【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

25 / 56
かにみそスープ「なんか、ごめんね? そこにそこまで思い入れあるなんて……」(←Interrude④を見た後に第三章のルビーの過去編で重なった部分に対して)


★第二十五話★ 役者 Side:新宿クラスタ

 こうして話は戻ることになる——。

 

 

 

「というわけで——星野マリンさん。俺と付き合ってくださいっ!!」

 

「いいよ。俺のことを誘うんだったら、ちゃんと『成功』してくれよ?」

 

 メルトからの提案に、俺は事情を把握して了承を口にする。

 どうやら伸び悩みを感じたメルトは姫川さんを筆頭にララライのみんなからアドバイスをもらい、同じように伸び悩んでいる俺とプライベートレッスンを受けたらいいんじゃないかって話になったらしい。

 

 だったら断る理由なんてありはしない。こっちだって舞台の調子がどうなのか知りたいし。

 ベテランのフリルと新米のメルトならそれぞれ見えてる世界が違う。俺がいない舞台がどうなっているのか知りたいなんて元々は関係者として当然の欲求と言える。

 

「お姉ちゃん大丈夫? 先輩とMEMちょから聞いたんだけど、女性と積極的に関わってくる舞台役者ってかなりヤリチンって聞くけど?」

 

「メルトはそんな奴じゃないって。俺分かってるから」

 

「それ典型的なDV男子に尽くす女子の発言だよ」

 

「いや本当大丈夫だって」

 

「これでも双子の弟なわけで! お姉ちゃんに危害が及びそうなことは事前に調べておく必要があるわけ! というわけで今からメルト君のパンツを確認します」

 

「なんで俺がそんな辱め受けないといけないんだよっ!?」

 

「ボクサーパンツ履いてないかの確認だよっ! ボクサーパンツ履いてるやつはヤリチンだってSNSに書いてたっ!!」

 

「偏見しかねぇよっ!? あと俺はトランクス派だっ!!」

 

 そんな下着事情を聞く現在女子の私の心境はいかに。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 場所は変わって血税でブックブクのブッタブタに肥え太った公民館。

 公民館には借用できるホールが種類ごとに分けられていて、それによって使用料も変わるのだが、マンツーマンで演技指導をするため一番小さい使用料100円で借りられる場所を2時間ほど利用することになった。

 

「どうだった。俺の実力は」

 

「……まずいな」

 

「やっぱそうだよな……」

 

「普通に上手くてまずい」

 

「どういう意味っ!?」

 

 確かに今のメルトは有馬が早いうちから叩いてくれたおかげで、演技自体は前の世界より上手くなっている。5倍くらい良くなっている。100点中70点みたいなのができる行儀の良い演技だ。

 

 ハッキリ言えば姫川とあかねを除く劇団ララライのみんなと大きな差なんてない。役者の個性という理由一つで容易く覆る程度にまで客観的に見ても拮抗している。だけどそれが非常にまずい。

 今のメルトには『ギャップ』がない。『今日あま』で棒演技でやらかしたという先入観からくる『期待のなさ』が全くない。

 

 こんな状態であの『原作再現』をやっても、前の世界ほどの爆発力は生まれはしないだろう。

 むしろそれぐらいやらないと『期待はずれ』を感じてしまう観客もいるほどに、基礎的部分の向上が目覚ましいのだ。

 

「お前『今日あま』から一体どんなことをしてたの……?」

 

「……あまり笑うなよ。毎日欠かさず早朝に1時間走ったりして体力作りをしていた。そんで仕事先のお偉いさん、事務所の先輩に頭下げまくって、エキストラでもいいから実際のドラマの現場を何度も見てきて、そこで覚えたことを何十回と反復練習して少しずつ物にしてきた」

 

 笑えない。努力の塊すぎて笑えない。ガムシャラすぎて笑えない。

 有馬かな、お前本当に『今日あま』であのメルトに何をしたんだ。泣くほどのことって何をしたんだよ。

 

 …………

 ……

 

『この大根役者がっ! ブリ大根にもなれねぇおつとめ品がっ!!』

 

『やめてくれっ! ブリで叩かれると青臭さより、生臭さが際立つだろ!!』

 

『あはは! お可愛いこと——』

 

 ……

 …………

 

 いや、有馬はこんなタイプじゃないはず。性格と口が偶に殺したくなるほど悪いのは認めるが、それはそれとしてS気質の女王様タイプではない。

 というかなんだ、このイメージ図。気でも狂ったか。

 

「とりあえず分かることは一つある。メルトの演技はカメラ演技に寄っているんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「分かってると思うが舞台演技とカメラ演技は求められる表現技法が違う。表情だけで心境を表すという技術は、顔をアップで捉えられるカメラがないと意味がない。舞台だと表情は見えないんだから、指先から体の全部を使って『心を形にしないといけない』んだ」

 

「なるほどなぁ。姫川さんも似たようなこと言ってたな」

 

 まあ、これはどちらかと言えば『劇団ララライ』全員の共通認識と言える。

 キャラによっては厚化粧にもなる舞台演技において、表情だけで魅せるのは困難を極める。葛藤や悩むを身体から匂わせ、時には歌舞伎役者のように大胆かつ豪快に心を体現する。それが舞台ってものだとララライ一同は思っていて、俺もその程度の知識と技術は幼年期から叩き込まれている。

 

「だからメルトは『意識を全体に向ける』とこから始めるとしよう」

 

 それを口にした時、脳裏にアイの言葉が浮かんだ——。

 

 

 

 …………

 ……

 

『ステージの上だと、どんな角度からでも皆に可愛くしなきゃいけないけど』

 

『ここならたった一人。カメラに可愛く思ってもらえばいい』

 

『MVと同じ要領でいいなら、むしろ得意分野だよ』

 

 ……

 …………

 

 

 

 アイってナチュラルにこれの切り替えができてたんだな。

 確かにアイドルとして舞台の上で愛想を振り撒き、踊りながら歌うなんてフィジカルとプロ意識がないと両立しないエンタメだ。

 基礎的な部分でアイドル活動と舞台演技は似ている部分はある。そしてMV撮影とカメラ演技も似ている部分はある。そういう培った要素の抽出が上手かったのもアイが伸びた理由の一つだったんだと今は頷ける。

 

 ……となれば少し難易度が高いか。全体に意識を向けるなんてことは。段階を踏んでいかないと厳しいと客観的に思う。

 

「とはいっても、いきなり四方八方に意識を向けるなんて難しいだろうから少しずつ行くか。まずは『観客席最前列に意識を向ける』ことから始めよう。カメラ演技のクセをなくし、舞台に適応する土台を作らせないとな」

 

「……マリンって、もしかして監督志望で芸能科に入ったのか?」

 

「なわけないだろ。そういうことするなら一般科のほうが時間を有意義に取れる。芸能科に入ったのはルビーと一緒にタレントとして芸能界でのし上がるためだ」

 

「にしては詳しくないか?」

 

「母さんからそういう話を聞きやすいだけ。だって元・伝説のアイドルである星野アイの娘だよ、俺は」

 

「……それもそうか。マリンの母親は星野アイさんだもんな」

 

 それに前の世界も今の世界も、隙間時間には五反田監督のとこに遊びに行ってるからな。

 小遣い稼ぎついでに映像編集も今も手伝ってるし、その影響で知識があるだけだ。

 

「でも勿体無く感じるよ。俺みたいな大根役者でもアドバイスが分かりやすくて、全体のイメージがしやすい」

 

「そうか? カメラ演技の役者ならカメラと照明の向きと位置と強さ、舞台となる建物の状態把握やその日の天気、魅せるべき演技のために監督の意思に沿ってイメージを膨らませて『ぴったりな演技』を目指すものだろう」

 

「……しねぇよ。そこまで普通」

 

 こっちもメルトのような泥臭いことしねぇよ。

 

「だぁーっ!! やっぱララライのみんなは天才ばっかだよっ!! 俺なんか絶対重荷だよっ!! 今から変わってくれよ!!」

 

「無理無理。性別以前に違約金を考えて。演技って大事だけど、それ以上にビジネスだから」

 

「知ってるよ! 有馬がそれで『今日あま』のストーカー役の男優を説き伏せてたんだから!!」

 

 うわー、アイツは座長として本当に頑張ってたみたいだな。前の世界だと駄々捏ねてリスケになって、そこに俺が捩じ込まれたんだもん。

 

「……でも、そうだった。有馬はあんなクソみたいな環境でも我を強くして乗り切ったんだよな」

 

「『今日あま』の収録のことか?」

 

「当たり前だろ。あん時の有馬は輝いていた。たった一つ歳上なだけなのに、俺とは何もかも違っていた。見てる世界が違った演技が眩しかった」

 

 知ってるよ。前の世界でも、俺もそれで有馬の演技に惹かれたところはあるんだから。

 

「俺もあんな風に輝きたい。無茶だって分かっていても、無理だって諦めようとしていても、無謀だと感じていても、有馬のように輝きたいんだ」

 

「……悔しいのか? 自分よりも上手い役者を目の当たりにして」

 

「思わない。どんな感情を持っても烏滸がましいくらい俺は未熟でヘタクソだ。有馬に「よくやった」とか「頑張ったわね」とか何も言われないくらいにな」

 

 メチャクチャ素直じゃないやつだから口に出さないだけで、普通に内心で「頑張ってるじゃない。大根だって一皮剥けてこそ美味しいんだから」とか何とか言って、馬鹿にしながらも認めてくれるぞ。

 

 ……ということはあえて口に出さないでおく。メルトの原動力はどうやら有馬に対する強い執着心があるようにも思えてくるから。それがモチベーションに繋がるなら、あえて言及する必要もないだろう。

 

「でも見返したいとは思ってる。『今日あま』から今にかけての俺を演技で伝えて、有馬を見返してやりたい」

 

 なんて真っ直ぐに演技に向かい合ってるんだろう。

 今の俺にはメルトが眩しく感じる。『一番星』や『太陽』とはまた違う輝きを彼から感じ取れる。

 

「だから俺は『渋谷クラスタ』の連中に勝ちたい。有馬に認められたい。俺も役者なんだって胸を張って言えるように」

 

 その気持ち、すごい分かるよ。俺もかつて似たようなことを思っていた。

 俺にとって演技は復讐だった。それは役者を名乗るには烏滸がましい理由。役者なんて仕事、カミキヒカルを殺すための手段でしかなく、真剣に打ち込んで楽しむ有馬やあかね……いや役者全員からすれば『愚弄』にも思える動機だ。俺は役者なんて根本的に向いてなかった。

 

 ならメルトにとって演技って何なんだ。

 きっと『何もなかった』んだ。ただノラリクラリ、流されるまま芸能界に入ってきて、結果として『今日あま』での大失態を前の世界でやってしまった。

 

 そうか。今のメルトはその『何か』があるから『今日あま』で失態をしなかったんだ。

 その『何か』を有馬は導いてくれたんだ。その導きに惹かれてメルトは太陽に向かって走る青春のように青臭く、泥臭く、ガムシャラに頑張り続けてきた。

 

 

 

「……お前にとって演技ってなんだ」

 

 

 

 ——お互いに役者を名乗れない未熟者と半端者。

 

 ——でもメルトは舞台に立てていて。

 

 ——僕は舞台の端にさえいない観客。

 

 

 

「俺にとって演技は『憧れ』だ。あの日、有馬が見せた輝きは今でも瞼に焼きつくほどに鮮烈だったから」

 

 

 

 だからこそメルトは即答した。

 復讐をなくした俺とは違って、メルトには演技に対する答えがあった。

 

 

 

 そんなことを真っ直ぐに言える青臭さがこそばゆい。

 そんなことを真っ直ぐに言える若さが誇らしい。

 そんなことを真っ直ぐに言える純粋さが羨ましい。

 

 

 

 ——舞台に立つのがメルトなのが妬ましい。

 

 

 

「だから頼む。俺に役者としての技術や心意気を教えてくれ」

 

 

 

 ……悔しい。悔しいけど、それ以上に託さないといけない思いがある。

 初めて夜空に浮かぶ星々を見たかのような子供心を昂らせる純粋な煌めき。眩しくもなく、輝いてもいない。ただ純粋で『綺麗』なものが彼には宿っている。

 

 それは宝石も同じことだ。川沿いの道。路傍に転がる石が、誰かにとっては宝石よりも価値がある時もある。

 そういう誰かにとっての大事で、純粋で、綺麗な『原石』としての価値がメルトの演技には宿っている。

 

 

 

「うし。じゃあもう一本行くか」

 

「ああ。よろしく頼むよ」

 

 

 

 俺にとって演技とは何なのか——。そんなことは何も分からなくなった。

 だからこそ答えを持つ人達の足を躓かせるようなことはしない。せめて彼がどこかの誰かにとって、心を『溶かす』ような演技ができますように。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「有馬。もう一本やるぞ」

 

「いいわよ。姫川にしては随分熱意たっぷりね」

 

 メルトを一時的に妹分のマリンに任せて早一週間。

 ようやく姫川大輝は自己を高める稽古に集中することができた。

 

 彼は幼い頃から劇団ララライに所属して、金田一に演技という物を骨の髄まで沁み込まされた。姫川が潜在的に持つ『欠けたものを補う』という在り方に痛く興味を示しており、それがいつか大成すればララライにとって大きな財産になると見込んで。

 

 当時の彼はそこまで演技に熱心を持っていたわけではない。というかそれは今でも場合によってはある。

 自分が演じるキャラの名前は忘れがちだし、顔合わせの挨拶で居眠りをするくらいには根本的な部分で演技というものに情熱がない。

 

 

 

 ——姫川にとって『演技とは何なのか』。それはとっくの昔に答えを得ている。

 

 だが答えを知るまで、深海の中で溺れ死ぬような感覚でいた。

 演技に熱を帯びない。お手本のようなどこかで見た演技を乗せるだけの出来のいいハリボテの縁起。100点満点なら100点を採り、30点満点なら30点を出すという求められる演技を完璧に繰り返す脚本家の脳をコピペするだけ。もちろんそれは役者にとって理想系の一つである『ぴったりな演技』をするという意味では何も間違っていない。

 だがそんな演技は姫川にとって退屈で仕方なかった。心なんて揺らぐことなく、楽しいなんて思ったこともなく、苦しいとさえ思ったこともない。

 

 ただ息が詰まるような感覚だけが、この芸能界でずっと得てきたものだった——。

 

 

 

 ——あの『黒川あかね』が劇団ララライにやってくるまでは。

 

 

 

 …………

 ……

 

『本日から劇団ララライに所属する黒川あかねです。不束者ですが、よろしくお願いします!』

 

『みんなも可愛がってやってくれよ。こいつは期待の新人だからな』

 

 ……

 …………

 

 

 三つ年下の女の子みたいな可愛い男の子。弱々しくて押しが弱そう、というのが第一印象だった。年長者ということ、金田一の推しということもあって黒川の世話は姫川が見ることになった。

 

 だけど最初の稽古を通して黒川への印象は変貌した。

 こいつは『化け物』だと。天才を超えた天才だと。

 

 

 

 ——俺とはあまりにも掛け離れた圧倒的な演技力。

 ——メソッド演技とか、そういう技術だけでは収まらない基礎的な部分があまりにも成熟し過ぎてて気味が悪かった。

 

 ——目を瞑り、息を吐き出すだけで躊躇いと悩むの深さを表現する繊細な演技。小さな挙動では舞台じゃ映えないはずなのに、異質な存在感が極小の動きさえも見落とさないほどに惹きつけられる。舞台の常識から外れた型破りの技術。

 

 

 

 欠けてるからこそ気味が悪い姫川。

 満たされてるからこそ異質な黒川。

 

 これが何の因果か。それとも神の気まぐれか偶然か。

 姫川にとって足りない物をすべて満たしてくれる存在へと巡り合わせてくれた。

 自分とは正反対だからこそ、姫川は少しの演技を通すことで黒川が内包する『異質さ』を高い精度を持って見定めた。

 

 

 

 ——多分こいつは『生まれついての役者』だ。『生まれついての大嘘つき』だ。

 ——黒川はずっと演じてる。無意識に、本能的に演じ続けている。何重にも。

 

 

 

 そんな『満たし溢れる』ような黒川を見て、姫川が惹かれないはずがなかった。

 だって彼は『欠けたものを補う』習性がある。生まれついて欠落した人間が姫川大輝こと——本名『上原大輝』が元々持ってるコンプレックスなのだから。

 

 

 

 貪欲に強欲に、贅沢に潤沢に、無作為に無差別に。

 とにかく姫川は黒川を追い続けた。溢れた演技の才能を拾い続け、欠けたものを急速に満たしていく。それが姫川の才能の一つである『動きや演技だけで何を言いたいか分かる』技術をより高みへと昇華させていった。本来なら19歳で到達するはずだった領域に、彼は12歳になる前には踏み込んでいた。

 

 姫川にとって黒川あかねは高みへと『連れて行ってくれる』役者だった——。

 

 

 

 ——そうだ。俺にとって演技は『会話』だ。

 

 ——母と父が無理心中した時、俺は心を大きく閉ざしていた。

 ——そんな中、金田一が舞台に引っ張り出して色んな絵空事の世界を体験させてくれた。

 

 姫川は何をするにも演技という名の役割を被らないと自分を表現できなかった。喜びも怒りも悲しみも。

 

 

 

 それを自覚した時、姫川にとって演技との向き合い方が変わった。

 演技をすることで命を実感できる。自分がここにいる意味という、命の重みを理解した。

 彼も黒川あかねと同様に『生まれついての役者』だった。ただ黒川と違って、彼は『生まれついての正直者』という違いはあるが。

 何かを演じなければ自己を表現できない器用でありながら不器用な人間。彼もまた方向性が違うだけの一種の『化け物』だったのだ。

 

 

 

 そんな中、姫川は星野マリンと出会った——。

 黒川から色々と感じ取っていたこともあって、一目見ただけで彼女も『化け物』だと姫川は認識した。自分と黒川を足して割ったような『欠けてるのに満たされてる素質』を。『すでに手に持ってるはずなのに気づかない』というバカみたいな部分があることを。

 もっとアホっぽい言い方をするなら『頭につけたサングラスやメガネに気づかずに無くしたと喚く子供』みたいな素質を。

 

 

 

 ——要は『自分の素質と答えに気づいていない』という部分を、姫川は瞬時に感じ取った。

 

 

 

 それは姫川自身が感受性が高いというのもあったが、同時に親近感を覚えていたのもある。鏡合わせというべきか、なんというか。

 もしも『兄弟』というのがあったら、こういう憎たらしいんだか、愛らしいんだか、うざったらしいとかよく分からない庇護欲に駆られるんだろうなぁ、とか思ってしまうほどに。

 

 だからすぐにマリンはララライへと順応してくれた。みんなマリンを妹分のように可愛がって指導してくれた。

 なにせ子供みたいな幼さは皆無どころか、大人も生唾を飲むほどに達観してる部分があるくせに、女性らしさ自体は同年代よりも遥かに下回る杜撰さだった。

 

 ちょっと可愛らしい服装を着たら、赤面を晒して悔しそうに目を細める。舞台特有のボディライン全開の衣装に身を包んだ時は、恥ずかしさが込み上げて泣きそうな顔になっているのを何度も見た。

 こんなのを見たら弄るなというほうが無理というものだろう。ララライは本当面倒見よく世話を焼いてくれたし、姫川だって暇さえあれば弟のルビー共々にマリンを可愛がってやった。

 

 

 

 …………

 ……

 

『今日も稽古お疲れさん。気晴らしにどこか行くか?』

 

『姫川さん、俺のこと結構世話焼いてくれますよね? もしかして気があるんですか?』

 

『いや、確かに可愛い子は俺は好きだよ。でもお前をそういう目で見るのは無理だな』

 

『うーん。嬉しいような、嬉しいような』

 

『異性として見られてないことに嬉しさしかねぇじゃねぇか。まあ、それはそれとしてお前のことは結構親しみを覚えてる。前世って物があったら兄弟だったかもな』

 

『キモいこと言うな』

 

『ははっ。違いない』

 

 ……

 …………

 

 

 

 本当に可愛いくせに、可愛げはないやつだ——-。

 

 でも何度も演技を重ねれば実力はわかる。

 可愛がりながらも、マリンに眠る素質と才能も伸ばすように何度も何度も世話をしてあげた。

 

 だからこそ姫川は安心して鳴嶋メルトをマリンへと預けた。

 マリンならばメルトの実力を姫川以上に伸ばせる自信と才能があると確信をしているから。

 

 今のマリンの単純な演技力は姫川と勝るとも劣らない。今回の舞台に立てなかったのは、生まれついての身体的な素質の問題のほうが大きい。もしも『つるぎ』みたいな幼い身体のキャラがもう一人舞台に必要なら、間違いなく抜擢されるほどにマリンの実力は極めて高水準だ。

 

 

 

「《やめてけれ! おら、まだ死にたくねぇだ!!》」

 

 

 

 そのマリンを真正面から打ち破ったのが今ここにいる『有馬かな』だ。

 自己中心的で身勝手なくせに、その輝きだけで全てを灰塵と化す圧倒的な存在感と演技力。だというのにこんな情けない技巧もこなせる実力派。

 

 

 ——黒川とマリンだけでお腹いっぱいなのに、期待の天才である『有馬かな』も流星のように芸能界に颯爽登場だと?

 ——どうなってんだ、この年代は。こんなに非常識まみれの天才を超えた天災を生み出し続けるなんて。

 

 

 

「《なら俺の方が強いと認めるか?》」

 

「《認めるだぁ! 屈服する! アンタの方が強いだぁ!》」

 

 

 

 ——本心は認めねぇくせに。俺も認めさせる気もねぇけど。

 ——この程度で、俺の方が強いと思われるなんて侮辱なんてもんじゃねぇ。

 

 ——俺だって役者だ。『負けず嫌い』だ。

 ——主役陣である黒川と有馬に、勝てないなんてプライドが許すわけないだろ。

 

 

 

「《この日本を盗めるほどの力ね。良いじゃん。王様になってみたかったんだよね俺》」

 

 

 

 ——とはいっても舞台上では味方同士。有馬かなだけは今回は見逃してやる。

 

 ——だが黒川あかね。お前だけはここで斬り落とす。

 

 

 

「《俺が最強になって、この國の王になる!》」

 

 

 

 ——さあ勝負をしよう、黒川あかね。有馬もそれを望んでいる。

 

 ——新宿クラスタと渋谷クラスタ。どっちのほうが上か。

 

 ——お前には初めての『黒星』をつけてやるよ、黒川あかね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。