【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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★第三話★ カレシ⇄カノジョ

 映画撮影も終え、それを機にアイドル活動主軸のマルチタレントとして躍進したアイの活躍を見届け、とうとう俺たちはついに幼稚園児として入園するほどに年月が経った。つまり3歳になった。なってしまった。

 

 

 

 ——アイの殺人事件まで、もう一年もない。

 

 

 

 だというのに未だに策が決まらない。いくつか候補はあるが、どれもこれも不安定極まりない。

 入園して改めて不便さに苛立ちが募る。本当にこの『幼児』というのは無力だ。体格差で何とかするという、力技が何一つできないのだから。

 

「アイをストーカーから守るだけなら非道な手段を使えば子供でもできることはあるが……っ!」

 

 マンションの火災報知器を誤作動させて有耶無耶にするとか、小火騒ぎ覚悟で可燃性ガスを玄関に充満させておいて何かしらの手段を火をつけるとか、リョウスケ君が乗る電車を人身事故とまではいかないが大遅延させて計画を台無しにするとか。

 

 だが所詮それまでだ。カミキヒカルに接触することができない。俺たちが対処しないといけないのは、あくまでリョウスケ君ではなく、その裏にいるカミキヒカルだ。

 

 何とかしてこいつに警察を接触させて拘束させないといけない……。

 そのためには、しっかりとした罪状を提供させるしかない。そのためには『共犯』という形でリョウスケ君を逮捕しなければ……。

 

「いっそでっち上げようっ! リョウスケとカミキヒカルはせんせが死んだ時にも繋がりがあるんでしょ!? 住所だって分かってるんだし、タレコミで児童誘拐とか下着泥棒とか、どうにかして……」

 

「でっち上げは普通に名誉毀損だ。それに警察だって通報がありました、じゃあ即出動即拘束という即断即決ができる組織じゃない。現行犯でもない限り、ちゃんとした証拠と証言と手続きを経て逮捕状が出せるんだ」

 

「でもママの出産時期の時にはストーカーだったんでしょ!? ストーカー被害で訴えれば……」

 

「『ストーカー被害』ってのは、意外と警察の動きが鈍い。『ストーカー規制法』で調べてみろ」

 

 それにそもそも被害者となるアイがストーカーを認知してないんだから難しい。認知しなければ『被害者』も『加害者』もないんだから。

 

「ならママに言う? ストーカーのこともカミキヒカルのことも……もちろん私たちのことも全部。生まれ変わりも未来から来たことも」

 

「…………万が一が怖い。アイなら信じてくれる可能性は十分にあるが、逆に信じてもらえなければ『児童精神科』で要治療の実質的な軟禁状態だ。アイと接触する時間が少なくなって……」

 

「本末転倒になっちゃうか……」

 

「やるなら『確実』か『現実的』な手段じゃないといけない。だが悪い手でもない。その時は『俺だけがその世迷言と妄言をアイに伝えて』、ルビーだけでも無事を保証できるようにする手もあるが……」

 

「それはダメ。また一人ぼっちになろうとするのはダメ。行くなら二人ぼっちだよ。二人でママに言おう」

 

「ブラコンが過ぎないか?」

 

「ブラコンじゃないもん! というか今はお兄ちゃんは女の子なんだからシスコンのほうが正しいもん!」

 

「話を誤魔化してるところ悪いけど、本質的には変わってねぇぞ」

 

「はい、この話おしまい! お兄ちゃんおしまいっ!!」

 

 逃げたな、こいつ。ほんの少しくらい有馬かなのレスバ力を見習え。

 

「マリンちゃん、一緒に遊ぼう~~」

 

「ごめん。読書したいからパス」

 

「そうなんだ……。じゃあまた今度ね!」

 

 純粋で無垢で何も知らない幼稚園児の一人。故に遊ぶの断るのも大人として結構心苦しくはあるが、今はこんな悠長なことをしてられない。少しでも策を見出すためには、強欲に知識を貪りつく必要があるんだから時間を無駄にするわけにいかないんだ。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「はい、マリンさん。お求めの防犯カメラとか法律関係の本ですよ」

 

「ありがとう」

 

 とはいっても本を一冊読んだだけで妙案なんか思い浮かぶわけもなく、こうしてミヤコさんに甘えることになるのだが。

 

「事務所のセキュリティ強化も兼用してるので経費精算できるからいいんですけど……本当にアイさんにストーカーがついてるんですか……?」

 

「ああ。嘘は言ってない。仮に嘘だとしても、アイだけじゃなくB小町の初期メンは二十歳をもう少しで迎えるグループだ。飲酒ができるようになれば大人の付き合いも多くなってハメを外してしまうし、不祥事の方向性も増える。そういう意味ではセキュリティだけじゃなくコンプライアンスも再意識させたほうがいいから決して無駄な投資じゃない」

 

「まあ一理ありますね。だったらメンタルケアの資料も買っておこうかしら……」

 

「なら俺が買ってくる。ミヤコさんはルビーと一緒に待っててください」

 

「物分かりが良くて気遣いができる子供って気味は悪いけど楽でいいわね……。お願いするわ」 

 

 ミヤコさんからお金を受け取って改めて大型スーパーの一区画にある本屋へと足を運んでいく。

 メンタルケアとなれば、医療関係かもしくは精神関係か。それは本屋の方針と規模によって変わるから何とも言えないが、どうやらここは後者らしい。

 

 心理学系のコーナーにお求めの本を見つけた。精神医学、自己啓発、マインドコントロール、プロファイリングと選り取り見取りだ。

 とはいっても当たり外れも大きいわけではあるのだが、こういう時は医者になるための勉強した経験でノウハウはある。著作者や出版社とかである程度絞って、そこから流し読みで所感を掴むとしよう。やっぱりネームバリューというのは安定性が違う。

 

「「あっ、ごめんなさい……」」

 

 とりあえずベストセラーの『人の心がよくわかる本』に近くにあった『日常に使える精神療法』——。

 それを取ろうしたところ周囲に対する気配を疎かにしてたせいで、子供と手が当たってしまい反射的に謝罪を口にする。

 

 こんなことに小さなことに気づかないほどに焦りと疲れが溜まっているのか。

 アイを助ける方法は確立できず、有馬かなが芸能界にいないことがここまで俺の余裕を奪っていたなんて。

 

 自分に対する余裕のなさを改めて感じながら、手が当たってしまった子供と目を合わせる。

 幼児だ。俺と同じか、もしくは一つ年上くらい。どちらにせよ典型的な子供であることに変わりはない。目を離せば速攻で忘れるような些細な出来事。

 

 

 ……だったはずなのに、どこかアンバランスさがあって目を離せない。

 妙な雰囲気があるというか、見た目と中身が一致しないというか、外見以上に精神年齢が蓄積されてるような。早い話が『俺とルビーに似た雰囲気がある』と言えばいいだろうか。

 

 何よりその顔つきと髪色に見覚えがあった。

 

 肩にかかるどうかの若干青みのある黒髪。

 どこか緩い雰囲気がある表情。なのに目力だけはある。隠し切れない自分への自信がある。

 

 

 

 まるで『今ガチ』で出会った頃のような、初々しさと弱々しさと役者としての自負を持つ『彼女』のような——。

 

 

 

「……やっと会えた」

 

「あ、かね……?」

 

 

 その会話を切っ掛けに、彼女の瞳は明滅する。星が灯る。一番星が輝く。

 星を宿した圧倒的な存在感を放つ眼差しを俺は忘れるわけがない。

 

 

 

 ——『黒川あかね』がそこにいた。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「本当は洒落たカフェで落ち着いて話したかったけどね……」

 

「子供は子供らしく公園で話すくらいがちょうどいいだろう」

 

 今、俺とあかねは公園で話すことにした。ルビーは一度ミヤコさんのとこに預け、公園の端で逆上がりでもさせておいて時間を潰させておく。てかここって鉄棒あるんだな。現代だと珍しいぞ。

 

 なんて呑気に考える思考を他所に、こちらもブランコに揺られながらあかねとの話を続ける。

 

「お前、この辺に住んでいなかったよな?」

 

「うん。だけど私、進学塾に通ってるから遠出できるように定期発行してもらってて……」

 

「それでこっちに赴いて、時間があれば俺達の捜索? 探すにしてもヒントが少なすぎないか?」

 

「そうかな? 週刊誌で殺人事件があった住所は公表されてたし、アイさんは施設育ちで『閉鎖的な施設に子供を預ける』という部分に対して深層心理の奥底で嫌悪感を持っている節がある。それがバネになって子供には『開放的に遊べる良い施設』を提供したいとか考えてたら……住所と候補になりそうないくつかの幼稚園を中心に、利用しそうなサービスとか施設を考えたら結構絞れるよ?」

 

「こわっ」

 

 これはこれでストーカーじゃね?

 

「そこからは虱潰しだったけどね。私も塾以外にも演劇の稽古があるから……こうして再会できるまで時間かかっちゃって……」

 

「ごめんね。時間かかって」とあかねは謝罪の言葉を漏らす。

 

「いや、ありがとう。有馬がメディアにいない以上、あかねが芸能界に来ることはなくてもう会えないと思っていたから……」

 

「言ったよね。『地獄だって一緒に行くのに』って。この程度ならどこにいても会いにいくよ」

 

 本当に頼りになる。あまりの献身さに、焦って荒んでた心が安らいでいく。

 あかねにはいつも甘えてしまうな。東ブレでの稽古中にPTSDを発症した時も支えてくれて、復讐を再開したいかどうか迷った時もあかねに委ねてしまって、ルビーを相手に不知火フリルと演技指導をやっていた時も俺が無理やり止めることもできたはずなのに見過ごした。

 

 全部が全部、思い返せば俺は無意識にずっと甘えてたんだな。

 なのに俺はまだ何もあかねに返せていないんだな。

 

 だったら、いつか返さないとな——。

 

「とはいっても、会ったところで私が手を貸せることは少ないんだけどね。私が手伝える事なんて『あのストーカーがどういうルートで来るのか』ということを伝えることくらいしかできない」

 

「……なんでリョウスケ君が『どういうルートでアイを殺しにくる』のか分かるんだ」

 

「客観的な事実に基づくけど、アイさんの殺人決行の当日、ストーカーが所持してたのは『交通手段利用の最低限のお金』と現場に残した『花束とナイフ』だけ。これを大前提として話を進めるね」

 

「ああ。それは当時の情報誌でもそう記載されてる」

 

「同時にその情報誌ではストーカーは『ナイフを犯行当日に購入した』という履歴はない。これは警察がストーカーの居住地からアイの殺人現場までの『すべてのショップの監視カメラを追って判明した揺るぎない真実』なの。となれば『ナイフを持ち出したのは、いつ頃なのか』という謎が生まれる」

 

「お、おう」

 

「考えられる可能性は主に二つ。『予め準備した物を自宅から持ち出した』か『犯行当日に誰かから手渡された』かの」

 

「そうだな」

 

「だけど『ナイフを持ち出して電車に乗る』という行為ができるほどストーカーは『精神的に図太かった』かな? いや、そんなはずはない。彼は精細で弱気な部分もあるからこそ『アイさんの最期の言葉を聞いて自殺してしまう』ほどに罪悪を受け止める一面がある」

 

「そもそも駅の監視カメラ映像では『花束』を持っていなかったしね」とあかねは補足して話を進める。

 

「だったらナイフは『当日、電車を降りた後に渡された』って考えるのが自然。カミキヒカルの手によって。それも『監視カメラに極力映らない』ようなルートで。SNSなども通じて『監視社会』となって相互監視し合うのが当然の世の中で」

 

「…………流石だな」

 

 怖い。あかねが怖い。

 こんなに根掘り葉掘り調べるものだっけ、プロファイリングって。プロファイリングって、あくまで統計を取った推定のデータ収集だぞ。

 

「現に私も似たようなことしてたしね……」

 

 あかねは視線を逸らして渇いた目と笑いを浮かべる。

 ……それに対して俺何も言えない。言っちゃいけない、謝ることも許されない。

 

 経緯はどうであれ、俺のことを思ってカミキヒカルと相打ち覚悟であかねは特攻しようとした。今のリョウスケ君が同じように。

 客観的に見れば、俺とカミキヒカルは同じことをしてしまうところだった。

 

 リョウスケを扇動して、アイを刺し殺すように仕向けたカミキヒカル——。

 あかねに甘えて、カミキヒカルの下へと向かわせようとしてしまった星野アクア——。

 

 いったいどこに差があるんだ。俺とカミキヒカルに。前の時間だと相打ちになるのは、ある意味では当然と言える。似た物同士の末路でしかないんだから。

 

 

 

 ——だからこそ、今度こそ、間違えるわけにいかない。

 

 

 

「なんであれ、そういう考え方をすればルートは絞り込める。『ライブ当日による交通規制』も鑑みるともっと絞り込める。けれどそれで候補となるルートは『三つ』あるんだ」

 

「三つか……」

 

 今のところ事情を噛み砕いて説明しても頼れる大人は三人しかいない。ミヤコさん、監督、社長だ。

 だけど社長はプロデューサーという立場もあって当日はドームから離れること『絶対にできない』ことを考えれば、時間的に余裕が作れる大人は二人しかない。

 

「いや、そこまで分かれば警備会社にも頼めるか。ミヤコさん経由で連絡をしてもらって、人員を多めに派遣してもらえば……」

 

 ——いや、ダメだ。カミキヒカルはそれを感じ取って『アイの殺人時期を引き延ばす』に決まってる。

 となれば、これは問題の『先送り』にしかならない。『いつ起きるか分かる殺人事件』が『いつ起こるか分からない殺人事件』となってしまっては、それは前の時と変わらないじゃないか。

 

 まだ足りない。もっと欲しい。

 カミキヒカルの動きを絞り、導き出すための材料が。

 

「……いや、これ以上あかねに求めるのは贅沢だな。ありがたく使わせてもらう」

 

「存分に使ってあげて。それと私は今世は『劇団あじさい』じゃなくて、『劇団ララライ』の『児童養成部』として通ってるから、OBとしてカミキヒカルの情報が来ることがあれば報告する」

 

「報告するっていってもな……どうやって?」

 

「ふふん、これ私のLINE。連絡先は交換しあったほうが都合がいいでしょう?」

 

 流石は裕福家庭の一人娘。その歳ですでにスマホ持ちか。

 

「だが生憎と持ってねぇよ。幼稚園に通ったばかりだぞ。それに外見的には子供が迂闊にネット使って、アイとの匂わせをしたらどうするんだ」

 

 ただでさえルビーがアイアンチとのクソリプ合戦でボロが出ないか冷や冷やしてるというのに。

 

「それもそっか……。じゃあ固定電話は?」

 

「自宅のはないな。事務所のならあるが……仕事用の電話口であかねから電話が来るのは色々怪しまれるな」

 

「じゃあ私のお古渡しておくしかないか。迷子防止のGPS付きだけど」

 

「…………嫌がらせか?」

 

「今はなりふり構ってられないでしょ。同意の上なら犯罪じゃないし」

 

 ……それもそうだな。私用で使える携帯が一台あるだけで儲けもんだ。

 

「あかねのお姉ちゃんに面倒見られるとするか」

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃんかぁ……。そっか、そういえば一応アクア君のほうが年齢は下なんだよね」

 

「嫌な言い方だな。おっさん臭くて悪かったな」

 

「でも実際アクア君は歳上でしょ」

 

「……何を言ってるんだ」

 

「誤魔化さなくていいよ。私、こうして『やり直し』とか他の不思議な体験をして分かったの。この世界には『超常が起こる』時もあるって——」

 

 ……そりゃ『超常が起こる』という考え方を得て、解釈を広げることができたら最後のピースが埋まるよな。というかパズルの型そのものが判明すると言った方がいいだろう。

 

「気づいちゃうよ。アクアくんが『雨宮吾郎』だってこと。ルビーちゃんが『君が研修医として担当してた頃の患者』だってこと。『転生』とか『憑依』みたいな絵空事が現実になってること」

 

「幻滅しただろ。お前が好きになった男が実はアラサーだった、という隠し事をしてて」

 

「しないよ。アクア君を埋める最後のピースが分かってスッキリした。……むしろもっと早く気づいてあげれたら、アクア君とルビーちゃんも楽になる方法を見つけられたんじゃないかって後悔しちゃうくらい」

 

「……お人好しが過ぎるな」

 

「お互い様。だってアクア君、根本的に『人を救う』って考えがある善人だもん。復讐なんて……やらなきゃいけない使命感しかなくて、疲れるに決まってるよ」

 

 ここまで見透かされたら、もうあかねに何も言えないな。言った側から看破されるに違いない。

 だったら隠す必要もないか。俺が『女の子』になってしまったことを。元々隠す気もなかったが、今ここで打ち明けた方があかねは俺とのそういう関係性から解放される。一つの呪縛から抜け出せることができる。

 

「まあ、あかねにはまだ隠し事があるんだけどな」

 

「隠し事? いったいどんな? もうアクア君に秘密なんて私が知る限り……」

 

「今回の世界だと絵空事にもう一つエッセンスが加わるってこと。今の俺はちょっと事情があってな……」

 

「……ん? 絵空事にエッセンス……?」

 

 幼稚園に入園しても、まだ身体的な特徴が分かりやすく出る時期ではない。服の色合いや性格から来る雰囲気もあって、まだパッと見であれば男に見えるんだから気づくことは難しいだろう。

 

 だから今のうちに伝えおかないといかない。今世だとあかねと付き合えないことを。男女としての恋愛ができないことを。

 

「もしかしてアクアくんも……!?」

 

「……おい、まさか」

 

 やけに含みのある言い方。思い返して見れば、あかねは変な言動が少しあった。

 

 ——アクアくん『も』と。『他の不思議な体験』をしたと。

 

 何が『も』で『不思議な体験』なんだ。まるで俺とあかねに同じ現象が起きてるとでも言いたげな感じ。

 

 いや、そんなはずがない——。

 だって、今のあかねは『パッと見は女の子』——。

 

 

 

「………………あるのか」

 

「……………………ある」

 

 

 

 嘘でも冗談でもない。ましてや演技でもない。

 いくらあかねが天才役者といっても、それを読み取れないようなら元彼氏として極悪人もいいとこだ。

 

 

 

「はぁぁああああああ!!? どうなってんだ、この世界ぃぃいいいいいいい!!?」

 

「アイさんが実は男だったりしないよね!? ちゃんとママだよねっ!? パパじゃないよねっ!?」

 

「仮にパパになったら、俺の復讐相手おかしくなるからなっ!? アイ(ママ)を殺したのがアイ(パパ)ってことになるぞっ!?」

 

「言ってることの支離滅裂さが、アクア君の混乱を物語ってるね……」

 

 そりゃ混乱するしかない。

 だってあかねまで性別が変わるなんてことがあるのか? 何の意味があって? 全貌が掴めず頭痛の種になるしかない。

 

「俺とルビーだけじゃなくあかねまで……本当どうなってんだ」

 

「ルビーちゃんも私と同じように……きまずくなるなぁ」

 

「なんできまずくなるんだよ」

 

「ルビーちゃんって潔癖なところあるから、一度聞かれたことあるの。ヤッたのかどうかとか」

 

「随分と下世話なこと話してんな。羞恥心とかねぇの?」

 

「女性同士でも下ネタは言うよ? 私、別に清純派じゃないから」

 

「悪女だもんな」

 

「今ガチの話はやめてっ! いや、アクアくんとみんなの出会いの場所ではあるから黒歴史にはしないけど……っ!!」

 

 みんな付き合い良かったもんな。俺もモデル仕事があった時は、ゆきに静止画での見栄え良くなるコツを聞いたことあるくらいには、プライベートでもちょいちょい会ってたし。これはあかねも同様だ。

 もちろんノブユキとケンゴにだって、MEMちょが新生B小町のYouTube企画で出てみないかと持ちかけてたし。アイドルが男といる絵面と視聴者の客層で没案になったとはいえ。

 

「アイさんの件でそういうセンシティブな部分にルビーちゃん警戒心強いから……」

 

「そういえばアイツ、一度アイの妊娠を処女受胎とか決めつけてたな」

 

「そういうこと。根本的に男性に対して警戒心強い子でもあるから、男性になった私を警戒されると思うと……もう甘えてくれないのかなぁ、とか思ったり」

 

 それこそないだろうけど。ルビーは精神的な繋がりを強く抱いている。肉親に愛を与えられなかったこそのバイアスだ。

 だからあかねが男になったくらいで関係を変える事はないだろう。むしろ性別が変わったくらいで態度も変わるなら、俺とルビーの関係も前とは違うものになってただろうし。

 

 ……それはそれとして肉体関係には機敏な部分があるのは確かではあるが。

 仕事や付き合いのためとはいえ、深夜や朝帰りする度にルビーは「無責任なことしたら心の底から軽蔑するから」と釘刺されたし。

 

「それはそれとして別にショックな所はあるんだけどね……。アクアくんとはそういう面では奥手だったから、こうやって互いの性事情を垣間見るのがこんな夢も甘酸っぱさもないなんて……んふふふふふ、ふふっふふ」

 

「前々から思ってたけど、その笑い方すごいアレだな」

 

 別に嫌いじゃないけど。愛嬌ある気持ち悪さだけど。

 

「でも、そういう意味では同い年みたいなものか。私も男の子やるのは初めてだし、アクアくんも女の子をやるのは初めて」

 

「お互い苦労するなぁ」

 

「末長くよろしくお願いするよ」

 

 あかねが持ってるスマホからタイマーの音が響く。

 そろそろ習い事に行く合図だ。演技か進学塾かは分からないが、あかねにはあかねの生活がある以上、縛るわけにはいかない。

 

 今日はここらでお開き。また何かあったら連絡を取るしよう。

 

 

 

「そうだ。これだけは言っておかないと」

 

 

 

 あかねはブランコから飛び降り、こちらと目を合わせる。

 俺は座っていて、あかねは立っている状況。あかねの表情はどこか凛々しさに満ちていて、ある情景が脳裏にリプレイされた。

 

 

 

「アクア君の『復讐(企み)』は私が止める——」

 

「——やれるもんならやってみろ、黒川あかね」

 

 

 

 同じ言葉。同じ返し。だけど立場だけは対峙ではなく協力。

 あかねはいつも本心に気づいてくれる。今世も肝心な所をあかねに甘えてしまうことになるが、俺だってもう復讐なんて物を起こしたくないんだ。

 

 だから利用させてもらう、今回もあかねを。同時にこれで最後だ。

 無事に終えたら——今度こそあかねを自由にさせないとな。

 

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