【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜   作:かにみそスープ

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★第六話★ アイドル

 ——『殺人未遂でストーカー逮捕 被害者はB小町のアイ』

 ——『続報 ストーカーに共犯者 果たしてその関係性は?』

 ——『共犯者は未成年 現代社会が産み出した凄酷な闇』

 ——『速報 未成年共犯者はアイと肉体関係ありっ!?』

 ——『㊙︎映像流出 アイに隠し子』

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 アイが殺される未来は無事に回避することもできた。

 もちろんカミキヒカルも、あかねの機転もあって無事に身柄を特定して拘束することもできた。これでもうアイは身体的な危害は及ぶことはない。

 

 だけどここからは『社会的』な話になる。

 この一連の事件の発端には、どうしても『アイの子供』が関わってしまう。リョウスケ君の罪状を追えば必然的にそうならざるをえない。となれば週刊誌はこの『金になるネタ』を見逃すはずがない。当然数日後にはアイには子供がいることが世間にバレてしまった。

 

 ネット界隈では昨日まで「アイちゃん無事で良かった」と言っていた人達は熱い手のひら返し。

 

 ——「裏切られた」「タヒね」「ファンやめます」

 ——「クソビッチ」「ストーカーは正しかった」

 ——「未成年性交とか倫理観終わってる」「逆レイプってこと?」

 ——「もう顔も見たくない」「子供共々消えてくれ」

 

 もちろん擁護する人もいれば、この事態に対して静観を決め込むものも数多くいる。

 なにせ『殺人未遂』という話題だ。前の世界で黒川あかねが『自殺未遂』をしたように、センシティブな話題はおいそれと世の風潮はアイを悪役に仕立て上げることは難しい。今は批判の声が大きくて目立ってしょうがないが。

 あかね自身も「自分の事みたいで結構クル。見てるだけでも辛い」と我が事のように漏らしていたほどだ。まあアイの演技をしてた頃も相まって、今回の炎上騒動に自分を重ねてしまったのもあると思うが。

 

「ついにバレちゃったね。まあよくあることっしょ」

 

 なお当の本人がこれである。

 自分が話題の中心にいることを分かっているのだろうか。

 

「実際問題、性的被害とかはどうだったんだ? アイは加害者なのか被害者なのか……」

 

「なんとなーく……って感じではあるけど、少なくとも好意はあって互い同意の上ではあったよ。今思えば歪んでいたけど愛はあった。でも半分は興味本位かな」

 

「つまりデキ婚同然と」

 

「結婚はしてなかったけどね〜〜」

 

 不安で仕方ないが、事態がある程度落ち着くまで静観するしかない。下手に反応する方が悪手にしかならないし、こんなに根掘り葉掘り情報が出てくるなら、きっと歯止めも効かないだろう。

 未成年扱いで公表されているが、いずれはきっと三流週刊誌が売上欲しさに名前が公表される。まだまだ静観を続けるしかない。

 

 

 

 ——『未成年共犯者の正体 芸能人HK』

 ——『アイ殺人未遂事件の首謀者 元・劇団ララライ所属のカミキヒカルか!?』

 

 

 

 連日の報道で世論は過熱した。やっぱりカミキヒカルの名前は世間に認知されることになった。

 芸能人同士の未成年性交。芸能人同士の子供。かたや殺人未遂の被害者であり、かたや加害者。何やら『陰謀論』を勝手に感じた世間は、事態は複雑に絡んでいると踏んで当てるべきフォーカスを変えることになった。

 こうなってくると個人の話ではなく芸能界の話になって、業界の闇を嗅ぎ回ろうとしてくるハイエナが湧いてくる。当然ターゲットにするのは話題の渦中である『アイ』と『カミキヒカル』のそれぞれが関係している事務所である『苺プロダクション』と『劇団ララライ』に降りかかってくる。

 

 社長とミヤコさんは連日対応に追われて、見るだけで辛くなるほどにやつれていた。多分ここ1ヶ月くらいで、この二人は数年分老けたと思う。

 もちろんその間は『B小町』は活動休止。アイも警察との事情聴取と、病院での怪我の定期検診以外では動くことができず、世間の暴論を浴びる以外は暇でしょうがない時間ばかりだった。

 

「おかげで体重が3キロ増えちゃったよ〜〜」とアイは口にしていたが、ぶっちゃけ元々痩せ型だったせいでパッと見の全体的な印象が変わった様子は見受けられなかった。それだけアイの日頃の努力がすごいということだろう。

 

「おまたせしました〜〜! ママ特製のハンバーグだよ〜〜!」

 

「待ってましたぁぁああああああああ!!」

 

「キモいファンになってるぞ」

 

 1ヶ月以上も活動自粛となり、外に出られないのではアイだってフラストレーションが溜まる。結果として彼女は『料理』にそれをぶつけることにした。

 本日のメニューは『ハンバーグ定食』って感じだ。肉汁たっぷりの牛肉ハンバーグに、ブロッコリーやニンジンの野菜ソテー。汁物にコンソメスープ。そして主食となる『真っ白なライス』だ。

 

「……ど、どうかな? なんかあったら下げるから」

 

「普通に美味しいよ。普通に」

 

 味も見た目も本当に普通。特別緊張する必要なんてないほどに。

 流石のアイでも料理の味付けに『愛』のトッピングしても意味なんてなかったようだ。

 

「ちょっとアクア! ママの手料理なんだからもっと噛み締めなよ!」

 

「いいんだよ、ルビー。こんな『何でもないご飯』を一緒に囲めるだけで私は十分に幸せだから」

 

 それだけアイは普通の家族に憧れたのか——。

 まだまだアイについては分からないところが多くあるが、それは今後の人生で埋め合わせしていこう。

 

 もちろんどんなに時間が経っても、アイ個人に対する口撃は減ることあっても止むことはない。だが、その世論が大きく動く映像がニュースに提供された。

 

 それは俺達が予め設置していた『防犯カメラ』だ——。

 そのカメラは確かに記録していた。ナイフで頬を切り裂かれながらも我が子を守るために組み付く『母親』としてのアイの姿を。『子供を守る』という責務を果たそうとする姿を。

 

 それが世間に一石を投じた。経緯はどうあれ、彼女は望んで子供を産んだ。

 だけど『無責任』ではない。確かに彼女は彼女なりに子供を育て、愛し、守ろうとしていた。これ自体は正しいことであると。

 

 となれば子供を話題にしたバッシングは静かになっていく。

 元々日本人の道徳的に子供を、それも幼児を言葉で集団リンチにするのは「流石にまずいだろう」という考え方が根付いている。

 ある種、宗教的な考え方にも見えて気味が悪くも感じるが、ぶっちゃけ食事をする時に「いただきます」と「ごちそうさま」を言わなくても食えるだろう。だったらなぜその作法や礼儀を通すのか。

 早い話が『暗黙の了解』というやつだ。長いものに巻かれようとする消極的に勝ち組に乗る根本的な在り方。それが影響してる。

 

 もちろんこんな映像が残っていれば、憶測で『これは炎上商法で自分を売る手段』と難癖をつける連中も現れる。

 すると、女性の強い部分を馬鹿にされたと思った集団——俗に言う『フェミニスト』さえも言葉の乱闘騒ぎに参戦。良くも悪くもアイに味方してくれて、もはやアイのことそっちのけで討論という名の喧嘩がネットの随所で見られる光景が繰り広げられた。

 

 となれば波紋は新たな波紋を呼ぶ。この問題はさらに過熱し、連日ニュースに番組取り上げられたかと思えば、この問題に便乗してネット新聞や動画配信者は的外れのネタを題材にしたものを投稿してしまい……もう後は言わなくても分かるだろう。

 

 もはや情勢は混沌とした状況だ。炎上しすぎて着地点が全く見えてこない。もはやみんな『アイ』を見てるのかすら怪しくなるほどに。

 

「大変そうだねー、今日も大騒ぎだ」

 

 そして本人はこの通りである。台風の目かと思うほどに、周りを巻き込んだ無関心っぷりに俺とルビーは呆れを隠せない。

 

 流石にこのどんちゃん騒ぎの連続にテレビ局側も疲労があるのか、もうすでにゴールデンタイムのニュースで長時間流すことはなくなった。進捗をサラッと十数秒の映像と共にアナウンサーが説明して次のニュースへ。そんな段階まできた。

 

 そろそろ世間がアイを忘れようとしてる——。

 このまま芸能界をひっそりと引退して、静かに暮らせる基盤ができた。貯金は慎ましく暮らせば10年くらいは保つほどには溜め込んでいた。

 というか最低限の生活費以外はほとんど手を出してなかったらしい。服もほとんどユニ○ロやG○で済ませて出費を抑えるほどに。根本的に高級ブランドとかに興味ないんだろう。ネックレスや腕時計の装飾品も安物多かったし。

 てか、アイがあの性格と奔放さで節約と貯金をしようとする意識があることに驚いた。それだけ子供のことを思っていたのか。子供の未来に選択肢を与えたかったのは大マジも大マジ。母親としての覚悟がすごくてビックリした。

 

 ——そしてこの累計3ヶ月でアイが影で行っていたのはもう一つあった。

 

「リョースケ君、私と面会してくれるみたい」

 

 どうやら手紙で留置所にいるリョウスケ君と何度かやり取りをしていて、その末に面会まで漕ぎ着けるまでに成功したらしい。そういえばまだ裁判の第一審さえも起こしてないんだよな。

 

「じゃあ、行ってくるね〜〜」

 

 なんて呑気に警察のところに向かっていった。

 帰ってきたのはその日の夜遅く。まだまだ幼児期の体では、身体的な疲れに敏感で眠すぎたので、どんな話をしたのかは後日聞こうとした。

 

 

 

 ——翌日の早朝。驚くべきニュースが飛び込んできた。

 

 

 

 ——『殺人実行犯 前科を告白』

 ——『失踪中の成人男性 遺体となって発見される』

 ——『被害者男性の名は『雨宮吾郎(30)』 職業:医者』

 

 

 

 このニュースが王手となった。

 リョウスケ君が突然として俺の前世である『雨宮吾郎』の殺人をしたことについて公表したのだ。

 

「……何をしたんだ、アイ」

 

「別に? 私はただリョースケ君と思い出話をしただけだよ。握手会に来てくれたこととか、お土産に星の砂をくれたこととか……」

 

「後はそうだね」と顎に指を添えてアイは話を続ける。

 

「『推しの子』に嘘をつかれてると知った時の辛さとか——。私も子供達に嘘をつかれて、これでも結構傷ついたからさ〜〜。そんな気持ちを溢したらリョースケ君が「ごめん。ごめん」って泣いちゃって……」

 

「で、それで面会を終えて帰ったらこうなったと」

 

「うん。何か感じとることでもあったんだろうね」

 

 きっと『B小町のアイ』としてではなく『星野アイ』としての内面を見たのが理由だろう。

 どう感じ取ったのかは彼しか知らないことだし、彼なりの痛みや苦しみも彼の物だ。

 

 でも、その『自白』は裁判で大きな効果を及ぼした。

 裁判官と検察官からの問いを素直に認めたこと。今回の事件では全く捜査線上に上がってなかった事件を自白したこと。

 それら二つが要因となって『情状酌量の余地あり すべての罪を認めた』ということでリョウスケ君の評価は『一時の迷いや突発的な行動で罪を犯した人』ということで終着。

 殺人罪、殺人未遂を合わせて『懲役20年』として刑務所で罪を精算することになった。

 

 となると世間はこの騒動の終点——『カミキヒカル』に当てられることになった。

 

 リョウスケ君が実行したとはいえ、計画したのはカミキヒカルだ。つまり『実行犯』と『首謀犯』の関係性であり、刑法106条により後者の方がより重い罪に問われる。

 早い話が、世間としては『リョウスケ君より罪を重くしろ』という風潮が大きく広がっていた。

 

 もちろん未成年の罪については複雑で罪状によって裁く裁かないかが判断されたりとケースは多義に渡る。

 だが『殺人罪』の『首謀者』ということであり、またアイについては殺人未遂とはいえ『二つ』も容疑が掛けられては、まず裁くべきという流れにはなる。

 

 16歳以上であれば刑事責任能力あり。

 雨宮吾郎の殺人に関しては隠蔽もあるとなれば反省の余地はないという考えにはなる。

 

 そして何よりもここまで全く無関係だった『一般人』が被害に遭っていたとなれば、カミキヒカルの評価は変わる。

 

 

 

 ——『雨宮吾郎』の殺人は痴情の縺れと関係ない、ただの医者だった。そいつを殺すのはどういうわけか?

 ——カミキヒカルは根本的に『猟奇的かつ計画殺人犯』ではないか?

 

 

 

 最後の仕上げとなる。将棋で言う『詰み』というやつだ。

 後日、テレビ局は『雨宮吾郎』が働いていた片田舎の病院に取材しに行った。彼の人物像はどうだったかを放映するために。

 

ーーーーー

『彼は……そうですね。ちょっと変なところはありますが、悪い人ではなかったですね』

ーーーーー

 

 テレビに映り『僕』について供述してくれたのは『ロリコン』と罵ってくれた女医や同僚、僕が診ていた患者の親族や関係者だった。

 

 全員が訴えかけてくれる。僕に対する真っ当で客観的な人物像を。

 

ーーーーー

『良い先生だった。ドルオタではあったけど』

『良い人でした。女遊びはしてましたけど』

『患者を元気づけてくれてました。部屋でサボってるようにも見えたけど』

ーーーーー

 

「ちょいちょい!? よく聞いたら僕への評価酷くないっ!?」

 

「おーおー。センセも割とアレだったんだね〜〜」

 

「そうだよママ! おまけに私からの告白もノラリクラリとかわしてね!」

 

「わー、女の敵って感じ」

 

「オイ、表出ろ。徹底的に討論してやる」

 

 病院に取材はあったが、この件に関してアイの名前が強く出ることはなかった。

 理由は患者の名前は基本的に厳守されること、またアイがここに通っていた時は『偽名』で通していたこともあって、その件については特に触れられることはなかったのだろう。

 産婦人科医ということもあって、ネットの界隈で推測で限りなく正解に近いことを語る者もいたが、客観的な証拠がない以上は意味がない。仮にあったとしても、これでカミキヒカルの評価が覆るようなこともない。

 

 

 

 ——判決 カミキヒカル 無期懲役。

 

 

 

 これにて終幕——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんてわけがない——。

 まだ『アイ』の話は終わっていない。アイを縛り付けるのはカミキヒカルだけじゃない。

 

 アイの殺人未遂から一年が経過し、ついに『B小町』は活動を再開。東京ドームのライブを再演する。

 

 だがこれは『復帰ライブ』ではない。むしろその逆。アイがB小町を卒業するための『引退ライブ』だ。

 

 ドームに来てるのは根深いファンか、流行に敏感なミーハーだけ。

 それで埋まった席数は3分2ほどと全盛期と比べて、あまりにも人気がない。ハッキリ言って赤字確定の閑古鳥だ。

 

 アイがいないB小町は路傍の石同然だ。

 アイがいたから星のように輝き、アイが居続けたからこそ宝石のような眩い価値を示してきた。アイがいなければ模倣宝石にさえなれない。

 

 

 

「ラスト一曲、本当に歌っちゃうよ。こんな醜い歌を。アイの最後なのに」

 

「いいよ。だって私たちはB小町でしょ。最後くらい『みんなで歌おう』よ」

 

 

 

 違う違う違う——。『B小町』は引き立て役だ。

 元々このアイドルグループはアイがいないと成立しないんだ。だからアイは最強でなければいけない。無敵じゃないといけない。完璧で究極のアイドルなんだから。

 

 

 

 こんな石ころの私達を——気にしちゃいけない。

 

 

 

「みんなー! 今日は私達のライブに来てくれてありがとー!!」

 

 

 

 やめて——。『私達』だなんて呼ばないで——。

 ここに来ているファンは皆、アイだけを目当てに来ている。一番星だけを目に焼き付けているんだ。

 

 そんな星に照らされたら、私達は焼き溶けてしまう。

 

 

 

 ——自分の醜さに。

 ——自分の浅ましさに。

 ——自分の愚かさに。

 

 

 

 ——アイの輝きが、私達の悍ましさを強くする。

 

 

 

「最後は『新曲』になります。この一年間、B小町の『全部』を詰め込んだ『愛』を唄う歌です」

 

 

 

 そうだよ。これは『アイ』を唄うものだよ。

 私達の妬み、嫉妬を詰め込んだ醜悪な歌。偶像を押し付けた我儘な歌。

 

 

 

「それで私は卒業。普通の女の子に戻ります」

 

 

 

 だから、焼きついて消えない『本物の笑顔』を見せないで。

 忘れたくても忘れられない『一番いい顔』を振りまかないで。

 

『アイ』はそんな顔しない。

『アイ』の笑顔は嘘で塗り固められた厚化粧だ。

 

 私達が知っている『アイ』はそんな笑顔をしない。

 等身大の女の子みたいな愛嬌ある笑顔を溢さない。

 

 

 

 私達の『アイ』を塗りつぶさないで。

 忘れさせないで。消さないで。

 

 

 

 こんなアイは『アイ』じゃない。

 こんなアイを私達が認めたら、認めちゃったら。

 

 

 

 ——今までの『アイ』が全部、本当に。

 

 ——『嘘』になっちゃうから。

 

 ——だから私達は認めない。今のアイを。

 

 ——『嘘』を『本物』にするためにも。

 

 

 

 ——今のアイを憎み、私達の『アイ』を愛し続けてあげる。

 

 

 

 

 

「聴いてください——『アイドル』」

 

 

 

 

 その日、確かに『一番星』は輝き果てた。

 新たな星となる『星野アイ』としての一歩を踏み出すために。

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