【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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★第四話★ 当日

 ——とうとうこの日が来た。

 

 東京ドームでのライブ当日。同時にそれは『アイの命日』を意味してもいる。

 

「あの……本当にこの子も貴方達と一緒に神様の……?」

 

「ええ。我はルビーに宿るアマテラスの親である『伊邪那美命』。天命に選ばれし史上の輝きである星野アイを黄泉に誘うにはまだ早い……。アイを守れた暁には、必ずやイケメンタレントと縁を結べるようにしましょう……」

 

「なんて神々しさ……っ! 本当の神様だ……っ!」

 

「ねぇアクア君。ミヤコさん、詐欺に合うタイプじゃないよね?」

 

 そこはあかねの演技力がすごいってことで納得しておこう。

 てか、お前は今世は男なんだから旦那の『イザナギ』でいけよ。なんで奥さんの『イザナミ』で設定作るんだよ。

 

「早熟ベイビーが三人……どうなってんだよ、っと」

 

 まだ日が昇らない時間帯。アイが割と綺麗な寝息と裏腹に汚い寝相を見せて熟睡する中、俺とルビーとあかね。そしてミヤコさんと監督はリビングに集って入念な準備を始めていた。

 

「うし、防犯カメラの不備はねぇな。SDカードも容量バッチリ、高画質で高音質で24時間記録できる。しかし改めてインテリアとしても馴染むよう小型化とデザイン性がすげぇな……時代だなぁ」

 

「おかげで盗撮被害の巧妙さも上がってるはいるんですけどね。写真を撮るだけならボールペンぐらいの大きさでも可能になってしまって……」

 

「だからこそ個人企画による撮影のハードルも年々下がってるんだ。YouTubeとかそうだろ。技術自体は悪く使わなきゃいいもんなんだよ」

 

 良いことは言ってるんだけど、こどおじだと考えると重み感じなくなるよな。

 

「てか本当に誰か一人くらい一緒にアイと一緒にいることはできない? それが一番確実で安全なのに……」

 

 ルビーのご指摘はごもっとだ。だが大人には大人の事情があるので面倒がこんがらがる。

 

「苺プロは未だ人手不足だからどうしてもね……。ドーム作業も平行するとなると私も社長もここにいることは不可能。基本はあかねさんと五反田さんにお任せしますが、何かあったら助太刀にはいけるようにしますが……」

 

「俺だってアイとは顔見知りなだけだし、入り浸ることもできねぇしな。俺自身お前らの『ストーカー被害』ってのを信じきれてないんだぞ。お前ら二人が『役者として起用していい』っていうクソうめぇ交換条件があるから協力してるだけで……」

 

 そういうわけで、大人達の痒いところに漬け込んでいるのが現状だ。『転生』とか『時間遡行』みたいなことを話したら、変なところで常識的なこの二人の信頼をなくなってしまう。

 そうなっては幼児の俺たちでは何もできないんだから、これがベスト。しょうがない。

 

 だから上手く騙す——。

 嘘は言わず、かつ本当のことも言わないように立ち回るしかない。汚い大人の社交術というやつさ。

 

「じゃあ今一度作戦の確認。監督とあかねはストーカーの追跡。そしてストーカーと『真犯人』の接触を確認でき次第、写真とか映像とかなんでも良いから証拠を押さえる。そしてできれば『真犯人』を追えるようにしてくれ。もし警察とかに職務質問されたら親戚ってことでゴリ押せ」

 

「りょーかい。あかねもそれでいいか」

 

「……はい! お願いしますね、おじちゃん!」

 

「天才子役の才能あるな、お前」

 

「ミヤコさんはマネージャー業務をこなし、何かトラブったらこっちから連絡をするから、そん時になったら臨機応変に対応を」

 

「すぐ反応できるように着信音変えとかないといけないわね」

 

「そして俺とルビーはアイと一緒にいる。アイは『ドーム当日』なのに『どういう理由』か、前日入りせずに家にいるみたいだからな」

 

「アイ本人のご希望よ。「割と近いから歩いて行くよー♪」とか呑気に言ってたわ」

 

 危なっかしいなアイは。まあドーム当日でも、いつも通りでいられる精神的なタフさは見習った方がいいんだろうけど。

 

 ……そもそもの話、アイのセキュリティ意識があればこうはならなかったんだよな。前の時も『なぜか家にいた』からこそ、あの悲劇に繋がってしまったわけだし。

 

「……まさか、元々『誰かと会う予定』だったのか?」

 

 こうして俯瞰して事情を見ることで見えてきたものがあった。

 もしかしてアイが、あそこで警戒もなくドアを開けた理由って——。元々は『カミキヒカルと会う約束』をしていて、そこを突かれて『ストーカーに刺された』のか——?

 

「だとしたら……本当にアイは子供思いだな」

 

 きっとカミキヒカルを呼んだ理由は、母親として子供に『父親に合わせたかった』だけだろう。

 普通に考えれば母子家庭で育った子供なんて、父親としての温もりを飢えているのだから。そんな事情を考慮して呼んだに違いない。

 

 ただ母親として子供と向き合おうとしたアイ。それをアイツは裏切った。

 

 

 

「——ふざけんじゃねぇぞ、腐れ外道が」

 

 

 

 そんな些細な思いを踏み躙りやがって——。

 今ここで、絶対に、お前を捉えて見せる——。

 

 アイを救う方法はそれしかない——。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「楽しみだね、アイちゃんのライブ!」

 

 アクア君の作戦が決行される。

 早朝一番、アイさんのライブ公演を楽しみにしてるファンの子供と、それに付き添う親戚という設定で、監督と一緒にファストフード店で軽食をしながら張り込みをする。三つのルートから逆算して予測するのが難しいのなら、最初から『尾行』すればいい。そのために私は——いや『私のアイ』がここに呼ばれた。

 

 記憶にあるストーカーの顔を焼き直し、私の中にある『再現したアイ』の感情を表に出す。アイさんは自分では人の顔や名前を覚えられないとか言っているが、少なくとも『ファンの顔を忘れる』なんて愛のない行動は嘘でもできない。

 これを意識すれば、例え人の流れが早くて多い都心でもストーカーを捉えることもできなくないはず。少なくとも私はできなくても、アイさんならできる。そう思い込むんだ。

 

「たくっ……なんで俺がこんなことを。早熟ガールのことを信じすぎだろ」

 

 なんてブツクサ言っているけど、私は知っている。この人がアクア君のことをどれだけ大事に役者として育て上げようとしてたかを。その優しさを。

 

 だってアクア君が子役として出てた頃の出演作を『全部保存してる』なんて酔狂なんてものじゃない。テレビ番組だけじゃなく小さな舞台も。しかも自費で購入してるんだから、彼を役者として育てるためにどれだけ本気だったか。

 

 まったく。アクア君は本当に人の人生を変えるのが得意なんだから——。

 

 ルビーちゃんに生きがいを与えて、かなちゃんに業界での立ち回りを意識させ、監督の推しを作り出して、私の命を救ってくれて——。

 

 

 

 今度はアイさんの運命さえも変えようとしてる——。

 

 

 

「——来たよ、おじちゃん。あれがターゲット」

 

 

 

 だったら、私も元彼女として付き合ってあげないと。

 アクア君としての望み。アクア君が願った叶うはずのない夢。それが今すぐに側にある。

 

 これが終わったらアクア君は今度こそ復讐の根元から忘れることができて、新しい人生を始めることができる。

 

 それが例え『マリン』として生きることになって、私との関係がリセットされるとしても——。

 

 

 

「おっ、あの男か。……目つきからしてヤベーな、アレ」

 

 監督さんもアクア君の演技基礎を叩き込んだ人なだけあって一目見ただけで、私が抱いたストーカーの『異質さ』に気づいてくれた。

 

「アイツ『洗脳』されてやがるな——。外付けの演技に矯正されてるというべきか、親に言われて業界に残り続ける子役みたいな余裕のなさがある」

 

『嘘を本当だと思い込まされてる目』——。それが今の彼の状態だ。

 

 そしてそれを形容するのに一番近い状態を私は知っている。

 それは『今日あま』でのアクア君の演技——。あれの演技をもっと芯に深掘りしたものだ。

 

 カメラ映えするような狂気を宿しながらも小綺麗な状態じゃない。

 頬は痩せこけていて、視線は今ある風景を捉えていない。自分がすべきことを見渡した『先』しか見ていない。何よりも瞳に『光』がない。

 

 一目見ただけで不気味と分かる。だけど現代社会は冷たくて、そういう人物が近くにいたら見て見ぬフリをする。だって理由がないんだから。見過ごしちゃいけない理由が。

 

 それは正しいことだ。無理をして二次被害を起こす可能性だってある。我が身を守るなら百点中の百点。誰だって自分に不幸が被さるのはごめん被る。

 

 

 

 ——だからこそ、アイを殺したのはカミキヒカルだけの問題じゃないと感じる自分がいる。

 

 ——アイを殺したのは『人の本質』を見て見ぬフリをする環境にもあるのではないかと。

 

 

 

「このまま右の路地裏に行って。多分あそこで真犯人と合流する」

 

 人混みの中でもストーカーを見失わないようにするのと、子供の歩幅を解消するために監督に肩車をしてもらいながら後を追う。

 

 するとそこには星野アクア——いや、19歳時の『カミキヒカル』と、ストーカーが邂逅してる決定的な瞬間に立ち会えた。

 

 ここまで瓜二つだなんて。やっぱり父と息子なだけある。ちょっと気後れしちゃうくらいには似過ぎてる。

 

 だけどそれがどうした。気後れしただけなら、二歩前に精神を踏み込むだけ。

 心の打たれ強さと向き合い方には『今ガチ』で死ぬ思いをして分かったんだから。この程度で動じるわけにいかない。

 

 ——カメラ回してください。

 ——分かってる。低予算中心の弱小監督を舐めんなよ。

 

 単一指向性マイクを繋げたスマホを掲げて撮影を始める。

 顔と服装。そして全体を写して交渉してる場面であることと、身長が分かることも記録しておく。もちろん電柱に書かれてる住所も写しておき、記録できるだけ記録していく。

 

 ——そして凶器の受け渡し。

 ——カミキヒカルからストーカーに、ナイフと花束が手渡されるところをカメラは捉えた。

 

「こんだけ撮れれば証拠としては十分だろう。こいつをクラウド経由で早熟ベイビーズに渡しておいて……」

 

「次は追跡と確保だね」

 

 静かに歓喜しながらも、まだまだやることは続く。

 深く鋭く呼吸を整え、緊張のスイッチを再起動させる。

 

 ここから先は瞬き禁止。リアルという名のカメラを止めてはならない。相手の一挙一動すべてに集中して隙を見出す。

 

 相手は刃物を一つは持っている。だけど持っているのはストーカー側であり、彼は何のスキルも持っていないただの大学生だ。不意打ちさえできれば、子供でもない限りどうとでもなるはずだ。

 

 

 間合いを詰めようとする。気づかれず、ゆっくり、慎重に——。けどそれが仇になった。

 

 

 

 ——「ピチャ」と先日の雨でできた水溜まりに、水滴が一つ落ちてきてしまった。

 

 

 

 不幸。慎重故に起きてしまった不運。

 空気が一転して息苦しくなるのが分かる。僅かな雨音でストーカーもカミキヒカルも周囲に視線を向け——そして目が合ってしまった。

 

 

 

 ——まずい。気づかれた。

 

 

 

 両者は二人とも散り散りに離れていく。

 ストーカーは路地裏の奥へ。そしてカミキヒカルは私たちの方向に向かってくる——。まるで時間でも稼ぐかのように。

 

 催涙スプレーを取り出す暇がない。今の私の手にあるのは、いつでも連絡が取れるように握り込まれたスマホと、それに備え付けられた防犯ブザーだけ。

 

 だったら——どうする? 

 いや、こうするしかない。

 

「きゃっ!」

 

「大丈夫か、あかね!?」

 

 小さな体では逃走するカミキヒカルを止めることができず、弾き飛ばされてしまった。

 受け身自体は取れたが背中を強打する。骨は折れてないけど、ヒビぐらいは入ったかもしれない。

 でも、これぐらいの痛さなら全然大丈夫。むしろこれぐらいの勢いがあるということはカミキヒカルは『焦っている』ということだ。

 

 焦りは『冷静さ』を失わせて『判断』を鈍らせる——。

 だったらきっと——今ならカミキヒカルを追い詰めることができる。

 

「私のことはいいから……早くストーカーの方を追って!」

 

「ストーカーの方をか!?」

 

「うん。真犯人のほうは『既に手を打った』から——」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「……クソ、繋がらない。いったいどうなってんだ」

 

 監督のスマホ経由でカミキヒカル達の共犯現場を捉えることはできた。となると次は身柄を拘束することが仕事だ。

 既にリョウスケ君は凶器を持ってる。そしてそれを手渡したカミキヒカルも映像で収めている。どうにかして二人を抑えることができれば、この後に続く怨嗟の全部を収めることができる。

 

 けれどもそこから動きがない。定期連絡がこないのだ。

 監督にもあかねにも防犯グッズは渡してある。とはいっても『催涙スプレー』だけであるのだが。

 

 よく合法で持ち運べる護身用グッズに『スタンガン』『警棒』『催涙スプレー』が挙げられるが、実際に有効的に使えるのは催涙スプレーぐらいなものだ。

 

 警棒は警備会社の人が持つ時もあるが、単純にあれは使い方を知らないと使いにくいのにリーチも短く、付け焼き刃だとマジで意味がない。アレが実は足や脛を叩くのが基本というのを知ってる人は一体何人いるのか。

 

 スタンガンに至っては創作でよく『電気ショックで気絶させる』という描写として使われているが、残念ながら一般販売されてるスタンガンには『気絶させるほどの電力などない』のである。

 そもそもスタンガンの使用目的は発光と音による『威嚇行為と牽制』だ。ぶっちゃけた話をすると気絶するほどの電力は『違法』になるのだから、平和な日本で入手するのは土台無理な話である。

 

 故に催涙スプレーしかない。こいつなら噴射するだけで相手の視界を潰して行動を制限することが可能と、労力と効果がすごい合っている。

 代わりに有効距離が2m前後と多少不安ではあるが、ないよりかはマシだからいいだろう。

 

 だというのに、あかねからの連絡がない。そんな最低限の防犯グッズは用意させておいたのに。

 何かしらのトラブルが起きたのか? 無理はするなと指示はしているが……まさか真っ向から挑んだりしてないよな?

 

 

 

 ——だとしたら、俺は間違えてしまったのか。

 ——この選択を。黒川あかねを関わらせてしまったことを。

 

 

 

 と不安に駆られた時に、あかねから預かったスマホに着信が入った。

 

 表示される電話番号は俺が知らない番号だ。だけどこの番号の並びは『公衆電話』のものだ——。

 いったいどうして公共の電話を利用する必要があるのか多少疑問に思いながらも、俺はその着信に応えた。

 

「はい! アクアです!」

 

『アクア君! 私、黒川あかね!』

 

「突然連絡がつかなくなって、公衆電話から掛けてくるってどういうことだよっ!」

 

『GPSの件覚えてるでしょ! アレって『相互監視』ができる物だから、アプリ入れて対象となるスマホの電話番号とか諸々入力すればアクア君からでも私のスマホの位置をリアルタイムで追えるの!』

 

「それが今どんな関係があるんだよっ!」

 

『カミキヒカルに接触した拍子に『相手のポケットの中に私のスマホを入れた』ってこと! 相手はまだ突然の事態に理解が遅れていて気づいてない! 今だったら先手を打つこともできる!』

 

「ナイスっ!! それすっごいナイスっ!!」

 

『若干キャラがブレてない!?』

 

 細かいことを気にしていられるほど余裕がないんだよっ!

 

『とりあえず私のスマホ情報を可能な限り教えるね!』

 

「終わったら後で全部変更しとけよっ!!」

 

 あかねに言われるがまま、伝えられた情報をメモ帳に書き殴っていく。

 多分俺にしか読めないほどに筆記体が崩れているが、元々メモなんてものは当人さえ分かればいいものだ。いちいち気にする必要もない。

 

 そのままアプリをダウンロードし、流れ作業でGPSの位置共有を画面に映した。

 

 

 

 ——ビンゴ。移動中だ。しかもこの早さは、公共交通機関とか自動車を利用していない。これなら追いつける。

 

 

 

「ミヤコさんっ! 真犯人の位置が分かったから、今から向かうことはできるか!?」

 

『何がどうしてそうなってるか分からないけど、とりあえず向かうから場所教えてちょうだい!』

 

「場所はアイの住居から北北東に約1.5キロメートル! 目印はミヤコさんが通ってたホストクラブと、その近くにあるパチンコ店とファ○リーマート!!」

 

『なんで私がそこのホストクラブ通ってたの知ってんだ、このマセガキっ!?』

 

 昔というか、前の世界で里親になった後の世話話感覚で「私も若かった頃はここで遊んでたな〜〜」とかで覚えてたんだよ。

 

『でもわかりやすくて助か……』

 

 電話越しから車のエンジン音が響いてくる。今か今かと走りそうだと期待を漏らすように。

 だがそれとは裏腹にミヤコさんの声は焦りを募らせており、震えた声で『まずった』と溢した。

 

『交通規制が裏目に出た! 自動車だと無駄に迂回するハメになって追うことができない!』

 

「こんなところでドーム公演の交通規制かよっ!?」

 

 ふざけんなよっ! こんなところで運命はカミキヒカルに味方するっていうのか!?

 

「じゃあどうすんの!? あかねさんヘルプ!」

 

『待って! 考えが纏まらないし、硬貨がもうなくて連絡ができそうにないっ!』

 

「それくらい持ってろよ!」

 

『今時全部キャッシュレスだよ! 子供なら移動費用の交通系マネーしか持ってないんだから尚更! 公衆電話はこういう時——』

 

「……電話が切れた」

 

 もっとキャッシュレス対応の公衆電話を普及させとけよ、総務省! 肝心な時に電話が切れただろっ!

 

 そりゃこの時代だと、まだ都内のキャッシュレス対応公衆電話の普及は全然だし、俺たちが高校生になる時代でも都内での普及が少ないのは分かってはいるが……!

 

「監督! そっちはどんな状況っ!?」

 

『あ、あかねに言われてストーカーを追ってるがよ……っ! アラサーに長距離全力疾走は、応えっる……っ!』

 

「人の命がかかってるんだ! 頑張ってくれ!!」

 

 クソ、クソクソ!! なんでこんな状況になっても何もできないんだよっ!! 

 

 恨むぞ——。こんな身体に『転生』した自分を。

 憎むぞ——。こんな時間に『遡行』した自分を。

 

 戻すなら——俺が『雨宮吾郎』だった時にまで戻せよ。

 

 それだったら俺が、僕が——。

 アイを『出産日の夜』に命懸けで守り抜くのに。

 

 

 

 

 

 ——「ピンポーン」

 

 

 

 

 

「———ッッ!?」

 

 

 

 ——迫ってくる。確実に、死の足音が。

 ——這い寄ってくる。着実に、血の惨劇が。

 

 

 

「社長達かな」

 

「いくな、アイッ!!!」

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