【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜 作:かにみそスープ
「はい、オッケー! みんな頑張ってて偉いよ〜〜!」
そして時間は移り変わり、年末の生放送のダンス企画……に使う映像の一幕。ルビーは身体障害者達の前で眩い汗を流しながらレッスンの手解きをしていた。
流石は前の世界ではアイドルとしての絶頂を極め、さりなちゃんの時は動けない体でも振り付けを覚えようとした気概を持っただけある。
そのやる気と本気の思いに応えるように、手解きを受けていた子どもたちはぎこちなくも確かにリズムとステップを刻んだダンスを垣間見せた。
「頑張れっ! 憧れは止められないよっ!!」
こんな直向きに応援をするルビーに子どもたちは応えようと、手足を自分なりに心と身体と魂を奮い立たせて自己を表現しようと頑張っている。
それだけを見れば感動的かつ人情が溢れるワンシーンだろう。実際に放映される時のダイジェスト映像の一部として抜粋されると確信できるほどに。
だけど実際は違う。綺麗事なんて画面の外側にしかなく、画面の内側では澱んだ私利私欲が渦巻いていた。
「感動的な一枚だぁ〜〜! 伝説のアイドルの息子が、母親の時代に流行っていたダンスを教授して踊りを学ぶ! 子供は活気を得て、親は世代と二重効果で心象がいいっ!!」
「ええ。これで我がテレビ局も障がい者達の心境は良く、寄付金は集まってイメージアップ。それで復興活動に当てれば、このテレビ局にスポンサーも多くなりますねぇ」
「そういうことだ! 人の不幸は本当に絵になるっ! それが綺麗事にするなんて、本当テレビは夢があるよな!」
残念ながら芸能界はそんな夢物語だけで成り立つ世界ではない。
目を焼き焦がすような眩しい理想や夢があれば、目を覆いたくなるような澱んだ悪意や現実なんて腐るほどにある。経営者には経営者なりの、シビアでクソみたいな思想がこれでもかとある。
耳を塞ぎたくなるような濁り切った芸能界の膿がアレだ。
障がい者という枠組みだけでなく、人の不幸やコンプレックスさえもエンタメにして金にしようとする愉快犯。気持ちはカケラ程度なら分からなくもないが、それを口にするという事自体が品がなくて不快だ。
だけど俺の心に宿る不快感を撫でるのは、腐り切ったテレビ局のお偉いさん達だけではなかった。
「あんな子達でも元気に動けて……やっぱり子供は元気な姿が一番よ」
「……ですね」
隣に立つ女性も存在が、俺の血脈に怒り、悲しみ、切望といった負の感情を流し込んで仕方がない。今にも睨みつけて「どの口が言ってる」と吐き出したくなるほどの不快感が心中を巡りに巡る。
——まさか、こんなところで再会するとは思わなかった。
「……どこかで会った事あったかしら? なんか随分と私のことを気にしてる様子ですが」
「初めてですよ。
「あら。私も意外とこの界隈で有名人なのかしら」
女性の名は『天童寺まりな』——。ルビーの前世である『天童寺さりな』の実の母親だ。
身体障害者の企画について、病院やら出資者やらのプロモーション活動を行う仲介役の一つとして選出された人材。本当に偶然で鉢合わせてしまっただけであり、この人がここにいる理由なんてその程度の物でしかない。その程度しかない。
完全に運命の悪戯。この巡り合いには悪意なんてない。
だけど出会ってしまえば話は別だ。自分の中で押し殺し、忘れようとしていた感情が溢れでてくる。
「何か思うところはありますか」
「あるわよ。ハンデを背負って生きるなんて辛くてしょうがない……。そういう子達が頑張って元気に動けるだけで良いことです」
確かにその言葉だけなら間違ってないだろうな。この番組の裏側でどういう事情が動いてあれ、当事者にとっては大真面目なものだ。それを肯定してくれるまりなさんは事情を知らない人からすれば良い人にしか見えないだろう。
だけど、その頑張りを見ないことにしたの誰だ。それを黙殺したのは誰だと思っている。さりなちゃんの最後に立ち会わなかったアンタにそれを言う資格があるのか。上っ面だけの言葉にしか聞こえず、そんな彼女とそうだと解釈する自分に反吐が出る。
この母親の実情はすでに理解している。さりなちゃんの墓だって事情や思いを込めてそうしたであろうと理解はしている。
理解はできるだけで肯定もしなければ共感もできないが——。
「カッコいいところ取り上げてくださいね、天童寺さん」
「分かってますよ。私もそれが仕事なんですから」
けれどルビーは顔に一切出さず、業界人としての母親と会話をする。
業務上であれば当然の言葉のキャッチボール。好きな食べ物や飲み物などを聞き入れて今度は差し入れするだの、今度いいお店を紹介するといった関係性としての話し合い。
どれも至って普通の会話だ。何も気にする必要ない薄っぺらい会話。実にもならない談笑。登場人物が誰であっても成立する名無しの掛け合い。たったそれだけのつまらない交流。
ルビーはどう思ってるんだろうか。
さりなちゃんの時からそうだったが、ルビーは自分の奥底に抱える部分に関しては見せることはできない。多少の我儘、愚痴などは吐き出したりするが、奥底に眠る気持ちはルビーが弱りきらない限り漏らすことはない。吐き出したとしても立ち直る強さがある。
その強さがあったからこそ、ルビーはアイの死を乗り越えることができたし、その強さを持ってしまったから前の世界ではあの悲劇を起こしてしまった。
……アクアの介護という、生き地獄を。
今のルビーは無理はしてないか。姉としては心配するのは当然だと言える。強い心を持っているからこそ、また壊れてしまったら取り返しのつかないことが起きてしまうと最悪の考えが頭をよぎるほどに。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。もう私なりに決着はついてるから」
「……ならいいんだけど」
だけど、その心配は杞憂に終わりそうで安心した。
ルビーの顔は自然体のままだ。無理も空元気も見受けられない。
「でも、ちょっとくらいやり返したいよね——。
振り返ったルビーの顔つきは晴々としている。
怨嗟や悲しみといったものはなく、ハロウィンやクリスマスに向けてサプライズを用意する子供のような快活さだけが瞳に宿っていた。
「私なりの『復讐』ってやつでね♪」
言葉の表面としては恐ろしいが、その中身はとても溌剌として輝いた言葉だった。
…………
……
「そりゃ大変だねぇ。ルビーが前の母親と偶然会っちゃうなんて」
「無理をしなければそれでいいんだが……」
後日、マラソン企画の体力作りというダイジェスト映像を制作するためにアイと同伴して走り込みをしていた。カメラマンは当然俺だ。
これでも役者業は健在だ。無理をしないペースさえ意識してれば、キロ単位で走ることはそう難しくはない。ただ会話しながらとなると横腹が痛くなりそうにはなるが。
「20キロ走破〜〜♪ だいぶ体力も戻ってきたけど、やっぱりアラサーになると膝ガクガク〜〜っ」
「最近はお腹周りも気になるとか愚痴こぼしたもんなぁ」
「妊婦時代はお腹の膨らみは誇らしいことなのに、脂肪だと危機感募るの嫌だよね〜〜」
まあそれでも標準体型の域だから健康的な面では、今の方が望ましいと言えるのだが。
今はハンディカメラでも、カメラマンとしての技術を最低限度さえ抑えておけば映える構図にするのは難しくはない。ダイジェスト映像として利用できる映像だと確認を終えると、休憩ついでにアイと本格的に話し合いを始めた。
「けどルビーはルビーでケジメがついてて、自分でどうすべきか決まってるんでしょ。だったらそれ以上は過干渉になっちゃうからそっとしておこうよ」
「アイも母親としてだいぶ成長してきたよなぁ……」
「まあね。こんなんでも三十路だから。自分で決めたことを周りが捻じ曲げてくるの、結構ストレスになるの実体験で分かってるし」
それを言われてしまうと何も言えない。俺だって本当は外科医になりたかったが、祖母の言葉で産婦人科になってしまうほどに、周りからの善意の押し付けは結構なんとも言えない気持ちを抱くんだから。
「それにさ、私もこうやって長生きしちゃってねぇ。おかげというべきか、そのせいというべきか、久しぶりに『お母さん』に会ってきたんだよ」
「ああ……星野あゆみさんか」
「そっ、さすがセンセ。私のお母さんの名前を知ってるんだね。まあお母さん、大分変わってて老け込んでたけど」
そりゃ前の世界で映画を撮るために色々と動いていたからな。アイの過去を裏取するために芸能界の内側から端っこ、それさえも飛び越えて片田舎に赴いてまでアイの経歴を入念に調べたんだ。
「ちょうど半年くらい前かな。久しぶりに会ったら謝ってきて、色々と世間話をしたよ。今のルビーみたいに大して意味も中身もない薄っぺらいものだけど」
「なんか興味のある話とかなかったのか?」
「よりを戻そうとか、そういう話はあったよ」
「良かったじゃないか。そういう話が出るくらいには打ち解けることができて」
「うん。でも私ってアレなせいか、人の嘘にも敏感でね。ウチの母親は『本当のことを言ってない』って即座に理解したんだ」
「本当のことを言っていない? あゆみさんは娘を迎えに行きたいと、本心から言うくらいにはアイのことを愛していたぞ?」
「うん。それは紛れもないよ。だけど奥底で一番大きくあったのは『私のお金』が目当てだったからね。今でも売れっ子だし、そういう匂いは肌身で分かるんだ」
……嘘だろ? 俺があったあゆみさんはそんな一面なんて微塵もなかった。ただ娘を迎えることができず、ただ子供を虐げることしかできない自分に嫌気が差していた人物だったはずだ。
「すごい失望したけど、見捨てるわけにもいかなかったから手切れ金を含んだ諸々を穏便に済ませるために『500万円』ぐらい渡して縁を切ったんだ」
「……俺が知ってるあゆみさんはそんな人じゃなかったぞ?」
「そんな人だったよ。少なくとも、私が知ってる今のお母さんは」
「……バタフライエフェクトってやつか」
アイが『生きてる』ことで必ずしも良い変化ばかりが起きるとは限らない。悪い変化だって当然起きてもいいはずだ。
アイの母親はアイが死亡したことで、自分のしてきたことを客観的に受け止めて反省して映画の制作を受け入れてくれた。自分がもっとまともだったら、もう少し一般的な母親だったら、男遊びなんかしなかったら愛してる娘を手放すことなく、手放したが故にアイドルとして輝いていたアイが殺害されてしまったということを悔いてしまった。
でも、逆に生きていればそのような反省をする機会もなくなってしまう。だったら反省をしないあゆみさんは客観的に見てどういう人物だ。
環境一つで善にも悪にもなるどこにでもいる移ろいやすい『女』だ。母親として失格で、男と寝て遊んでアイの美貌に嫉妬して、ご飯にガラスの破片を含むという虐待を行うほどに。最終的にはケチな窃盗で捕まって釈放されて、それ以来は音沙汰なし。
だけど小さいとはいえ前科持ちは前科持ち。前の世界でも閑散としてインテリアも最低限な古民家で一人暮らしをしていたところから、間違いなく裕福な暮らしはできなかったのだろう。
だとしたら目の前に『大金を生み出す娘』が現れたとしたら——。
いや、これ以上はもう考えない方がいいだろう。どういう結論に至っても気持ちのいいものじゃない。
人間は誰しも綺麗な一面ばかりじゃない。それこそ芸能界に光と闇があるように、人間の気持ちなんて環境一つ、思い一つで容易く善悪に染まってしまう。
そういう意味では『カミキヒカル』だって、始まりそのものはその犠牲者でしかない。同様に姫川の母親だってそうだ。
「色々とすることあるからね。私もまだまだ『星野アイ』として生きるには精算しなきゃいけないこと山盛りだし。芸能人としてお世話になった施設には売名的な意味合いとかもあって寄付しなきゃいけないしで、まあ有名税ってやだよねぇ」
「まあ寄付は非課税対象だから税金対策にいいって社長に聞いたけど」とアイは笑いながら言う。
「ああ。そういえば寄付で思い出したことがあった」
「寄付で思い出すってなんだ。ふるさと納税とかは寄付じゃないぞ」
「それは分かってるよ」とアイは小言で「そういえば今年の返礼品は完熟マンゴーにしてたっけ」と宮崎県の返礼品をピンポイントで口にしながら言葉を続けた。
「これは暇なアクアにしか頼めないんだけど、関係者の動向を注意深く観察しておいて」
「暇は余計だよ」
いったいどんな無茶振りを振られるのか。軽い気持ちで聞こうとした時、アイの口から思わぬ言葉が飛び込んできた。
「私が小耳に挟んだ事に間違いがないなら——『寄付金の横領』が行われる可能性があるからさ」
…………
……
「『寄付金の横領』か……」
またまた後日。今度は自分が担当する砂浜や海岸のゴミ拾い企画を行いながらアイの言葉を思い出す。
思いがけないトンデモな発言に頭を抱え込んでしまいそうになる。確かに寄付金というのは全額が寄付先に譲渡されるわけではない。全部が全部というわけではないが、自治体とか団体によっては数パーセントは委託とかの何かしらの手数料として徴収された後に、本来の使用用途に利用されるというケースは結構ある。
そのドサクサに紛れて手数料を帳簿では上乗せして、余剰分はポケットマネーとして懐に入れたり、あるいは法人とか何も名乗らずに個人で駅前とかで募金詐欺をしてるケースもあったりと、寄付金というのは悪意と隣り合わせが現状だったりする。
もちろん全てが悪意に塗れたものではないが、現実としてはそういう側面があるというのも実情だ。芸能界であれば横領があったとしても不思議ではない。
だけど注意されたとしても俺に何ができるのか。
こういう時に頼れる人物がいるにはいるのだが……。
「あかねに頼ろうにもなぁ……」
こういう時あかねに無意識に頼ろうとしてしまうところに自己嫌悪を感じてしまう。
復讐はとっくに終わった。今は贖罪のために動いているんだ。あかねは復讐の駒として利用していただけで、いつまでもあかねを縛って頼りにするのは間違っている。ここは自分でなんとかするのが筋というものだろう。
それに今のあいつは——。
…………
……
《( ✌︎'ω')✌︎ ハワイなう!》
……
…………
これである。テンションの問題ではなく、ただいま現在年末間近ということで、一足早くあかねは家族旅行でハワイにレッツゴー。日本国内にいない以上は頼ろうにも頼れない。
おかげでこうしてグループラインに謎のハイテンションと顔文字を貼り付け、しかもサングラス越しでもドヤ顔なのが分かるくらいに楽しげな笑顔を浮かべた自撮りを送ってくる始末である。
……前の世界から思ったけど、あかねって明るいだか暗いだかよく分からない性格をしている。
少なくとも陽キャか隠キャというので選別するならば、俺と同様に隠キャ寄りで間違いない。なのにこのテンション。しかも自撮りで送るあたり、妙なところで自己肯定感が高い。
しかし思い返せば写真の加工方法とか詳しかったし、人並みにはそういう一面もあったんだろうか。それこそ学校生活は意外と交友関係があってそういう学友的な繋がりがあったんだろうか。そこんところ、深い部分にまで聞いたことないけど。
「……まあ自分で調べるしかないよなぁ」
こういう時、探偵業とかそういう類の繋がりなんて全くないからどうすればいいか分からない。
どこかに探偵とか転がっていないだろうか。MEMちょ辺りならYouTuber繋がりで、妙な人脈があってその手の類に精通してる可能性がある。
「ストーカー被害とかなら、事務所が抱えてる弁護士とかいるんだがな……」
あの日、あの事件を気にセキュリティ意識を強くした苺プロは、俺とルビーが高校生になると同時にお抱えの個人事業主として活動する弁護士の名刺を渡してきた。いつどんな時でもトラブルに巻き込まれた保険に所持してる弁護士へと連絡を取れるようにするために。
曰く、その弁護士は天才らしい。かの有名な金持ち学園の卒業生らしく、弁護士の資格を取るために大学の在学中に『司法試験予備試験』に合格をし、その流れでそのまま『司法試験』に合格をしたという僅か20歳という年齢で弁護士資格を得た天才中の天才。
その名は——『弁護士:伊井野ミコ』という。
…………
……
「うし。やっぱ名が売れてない事務所に所属して正解だったわ。自分の裁量で動きやすくて身軽なんだもん」
「名が売れてないってのは余計ですよ」
一方その頃、都内のどこにでもあるビルのどこでもある平凡なテナントの一つ。
そこにある至って普通の名札で掲げられた『大仏プロダクション』という事務所の一画。そこで有馬は厚底メガネを掛けた女性に話し込んでいた。
「あらごめんなさいねぇ。だって『両親共々芸能人』で『その子供が元は人気子役』——。だけど畑違いで経営や運営部門だとこんなに泣かず飛ばすとは思わなかったですもん」
「まあ、だからこそ所属させてもらってるわけだけど」と有馬は事務所のソファーに深く座り直し、ソファー横にある写真スタンドへと視線を流した。
「一応アンタは当時の人からすれば憧れの一つだったのよ。あかねが私に惹かれて芸能界に入ったように、私の母だってアンタの子役としての成功を見て、私を芸能界に入れたいって気持ちを後押ししたんだから」
「……ああ、あなたも私と同じなんですね。親の都合で芸能界にいて、親の不貞で家庭は壊れ、親の期待で押しつぶされそうになった被害者という」
「……今は違うわ。自分の意思でこの世界に骨身を埋めるつもりでいる」
それは今の世界には関係ない話だ、と有馬は心の中で吐きこぼす。
前の世界は全てが手遅れになった出来事。それを抱えるのは自分一人で十分であり、溢すことはあってはならないと自分を戒める。
「まあ私だって芸能界にそこそこいるわけだしぃ? ちょっと自分に気に食わない事があったら見逃せるほど大人でもないのよ」
「誰かが頑張ってる姿を、見放したり笑われたりするの嫌ですもんね」
「同じ傷口を持つ同士、そこらへん共感しやすいみたいね」
メガネの女性と有馬は自虐的な笑みを浮かべながら、ソファーのすぐ前にある温かい紅茶を飲み干して立ち上がった。
「じゃあ出かけて来るわ。アンタんところ、芸能界を生き残るには色々足りないけど、芸能界で戦うために必要な人材も力も取り揃えてて助かるわ」
「当たり前ですよ。私がわざわざ大嫌いな芸能界に仕事を作ってるのは、『ミコちゃん』の正しさを証明するためと——」
メガネの女性は昔のことに思いを馳せる。陰鬱で息苦しく、まだ夢みがちだった子供の頃の思い出へと。
でも、そんな中でも幼稚でも正しくあろうとする弱くても強い友達がいて——。
その正しくあろうとする姿に、独りぼっちに肯定し続けてくれる愚直なお馬鹿さんもいて——。
…………
……
《だとしたら——》
《お前の書くべき反省文はこうだろう!》
……
…………
そこに綴られた『うるせぇバァカ!!』と書き殴られた一文。その言葉に、そのお馬鹿さんは救われた。
真っ暗闇で誰も味方がいない中、ただ一人でも味方をしてくれるなら周りからどう思われてもいいと。
ただ傍観者として見ているだけの自分では助けることも、導くこともできなかった。恋をしただけでは、何も成せないと心身で知り、その恋は始まることもなく終わりを告げた。
だったら、もしも同じ機会があったとしたら。
どこかの誰かが泣きたくて叫びたくて、でもどこにも仲間がいない時、その『ただ一人の味方』として今度は自分が手を差し出せるように、彼女はこの事務所を立ち上げた。
「『君の努力はいつか報われる』という——。どこかの誰かが、頑張る誰かに向けた言葉を今でも信じたいからです。こんな世界でも夢を見てくれる人達が、少しでも真っ直ぐ背筋を伸ばして生きていけるように」
そんな気持ちがあれば、どれだけこの芸能界は救われていた人たちがいたのだろうか——。
有馬はアクアの最後と、カミキヒカルのことを思い浮かべながら笑みを溢し、この時期に相応しい裏起毛のコートに身を包みながら事務所の扉を開けた。
「なら悪党退治でもしましょうか。私は粗探しをするから、
「私の名前は