【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜 作:かにみそスープ
「東ブレ舞台最高でした〜〜っ!」
「ブレイドと刀鬼のシーンが最高でした!」
「わかるぅ〜〜! でも刀つるの殺陣も最高だったよね!」
「うんうん! 刀鬼の返し手の旨さと、つるぎの天真爛漫な戦いが映えてたよね〜〜!!」
「あかかな人気すごいね〜〜。観客のみんなが声を揃えて褒め称えてるよ〜〜」
「でも刀鬼はあそこまでつるぎに対して冷たい対応しないと思うんだけどなぁ。刀鬼は心の奥底ではつるぎのことを認めていて、だからこそ根強いカップリング要素があるわけで……」
「は? これだから刀つる派はダメなのよ。あれが刀鬼のスタンダード。鞘姫以外には優しさなんて見せないの。解釈違いは汚い便所の上で麦飯でも食っててくれる?」
「あ゛? やんのか?」
「お゛? やっかオラ?」
「あーっと! 解釈違い論争は私のチャンネル趣旨に合わないからカット!」
クラスタ抗争編の最終幕——。
ついに主人公であるブレイドとつるぎを相手に、敵陣の首領である鞘姫と刀鬼が対峙することになる。
先んずるは主役の務め。初陣を飾るのは姫川大輝が演じるブレイドである。
相対するは天才役者。黒川あかねが演じる刀鬼との真っ向勝負となる。
「《さあ語ろうぜ。俺達の刃でよ》」
役者としての言葉はいらない。動きだけが言いたいことは理解できる。
故に心情に語りなどいらない。演技こそが役者が唯一表現できる器用で不器用な対話なのだから。
踏み出すための一呼吸が合図。剣戟の音が開戦の火蓋となる。
二人揃って劇団ララライの絶対的存在。故に運動量も、身体的な表現力も同年代とは一次元どころか二次元違うと言っていい。殺陣の技量は若さ故の体力もあって舞台役者としては卓越されているという表現ですら生温いだろうと断言できるほどに。
一閃目。ブレイドの剣技は刀鬼の頬を掠める。
二閃目。刀鬼の一突きがブレイドの腹部を撫でる。
互いに決め手なし——。
隙を伺う一撃でありながら、実力を測る牽制でもあり、そのたった二つの剣を交わすことで両者は相手の力量を見定めた。
——こいつは手加減して勝てる相手じゃない。
——殺す気でいかないと逆に呑み込まれる。
三閃目——。
互いの刃が齧り合い、切り上げの拍子に両刀は天高く打ち上げられた。
そこからは徒手空拳の応酬——。一転して肉弾戦へと移行する。
殴打と蹴撃だけで語り合う男同士の根性比べ。剣士としての意地の張り合い。先に引いた方が戦いの主導権を握られる土俵際。
刀鬼の全霊を込めた足技と、ブレイドの拳が互いの急所を捉えて激痛を噛み付かせる。ブレイドは脇腹を。刀鬼は胸部中央を。
予め緩衝材が入ってるとはいえ、それでも当たれば痛いものは痛い。あくまで衝撃や痛みを和らげるだけであって、それそのものを無くすような物ではない。
全速力で走行する車両が急ブレーキをかけたような、衝撃と重力の反作用が二人の身体へと襲いかかる。
だというのに二人の動きが鈍ることはない。
想定通りの痛みと衝撃で演技が滞りなく進行し、互角の勝負を演出していく。
——心拍数はいつも通り。
——体内時計は正常稼働。
——照明の位置も相違なし。
——歩幅の感覚も問題なし。
——相手との距離も練習通り。
だったら一瞥の必要さえない。
ブレイドと刀鬼は互いに腕を突き上げる。弾き飛ばされて己が刃を求めて。
すると滞空を終えて落下する互いの刀を手に収まり——。
「《贋作・涙雨 壱ノ型——『群雨』》」
「《盟刀・風丸 三の型——『刃雷風烈』!》」
抜刀の姿勢を構えて奥義を披露する。同時に噴出される突風と霧。揺れ動く観客の座席。
舞台演出をこれでもかと利用した過剰演出は、台風でも発生したのかと疑うほどだ。わざとらしく過ぎて白けてもおかしくないはずなのに、そんな現実感を微塵も感じさせない覇気と緊張感がブレイドと刀鬼から静かに漂う。
何かしらの事故でも発生するんじゃないかと思えるほどの紙一重の連続。
事故と隣り合わせの寸劇は高揚感と期待を煽り、舞台と観客席の一体感を生み出していく。
——まるで観客そのものが、各クラスタの仲間だと錯覚しうるほどに。
だが二人とも演技の範囲内で表情を変えることはない。
必要以上の焦りもなければ、必要以上の高揚感もない。これほどの高水準な殺陣を持ってしても、二人にとっては『予定調和』にしかすぎないのだから。
「やっぱすげぇな、あの二人は」
「当たり前だろ。お前の大道芸も二人からすれば少し頑張ればできることなんだからな」
唯一現実が引き戻されるのが舞台裏のみであり、鴨志田とメルトは冷静に演出を俯瞰する。
メルトが全身全霊を込めなければ成し得ない曲芸と演技をあの二人は意図も容易く熟してくれる。それどころか刀が空を舞う中でも徒手空拳で魅せたりと極限にまで時間と動きを突き詰めている。
戦いにおける瞬間の連続を動きだけで表現しきる——。
それがどれほどの神業であるかを鴨志田は長い芸歴から理屈で理解する。それがどれほどの偉業であるかをメルトは未熟ながらも本能で理解する。
誰も目を奪われていく完璧で究極の殺陣。
金輪際見ることはできない舞台の花形。今間違いなく舞台の中心にいるのはあの二人だ。
他者など介入する余地なし——。
その『先入観』を抱かせるには十二分過ぎるほどに二人は初陣を華やかに魅せきった。
一つ目の見せ場を終え、演目は止まることなく続いていく。
刀鬼は続け様に身を翻し、そのまま回し蹴りの体勢へ。ブレイドは即座に後ろに飛んで間合いを測り直すが、それさえも刀鬼にとっては狙いだ。
僅かな隙を縫うように小刀を投げつけ、瞬時に反応したブレイドが小手で弾き飛ばす。
再びの静寂。次なる奇襲へと備えてブレイドは意識を刀鬼を向き直す。刀を握り直し、呼吸を整え、いつでも動けるように足を踏み込む準備をしながら。
その視線と意識の移ろいが命取りだ。何故ならこの戦いは真剣勝負ではない。戦場において刀遊びだけで勝利を得ようなんて愚の骨頂。ありとあらゆる手段を用いて『敵』は排除しなければならない。
途端、舞台から音が消えた——。
戦場だというのに音一つ聞こえない無音状態。ブレイドが全神経を集中させている演出であり、一つずつ舞台を照らすライトが消えていき、やがては暗闇となってモニターの演出だけが映えていく。
ドクン、ドクン——。
観客の不安と焦燥を煽るために心臓の鼓動音が舞台を包んでいく。暗闇の中だからこそ、ブレイドの緊張感が一層深みを増して伝搬されていく。
すると、ユラユラと陽炎が揺らぐように『盟刀・天帝』という文字がモニターに浮き上がった。
それは鞘姫が手にする『盟刀』の名称。またの名を『傷移しの鞘』と呼ばれる己が痛みを配下に移し替える支配者の力。
独占国家の象徴とも言える暴君の如き盟刀。
その殺気が放たれると同時——ブレイドは瞬時に勘付いて無我夢中で横へ飛び込んだ。
「《伍ノ型——『國崩』》」
「《避けろ、つるぎ!!》」
刹那、大地を引き裂くような轟音が轟いた。本来相手をしていたつるぎ諸共に、鞘姫はブレイドに目掛けて剣技を解き放ったのだ。
一刀両断——。
舞台とモニターが暗転し、斬撃による衝撃で煙が立ちこめていく。
煙が晴れた時、そこに広がっているのは瓦礫と灰塵が舞う荒野と化した大地。
建造物が少ないところで合戦をしていたからこそ二次被害はなかったが、この一撃が直撃したと考えれば怖気が奔るのが普通というものだ。
鞘姫はこれで極力戦いを避けるように見せびらかしてきた。
天帝は『小規模な剣技』を使用できない。それは鞘姫が根本的な部分で剣士として未熟だからこそ大味にならざるを得ない事情もあって。
故に寄せ来る外敵はすべて天帝の剣技で退け、見せつけてきた。牽制の意味も込めて大袈裟なだけの技も生み出してしまうほどに。
それで臆病風に吹かれて逃げ帰るなら見逃し、無謀にも戦いを挑むものは刀鬼が返り討ちにしてきた。
敵はそれで恐れ慄く——。
懐刀の刀鬼にさえ敗走するのなら、首領たる鞘姫には到底及ばないであろう絶対的な力の差を勝手に感じ取るのだから——。
「《なんだよ、これ……》」
「《『盟刀』はこんな力も持ってるの……!?》」
鞘姫もまた『盟刀』の持ち主。ブレイドが持つ『盟刀・風丸』と同様、主人を選び、主人へと適した力へと自らを変革・鍛造されるのが『盟刀』の性質だ。
鞘姫の名の通り『渋谷クラスタの首領』という大きな肩書きと仮面を成すための鞘になろうとしているのが『盟刀・天帝』が持つ性質。
その見栄や虚栄といった『目に見えない部分』を形にしようと応えてくれる。だからこそこんな大味で分かりやすい剣技へと昇華されている。
分かりやすい力というのは、単純故に強力無比——。
攻略糸口さえ分かれば容易いが、逆に言えば攻略方法が見定まらないと打開する手段なんて見出すことはできない——。
「《つるぎ! そっちはお前に任せた!》」
「《合点承知! かかってきなさい、この冷奴!》」
このまま鞘姫をつるぎが相手をしていては鞘姫の弱点を見つけることはできやしない。
『盟刀』を相手するのは『盟刀』が一番であろう。打開策を測るためにも、ブレイドとつるぎは互いが相対すべき敵を背中合わせのまま身を翻した。
組み合わせは変わり、今度はブレイドと鞘姫の対決——。
かたや人気カップリングであるつるぎと刀鬼の勝負——。
スポットライトが浴びるのは後者となり、黒川あかねと有馬かなが今度は主役となって舞台を魅せる——。
両者共に相手に対抗心を燃やすライバルでありながら、今世ではビジネスカップルを興じる現実と空想が重なり合う組み合わせ。観客はどのように演じるのか期待を膨らせる。
一歩の音でタイミングを測る。二人にとって、役者にとって、それこそが何よりの会話になるのだから。下手に言葉や身体を交わすよりも充実で濃密な時間となる。
殺陣は両者の呼吸とタイミングが合わなければ魅せることができない。
何度もリハーサルを重ねてるから、どのタイミングで行うかは身体の動きだけで分かる。
——「行くわよ」と、有馬は摺り足で右足を一歩半踏み込む。
——「いいよ」と、あかねは刀を逆手に持ち替えて臨戦態勢へと切り替えた。
「《贋作・赫焉 一の型——『火車』!!》」
クラスタ抗争最終幕の第二戦目が開始される——。
小柄な肉体と身体能力を活かし、つるぎは空中一回転を加えて斬撃を魅せつける。最小限の動きだけで回避する刀鬼は、火に近づかない野生動物のような本能と、人間として知性を両立させた軽やかな物である。
だがつるぎだって、そんな映え重視の剣技だけで終わるほど未熟じゃない。
すぐさま姿勢を崩して足払いへ。刀鬼は飛び上がり、つるぎの一手は再び届かない。
しかしここまでがつるぎの狙い。空中であれば動きの自由なんてなくなる。
今こそ練り込んでおいた剣技を披露する時。起死回生の大番狂せを見定めてつるぎは不敵に笑う。ここで一泡吹かせてやろうと得意気に。
その笑顔は黒川あかねにとしては目と心を奪われて仕方がなくて堪らない。今すぐ「かなちゃん!」と大声で叫び出したいぐらいに。
「《贋作・赫焉 四の型——『篝火』!》」
「《贋作・涙雨 弍ノ型——『慈雨』》」
だが、この戦いは刀鬼とつるぎの圧倒的な実力差を知らしめるためのもの。つるぎの一手に動じることも、揺れることもあってはならない。もちろん顔に出ることなど笑止千万。
ここまで自分の思い通りに戦いを運んでいたつるぎに対し、刀鬼は単純な技量だけでその上をいく圧倒的強者を演出するために。
突き立てられたつるぎの一閃は、優しく撫でるような刀鬼の殺陣に弾き返し、逆にその首筋に刀の峰を添える。
遠回しに「殺すこともできた」と訴える構え。同時にそれは渋谷クラスタが共通して心に宿る「戦いたくない」や「殺したくない」という躊躇いを吐き出している一面でもある。
「《男は女を命を賭して守るものなのだろう。俺は絶対に負けるわけにはいかないのだ》」
「《何よ女、女って! ナメないで!》」
——「楽しい」と、久方ぶりの本気の演技に有馬はそう感じる。
——「嬉しい」と、本気で応えてくれる有馬にあかねはそう感じる。
「《贋作・赫焉 二の型——『狐火』!》」
「《贋作・涙雨 参ノ型——『狐雨』》」
足掻きにも近いつるぎの攻撃に、刀鬼は涼しげな顔で受け流し、今度は肩に刃の切先を丁寧に乗せる。やろうと思えば、お前の腕の一つなんて容易く落とせると言いたげに。
この言葉にしない関係性こそが『刀つる』が人気になる所以でもある。
冷たくあしらい続ける刀鬼。それに気づいていても喰らいつくつるぎ。その諦めの悪さと図太さが、鞘姫一筋で忠義心の塊である刀鬼が普段見せない一面を垣間見させる。高圧的なのに世話焼きで甘いところが見え隠れする刀鬼の隠しきれない優しさと人情が。
ある意味では黒川あかねと有馬かなの二人にとって、こういう交わりこそが恋人関係に対する最大の愛情表現なのかもしれない。
二人が『あかかな』という社会的なビジネスカップルの先入観を舞台の設定を崩さずに魅せるには、自分に正直になって楽しく、眩しく、輝かしく、舞い続けることこそがファンに対する最大限の返礼だ。
舞えば舞うほど、有馬は自分の中にある輝きを止められない。
あかねはその輝きを見たくて、知らしめたくて、夢中になって付き合ってしまう。
もっともっと自分を知って欲しくて。もっともっと相手を知って欲しくて。両者共に荒々しくも、華やかに演技という名の仮面を被った舞踏会として魅せる。
技の演出と順番は滞りなく予定通り。セリフももちろん台本通り。
だけどそれ以外はもう全てアドリブだ。二人の動きに関しては、どこにも予定に組み込まれていないものばかり。タイミングなんて合わせることも決めていないから、二人は今心身のコミュニケーションだけで演技を続けている。
——「まだまだ踊る?」と、有馬は不敵に笑う。
——「ここまでかな」と、あかねは足を止めた。
名残惜しいが一度深呼吸をして台本へと合流をする。
そういうことなら休戦するしかないし、今ここで白黒を決めるには時期尚早だ。あかねとかなにとって、ここはまだ自身が魅せるべきクライマックスではない。
——だって、まだ与えられた『20秒』のシーンには到達してないのだから。
「《こうなったら目に物見せてあげる! このつるぎ様の奥の手!》」
高らかに告げると同時、モニターとパイロテクニクスによって周囲が炎に包まれていく。
つるぎの奥の手。これが通じなければ実力勝負では勝てないことを意味している。熱を宿したつるぎの『盟刀』——の模造品である『贋作・赫焉』はその銘に恥じない赤々と燃え盛るように光り輝き——。
「《贋作・赫焉 奥義——『趨炎附熱』!!》」
不死鳥が飛翔するかのような豪炎を纏った横薙ぎの一閃が、舞台の全てを包み込みながら刀鬼へと放たれた。
「《贋作・涙雨 零ノ型——『
しかし、それさえも刀鬼は難なく受け流して見せた——というわけではない。
刀鬼の『遣雨』は鞘姫から強く言われて封印してきた『必殺』の剣技だ。並大抵の相手ならば簡単に命を刈り取る手加減なんかできない。
静かだが一度覚悟を決めたら止まることを知らない刀鬼の心を表現する荒れ狂う波のような絶技。つるぎの奥義を、文字通り細切れにして火の粉として舞わさせた。
それを披露するということは——逆説的に刀鬼はつるぎを認めたことを意味している。
相応の実力者として。あるいは好敵手としての誠意を見せるために。
「《ここまでだ。お前の戦いは児戯に等しい》」
「《……乙女の命はアンタに奪われるしかないみたいね》」
「《お前の命を奪う価値はない。さっさとこの戦場から失せろ》」
「《んだ!? おらの魅惑ボディーに興味ねぇ言うんか!?》」
「《アホか。戦場で色恋沙汰を口にすると思うか?》」
「《……嫌味な男。なら唾でも吐いてサヨウナラ!》」
「《含み針なんて効くわけないだろ、馬鹿》」
——まだまだ二人の『20秒』は動かない。
…………
……
一方その頃、観客席二階の関係者席にて——。
「こう見ると刀鬼って本当にお姉ちゃんに似てるねぇ……。つるぎに対する扱いが、先輩に対する雑さと一緒だよ」
「鑑賞中は静かにしてろ、アホルビー」
「そういうとこ、そういうとこ。私にも時々雑」
しかし、ルビーの意見は決して間違いじゃない。俺は確かにアレくらい有馬のことを雑に扱っている。友達としての距離感というか、まあ取り繕う必要がない楽な友人関係という意味ではかけがえの無いものだ。
……それはもちろん、あかねにも言えることだ。かけがえの無い関係という意味においては。
あかねは俺にとっての共犯者。一緒に地獄に行ってくれると口にしていた数少ない理解者。
俺はそんな彼女を巻き込みたくなくて、あかねを突き放して孤独に間違えた道を歩みはじめた。この選択に当然後悔あるし、幸福な日々を噛み締めていたかった未練も当然ある。
だけど間違いじゃない——。
いや間違いではある。でも、この間違いは間違いじゃない。認めないといけない。復讐は認めないといけない。
だって俺の復讐のせいで、あかねは道を踏み外す覚悟を持ってしまった。危うく彼女を殺人者に仕立てあげてしまうところだった。カミキヒカルがリョウスケ君を扇動したように、俺だって黒川あかねを誘導させてしまっていたのだから。
そんな彼女に俺は今更どの面下げて彼氏面ができるだろうか。
こちらから終わりを告げた関係性に、未練をずっと引きずっていて、今更「よりを戻してくれ」とどの口が吐くって話だ。あまりにも情けない。
——けどあかねは優しいから、俺が焦がれるように手を伸ばしたら、きっと手を差し出してくれるんだろう。
——でも、それは対等な関係じゃない。あかねの優しさに甘えただけの依存だ。そんなのは彼女が求める関係性じゃない。
…………
……
『駄目だよアクアくん。自分のことは自分で決めないと』
『アクアくんは私の物じゃないし、私もアクアくんの物じゃない。自立した人間二人が寄り添う事に意味があるの』
『そうじゃない関係は、ただの依存だから』
……
…………
今の俺に、黒川あかねと並んでいい資格はない。
今の私に、黒川あかねに甘えていい資格はない。
今の僕に、黒川あかねを支えていい資格はない。
それに今の二人はあんなに楽しそうに演技をしている。
アクアの復讐なんて物が絡まなければ、あの二人はあんなにも輝いて楽しんでくれる。
——なら『星野アクア』については二人に関わらせるわけにはいかない。
——自分自身の『復讐』に対する『贖罪』が終わるまで、僕はそんな生温い考えを持ってはいけない。
だから今は静かに見守ろう。今の俺は『傍観者』なのだから。
この舞台に対して二人がどんな演技を魅せてくれるか、ただ受け止めて感じ取るのが『観客』としてここにいる役割なんだから。
このまま舞台は大成功を収めて、何の滞りも問題もなく終えるだろう。
人々に2.5次元の良さを伝えて、充実と満足の顔して去っていくだろう。
だけど気のせいだろうか——。
少しずつ。ほんの少しずつ——。
この舞台そのものを覆うような『影』が侵食している気がするのは——。
【舞台裏コメント】④
「姫川さんも黒川も有馬やっぱすげぇな……。すげぇんだけど……」
「うぉぉおお!! アレだよアレ! アレが有馬かななんだよっ!」
「うおっ。ファンを超えて信者だ。メルトそういう一面あったのか」
「なんだよ。いいだろう、タレントが別のタレントを推すくらい」
「まあな。……それはそれとして、どこか黒川の様子が変じゃないか?」
「変か? いつも通りの黒川だろ?」
「……だよな」