【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜 作:かにみそスープ
★第四十一話★ The Special Festival
今回のお話は『祭典』の話。
芸能界にいる卵達が雛鳥になるための一歩目。少年少女のお祭り騒ぎの乱痴気騒ぎ。
彼らの成長は留まりを知らない。
彼女らの変化に隔たりを知らない。
ここでは正気は不要。
ここでは理性は無用。
ここでは常識は無駄。
必要なのは打算のみ。
芸能界を生き残るため、年末年始をエンターテインメントの渦中に落とし込む頭脳と計略が巡り踊る。
少し未来を貴方達は垣間見る。喧噪の中にある幻想を。
少年少女たちが輝く様を、君たちは夢に見る。
「はい、最近あかねと別れました。有馬かなです」
「かなちゃん! ヘルプミー!!」
「頑張れっ! 憧れは止められないよっ!!」
「星野マリン、『STAR☆T☆RAIN』歌いますっ!」
さあ、星の子達よ。よく狙いなさい――。
瞬きを許さない、あなた達ならば――。
…………
……
「みんな~~、ミーティングの時間よ~~」
午前八時。苺プロが所有するミーティングルームの一室で顔見知りが集結することになった。
まずは進行役のミヤコさん。続いて俺とルビー、そして母親のアイ。さらには『元・B小町』で俺達のマネージャー業を行ってくれている高峯さん、ニノさん、渡辺さんと合計7人だ。
「おー。今日は揃い踏み……と思ったら、先輩とあかねさんがいないか」
「有馬は事務所が別で、あかねはドラマ撮影中だ。二人とも同年代と比べたら売れっ子なんだし仕方ないだろ」
というか、なんで今世は有馬は別の事務所に所属してるんだ? 苺プロに入る前まではフリーで活動していたから、所属する事務所そのものに拘りとかは特にないだろうに。
やはり有馬にとってアイドル稼業というのは合わなかったのだろうか。今の苺プロは前の世界と違って中堅の立ち位置を持つ芸能プロダクションの一つだし、アイドル稼業も順調だ。アイの卒業後の『B小町』だってなんやかんやで第3世代と呼ばれるくらいには代替わりは続いているぐらいだし。役者第一志望の有馬とは方針がかなり変わってしまっている。
だとしたら前の世界で無理に頼み込んで引き受けさせてしまったことも改めて申し訳なさが出てくる。やはり有馬が一番輝いているのは『私を見ろ』と自分のアイデンティティを押し出す時の顔と自信なんだから、性に合わないことを続けさせたことについては今度謝っておこう。
……だけど今の有馬は、あかねを救うために見せた『東京ブレイド』の舞台以外では『私を見ろ』という演技をしなくなった。理由なんてこちらでは把握できるわけがない。
まあ、あいつも色々とあるんだろう。あかねからも舞台後に一報があったくらいだ。
…………
……
『アクアくん、アクアくん。ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど』
『なんだ? 今更耳打ちで話すほどの隠し事なんて俺たちにはないだろ』
『……『前の世界』のこと、多分かなちゃんは全部知ってる。復讐を終えた後の最初から最後まで、きっと』
『……あかねもそう思うか。俺も聞いてみようと思ったけど、いざ切り出そうとすると難しくてな……』
『私も問い詰めようとしたんだけどね……。のらりくらりとはぐらかされて、全然聞けないんだよ。何か良い案ない? 今の私は男なんだし、かなちゃんを改めて口説き落とそうと思うんだけど』
『あかねがハニトラを仕掛けようとすることに驚きを隠せないんだけど』
『私だって知識ないからどうすればいいか分かんないんだよ? でも、こういう女性の心を擽るのアクアくん得意なほうでしょ? だからアドバイスちょうだい』
『俺のことプレイボーイだと思ってないか?』
『結構思ってる。遊び慣れしてる女好きのタラシって思うぐらいには』
『あかねからもそう思われるほどか、俺……っ!?』
『だって前の世界でデートしてた時、今思えばエスコート慣れしてる大人の対応だったと思うもん!! 雨宮時代に結構誑かしてたでしょ!?』
『そんなこと……………………ねぇよ?』
『思ってる感じじゃん!!』
……
…………
思い返すと久しぶりにあかねと自然体に話せた気がするな。それだけ色々と無意識に切羽詰まってたってことの裏返しだ。宮崎の一件や、東ブレのことで自分の『贖罪』への道が明確に見えるくらいに。
おかげで重苦しく仕方なかった肩の荷が多少降りて爽快だ。道がしっかりと決まっている以上は、あとは遠回りしてでも目標に向かえばいいだけなんだから。
とはいっても、そのためには五反田監督が言っていた『三点』を満たすために頑張らないといけない。
一つは『界隈で影響力の大きい人脈』——。
一つは『数億という資金』——。
一つは『これら二つ繋ぐ社会的信頼』——。
この三つが解消されるまでは有馬のことは、そこまで注視する必要も余裕もないだろう。
有馬のことだから、ルビーやあかねと違って適度にガス抜きをしてるだろうし。あの二人以上に深刻なことに合うことはまずないだろう。あかねからも「かなちゃん自身が抱えてることは私たちより大丈夫だと思うよ」とお墨付きをもらうほどだ。
だから有馬に関わるときは本人から話そうと思った時まで待っているしかない。アイツに問い質そうとしたところで、いつもの口の悪さで躱されるのは目に見えてるし。
「たかみー。今度一緒に飲みに行かない? マリンのこととか聞きたいし」
「うるさい。こっちはマリンのマネジメントでアンタと相手してる余裕なんてないの」
「連れないなぁ~~。昔はもっと遊んでたでしょ?」
「平然と嘘を口にしないで? アイとプライベートで関わったのほぼ皆無。強いて言うならB小町時代に撮影用の服を見繕うために同伴した2回と、マネージャー時代は小学校低学年のマリンとルビーを授業参観に同伴したのと、ハロウィン、クリスマス、バースデーパーティに計7回の合わせて9回呼ばれたくらいなもんよ」
「しっかり覚えてるね……」
「一々揚げ足とるな! とにかく私は忙しいの!!」
「えぇ~~? じゃあ一緒に飲みに行かないの~~?」
「……そこまでは言ってない。行けたら行くってだけよ」
「楽しみにしてるねー」
相変わらず『元・B小町』との関係は何とも言えないが、アイも心境を打ち明けやすいくらいには関係を育んでいるようで何よりだ。至って日常的な不穏であり、一周回って平和といってもいいだろう。
ならば今は目先の目標に尽力しよう。有馬だってルビーとあかねを心配していて、それを解消した以上はそうしてほしいだろうし。
というわけで俺はいつも以上に苺プロの打ち合わせに真剣に取り組む。少し意識を外してる間にホワイトボードには内容が続々と記載されていて、俺は目を細めて上から順繰りに内容を追っていく。
主題は『年末年始の特番』に対する出演者の時間合わせだ。
その中には当然『紅白歌合戦』から『絶対に笑ってはいけないシリーズ』と恒例行事がリストアップされている。もちろんリストアップされているだけで、オファーが来ているわけではないが、別に放送するのはそれだけじゃない。恒例行事の放送の裏には別のテレビ局で企画は動いている。
要はそれらがいる中でどれほど事務所のタレントをアピールできるか、相対的に取れる視聴率がそのまま世間に対する認知度になる。だから裏番組に出演しようにも効率が求められる。
ゆえに数を無闇に増やすのは意味がない。そのリスクマネジメントをするためにリストアップされているというわけだ。
アイ本人ならまだしも、俺みたいなのはそんな番組に出演できるほどの認知度もなければプレミア感もない。
だから隙間産業で頑張るしかないわけだ。例えばクリスマス前に放送される『歌謡祭』とかで地道に頑張るぐらいしか……。
「……よく見たら俺の名前が『歌謡祭』に載ってる!?」
「そうよ~~。今年で『B小町』の結成から何年経ってると思ってる?」
「ざっと20年です、ミヤえもん!」
「はい、その通りよルビー。そこで紅白はダメでも、こっちの『昔懐かしの歌謡祭』でアイがオファーきちゃって。折角だから親子共々で歌いましょうって」
「もちろん私も歌うよ! お姉ちゃんも一緒に歌おうね」
俺も歌えと? あの聞く分にはいいけど、歌うと割と電波な感じも若干あるせいで羞恥心が込み上げそうな歌詞を口にしろと?
脳内でB小町の代表的な曲を思い出す。今でもヒット曲自体はあって流動自体はしているが、アイが出演してかつ『昔懐かし』というフレーズになるとアイが所属していた頃のものだろう。
となると出てくるのは『STAR☆T☆RAIN』『サインはB』『HEART`s♡KISS』の三つか。後はアイの激烈な引退を飾った『アイドル』もそうか。
いや、全部キツイぞ。特に『サインはB』は合いの手で「ウリャオイ、ウリャオイ」とか言うし、こんなのは序の口だと言わんばかりに「ア・ナ・タのアイドル サインはB チュッ!」とかも言わないいけないのか。
しかも『アイドル』なら「流れる汗も綺麗なアクア」とか「ルビーを隠したこの瞼」とかモロに俺らを指したバカ親全開の歌詞も改めて口にするのか。色々全般的にキツイぞ、冗談抜きで。
てか、あの曲はもう10年以上前のレトロソング扱いか。ヤバいな、何度かアレンジバージョンで耳にされるとはいえ、もうそんな前の曲か。監督を指してるわけじゃないが、時代ってやつか。
「アイはいいのか? 三十路であの歌詞はキツイと思わないのか?」
「思わないよ? 逆に今更何がキツイの?」
色んな意味でマンマミーア。星は星でも、赤い帽子とヒゲ野郎の
「ルビーはいいのか? 男があんな浮付いた歌詞を歌うの」
「モチのロン! 今はギャップ萌えとかあるし! 憧れは止められないっ!!」
ああ、さりなちゃんの時もそんな風に目を輝かせてたなぁ。
思い出したら断りにくくなるから、今だけは思い出の中でジッとしていてほしかった。
「高峯さんとかはいいのか? 親子共演もそれはそれで盛り上がるが、初代B小町が揃って歌うのも盛り上がらないか?」
「いやぁ、今の私はマネージャー専門だからね。脂肪とかほうれい線とかキツイ。それにこういう企画はレトロ世代に刺さるだけで、今の人から見れば三十代の女性達がアレを口にして踊るとか……結構放送事故だよ? アイだけは映えるだろうけど」
確かに。俺自身が割とレトロ人間だから一夜限りの復活とかは好きではあるが、若者からすれば割と地獄絵図なのかもしれない。
「……分かったよ。歌謡祭には出るよ。出ればいいんだろう」
「やったー! さすがお姉ちゃん! ドライだけど優しい!!」
「じゃあ、早速手配をしましょう。さて次の出演なんだけど……」
「まだあるのか!? 生放送続きだと体力続かないだろ!?」
「年末年始全部が全部生放送なわけないでしょう。もちろん取り溜めの収録もあるわよ」
そりゃそうか。全部生放送だったらタレントもスタッフも体力が持たないよな。
「一つはトーク番組ね。今売れだし中のタレントを大集合させて座談会というか、芸能界について語り合うみたいな」
「あー、あの『明石家さ○ま』さんがやってる『御殿』が付く番組みたいな感じの?」
「大体そんな感じ。とはいってもそこまで有名どころな物でもないけど。もう一つは深夜特番。しょうもない企画とか色々やるんだけど、俗にいう『ヨゴレ仕事』ってやつね。アンタたち全員揃ってお堅いイメージが……いや、マリンだけは別かしら?」
「誰が『真面目系ポンコツブラマザコンの以下略』だ」
「そこまでは言ってないわよ」
まあ、でも『ヨゴレ仕事』ができるとなると色々な企画にオファーは来やすくなるからいいと思うけどな。自分のキャラクター性をアピールできて、次の仕事へと繋げる足がかりになりやすいし。
今の俺にとっては人との繋がりは結構大事なものだ。前の世界であかねに『人とのコミュニケーションが大事って言う割に、自分自身は凄く閉じてるよね』と小言言われるくらいにはコミュ力がないから、こういうところで頑張らないと人脈を広げようにも広げられない。
「あとは苺プロのファン向けで動画投稿する『雑談企画』ね。現存している『B小町』とは別にクリスマス向けの動画を収録するわ。まだ企画段階で内容は決まってないけど」
「結構あるなっ!?」
「これでも分担してるほうよ。アイなんか何本出ると思ってるの?」
「……6~7本?」
「その倍」
御見それしました。てかスケジュール調整大丈夫か。それだけ人気と考えるべきか。もしくはミヤコさんが手堅くも足元見られやすいスケジュール管理の弊害なのか。
「……こういうゴタゴタはアイツのほうが向いてるってのに」
どうやら後者みたいだ。本当なら壱護さんにミヤコさんも頼りたいし、俺だって前みたいにそうしたほうがいいと思っている。
だけど今世では壱護さんは、アイの妊娠騒動の責任を追うために自主的に退社を選んでしまっている。裏方さえも許されないから、事務所の経営戦略としてのアドバイザーさえできない。だからこうしてミヤコさん主導の活動になっていて、そのツケが回っているわけなのだが。
「私は別に大丈夫だよ。12歳から今まで芸能界に閉じこもってる仕事人間だし」
「その気遣いに感謝するわ。でも一番力を入れたいのはやっぱり……」
ミヤコさんは改めてホワイトボードへ視線を向ける。
視線の先には赤い線で二重丸が囲まれた番組名。その番組の名称は、みんなが知っているあの番組だ。
「『28時間テレビ』か。色々とチャリティー企画をやったり、フルマラソンやったりとか。俺たちで何をするんだ?」
「星野家全員参加ではあるけど、企画自体は個人ごとに別々よ。マリンは慈善活動」
「ゴミ拾いとかのあれか」
「そう。今回は海岸沿いのゴミ拾い。軍手とか装備はしっかりね。破傷風とか怖いんだから」
名前で抜粋されたなこれ。愛が世界を救うじゃなくて、愛が海を救うみたいな。喧しいわ。
「アイはマラソン企画ね」
「体力勝負だねぇ。100kmとか走らないといけないんでしょ? 車オッケー?」
「ダメに決まってるでしょ。SNSの普及で楽はできないから現実的な範囲内でテレビ局と企画合わせしてよね。よく『ヤラセ』って扱われて炎上する代表的な物でもあるんだから」
「炎上は慣れてるから安心して」
炎上慣れは人間的なメンツとして大丈夫なのか。
「ルビーはダンス企画ね。あまり口にしたくないけど……『障害者』に向けた」
ミヤコさんは申し訳なさそうに企画書に目を通し、ルビーと視線を合わせる。「どうする?」と母としての感情交じりの優しさを込めながら。
「あくまで打ち合わせの段階だから断っても大丈夫よ。結構センシティブな物ではあるから。別の企画に移す手筈は整ってるし……」
だがルビーにとっては……いや『さりなちゃん』にとっては他人事ではない。
病院で寝たきりや、家族やヘルパーの助力がないとまともに生活を送ることが難しい人種。それが『障害者』だ。
それはさりなちゃんにとっては身近だった生き方でもある。むしろ今でも障害を抱えて生きる人たちは、ルビーからすれば自分を重ねてしまうのが当然だ。転生のおかげで健康的な身体となっているが、現実はそんな絵空事が起きることはまずない。経緯や結果はどうあれ、今のルビーは当然それと比べたら『恵まれている』と嫌でも自覚して比較してしまうだろう。
「……大丈夫、やるよ」
だけどルビーはそれを受け入れた。瞳の奥に迷いも躊躇いも恐れもない。むしろ『覚悟』が秘めているといっても過言じゃないほどに力強く、頼もしい雰囲気さえ感じるほどだ。
だったら姉としても、医者としても言うことはない。ルビーの選択を尊重しよう。
ミヤコさんもそれを理解したようで信頼を込めた「お願いね」という短い一言で打ち合わせを切り上げると、ここにいる全員に視線を一度合わせて高らかに告げた。
「じゃあ、皆さん。年末年始の収録張り切っていくわよ!」
「「「「「「「おー!!」」」」」」
さあ、お祭り騒ぎのドンチャン騒ぎの始まりだっ!
「……ところで一応『苺プロ』所属のあかねちゃんの名前が生放送企画に一切出ないのはなんで? 共演NGでも受けたの?」
「あいつは年末年始は海外旅行だよ。知らなかったのか、アイ」
「良いとこ育ちなんだね、あかねちゃん……」