【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

43 / 56
 先日発売された推しの子の小説『一番星のスピカ』と、かぐや姫の小説『天才達の恋愛人狼戦』を読み込んでSSに組み込んで活かせないか模索するため、次回の投稿は再来週の『12/4』になります。


★第四十三話★ 若手芸能人は遊びたい

 各々自分に割り振られたお題を目にしていく。

 

 

 

 マリンのお題:『有馬かな』——。

 

 

 

 ……おいおいおい。何だこのお題。これは多数派(村人)でも少数派(人狼)でも荒れる話題だぞ。

 だけど、おかげで対になりそうな話題も『人名』だってのも分かった。メタ的な読み方をすれば『黒川あかね』と考えたいところだが……このゲームは少数派(人狼)が、多数派のお題を当てたら逆転勝ちができるルールが採用されている。そんな見え透いた対比ではゲームとして成立していない。あとテレビとしても映えない。

 

 

 

「それでは皆さん、この中に1人だけ少数派がいます。それを探し出せば多数派の勝利です。スタート!」

 

 

 

 だとすれば先入観ありきではあるが、あかね以外と考えて立ち回るのが賢明そうだ。

 進行役の冬夏さんを合図に空気は緊張感が漂い始める。自分が村人なのか人狼なのか誰もが等しく判断がつかない状態。この中で一番手になるにはそれ相応の度量と大胆さが必要だ。下手をすれば多数派なのに、少数派だと思われても仕方ない状況でも走り抜けるための大胆さが。

 

 人はそれを時には覚悟という——。その言葉がこの場で一番似合うのはこいつしかいない。

 

 

 

「……可愛いよね」

 

 

 

 初手を飾ったのはあかねだった。それは自分のお題が『有馬かな』であり、その対比として分かりやすくあげられることが分かってるからこそ話の軸になるべきと判断してか、もしくはその逆だと読み切ってか。

 

 村人にしろ人狼にしろ、何にせよあかねから動くのが賢明で妥当だと理解した頃こそ、自分が話の主導権を握ることが自分の勝利に繋がる確信を持って動き出した。

 

 

 

「まあ、可愛いよな。世間一般的に見れば」

 

「そうか? 俺は可愛げがないと思うけどな」

 

「姫川さんは可愛くないというか。いきなりウルフが暴かれたな」

 

「おいおい。話題からして人名だろうこれ。人の見た目の良し悪しなんて個人差なんだから、それだけで俺を少数派にしようとするな」

 

 しかし、いきなり割れる意見。鴨志田と姫川の意見が対立していく。

 確かに有馬は可愛いか可愛くないかで言えば結構判断に困る。見た目だけならそんじゃそこらのアイドルより顔は良いが、いかんせん関係を深めるほど可愛くない内面も知っていくから、そういう意見が割れて出てくるのは分かりきっている。

 

 ……まあ何であれ、これで俺は多数派の可能性がほぼ確定だ。こっちも動き出して味方を作るとしよう。少数派1人しかいない以上、意見の合致が2人でもいればそれだけで容疑から外れやすくなる。もちろん手堅く行くなら3人や4人でもいいが、今はとにかく2人でペアを作って容疑から外れやすくならなければ場の本流に乗ることができないのだから。

 

「ルビー。お前はこのお題についてどう思う?」

 

「え? うん、可愛いと思うよ。素直じゃないところとか。捻くれた性格とか」

 

「おっ、踏み込んできたな。でも『素直じゃない』部分の意見は一致してるから。俺とルビーは仲間。つまり鴨志田がウルフってわけだ。勝負ついたな」

 

「おいおい! 身内ネタで囲うのはズルイだろ! 可愛いと可愛くないの意味でなら、俺とルビーが仲間で、姫川さんがウルフだろ!?」

 

 素直じゃないところ——。確かに有馬は素直じゃないな。

 そして可愛いか可愛くないかで二分される。これはきっと性格的な面のことも言っているんだろう。姫川は割と面食いだから、あれでも見た目だけなら有馬のことは可愛いというはず。

 

 ならば、問うべきは一つしかない——。

 

 

 

「姫川。見た目だけを見るならどう思う?」

 

「……まあ可愛いだろ。見た目だけなら」

 

「じゃあ、姫川さんが言ってる可愛いは『女性』を指してるってことでいい?」

 

「どうだろうな。それを明言したらヒントになりすぎる。だがこれでこの場で言ってる『可愛いの定義』が皆に知られた。もうこのお題で引っ掻き回しても帳尻合わせをしてくる。もう言葉の真偽性には意味がないってことだ」

 

 

 

 逆に言えば、ここまでの話には信憑性があると言っているようなものだ。

 だったらここまでの会話で積極的に参加した俺、ルビー、姫川、鴨志田は必然的に多数派である可能性が濃厚だ。もちろん話の先陣を切ったあかねも同様に。

 

 

 

「なら次はマリンがお題を出せ。見た目や性格以外で」

 

 

 

 とりあえず自分が多数派だってのは分かった以上は攻めに転じるのが得策だろう。

 問題は少数派のお題を暴きながら、どうにかして多数派の意見がバレないように立ち回るということだ。お題がバレたら逆転要素がある以上は、渡される情報は最低限かつ少数派には誤解を与えるくらいのほうがいい。

 

 しかし『有馬かな』で通じるサインでどうすればいいんだよ。しかもそれを少数派に悟られない程度にやるなんて。

 

 

 

「……初めて見た時の第一印象とか、かな?」

 

「あっ、それいいな」

 

 

 

 さりげに語尾に有馬の名前である「かな」を付けてみたが、これで察してくれた御の字というだけで特に期待はしない。周りの反応も気づいた感じは特にないし。

 

 

 

「第一印象か……小さいなぁ、とか?」

 

「私も同じ。まあ私自身が身長高いってのもあるけど」

 

「おっ。じゃあ俺とゆきは一緒ってことは多数派みたいだな」

 

 

 

 ノブとゆきの意見は一致している。そして小さいのは有馬の特徴に一つだ。それにゆきがわざわざ「私自身が身長高い」と言っている以上、有耶無耶な同意じゃなくて自分を物差しにしているから信頼度も高い。この二人も間違いなく白だろう。

 

 

 

「うーん、俺は色々と世話になったって感じ。俺の役者活動に影響を大きいし、後は稽古も……」

 

「メルトくん。結構ヒントになるからそれ以上はNGにしといたほうが……」

 

「あっ、そうか。少数派にバレるのダメなんだよな。ありがとう、MEMちょさん」

 

 

 

 メルトの役者活動に大きな影響。間違いなくこれは初めて共演をした『今日あま』のことを言っているんだろう。あの日、確かにメルトは有馬に対する思いを俺にぶつけていたんだから。

 

 となるとメルトも間違いなく多数派だ。残る候補は絞られてきて有馬、フリル、ケンゴ、MEMちょ残り四人。この中に少数派がいるのが濃厚ってわけだ。

 

 

 

「まだ何も喋ってないのは、そこの四人だな。有馬はどうなんだ?」

 

「あんま口にしたくないのよねぇ。私は売り言葉に買い言葉。変に情報に与えるかもしれないから」

 

 

 

 これはどっちだ。今までの会話で自分だと感じとってボロを出さないように口を塞いでいるのか、もしくはお題が自分自身だからこそ客観的なことが言えず、それで疑われる可能性があると判断しているのか。

 

「でも何も話さないのは容疑が濃いぞ。ブレイド役として、つるぎの意見を聞こうじゃないか」

 

「……そうねぇ。かなり捻った言い方していいかしら?」

 

 

 

 姫川の言葉にどう対応しようか頭を悩ませながら有馬は横目で俺のことを見てくる。

 なんだ、あの視線。仲間を求めるような求めてないような微妙な雰囲気。言葉を選んで伝わればいいと思考を巡らせるようにも感じるぞ。

 

 

 

「……NaHCO3が関係してる」

 

「こいつ急に意味わからないこと言い始めてたな」

 

 

 

 姫川の言うことはごもっともである。

 でもおかげで有馬も多数派だと分かった。お前のあだ名がそれだもんな。NaHCO3は『重曹』の化学式だもんな。

 

 確かにそれなら俺とあかねには間違いなく通じるだろう。俺は医者的な観点で重曹が癌に効く問題とかで調べたことがあって詳しく知ってるし、あかねは高偏差値高校を女優をやりながら卒業してる身分だ。今世では家庭的な一面の都合で「重曹は油汚れ落としにいいんですよ」とアイに教授してる場面も知ってくらいには関心があるから間違いなく伝わるだろう。

 

 まあルビーに伝わるか結構怪しいところはあるが……。

 アイツ地頭は良いけど、根本的に勉強が嫌いというかやる気を見出さないタイプだからな。習ってはいても覚えているかどうか。それはルビーのみぞ知る話。

 

 

 

「じゃあ私は刀鬼として鞘姫に聞こうかな。この人についてどう思う?」

 

「目の保養。眺めてるだけで視力二割り増しで良くなる」

 

「わかる〜〜! まず可愛いもんね!」

 

「可愛いは前提。妙なところで自信があるのも愛嬌というか……」

 

「それに変にプライドあって悪態とかつく時もあるけど、そこも受け入れると一周回って魅力的で……」

 

「おー。あかねくん、意外とコッテリオタクだ」

 

 

 

 この厄介ファン共、お題が有耶無耶だからってここぞという時に有馬への拗らせた思いを共有し合うな。

 

 

 

「メッさんはどうなの?」

 

「うーん。意外と鈍感なところあるなぁ、とは思うよ。今見る感じ」

 

「あー確かに」

 

 

 

 ……ん? なんかそれは有馬の特徴と違うような気がする。

 

 有馬は確かに捻くれものではあるが、決して人に関心がないわけじゃない。共感力が高いからこそ天才役者としてキャラの内面を客観的に理解して演技に乗せることができる。それが有馬かなという人物のはず。

 

 

 

「はい、ここで時間切れです! 投票に入ります!」

 

 

 

 ともかくこれで皆の意見を聞き終わり、同時に話し合いのタイムリミットとなる。人数が多いから一回りするだけでも随分と時間を使い込んでしまうからな。

 

 ここから先は冬夏さんの進行でシンキングタイムに移る。言葉を交わさずに自分の中で推理をして誰が少数派を当てる必要がある。

 

 ここまでで誰が当て嵌まるか候補を挙げるとしよう。有力なのは間違いなく姫川とルビーが口にしていた『見た目だけなら可愛くて、素直じゃない捻くれ者』か。

 

 見た目だけが可愛いという意味なら、あかねも十分にある。男の娘キャラで売ってるからな。だけど素直じゃない捻くれ者ではない。まともじゃない部分もあるが、基本的にあかねは素直で良いやつだからな。

 

 だったら誰だ。二人の口ぶりからして、二人に関わりが深いのは間違いない。少なくとも『今ガチ』メンバーではないのは確かということになる。姫川はゆき、ノブ、ケンゴ、MEMのことをよく知らないだろうからな。内面的な可愛さに言及するはずがない。

 

 ならば残るは有馬しかいない。有馬の反応とかもおかしかったしな。あんなに無駄に遠回しに言うということは、自分が少数派だと認識して少数派のお題が自分だと理解したからこそ、せめて重曹ネタが通じる俺とルビーとあかねを仲間に引き込んで、ここでの信頼関係を強固にして生き残る確率を増やそうとしたのだろう。12人中3人だけとはいえ、1/4を確保できたら票数がバラついて決選投票までもつれ込むことができるんだから。

 

 読み切ったぞ、有馬。残念だけどその手は食わない。

 本当に扱いやすくて分かりやすい女だ。そんなんだと搾取され続けるだけの毎日しかならないことを、改めて教えてやろうじゃないか。

 

 投票用紙に有馬の名前を走り書きをして腕を組んで待つ。

 

 

 

 さあ——。お前が人狼だと暴き出してやろうじゃないか——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

星野マリン → 有馬かな

星野ルビー → 星野マリン

有馬かな → 星野マリン

黒川あかね → 星野マリン

鷲見ゆき → 星野マリン

MEMちょ → 星野マリン

熊野ノブユキ → 星野マリン

森本ケンゴ → 星野マリン

姫川大輝 → 星野マリン

不知火フリル → 星野マリン

鴨志田朔夜 → 星野マリン

鳴嶋メルト → 星野マリン

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ!? 俺っ!? 俺少数派だと思われてるの!?」

 

「結構最初から決着はついてたよ。後は公開処刑」

 

「アクアくん。そもそも大前提として、私が素直にかなちゃんのことを『可愛い』って言うと思う、かな?」

 

 

 

 ……言わねぇな!!? というか語尾に「かな」を付けるってことは、あかねは俺のお題に気づいてるな!?

 

 

 

「でも、まだ結果発表はされてない以上は憶測止まりで——」

 

「少数派はマリンちゃんです。諦めましょう」

 

「そこは緊張感とかで編集点作ってくださいよ、冬夏さんっ!」

 

「というかあかねにお題バレてるあたり完全敗北じゃないアンタ……」

 

 何も言い返せねぇ。完封負けなのは事実だから。

 

「てか、そう考えると私のことそう思ってたわけ? 熱烈なアピールね〜〜!」

 

「ここぞとばかりに調子乗りやがって……っ!」

 

「そうだね。かなちゃんの悪いところ出てるよね」(こういう調子に乗ってる顔は可愛くはあるんだけど)

 

 すごい厄介ファン特有の邪な気持ちも感じ取ったぞ、あかね。

 

「でもここで当てれば逆転勝ち! 一転して1人勝ちだろ!? なら当ててやろうじゃないか!」

 

「やる気満タンですね〜〜。じゃあシンキングタイム15秒でどうぞ!」

 

 短いな、15秒って!? とりあえず即座に思考を回してみんなが話し合っていた人物を特定するしかない。

 

 見た目だけは可愛い。けど可愛げはない。

 身長は小さい。ゆきが身長高いほうだとしても小さく感じるほど。逆に言えばゆきの身長を基準にしても世間一般的に小さく感じるような誰か。

 

 あぁ、まずいもう時間がない——。

 こんな状況下と情報で浮かび上がるやつなんて——。

 

 

 

「…………あかね?」

 

 

 

 まずい。短い。思考がまとまり切らずに答えを出してしまった。

 

 流れる静寂。放送事故を疑うような沈黙が、嫌な汗と共に流れていく。心臓音だけが時を刻み、暫時経てば喧しい不正解音が鳴り響いた。

 

 

 

「じゃあ、誰なんだよ……!?」

 

「マジで言ってる、お姉ちゃん? ボケてないよね?」

 

「俺は負けたり逃げたりするの嫌いなのは知ってるだろう」

 

「だよね……。じゃあマジで言ってるんだ……」

 

 

 

 ルビーは「そういうところが可愛くはあるんだけど」と半笑いで頬を書きながら、自身に配られたお題の紙を俺に見せてくれた。

 

 

 

 お題:『星野マリン』というものを——。

 

 

 

「俺のこと話してたのか!?」

 

「逆にロリ先輩以外の誰のこと話してると思ったの!? 素直じゃなくて捻くれてて、姫川さんから可愛げがないと思われるなんてお姉ちゃんしかいないよ!?」

 

「俺のどこが素直じゃなくて捻くれた性格なんだよ」

 

「ええ……。ポンコツ……」

 

「ポンコツでもねぇよ」

 

「それにアクアくん身長小さいからね。アイさんと一緒で151cmだし。みんなに小さいと思われても当然でしょ?」

 

 そうだった。一応身長は自覚してるとはいえ、何故か170cm以上の先入観があってしまった。まだ自分のことを『アクア』と『マリン』と『アクアマリン』の区別が潜在的には出来ていないことを改めて実感してしまう。

 

 それを踏まえてみんなの会話を紡いでいくと……。

 

 

 

 …………

 ……

 

「え? うん、可愛いと思うよ。素直じゃないところとか。捻くれた性格とか」←(マリンがお題なのに、それに気づいてないことに即座を感じ取って良い感じにフンワリさせて対応している態度)

 

「……まあ可愛いだろ。見た目だけなら」←(この瞬間、姫川は俺のお題が違うことを察して濁し始めた)

 

「うーん、俺は色々と世話になったって感じ。俺の役者活動に影響を大きいし、後は稽古も……」←(東ブレの演技指導に付き合ったことをモロに言っている)

 

「……NaHCO3が関係してる」←(重曹ではなく、化学式に入ってる水(アクア)のことを言っている)

 

 ……

 …………

 

 

 

 俺は、大馬鹿者だっっっ——-。

 

 俺が少数派だと気づけるタイミングいくつもあっただろ。先入観で見落としてしまっていた。いや、もしくは見ないフリをしていたのか。

 

「アクアくん、そういうとこあるよねー」

 

 今はあかねの言葉が痛い。刃物より痛いです。

 

 

 

「ぁぁぁああああ……。ぁぁああああああ…………っ!」

 

「ちょっとお姉ちゃん、うるさいよ〜〜」

 

 

 

 そのまま俺が悶えてる光景をカメラは逃さず撮りきり、司会と進行役を編集点も兼ねて人笑いを起こすと、そのまま締めの流れとなっていく。

 

 

 

「以上で今週の対談会は終わります! さて皆さん、最後に番宣をどうぞ!」

 

「じゃあブレイド役の俺から。舞台『東京ブレイド』のBlu-ray&DVDボックスが発売が決定しました」

 

「私が演じるつるぎ様がいる新宿クラスタと、あかねが演じる刀鬼がいる渋谷クラスタの真っ向勝負。原作で大人気な『クラスタ抗争』を描いた偶像劇が皆様のテレビにお届けします」

 

「初回限定版には出演者のサイン色紙と初講演後の舞台裏インタビュー、それにアビ子先生の制作秘話も収録されてます」

 

「また第二期もアニメ化されるので、そこも皆さんお楽しみに〜〜」

 

 なぜだ。その第二期アニメ化だけメタフィクションをすごい感じるのは。東京ブレイドの第二期の『東京23区編』も名シーンの連続で期待を煽るのは必然なのに。

 

「ありがとうございました。では続いて『今ガチ』出演者の何人から発表もあります」

 

「えー、じゃあ俺から。この度ストリーミング配信での人気楽曲を収録した『森本ケンゴ ベストアルバム1st』が発売されます。税込2,980円で発売されてるので手に取っていただけたらと思います」

 

「次は私! この度、鷲見ゆきはファッション誌『M○RE』で表紙を飾ることになりました! 今冬を乗り切るニットワンピースやマフラーとか、ユニセックスを意識した男女兼用のグレー生地を使ったダウンパーカーとかも収録されてるので興味のある方は購入してください!」

 

「俺は特にないっす! 強いて言うなら『山風』の全国ツアーでバックダンサーに抜粋されたので、是非皆さんライブに来てください!」

 

 それは十分な出世だと思うぞ、ノブ。他の二人に負けず劣らずの躍進っぷりだ。

 というかサブスク時代の今だとケンゴに何気に一番すごいな。もしかしなくても何気に聞き覚えのあるBGMとか作ってる可能性もあるかもしれないと考えると、途端にケンゴだけレベルが段違いに高く感じてきた。

 

「最後に発表しますが……私、MEMちょはこの度『CD』を発売することになりました!」

 

「えっ、MEMちょがっ!? 個人デビュー!?」

 

「なにその驚きっ!?」

 

 ルビーが驚愕の表情を浮かべてるが、その気持ちの裏を見透せない姉じゃないぞ。ルビーは音痴で、MEMちょは下手ウマだからな。前の世界で頑張って改善したとはいえ、その辺はリセットされてるだろうし。

 

「実はアイさんと『今ガチ』での収録終えてからプライベートで何回か会うことがあって……その伝手でヒムラさんと交流もできちゃって……」

 

「あー、あの『STAR⭐︎T⭐︎RAIN』の作曲家か」

 

「それにYouTube活動で親睦のある『アネモネ』ちゃんも乗っかってくれてね……。そうしたらトントン拍子に今に至ります……」

 

 

 

 そんなことを裏でやってたのか、MEMちょは。

 母親が倒れて看病とお金稼ぐために高校を休学しても取りこぼしてしまったアイドルの夢。その行き場のなくなった情熱を基に動画配信や投稿を始めて数年。ようやく芽吹いた成果に思わず笑みを溢れてしまった。

 

 

 

「——やるじゃないか、MEMちょ」

 

 

 

 今世でも憧れたアイドル家業の第一歩が踏み出せてるじゃないか。

 それだけお前が抱いていた夢や憧れは本当の本気で、本当の夢見た憧れで、本当に目指したかった仕事ができてすごいじゃないか。一人でずっと頑張ってきて、一人で掴み飛んだ夢は例えどんな馬鹿にされても誇りに思って良い成果だ。

 

 

 

 ——それこそさりなちゃんのように、今のMEMちょは輝いて見える。

 

 

 

「どうしたの、お姉ちゃん。そんな風に私を見て」

 

「いや。何でもないよ」

 

 

 

 芸能界に夢を見るなというけど、こういうの見るとやっぱり夢を見て、夢を見させてくれるから芸能人は推したくなるんだろうな。

 そういう初心を思い出させてくれるMEMちょに、ちょっとだけ憧れと尊敬を抱いてしまうほどに。

 

 

 

「……でも、なんでアイはMEMちょとプライベートで会ってるんだ?」

 

 

 

 俺はそんな話を誰からも聞いたことがない。ミヤコさんからも、ルビーからも、アイ本人からも。

 

 別にちょっと遊びに行くぐらいなら伝えても良いはずだ。芸能人仲間で飲みに行くなんてこの世界なら当然のことだ。後ろめたい枕営業なんかしてないんだし、今のアイの立場なら必要すらない。

 

 だとすれば何で俺たちに伝えてないんだ? いったいどんな理由と意味があって? ただMEMちょと会うだけだろ? MEMちょに内緒に会うことで、俺たちにどんな不利益が被るっていうんだよ。

 

 

 

 まるで『隠し事』でもしているかのように——。

 何かを『企んでいる』とでもいうのように——。

 

 

 

「考えすぎか……。アイがそんなことをするわけないか」

 

 

 

 けれど、そんな疑問の答えなんて誰も答えられるわけもなく番組収録は終えていった。煮え切らない思いが胸の奥底に突き刺さったまま。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。