【推しの娘】 〜Trance Stars Family〜 作:かにみそスープ
「黒川あかね。高校2年生、役者です」
——クールだけど中性的なイケメン。
「えっと、鷲見ゆきです。高一です」
——王道の清純系モデル。
「熊野ノブユキです。ダンスが得意です」
——性格良い感が滲み出る溌剌系イケメン。
「高3のMEMちょですぅ。YouTubeで配信してます、よろしくね♪」
——色物マスコット系。
「森本ケンゴ。バンドやってます、よろしく」
——マイノリティに需要ありな風変わりイケメン。
「有馬かな。高校2年生。一応役者やってるわ」
——童顔ロリ系。
「星野ルビーです! お姉ちゃん共々にタレントやってます! みんな、よろしくね!」
——ムードメーカー的な爽やかイケメン。
「えっと……」
——そして最後に僕だ。
「ほ、星野マリンですっ♪ ルビーと一緒にタレントやってます♪ みんなよろしくね〜〜♪」
——しにてぇ。何でこんなことしてるんだ。
…………
……
「ふーん。君がかなちゃんから推薦された『星野マリン』くんかぁ。お母さんのアイくんにはよくお世話になってるよ」
翌日、有馬と一緒に鏑木Pと会うことになった。『今ガチ』に出れるかどうかの交渉のために。
「アイの娘なのに、この程度の出演料で1クールも契約してくれるなら、こっちとしては願ったり叶ったりではあるよ。でもちょっと厳しいかなぁ」
「え? マリンちゃん、最悪置物でも画面映えはしますよ?」
サラッと置物扱いしようとすんじゃねぇぞ、有馬かな。
さっきまで宣戦布告しといて、不戦勝を狙おうとするな。
「単純に男女比というやつさ。既に出演決定してるのは、モデルのゆきちゃんにダンサーのノブユキくん。それに若者層の流行を取り込むために、YouTuberからMEMくん。TikTokとかshort動画のBGM作曲でお馴染みのケンゴくんも紹介しようとしていてね……」
「ああ……。確かにそれで有馬と私が入ったら男女比が2:4でバランス悪いですね」
外回り用の『私』を演じる。ルビーにはわざとらしい男言葉を使うなとかは言ったが、実際繋がりが大事な業界においては『常識力』というのも重視される。
場の空気とか関係なく最低限のマナーや言葉遣いはできているか——。
今はLGBTやら何やらで個性が尊重される時代になったが、この業界ではそれを理由に『我』を強く押そうとするのは悪手でしかない。コミュ力が大事な業界において、自分を強く出して良いのは、それこそアイみたいな生え抜きの強者のみ。俺みたいな新参者はまだまだ周りと合わせなきゃいけない段階なんだ。
「でも話題性のためにマリン君には是非とも出演はお願いしたいね。ただそうなると男女比もそうだが予算の都合もある。君ぐらいに安く使える男の子知らないかい?」
「なら、ルビーとかいますけど……」
「ああ、弟くんのことか。姉弟や兄妹で出演した過去もリアリティショーにはある。もちろん兄弟や姉妹もね。別に問題はないし、マンネリ化した番組に良い感じの刺激にもなる。本人が良いのなら採用しよう」
「じゃあ電話で聞いてみますか」
鏑木Pは「お願いするよ」とだけ言って、ジェスチャーですぐに電話するよう促してくる。
この人は最初は印象悪かったが、流石に何度も仕事すれば分かる。この人は単純にドライで効率重視なんだ。だからこうやって目の前で電話するという行為には気に留めずにいてくれる。付き合い方さえ知っていれば、むしろやりやすい人物で助かる。
『はい、星野です』
「母さん、ルビーに変わってもらえる?」
『はいはーい。ところで晩御飯に希望ある? 今日は夜にロケあって作り置きしないといけないから』
「ならこっちで作るよ。母さんだって準備があるでしょ?」
『じゃあ、ご飯だけ冷凍して置いとくね〜〜。食材は適当に使って良いからお任せしとくよ』
よくある家族の何気ない会話。こんなことでも僕達には掛け替えのない大事な触れ合い。夜から収録みたいだし、帰ってくるのは朝か昼か。何にせよアイのために作り置きしておかないとな。
なんて感傷に浸ってると、ほどなくしてルビーの声がスマホから届いてきた。
『もしもし? ルビーだけど、何用なのお姉ちゃん』
「ルビーにオファーが来てる。あの『今ガチ』から。ルビーがOKさえ出してくれれば鏑木Pも二つ返事で了承してくれるよ」
『あー、あの恋愛リアリティショーか〜〜。どうしよっかな……』
『恋リア? この時期だと『今ガチ』の話でも来たの?』
おっ、あかねもいるのか。だったらちょうどいい。
「ルビー。スピーカーモードにして、あかねにも会話が聞こえるようにして」
『ほいほーい。ポチッとな』
「あかね。聞こえるか?」
『アクア君かぁ。なんか『今ガチ』の話をルビーにしてたっぽいけど……』
「してたよ。有馬の誘いで私も出ることになったから、そのついでって感じに」
『あー、外向けモードってことはそういうことかぁ。近くにPもいる?』
「いるいる」
『ならスピーカーモードにしてもらえる?』
別に断る理由もないし、言われた通りにスピーカーモードにして鏑木Pにも聴こえるようにスマホを向けた。
『お世話になってます。黒川あかねです』
「おっ、あかね君か。苺プロ繋がりで星野家にお邪魔してるのかい?」
『そんなところです』
「え、これあかねの声? なんかちょっと低くない? 音響の問題?」
「後で説明するから」
有馬はまだ知らないもんな。あかねが男性超えて、男の娘系タレントで今は売り出そうとしてるなんて。
『マリンとルビーに出演依頼してるそうですけど……私も出すことはできますか?』
「男女比的には問題ないよ。けど君は子役から活躍しててギャラがちょいと必要な上に、売り出し中のキャラがキャラだ。視聴者的にはウケは狙いにくいのがね」
『いえ。むしろ、私の目的はそのキャラを壊したいんです』
「——なるほど。イメージ脱却したいのか」
『今の狭い需要でのポジもいいですけど、可愛い系の男性タレントは時が経てば廃れます。ですから将来を見据えたら役者としての幅を広げるためにイメージを拡張させたいんです』
「切実だね。だけどイメージ変えるのに、リアリティショーに出る意味はわかってるのかな?」
『どんなに『キャラを作って』も、映った人柄が世間から見られる『人間性』として扱われる。そういう番組ですよね。それくらいなら肌身で分かってます』
「……なるほど。どうやら本気みたいだね。でも予算の都合もあるから、一度契約書を見た上で再度連絡をくれたまえ。即日で届けるように手配するよ」
『ありがとうございます』
……意外なあかねの本音に俺はちょっと息を呑む。
そうだよな。男の娘系タレントって少ないから独占市場になってるけど、タレント生命を考えたら決して良いものじゃないよな。
「あかね、自分のキャラ性に結構悩んでたんだね……気づかなくてごめん。後で私も一緒にマネージャーに相談しとくから……」
『いや、気にするほど悩んではいないよ。この路線ならまだ10年近く続けられるだろうし、そんな焦ってもいない。マネージャーにもそういう長期的なプラン立てて貰ってるよ』
うわぁマジか。同情して損した。
「じゃあ、なんであんな熱心に出たそうにしてたんだよ」
『だって『今ガチ』に出るってことは、最後にキスシーンあるじゃん!! アクア君の唇が奪われるところを画面の前で見なきゃいけない気まずさが分かる!?』
『そうだった!? お姉ちゃんのファーストキスが奪われるっ!?』
「役者ならそれくらい割り切れよ。キスの一つで子供できるわけじゃないんだし。てかキスなら既にあかねとしただろ」
『前の世界の話じゃん! 体変わったんだからリセットだよ、そんなの!』
『私もあんな気まずい光景見たくないっ! 断固としてお姉ちゃんの唇は私が守るっ!!』
きもぉ。ウチの弟がシスコンできもぉ。
というわけで商談成立。あかねとルビーも出演決定。男女比4:4のバトルロワイヤルの幕開けである。
……
…………
こうして冒頭に戻るわけだ——。わけなんだが……。
「えっと……」
……それはそれとして、私のメディア的な立ち位置どうすればいいのかな?
これはあくまで『リアリティ』を求めてるだけで『リアル』は求めてない。早い話が番組的な華やかさが欲しいから『分かりやすいキャラ付け』が求められている。
こういう自己紹介が最初に組まれ、それを軸にしてスタッフはメンバーに指示やらアドバイスをし、またキャラに合ったイベント系(花火企画とか料理企画)を組んでいき番組は細かく予定を組んでいく。
前の世界なら『陽キャ』の立ち位置を狙っていたが、残念ながらそのポジションは男女ともに駄々被りだ。没個性にしかならない。
だったら『クール系』にするか。いや、あかねは今回はそんな感じだ。男女の差はあれど見栄えが薄い。それに口数が少ないのは単純に画面として映えがない。
じゃあ、不知火フリルみたいな『モデル系』でいくか。残念ながらこの肉体は身長151cmとそういう系は無理だ。そういう路線を狙おうにもゆきと被るし。てか、ゆきが163cmってマジか。こうして見ると生物としての格を思い知らされる。
同様に凹凸が少ないから『セクシー系』も不可能。おまけのついでに『ロリ系』も有馬に潰されてる。『マスコット枠』は辛うじて狙えそうだが、そもそもそういうの知らねぇし、対抗馬となるMEMちょの存在が強くて没にするしかない。
——つまりはどうあがいても『キャラが被っている』んだ。どうすればいい。
もう僕の自己紹介なんだ。時間がない。現実は創作みたいに時間がゆっくりになることはない。カメラが止まることはない以上、ここは何としてでも切り抜けないといけない。
「ほ、星野マリンですっ♪ ルビーと一緒にタレントやってます♪ みんなよろしくね〜〜♪」
こうして暴走アクセルを踏んでしまったのが、今の僕ってわけだ。
アクセル全開——。『星野アイ』の娘という属性を活かし、アイドルのアイと似たキラキラ系でゴリ押す。これしかない。
蕁麻疹出そうになるし、すごい気持ち悪く感じるし、滑り出しを間違えた気がするが、もう戻れない。この道を進むしかない。
「…………っっ!」
「っ……っ……!」
あかねと有馬は流石役者歴が長いプロだ。
笑いを堪えようと多少は引き攣っているが、こちらの事情を察して何も言わないようにしてくれている。
「いや、誰っ!?」
だがルビーがダメだった。察しろよ。お前、この業界に何年いるんだよ。壱護社長にアドバイス貰って『キャラクター性』の重要度は知ってるはずだろ。なんで察してくれないんだよ。
「お姉ちゃん、陰のオーラを発してる闇系でしょ!? キャラ作りすぎ!!」
「言わないで! せっかく頑張って作ったのに!」
「素でいこうよ、お姉ちゃん。無理とかせずに普段通りに俺とかでいこうよ」
「むっ。マリンちゃんって『俺っ娘』なんだね」
ゆきの一言で場の空気が固まっていく。手探り状態特有の『混乱』と若干『息苦しさ』が抜けて『良い感じの話しやすい』空気が生まれていく。
まずい。この流れは『良い流れ』なんだけどまずい。具体的には俺の『キャラ付け』的な意味でまずい。
「えっ、マジマジ? マッさんって普段はそういう系?」
「あんまり食いつくなよ、ノブユキ。こういうのは今は色々とうるさいんだから自然体で受け入れてやろう」
あたたけぇ。あたたけぇけど、今はその温かさが一番キツい。悪気がないのも輪をかけて酷くする。
だって、それは視聴者からすれば私がキャラ作りを失敗したというわけで——。
視聴者からすれば『キャラ作りを失敗した』という『キャラ付け』がされるわけで——。
当然、その美味しい流れをスタッフが見逃すはずがない。かといって番組的に俺の深掘りをするわけにもいかない。
あまり集中砲火すると、本人たちにその気はなくても『イジメ』だと思われてしまう可能性がある。あかねをヘイト役にして炎上させた『今ガチ』の撮影陣ではあるが、流石に第一回目の放送からそんなリスキーな絵を収録するわけにはいかない。
だとしたら軌道修正が入る。カメラの映らないところにいるスタッフが文字で指示をくれる。俗に言う『カンペ』ってやつだ。
——『高校で失敗した』みたいな、ちょっとそういう感じの話題をお願いします。
「だったら〜〜、マリンちゃんの赤っ恥を隠すためにみんなで『高校デビューで失敗した話』でもしようか!」
MEMとスタッフの軌道修正も入って、そのまま私の自己紹介失敗をネタに皆が高校デビューや、強いネタがなくて話題を変えて○○で失敗的な方向性で話を進めて最初の収録を終えた。
皆が皆、ちょっと失敗した的な話をしていく。若干盛ってはいるが『リアリティショー』の絵面に相応しい、共感はできるが非日常感がある失敗談を。
ゆきは「メイクを強くしたら、ア○パ○マンみたいに頬が真っ赤になってしまった」ことを。
ノブユキは「ダンスの練習中にイヤホンが飛んでいってしまった」ことを。
ケンゴは「初めてのライブで弦が切れてしまった」ことを。
MEMは「都会デビューで服の流行を間違えてしまった」ことを。
あかねは「ちょっと役にのめり込み過ぎて失敗(炎上)してしまった」ことを。
有馬は「以前の(金銭)感覚でやったら、ちょっと(支出を)間違ってしまった」ことを。
ルビーは「久しぶりにあった異性の同級生(みなみちゃん)相手に距離感を間違ってしまった」ことを。
私は「高校に入って入学ボッチだった」ことを。
他にもちょっと話を続けたが、こうして1回目の収録を終えてオンエアを開始。
だが案の定というか、やはりスタッフも私のキャラ作り失敗のシーンは外せないと感じていて、高校デビューについて失敗した話を中心に放送が組まれた内容となっていた。
しかも編集の都合でMEMのフォローが『いかにもフォローしましたよ』感があるエフェクトとかフォントを出してるせいで、私が面倒見られてる感がすごい。
——その日、私の『今ガチ』での印象が決まってしまった。
——『真面目系ポンコツ末っ子タイプの俺っ娘』という属性と共に。