【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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★第五話★ 母

 きっかけは子供達の会話を盗み聞いたこと——。

 

 

 

「どうするアクア……! もうドームの日まで半月もないよ……!」

 

「分かってる……! 監督にもミヤコさんにも相談済みだ……これ以上打つ手がないんだよっ!」

 

 

 

 会話だけを聴くならB小町のライブを応援してくれる献身的な子供達。

 子供は子供ながらに私達のライブの大成功を期待してるんだな〜〜、と微笑ましくなりながら「ただいま」といつも通りにリビングに入ろうとして——。

 

 

 

「でもまだ何か……何かあるはずなの……。何とかしないと……」

 

「ああ。ドーム当日には絶対近くにどこかにいるはずなんだ……」

 

「やっぱり警備員を配置しようよっ! もしくは私服警官とかさっ!」

 

「何度も言わせるな! あかねの推測が事実とするなら、あいつは当日現場近くに来ていて、リョウスケ君と合流してから凶器を渡す! 現場に来てるのは恐らく『犯行が可能なのか視察する』ためだ! 変に警備を固めると、カミキヒカルは犯行時期を変えるだけなんだよっ!!」

 

「それでもっ! 今すぐママが死んじゃうよりかはマシでしょ!!」

 

「ああ、マシだよっ!! だけどそれでどうする!? アイツはずっと日常の陰で狙い続けるっ!! アイの命をっ!! お前はそれでいいのかよっ!?」

 

「どこかに逃げるとか……っ! それこそ片田舎とかに……っ!!」

 

「だったら! 東京に住むリョウスケ君はなんで出産当日に宮崎にまで来たんだよっ!! アイツに『遠いところに逃げる』なんて選択肢はないんだよっ!! 分かるだろ、それくらいっ!!」

 

「私だって! 私だって精一杯考えるんだよっ! でもっ……でもっ……ごめん、言い訳になっちゃうね……っ」

 

「……俺もごめん。熱くなりすぎた。君に当たるなんて最低だ……本当に最低だ……っ!」

 

 

 

 足を止めるしかなかった。おかしい。ウチの子供があまりにもおかしい。

 なんで私が殺されるサスペンスの話をしてるの? なんで出産日のことをこんな細かく知ってるの? なんで姉弟同士でそんな辛そうに謝ってるの?

 

 確かにウチの子達は頭がすこぶる良い。絶対私よりも頭いい。自慢の子供だから断言する。

 

 それでも——この空気はおかしい。

 嘘しかつけない私だからこそ、この異様な空気に息苦しさを感じた。

 

 

 

『嘘』と『本当』が入り混じってる——。

『嘘』を言おうとしたら『本当』になり、『本当』のことを言おうとしたら『嘘』になりそうな異質感——。

 

 

 

「一度最初から見直そう。まだ見落としがあるかもしれない」

 

「うん。私もできる限り考えるから……力になるから」

 

 

 

「絶対に——」

 

「絶対に——」

 

 

 

「「カミキヒカルを絶対に逃すわけにいかない——」」

 

 

 

 誰にも教えていない『父』の名前が出て、私は咄嗟に息を呑んでしまった。呼吸という行動を忘れて、少しずつ体から力が抜けていく。

 

 あっ、まずいなこれ。

 子供達の前で倒れるわけにはいかない。

 

 決死の力を振り絞り、何とかしてトイレに駆け込んで鍵をかける。

 やっとのことで息を吐き出し、同時に胃酸も逆流してトイレに若干の吐瀉物が散乱するが、ドーム公演に向けてのボディメイクの期間中だったから固形物が少なく済んだ。おかげで掃除の手間がいくらか省ける。ミヤコさん、この辺結構うるさいから。

 

 頭の中で産婦人科にいた頃の『センセ』の話を思い出す。

 落ち着くためにはルーティン化が一番いい。別に子供がお腹にいるわけではないが、ラマーズ法で少しずつ自分の中で落ち着きと整理をつけていく。

 

 でも深く考えれば考えるほど、頭の中がグシャグシャになっていく——。

 自分の中で築き上げたアイデンティティのパズルが音を立てて崩れていく——。

 

 不安で不安で仕方なかった。『子供達から頼りにされない』というのは『親として頼りにならない』ことを突きつけられたような疎外感が私の頭の中でチラついて。

 

 

 

 ——だから後日、家電量販店である物を買ってきた。

 

 商品名は『お留守番カメラ』というが、要は『隠しカメラ』という物だ。しかもリアルタイムで記録、聴くこともできる優れ物。

 ミヤコさんが「成人になる前に今一度セキュリティ意識とか見直しましょう」とB小町全員にそういう関係の話があって助かった。おかげでこんな手があるということに気づかせてくれたんだから。

 

 早速観葉植物の裏にでも隠して盗聴する。子供達は私達が留守番の間には何を会話しているのかどうか。知りたくて仕方なかった。

 

 

 ——すると驚くべきことが分かった。

 

 

 マリンとルビーは元々未来の記憶があって、私が死んじゃった未来を変えるために来てくれた。

 しかもマリンとルビーは元々は『どこかの誰かの生まれ変わり』らしく、おまけにマリンに至っては『雨宮吾郎』ことセンセだってのも知った。

 

 驚くほど素直に受け入れてる私がいてビックリする。だけどそう考えれば納得することも多かった。

 

 だって私の『子供』だもん。なのに頭の出来が良すぎる。

 私はチャランポランで割とアレな部分があるのを自負してる後先考えない大嘘つき。今を輝くのに全力疾走なアイドル。無計画で無鉄砲な私から、あそこまで賢い子が生まれるなんて正直ちょっとだけ疑問だった。まあ、それでも可愛い子供であることには変わりはないんだけどね。

 

 ヤバイくらい賢い理由がわかって、むしろホッとしたくらい。

 自分の中で納得できる材料が埋まってスッキリしてる。

 

 というか逆に申し訳なさも出てきたくらいだ。

 

 だってセンセが出産時に立ち会わなかった時、「なんで来ないの」とブーブー文句を垂れたものだ。

 しかも大体1週間ぐらい行う産後のサポートや勉強にも顔出さなくて、ちょっと本格的に怒った。枕に割と八つ当たりした。「なんで今日もセンセ来ないのー!」と駄々っ子みたいに忙しなく。おかげで女医さんから「産後とは思えないほどのバイタリティですね」と褒められもしたけど。

 けれどその真実が、ストーカーから私を守るために動き回っていて、そして死んじゃって『我が子に転生』してただなんて。しかもまた私を守ろうと頑張ってくれている。

 センセに対して頭が上がらないとかそういう話じゃない。すごいね。いや本当すごいね。感謝しても足りない。

 

 後はセンセは元々男性だったのに、生まれ変わったら女の子だったのって結構センシティブな話だなぁと。これに関しては未成年出産した私が言えた義理じゃないんだけど。それはそれとしてだいぶ申し訳ない。

 

 でもセンセなら「仕方がない」と呆れ半分で笑って許してくれるだろう。それぐらいなら分かる。

 

 分からないのは息子——。ルビーの方だ。

 ルビーにも悪いことしてたなぁ。だって本音を言ってしまうと『君のこと知らない』んだもん。

 

 どうやら私のファンだったらしい。色々と断片的な証言を集めて人物の想像図を浮かべてみた。

 

『私と同じ年齢。箱推し気味だが、最推しはアイ』

『結構なオタクであり、アンチと過激な言い争いをしてた』

『私の妊娠を処女受胎と思い込む潔癖』

 

 ハッキリ言って『ヤバい』に入る部類だったけど、残念ながらそんな特徴だらけの子を『ライブ会場で見た』ことなんてなかった。

 センセと『一緒に転生』してるってことは、死んじゃったのも私が出産する少し前くらいだろうか。だとしたら享年15〜16歳あたりで結構若い年齢で亡くなってるんだろうけど、そういう年頃は結構覚えやすい部類なのに覚えていない。

 

 なんというかアイドル失格だよね。極力ファンの名前と顔は覚えようとしてるのに『君の顔が思い出せない』なんて。

 本当上っ面だけのアイドルだ。嘘に嘘を重ねて生きてるから、きっと『君』の顔を覚えてないんだろうね。ごめんね、ルビー。ごめんね。

 

 でも君達の『優しい嘘』は本当だよね。

 私の嘘は嘘のままだけど、君達の嘘は本当だ。だから私を守り抜こうとしている。

 

 復讐については色々聞いちゃってごめんね。

 正直私のためにそこまでする必要ないと思うんだけど、君達がそうしたいと思ったなら止めることはできないよ。

 ただやり返したいと思うのは同意だから、その辺に関しては私も一枚くらい噛ませて欲しい。

 

 ああ、嬉しいなぁ。こんな『優しい嘘』があるなんて。

 私のことを思った『嘘』がこんなにも——こんなにも——嬉しいはずなのに。

 

 

 

 ——なのに、なのに。

 

 

 

「なんで泣いてるんだろうね」

 

 

 

 洗面台に備え付けられている三面鏡には無表情で涙を落とすという、今まで見たことない私の顔があった。

 

 驚くべきことに、この涙は止まることはなかった。

 いつも通りアイドルとしての笑顔を浮かべても、MV用の一点集中のスマイルを浮かべても、プロデューサーとかディレクターと付き合う用の営業スマイルを浮かべても、涙が止まることはない。壊れた蛇口みたいにただただ静かに流れ続ける。

 

 涙の水源である瞳を見て、自分でも驚いた。

 なんて言えばいいんだろう。今までの私が『輝いている』と客観的に評価されてたから、今は『黒く澱んでいる』と言った方がいいだろうか。とにかく嫌な意味で引き寄せられる。

 

 

 

 ——『優しい嘘』でも『嘘』は『嘘』なわけで。

 

 

 

「あぁ、そっか——。嘘をつかれて悲しいんだ」

 

 

 

 ——嘘をつかれるのって、こんな気持ちになるんだ。

 

 ——嘘って、こんなに辛いんだね。

 ——嘘って、こんなに悲しいんだね。

 

 

 

 ——『何で』嘘をつかれると、こうなるんだろうね。

 

 

 

「ねぇ、子供達も結構大きくなったんだよ。一度会ってみない?」

「いや、よりを戻すとかそういう話じゃなくてさ」

「うちの子は凄く賢いし、私達の事情もわかってくれるよ」

 

 

 

 ——そうだったね。分かっていたんだ。

 ——でも口すると怖いから、今まで黙っていたんだ。

 

 

 

「うん。新しい住所はね——」

 

 

 

 ——嘘はとびきりの『愛』だったね。

 

 

 

 今一度、その瞳に『星が生まれる』——。

 星が一番強く輝くのは『星が死ぬ』瞬間——。

 

 

 

 ——『星』はどちらの道標になるのか。

 

 

 

「さあ、とびっきりの大嘘つきを演じるとしますか」

 

 

 

 失敗したら、そん時は「ダメでした」と割り切ろう!

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 子供には重すぎるドアの向こう。その先に広がる惨劇を想像するだけでも、体が強張って足は重くなってしまう。また『あの景色』を焼き付けてしまう。

 

 それでも——。それでも立ち止まるわけにいかない——。

 

 もう策なんてない。奇跡に縋るしかない。どうかアイが致命傷を避けてくれますようにと儚い願いを持って、ドアの先へと目を向ける。

 

 

 

 ——そこには。

 

 

 

「ほわちゃぁっ!! 動くと危ないよ!!」

 

「いでででっ!? 離せよ、アバズレっ! この裏切り者がっ!!」

 

 

 

 ——リョウスケ君を組み伏せている、強き母としてのアイがいた。

 

 

 

「アクアっ! ママは……って何これ!?」

 

「見ての通りですね」

 

 

 

 あまりにも驚きの光景に、逆にすごい冷静になってしまう。

 どこから突っ込めばいいんだ。この全く考えもしなかった光景は。

 

 奇跡に縋るしかないと思ったが、眼前に繰り広げられるのは奇跡を超えて喜劇。一周回ってコントみたいになってしまって緊張感が一気に抜けていく。

 

 

 

「マリン! ルビー! 危ないから大人しくしててね!!」

 

「「あっ、はい」」

 

 

 

 それはルビーも同様であり、俺たちは迷惑にならないようにドアの向こう側から顔だけ出して待機しておく。

 一応念のため余剰に準備しておいた催涙スプレーを片手に警察に電話して「住居侵入です。凶器持ってます。あと救急車お願いします」と言った感じに淡々と処理を進めて静観を決め込む。

 

 数分もすればパトカーと救急車がけたましい音を鳴らしながら到着。

 もちろん、こんな乱痴気騒ぎがあったら近隣の住人が黙っているわけがない。野次馬精神全開で覗き込み、事態の重さを把握した途端にアイに変わってリョウスケ君の手足を住人達が抑えてくれて、そこから警察もアイの階層に来て本格的に拘束することでようやくアイは解放された。

 

 もう少し時間が経てば疲労困憊の五反田監督もマンション一階に到着。

 まあその時には既に警察によって関係者以外は立ち入り禁止のテープが貼られてる状態になっているのだが。

 

『早熟ガール! 救急車も来ているがアイは大丈夫かっ!?』

 

「うん、大丈夫。なんかすげぇ大丈夫」

 

 とりあえず電話で無事の報告はしておく。続いてミヤコさんにも電話をしておいてストーカーを捕まえたことも報告。

 あかねはどうしようもない。今あかねのスマホはカミキヒカルに忍ばせて移動中。あかね本人に連絡する手段がないから後日報告だ。

 

「いや〜〜、バラエティ番組で『吉◯沙◯里』さんと『ド◯ェイン・ジョンソ◯』さん直伝のタックルとかプロレス技を覚えてて良かったよ〜〜」

 

 それで納得すると思うなよ。確かにその二人は凄い人だけど。それでアイが無事なことに納得できるかどうかは別問題だよ。

 

 ……なんて言ったところでアイには通用しない。むしろアイだからこそ納得させられる。そういうものだと考えておこう。

 

「でもママ……顔に傷が……っ!」

 

「おー、本当だ。顔は商売道具なのにねぇ、困った困った」

 

 取っ組み合ってる中でアイはナイフで切られたようだ。場所は左頬で傷の深さは浅くはない。命に別状はないが、応急処置しなければ痕は残ってしまう類のものだ。

 

「待ってろ、アイ。すぐに救急の人をこっちに案内してくる」

 

「大丈夫だよ、これくらいなら。救急セット持って来てくれれば」

 

「小さな傷でも甘く見るな。すぐに医者に診てもらうんだ」

 

「だったらマリンにお願いしようかな」

 

 なぜそこで俺を指名するんだ? ただの子供でしかない俺を?

 疑問に思っても傷口から血が溢れ続ける。それを見て、ずっと記憶に焼きついていた『アイの死体』が脳裏にフラッシュバックする。

 

 吐きそうだ。今にも倒れてしまいそうだ。

 無力に眺めることしかできなかった幼少期。医者だからこそ『腹部大動脈』まで負った傷を見て瞬時に致命傷だと分かって諦めてしまった。

 

 だけど、これなら——この程度なら何とかなる。傷跡が残らないように最善の処置ができる。

 

 

 

 ——早く治さないと。そうだ、俺は医者なんだ。

 ——俺は医者だったんだ。『外科医』を目指した医者なんだ。

 

 ——やっと好きな小説に出てくる医者のように。

 ——格好良く『人を助ける』ことができるんだ。

 

 

 

 無我夢中だった。思考よりも体が先に動く。

 自分でも何をしているのか理解するのが遅れる。理解するよりも早く体に刻み込んだ医者としての技術を行使していく。

 

 ——市販の刺激が弱い消毒液で丁寧で入念に雑菌を取り除く。

 ——そしたら一度コットンとかで余分な水分を拭き取る。

 ——傷口は大きいから、軟膏を含ませたガーゼの上に絆創膏を貼る。

 

 気づけば、アイの応急処置は我ながら驚くレベルで完璧に終えた。

 傷口を塞ぐような縫合系は専門の医者が行うことだ。後のことは全部病院に任せるとしよう。

 

「手際いいね〜〜。流石はセンセだ」

 

 気が抜けたタイミングで、いきなりとんでもない事をぶっ込まれた——。

 ルビーも驚きを隠せず、こちらと目を合わせて「どうする?」と訴えかけてくる。

 

 なぜ? いつ? どこでアイに気づかれたんだ? アイが気づいた素振りを俺は見てないぞ?

 

「……何言ってんだよ。誰だよ、センセって」

 

「私の事を診てくれた産婦人科医だよ。名前は雨宮吾郎っていうんだ」

 

「……へー。アイは名前と顔覚えるの苦手なんだろ? だったら人違いじゃないか?」

 

 あくまでしらばっくれる。無駄だとわかっていても。

 

「ははっ、センセは嘘下手だなぁ〜〜。そっかそっか、だったらこっちもそれなりの方法で吐かせようか」

 

「吐くもなにも……」

 

「入院中の恥ずかしい話を語ろうか。例えば社長に『ものすごい便秘である可能性』を私は「そっちは順調。今日も問題なかったよ」と言ったり……」

 

「あーあー! アイドルがそんなことを赤裸々に語ろうとするな! 認める! 認めるから!!」

 

「ママでもウンコはするもんね……」

 

 アイドルはウンコしないという夢は昭和の話だからな。

 それはそれとして、推しのアイドルが排便事情を嬉々として語ろうとするのは夢をシュレッダーで切り刻むほどに残酷だ。可能な限り止めておきたい。

 

「今後はこんな無茶しないでくれよ。ナイフ持ってる相手に女手一つで挑むなんて無謀だからな」

 

「はは。『私はこんなんじゃ死なないよ』」

 

 

 

 ——それは夢想した一幕のセリフ。

 

 途端、アイは優しく俺たち二人を抱きしめてくれる。

 肌から伝う母親の体温は変わることはない。ずっとずっと温かいまま。

 

 アイが生きている——。

 それを頭だけでなく心で理解した。今確かに、ここにアイはいる。命の脈動を肌身で伝えてくれる。

 

 何度だって、都合のいい夢を見たよな。

 なんかの物語みたいに、ご都合主義の奇跡でも起きたらって。

 

 あの時、アイを救えてたら。そんな叶うはずのない夢を。

 何度願っただろう。そんな——そんな——。

 

 

 

「っ……アイっ……!」

 

「マリンはやっぱり甘えん坊だね」

 

 

 

 ああ、叶った——叶えてくれた。

 そんな都合のいい、ご都合主義の奇跡が——。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 正直、面と向かって言おうとするとこんな『怖い』とは思わなかった。

 いつもファンの前では歯の浮くような恥ずかしい歌を何度も何度も笑顔で口にするくせに、こんな単純な言葉を我が子に伝えようとする言葉が詰まってしまう。

 

 長いような短いような。私にとっては永遠と刹那の繰り返し——。

 何度も何度も心の中で復唱し、何度も何度も自分の中でこの言葉に問う。

 

 口にして大丈夫? 私は嘘つきだよ?

 その場にとって都合のいいこと言っちゃう子だよ?

 自覚したら、全部台無しになっちゃうかもしれないよ?

 

 怖いよ。嘘って怖いよ。こんなの生まれて初めてだよ。

 今まで嘘しか言ってこなかったから、何が『嘘』で何が『本当』かも分からない私じゃ、この言葉も嘘になるんじゃないかと思って怖いよ。

 

 

 

「マリン、ルビー……」

 

 

 

 でも口にしないと、嘘も本当もないわけで——。

 

 この言葉一つで私の——『星野アイ』の生き方がどうだったかを認めるしかない。

 

 

 

 

 

「愛してる——」

 

 あぁ、やっと言えた。

 この言葉は絶対——嘘じゃない。

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