【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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 三章の後書きで書いた『ある場面』の始まりです。


★第二十七話★ 開演

 そうして月日は流れ——。

 ついに『東京ブレイド』の初公演日を迎えることになる。

 

「なんか偉い人になった気分だね、ママ」

 

「後ろの席は関係者席だからね。実際に偉いんだよ、ふふん」

 

「アイ、それにルビー。出資者の一人として苺プロの関係者代表で来てるんだから、あまり品のない行動しないようにね」

 

「「は〜〜い」」

 

「たくっ……少しはマリンみたいな落ち着きを見習ってほしいものだわ」

 

 何でだろう。いつも顔合わせるはずなのに、久しぶりにミヤコさんの顔見た気がする。漫画とかでいう時系列ジャンプみたいな感じがある。そんなことはないはずなのに。

 

「やっほー! 久しぶりだね、マリンちゃん!」

 

「MEMも呼ばれたのか。まあプロデューサーが鏑木さんだし、有馬もあかねもいるんだから『今ガチ』メンバーも呼ばれるか」

 

「半分はそうかな。もう半分は……動画的なレビュー?」

 

「ステマか!? やったなお前!?」

 

「ステマじゃないよ!? ダイマだよっ!? 契約を結んだ公式なプロモーションだよっ!?」

 

 なんだ。あの動画のどっからへんに表示される『この動画はプロモーションを含みます』的なやつなのか。

 

 とか何とか世間話をしてる間に『今ガチ』メンバーも合流。

 ゆき、ノブ、ケンゴと全員が今回の舞台を楽しみで仕方ないと言わんばかりに目をキラキラさせて席へと手荷物を置いて談笑を始める。

 

「私、東京ブレイドで連載初期からファンだから楽しみぃ〜〜! 推しのブレイドは月9俳優の姫川さんだし、期待爆上がり!」

 

「俺はつるぎに注目! 原作だと明るくて活発なところが陰鬱な世界で癒しになるっていうか……それを有馬がどう魅せてくれるのか期待しちゃうよな!」

 

 ……おっと。よく見たらゆきとノブの腕にお揃いのブレスレットだ。どうやら今世でも裏側では恋人をやってるみたいだ。

 

「見事に売れ残ったな、ケンゴ」

 

「マリンの中で俺の評価どうなってんの?」

 

 なんかよく分からないところですごいことしてる印象。

 ケンゴは知らない間に作曲家として大手企業と契約を結んで、また一段とSNS界隈の裏側で活躍してるからなぁ。最近だとサブスク契約で音源素材提供するサービスの曲を手掛けたりしてるし。恐らく『今ガチ』メンバーの中でMEMに続いて地味に金稼いでると思う。

 

 そんなこんなで雑談は弾み、互いの近況報告が交わされる。

 ケンゴは今の所そんな感じであり、ノブに関しては最近だとダンサー活動が順調であり、レッスン講師として都会進出してきたローカルアイドルや売り出し中の新人アイドルのダンスレッスンを請け負うという立ち位置を持っている。

 

 MEMはチャンネル登録者数が50万人を突破。要因は『今ガチ』での宣伝を機に、コラボを重ねてという感じであり、今ではテレビにもちょくちょくと顔を出しているとのこと。

 

 そしてゆきに関しては『不知火フリル』との同事務所ということもあり、フリル自身が『東京ブレイド』の舞台稽古でスケジュールを空けた彼女の代役みたいな感じで今のところはオファーは殺到してるらしい。

 本人は「もっと私自身を求めて欲しいよ」と愚痴を溢しているが、SNSや通販サイトでのレビューを見る感じだと好印象だし、このまま行けば起爆剤次第で伸びる感じはある。

 

「ところでマリンちゃん。SNSで目撃情報聞いたけど、メルトくんと会ってるって本当?」

 

「会ってるけど、単純にアレは稽古の付き合い。今回は出演できてないだけで俺もルビーも苺プロ所属でララライに一応席は置いてるんだ。姫川繋がりで頼まれただけだよ」

 

「なんだ。マリンちゃんにもあかね以来の出会いがあったのかと」

 

「本当女子って恋バナ好きだよなぁ……」

 

「マリンちゃんが枯れすぎなだけだと思う」

 

 仕方ねぇだろ、こっちは元々男性なんだよ。異性として見るのが難しいんだよ。

 それに一応肉体と精神が追いつくといっても、時間経過の累計としては60年以上もある。感情の整理や情緒とかはしょうがないにしても、知識だけは無駄に増えていくから、なんというか恋愛において現実的な部分も見えてしまうから夢も見れないんだよ。

 

「マリンちゃん知ってる? 最近の君のネット評価」

 

「ゆきも話続けるな……別に知らないし興味ない」

 

「『真面目系ポンコツブラコンマザコン末っ子タイプのツンデレお姉ちゃんのアッパー俺っ娘』って世間様からの評価に興味ないのかぁ」

 

「ありますねぇ!? てか盛られまくってるな!? 盛り過ぎて胃もたれしそうなくらいに!」

 

 身に覚えがねぇぞ、一部の属性に至っては!? 

 ブラコンとツンデレはまだ分かるとして、他の属性は知らん!! ネット文化特有のミーム汚染か何かか!? 風評被害も甚だしい!?

 

「その反応からして母親のインスタ見てないんだね……」

 

「アイのインスタ……だと!?」

 

 確かにウチの母親はSNS運用はしている。だけどそれは『企業アカウント』としてのものであり、それに対する主なターゲッティングはTwitterであり、決してInstagramではない。

 

 アイがInstagramを持ってるなんて初耳だ。

 だとすればその中身はきっと『個人アカウント』としての側面が大きく、もしかしなくてもテレビでは出さないシーンを見せているのではないかと想像してしまう。

 

 頼む。せめてペアルックとかお菓子シェアをしてるとか、そういう微笑ましい部分だけを提供していてくれ。

 せめてもの譲渡としては幼児期時代のあれこれまでは我慢できる。頼むから中高時代になってからの裏側で見せることになってしまった生き恥だけは晒さないでいてくれ。

 

 恐る恐るスマホで検索をかけてアイのアカウントを見つけると、そこに映っていたのは——。

 

 

 

 …………

 ……

 

『ハッピーバースデー、ママ〜〜! 今日で記念すべき30歳の誕生日おめでとう〜〜!!』

 

『いや〜〜。ついに私も30かぁ〜〜。マリンとルビーがお酒飲めるまではまだ6年かかるね』

 

『私達からの誕生日プレゼントはドライフラワーと手作りチーズケーキね。あと金星を模したネックレスと……』

 

『と?』

 

『アクアからスペシャルメッセージがあります』

 

『……『ママ』誕生日おめでとう』

 

『きゃわ〜〜〜〜っ!!? どうしたの!? えっ、えっ!? どうしたの!? 可愛いっ!!』

 

『前に「マリンだけママって呼んでくれないぃ〜〜!」とか深酒して愚痴ってたから応えただけだよ!! 金輪際言わないからなっ!!』

 

 ……

 ……

 

『なぁ……本当に女子の制服着なきゃダメか?』

 

『お姉ちゃんの気持ちも分かるけど、郷に入っては何とやらだから』

 

『そうだよ? それに私の最終学歴は中卒なんだから、マリンには高校の制服を着て欲しいだけなのに……』

 

『ぅっ……。分かったよ、着ればいいんだろう……』

 

『はい、可愛い〜〜♪ そしてチョロい〜〜っ』

 

『今すぐ脱ぐぞ』

 

 ……

 ……

 

『お姉ちゃん。一緒に泳ご〜〜』

 

『行かない。俺はここでノンビリと荷物番をしてるから、ルビーとアイで満喫してこい』

 

『えー、いいじゃん。ママがマリンと一緒に泳ぎたいって言ってるよ?』

 

『そうだよ? 私はマリンの可愛い水着姿見たいよ?』

 

『それが嫌でもあるんだが……実は泳げないんだ、俺』

 

『えっ、泳げないの!?』

 

『アクアなのにっ!? マリンなのにっ!?』

 

『仕方ないだろ! 思春期に入ってから色々と恥ずかしくて泳ぐ機会失ってたんだから!』

 

『『あー、それもそっかぁ』』

 

 ……

 ……

 

『海楽し〜〜!!』

 

『ウチのマリンが泳げるようになって……我が子の成長に重みを感じちゃう』

 

『ママがカミキの野郎みたいなこと言ってる……』

 

『イェーイ!! 海サイコーッ!!』

 

『しかしお姉ちゃんノリノリだねぇ〜〜』

 

『私もイェーイ!! マリンと一緒に泳いでくるぅ〜〜!!』

 

 ……

 …………

 

 

 

 ——終わった。俺のイメージ終わった。

 

 

 

「アァァァァィィィイイイイ……!!」

 

「何その地獄から這い出たような声」

 

「これ、なに?」

 

「暴露欲求の産物。ごめんね!」

 

「いや特に公開するな、とも何とも言ってないからしょうがないんだけど! 一言くらいあっていいだろ!?」

 

「でもこうでもしないと、みんなに可愛いマリンを見てもらえないじゃん? マリンって皆の前だと大人ぶって格好つけようとするから」

 

「格好つけようとしてる気はないっ! ただその……姉として周りに気を配ろうとしてだな……っ!」

 

「でもおかげで皆がマリンの新しい一面が知れたんだからいいじゃ〜〜ん♪ マリンだって『本当の自分をみんなに知って欲しい』のは知ってるよ? 私だって同じ気持ち抱いてた時期あるし」

 

「それとこれとは話が別だよっ!」

 

 宮崎旅行の時、アイに相談したのは長い目で見たら失敗だったかもしれない今日この頃。

 

 そしてしばらく俺の公開処刑は続く。

 インスタを遡れば、小学校入学時のランドセルを背負ってる姿やら、初めての調理実習でハートとかサン○オのキャラを用いた可愛いエプロンと三角巾を身に付けてる姿やら、夢の国に行った時にプリンセスのコスプレして入園してる写真などが続々と出てくる。

 

 さらには赤子時代にも遡り、例のオタ芸ベイビーの動画さえも出てきた。おまけのついでに、哺乳瓶にむしゃぶりつく姿も公開されて、もうどこに出しても恥ずかしい成長記録をネットの海に放たれていた。

 

「ぁぁ……もう見ないでぇ……」

 

「おーおー。オフショットのマリンちゃんがこんなにたくさん……」

 

「普段は男の子っぽく振る舞ってるけど、家族の前だとこんなデレデレなんだねぇ」

 

 とりあえず私のことは放っておいてほしいっ!!

 

「ねぇ、ミヤコさん。あの騒ぎようでもアクアを見習った方がいい?」

 

「……前言撤回。やっぱアンタ達アイの子供だわ」

 

「照れるね〜〜」

 

「褒めてないわよ、馬鹿ルビー」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 一方、その頃舞台裏——。

 

 比較的飾り付けとメイクが少ない『つるぎ役』の有馬は一足早く準備を終え、自分の役が握る刀を手にする。

 

 刀はもちろん模造刀だ。もっと言うなら『アクション用の模造刀』というべきか。

 材質は刀身全てが強化プラスチック製。刀身にはプロの技術で貼られた金属色の光沢紙。そこに反射塗料も吹き掛ければ、あっという間に遠目からでは本物と見間違うほどの小道具の完成である。

 

 だが有馬が持つこれは他のと違って特注である。

 つるぎの刀に関しては極力肉抜きをして『他の物より幾分か軽い設計』となっているのだ。

 

 元々彼女の戦闘スタイルは天衣無縫を地で往く型や作法などない自己流の剣技という名の『戦闘術』だ。

 その気になれば暗殺術も体術も繰り出すほどであり、原作においてつるぎが人気キャラに挙げられるのは『単調な刀だけの戦闘』とは別の方面で戦闘を演出してくれているという側面もあるほどに。

 

 小刀も使う時もあれば煙玉も投げる時もある。あるいは含み針を飛ばすこともあれば、ブレイドが持つ大事な『盟刀』を囮にして騙し討ちすることもある。故に彼女は『戦闘狂』と言われる。

 

 そういう奇想天外な戦い方をし、戦場においてはルール無用を行くのがつるぎの戦い方だ。今回の舞台でも縦横無尽に動くことが要求されており、その負担を減らすために小道具は極限にまで軽量化している。

 

「……よしっ。問題なしと」

 

 今回の演劇で使用する小道具の点検を終え、一応アドリブやトラブルに対処するために気持ち多めにこさえておくと、有馬は挨拶と挑発がてらにライバルでありながらビジネス上の恋人でもある黒川あかねの控え室へと顔を見せた。

 

「お邪魔するわよ、あかね」

 

「かなちゃん……何の用?」

 

 入室した先では刀鬼へのメイクを終え、精神統一をしているあかねの姿があった。

 姿見自体は前の世界のアクアと差はない。けれど生まれ持った顔つきや雰囲気というのは如実に反映されるものであり、あかねが演じる刀鬼は『冷徹』を超えた『無慈悲』と言わんばかりに人間味が薄い。

 

 早い話が情というものを感じない——。

 鞘姫以外に向ける心情なんて有りはしないという忠義の結晶。瞳の奥は絶対零度で凍らされた炎だけが激っており、その異様な視線に有馬は心を躍らせる。

 

 これよ、これ——。こういうアンタとやり合いたかったのよ。

 本当にムカつく演技。お前は間違ってる、私は正しいと主張せんとする役者としての根っからの負けず嫌いが滲み出てる。役者特有の譲れない部分もある性格の悪さが這い出ている。

 

 ——でも、そういう『自分』があってこそ演技の華ってもんよね。

 

「一応ビジネスカップルなわけだしぃ? 楽屋の写真でも上げようかと思って気を回してあげたのよ」

 

「お断り。私は『刀鞘』派だから、ビジネスでもそういうことしたくない」

 

「そうそう。そうやって自己を貫きなさいな。じゃないと、せっかくの『真っ向勝負』の意味がないもの」

 

 この日をどれだけ楽しみにしていたか。有馬の心は躍り昂って仕方がない。

 黒川あかねは普段はお淑やかに慎ましくしてるから分かりづらいが、実際のところは頑固で我儘で融通が利きにくい。これだと思ったら猪突猛進で行く、良く言えば『直向き』で悪く言えば『愚直』という役者なのだ。

 

 けれど、それを貫き通せるほどに実力は高水準——。

 同年代では太刀打ちはできず、ベテランでも彼女に並び立つ実力派はそうはいない。それほどにあかねの技術は卓越されている。

 

 その鼻を真正面から叩き折る機会があったら——役者としての本能が興奮せずにはいられない。

 

「前回は私のエゴで黒子に徹したから、勝負無効になったのを結構気にしてたのよ」

 

「……あれは私が自分勝手で我儘なだけだったから、気にする必要なんて……」

 

「まあ、それはそうね。舞台は皆で作るもの。一人で暴走したら誰かがフォローしないと舞台が破綻しちゃうもの。私が気にするのはちょっとお門違いかしら」

 

「だから」と有馬は一呼吸置き、氷の瞳を貫く鋭い眼光で告げる。

 

「シナリオは予め変更されたでしょ? ファン向けに増量された僅か20秒の『刀つるの殺陣』が。ここで決着をつけましょう」

 

「……そうだね。なら思いっきりやっていい?」

 

「ええ。全力でかかってきなさい。どんなアドリブも無茶振りも応えてやろうじゃない」

 

 動きの激しいアクションには想定外なトラブルはつきもの。

 けれども、そのアクシデントも魅せてこそ熟練が見出す技術。

 

 踊り、舞い、劇場を軽やかに演じよう。この舞台において主役は誰であり、喝采を受けるのが誰になるのか。

 

 その行く末と共に——演者達の抜き身となった闘争心は対峙する。

 

 

 

「どっちが上か——。白黒つけるわよ『黒川あかね』——」

 

「望むところだよ、かなちゃん——」

 

 

 

 ——舞台『東京ブレイド』 開演まで残り[1時間]——。

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