんだし、アクアが選出されない理由も分かる。同様にルビーが選ばれなかったのもね」

 

 舞台稽古の帰り道。私とかなちゃんは会員制の喫茶店でビジネスデートをすることにした。

 かなちゃんはドライな視点で出演者の名簿を読み漁っている。役者の選出は私が演じる刀鬼が所属する『新宿クラスタ』以外は変化はない。サブキャラを演じるのは全員ララライ所属だし、合併関係である苺プロに所属するアクアが出演しないことについてララライの皆は残念がっていた。

 

 でもこればかりは本当に仕方がない。役者というのは演技力も大事だが『素体』も重要なのは分かりきっている。

 生まれ持った身長や雰囲気はどうしようもない。努力やコネで解決できる範疇を超えている。私達がどうこう言って今更変更できるものじゃない。役者として『今ある全部を使った良い作品』を作らないといけない。

 

 

 

 それはそれとして……かなちゃんの服装なんなの?

 

 

 

 私とのデートなのに、随分と気合が入っている。かなちゃんの素材を最大限に活かしたロリータファッション。フリルも盛りに盛りまくった絵本から飛び出したようなキュート&プリティで庇護欲を唆る。

 それに下半身もすごい。なにそのミニスカートとガーター。エグい。小悪魔。夏と秋の移り変わりだから通気性を意識してるせいか、肌は露出させてないのに薄手の生地だからチラリズムを煽りに煽る。エクスタシーでエレガントで嗜虐心を昂らせる。

 でも一番言いたいのは顔。かなちゃんと言ったら顔。太陽のような自己中心的な顔。つまりは自己肯定感の強い顔面。あどけないフェイスライン。俗っぽい言い方をすればメスガキ感があって分からせたい。

 なのに幼さと表裏一体の色気。太陽というより満月のような大人びた表情。知らない。私はこんなかなちゃんを知らない。こんな一面を持つかなちゃんを知らない。知りたいその秘密ミステリアス。

 でもそこが良い。すごい良い。私の知らないかなちゃんもものすごく良い。似合ってるって自惚れてそうな顔がメチャクチャ良い。実際似合ってるんだけど、その自惚れた顔がとにかく可愛い。

 

 

 

「なにジロジロ見てんのよ。キモいわよ」

 

「かなちゃんが大嫌いな黒川あかねとデートしてるのに随分めかしこんでるなぁって思っただけですケドォ? 「気合い入りすぎ」って思っただけですケドォ?」

 

「こういうのは女子ウケがいいの。あんたのことは異性じゃなくて今も昔も『黒川あかね』として見てるから、男相手に媚びるわけじゃないんだからこれでいいの」

 

 

 

 正直すごい可愛い、かなちゃん。(かなちゃん!)

 正直すごい美しい、かなちゃん。(かなちゃん!)

 正直すごい叫びたい、有馬かな。(有馬かな!!)

 

 

 

「てか。私のことは今はどうでもいいでしょう。本題に入るわよ」

 

「うん。私達の役と流れの考察をしないとね」

 

 落ち着こう。かなちゃんが可愛いのは当然なんだから。

 

「読者人気が生んだ『刀つる』のカップリング。創作界隈で人気が高いけど、元々この二人の絡みは敵同士から始まり、そこから腐れ縁で絡みが増えて……という感じで、ネットスレの怪文書やピク○ブやハーメ○ンでよく見る類の人気カップルね」

 

「私は断固として『刀鞘』派なんだけどなぁ……」

 

「誰と誰の掛け合わせがいいとかどうでもいいんだけどね。東京優駿(日本ダービー)狙ってるわけじゃないんだし」

 

 なんでだろう。私としては菊花賞とか春天のほうが魅力的に聞こえてしまう。なんというか祝福的な意味合いで。

 

「私達と似てるよね。ずっと続くライバル関係がきっかけ一つでカップリングになるなんて」

 

「そうね。私達のビジネスカップルなんて『ケンカップル』が発端だし、そこをプロデューサー陣は重ねてこんな配役にしたんでしょ」

 

 アクあかで刀鬼と鞘姫をキャスティングした事情とダダ被り。集客目当てでキャスト決めたのだろうと安易に推測できる。

 でも舞台は懐事情が常に危ないので、確実な収益向上をちらつかせたら簡単に股を開いてしまうのも事実ではあるのが悲しいところ。

 

 確かに原作の刀つるはカップリング人気は根深い。イラスト投稿サイトでもカップリングタグの投稿数ではトップクラスではある。健全にしろ不健全にしろ。

 だけどハッキリ言って、最近のこの二人の組み合わせは読者に媚びたようなシーンとしての側面が大きい。漫画の展開として空いてしまったコマに添えるついでというか、ストーリー本筋に関係ない部分というか。漫画としての一定の需要に応えるために捩じ込んだというか。作者の事情が見え隠れしてる現実的な卑しさがあるのだ。

 

「でもアビ子先生はGOAさんは話し合って、刀つるのシーンをちょっと長めにしたんだよね。20秒とはいえ殺陣としては十分すぎる」

 

「見学に来た先生が、私達のアクションシーンを見て痛く感動してこうしたらしいわよ。読者人気もあるからってもあるけど」

 

「代わりにサブキャラ陣の合戦シーンは見直し……。私達の時とは細部が異なるね。大筋は変わってないから、キャラの軸さえしっかりしてれば何しても良いアビ子先生の融通さと、GOAさんの役者の実力に合わせた挑戦的な殺人台本が光るね」

 

「元々アビ子先生、アクションシーン描くのは苦手な印象もあったしね。東京ブレイドの人気が出たのは、王道展開とキャラの関係性による相乗効果だから。舞台としては漫画で表現しきれなかった『躍動感』を求めてる節がある」

 

「もちろん『感情演技』もね」

 

 こういう一面を見せることでもキャラの深掘りができるから私はそういう展開嫌いではないんだけど……消費カロリーがバカ高い台本なのがなぁ。

 今は男性だし役者である以上は体力はつけてるけど、この台本は前の世界で見せた『メルトくんの曲芸』を全員に欲求している。それぐらい意欲的だ。

 誰か一人でも実力不足が発生したら途端にダメになる掛け算方式の台本。上手くハマれば名作、一つでもミスすれば駄作となる意欲作。

 

「それに刀つるの会話シーンも追加。刀鬼がこの段階だとつるぎをまるで意識してないことが強調されたセリフになってる」

 

「けどこういう関係がふとした拍子に一転して……っていう少女漫画的な展開への深掘りね」

 

 ここはちょっと解釈違いな感じはある。刀鬼はそんなこと言わない。

 私が解釈している刀鬼は冷たくも優しくて人情がある。例え敵であろうと理由がない限り突き放すなんてしない……それこそアクアくんみたいなぶっきらぼうなキャラなのに。

 

「オタク共の妄想力はすごいわよ。作法一つ、言葉遣い一つでキャラの内面を掘り出そうとするもの。物を頼む時に頭を下げるとか、あれって日本文化だから外国人キャラがやると実はハーフとか似非的なんじゃないかって深掘りしようとするし」

 

「え。そこまで考察しない? 歩き方とか食事作法で内面性って出るし。スプーンの持ち方一つで育った環境や精神的な幼さが出るように。髪を染めるのも別人になりたいとか、親に対する反抗の意思みたいな」

 

「え。マジで言ってる? ある程度は考えるけど記号的な面に関しては無視しない? アニメや漫画である髪の色とか、あれはキャラの差別化を分かりやすくする面の方が大きいように、性格だってある程度は記号でしょう。だから『クーデレ』とか『ツンデレ』とかいう属性があるわけで……それこそ『ピンクは淫乱』とかそうじゃない?」

 

「だってそこまでしないとキャラの内面分からなくない? そういう性格になったのだと家庭的な問題とか、周囲に合わせようとした分厚い仮面みたいな……」

 

「いやいや!? そこまで普通はしないわよっ!?」

 

 しないのかなぁ。姫川さんにも「自論を押し付けるのは良くないぞ」と言われてはいるけど。

 そりゃ巷では天才役者だなんだって嫌でも耳にするから一応は自負はしてるけど、私の演技はキャラの情報を集めて昇華するメソッド演技だから技術的な一面が大きい再現性の高いやり方だし、レベルを上げる意味合いでも真似できる部分は真似て欲しいんだよね。

 

「ともかくキャラの深掘りなんて程々が一番よ。根掘り葉掘りやるやつなんて熱狂的な狂信者か、考察と妄想を履き違えたピーターパンか。どちらにせよヤバいやつよ。GOAさんに言ってるわけじゃないけど、ネットのリプ画像であげられる『脚本の人そこまで考えてないと思うよ』ってやつなんだから、自分とキャラの折衷案でやるのが一番なのよ。そういう役者自身の素材を活かすのも一つの『才能』で『商売道具』なんだから」

 

「う〜〜ん。私としては納得いかない部分もある……」

 

「なんか面白そうな話をしてるね、あかかなさん」

 

 熱を帯びた会話は知らぬ間に数十分に差し掛かった時、私たちの空間に割り込む不届者が現れる。

 だが文句を言う輩は一人としていないだろう。何せそこにいたのは現在絶賛売れ出し中の歌って踊れるマルチタレントである『不知火フリル』だったのだから。

 

「美男美女は目の保養。赤と青でカラーリングもエモい。グッドルッキングカップル」

 

「不知火ってそういうキャラなのね。テレビとは大違い」

 

「不知火だけだと『姉』と混同しちゃうから、かなさんにはフリルで呼んでくれると嬉しい」

 

「そういえば『アイドルの姉』がいたわね。じゃあフリル」

 

「……呼び捨て最高。雑に扱われる感覚が新鮮」

 

「分かる! かなちゃんには雑に接して貰うほうがらしいよね!」

 

「あかねくんとは気が合うね。LINE交換して語り合おう」

 

「いいよ〜〜! こういう話、同年代としてみたかったんだ〜〜!」

 

「この厄介オタ共の空間に耐えきれないかも」

 

「かなさんもLINE交換しよう。同じ高校の芸能科なんだしマリン、ルビー、みなみがいるグループに招待したいから」

 

「入れて。今すぐ入れてちょうだい」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「というわけで、演技意見を語り合うついでにあかねくんとかなさんとLINE交換してきた。売れっ子タレントと軽率に繋がれる世の中って良いよね」

 

「流石フリルちゃん……」

 

「すげぇコミュ力だな」

 

「マリンちゃんも見習った方がええよぉ。入学早々ボッチやったんやし」

 

 みなみちゃん、割と刺してくるよなぁ。似非なんだけど関西人特有のズカズカと入り込んでくる感じがクセになりそう。

 というかフリルもフリルですごいな。あの二人も結構クセモンなんだけど。有馬は単純に距離感が0か100みたいな感じで極端にバグってるし、あかねも割と隠キャ気質があって人と馴染むのがあまり得意じゃなくて距離詰めるまで壁あるタイプの人種なのに。

 

 俗に言う『陽のコミュ障』と『陰のコミュ障』みたいなタイプなのに、よくもまあ一回で馴染んだもんだ。この辺の立ち回りが上手いのも売れっ子な理由なんだろうか。

 

「フリルはよく『東ブレ』を受けたよな。歌って踊れるマルチタレント。どこでも引っ張りだこだから、長期間縛られる舞台は嫌じゃないのか」

 

「マルチタレントは結果としてそうなっただけで、私は基本何でもやるタイプだから。舞台経験は浅いからチャレンジしてみようかなって」

 

「貪欲ぅ〜〜」

 

「こういう向上心が売れる秘訣なんやろか……」

 

 否定できないのが辛いところだ。

 だって身近に貪欲に色々チャレンジしてる星屑を知ってるし。結果それが芸能界で20年もやってる理由でもあるし。フットワークの軽さというのは、本当色んな機会に接触できるチャンスが増える。

 

「でも私としては納得いかない部分もあるんだ」

 

「納得いかない部分? どんなんやろ」

 

「クリエイターは『良い作品』が作るのが役目。それは脚本家も演出家も役者も全員同じこと。私は作品を貶めることなんてしたくない」

 

 フリルにしては意外と弱気な発言だ。いったいどんな心境なのだろうか。

 でもこの人、普通に狼少年的な部分あるからなぁ。自慢風自虐の話題を出しながらストレートに自慢したりするし、もしかしたらこれから話す本題に対する助走の可能性だってある。

 

「でも今回ばかりは私は適任じゃない——。私が作品の質を貶めるんじゃないかっていう漠然とした不安が常に付き纏っている」

 

 ……これマジだな。マジで言ってる。

 あのフリルが大真面目に『東京ブレイド』の舞台に対する不安を口にしていた。

 

 いったいどんな不安があるというのか。メルトのような周囲に対する劣等感? いや、そんな心配をするほどフリルの実力は低くない。むしろ高いと言ってもいいだろう。同年代の姫川や有馬やあかねのような化け物と比べたら、そりゃ基礎的な部分で見劣りしそうな部分はあるが、それを補って余りある個性がフリルにはあるというのに。だからこそ売れっ子マルチタレントとして活躍してるというのに。

 

「もちろん演じる以上は私は『鞘姫』になる。自分なりの解釈と表現をして、私が納得できる私なりの100%の鞘姫を魅せる」

 

「だったら何が不安なんだよ?」

 

「……私としてはもっと相応しい人物がいるって思う。いや、いたんだと思う。『適役』と言って良いほどに、鞘姫に寄り添えるような役者がどこかに。……それこそ黒川あかねくんみたいな存在が」

 

 

 

 ——本物だ。不知火フリルは本物だ。

 

 フリルは僅かな稽古期間で見抜いていた。この『東京ブレイド』が人知れずの再演であることを。

 その適役と言える人物である黒川あかねは、前とは性別が違うのと『ケンカップル』の影響で鞘姫から外れていることを。その穴埋めとして自分が選抜されたことを、理性ではなく本能で理解していた。

 

 

 

「役者っていうのは『動きだけで分かる』ものだからね——。それがあかねくんとかなさんから伝わってくる。『ここにいたはずの幻影』を見ながら演技をしているのが」

 

 あかねと有馬が既に経験していた舞台であることも感じ取っている。

 実際あの二人は抜きん出た演技をしてるだろうという事は目に浮かぶ。だって二人とも千秋楽を迎える頃には最初と打って変わって一段と演技が手堅くも上手く纏まっていった。

 

 だけど最後は二人とも似たようなニュアンスで口にしていた。「もっと上手くなりたい」と。喜びと一緒に悔しさと滲み出していた。

 そんな『もっと上手くやれる』機会がやってきたのであれば二人とも当然全力のその先を出すに決まってるだろう。『前よりも今のほうが上手く演技できる』という自信があるのだから。

 

「ウチは演技とかからっきしやから想像しにくいんやけど、それを見抜くフリルちゃんは流石って感じやね」

 

「そんなことないよ。姫川さんもこれくらいのことは気づいてる。あの人の実力は同世代より一つ抜けてるもの」

 

 フリルは歯軋りをする。悔しさや妬ましさも含んだ役者特有の『負けず嫌い』な一面を。あかねと有馬に振り落とされないよう精一杯な現実を受け止めつつも、それを良しとしない負けん気が籠った目つきを。

 

「実力という意味では、あかねくんもかなさんもすごいよ。あの演技と表現力は並大抵の努力と時間じゃ身につかない。役者ってのは負けず嫌いが多いし、私もその負けず嫌いの一人なんだけど……」

 

 まるで蛇に睨まれるかのような眼光。アイのような星でも、有馬のような煌めきでもない。ましてやあかねのような異質さもない。

 ただ獲物を定めた瞳。言うなれば『狩猟者』や『捕食者』といった類の眼光。どうやって食らいつこうか、どうやって喉元をかっさぱごうとしているのか思考している。

 

「流石にあれには『勝てない』——。これは認めるしかない」

 

「フリルちゃんでも敗北宣言するなんて……」

 

「いや『負けてる』なんて言葉は吐き出さない。それは私を選出してくれたプロデューサーや、選ばれなかった役者の思いを馬鹿にしてることにも繋がるから」

 

 そりゃそうだ。こんな目をしてる負けず嫌いが『敗北』なんか認めるわけがない。

 舞台にさえ立てない私と違って、フリルは同じ土俵にいる。諦めるには早いし、悟るのはもっと早い。足掻けるだけ足掻き、食らいつけるだけ食らいつこうとする貪欲さがあるのだから。

 

「だから私は言っておくよ。この舞台は『成功』させる。『二人が追う幻影を超えてみせる』って」

 

 そこでフリルは視線を私に合わせてきた。

 獲物を捕らえた瞳。何かを訴えかける意味深な視線。その意味を私は理解した。

 

「楽しみにしてて——。マリンちゃんの度肝を抜く舞台にして見せるから」

 

「……期待させてもらうよ」

 

 フリルは口にはしなかったが確信していた。あかねと有馬が追っている『幻影』の正体を。

 

 でもそれは私じゃない。星野マリンじゃない。

 

 

 二人が追っているのは、星野アクアだよ——。

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