ふもふもしてる 作:ふもふもメーコ
日記形式は次話より。
縁なき者の眠る墓場、無縁塚。雑多なガラクタたちの中に異質なぬいぐるみが一つ横たわっていた。
それは捨てられたにしては身綺麗で、忘れられたにしては愛らしい不思議な魅力を放つ人形だった。
靄に包まれた無縁塚で、動くはずがない人形が身体を起こした。赤いリボンと紅白の装束を縫い付けられたぬいぐるみが関節のない足を伸ばしてぺたんと座る姿はこの殺伐とした無縁塚でも変わらぬ可愛さを誇っていた。動かぬ瞳でただ一点を眺めるぬいぐるみ。やがて足の力で身体を立たせると、四肢を大きく振りながらひょこひょことどこかへと歩き去って行った。
人形はどこまでも歩き続ける。歩き続けて何日か、どことも知れぬ地で彼女は初めての出会いを経験する。
「あー! かわいいお人形さんだ!!」
出会ったのは金色の髪の少女。あどけない笑顔でぱたぱたと駆けてくる少女に、ぬいぐるみは両手を上げてご挨拶。
「自分で動けるなんて凄いぬいぐるみね! いったいどこから来たの? お名前は?」
ぬいぐるみを抱き上げ語り掛ける少女。しかしぬいぐるみは言葉を発することができないので身振り手振りで感情を伝えることしかできない。
ぬいぐるみが喋れない事を悟った少女は首を傾げ、質問を変えることにした。
「じゃあ、あなたお家はあるの?」
ぶんぶんと大きな頭を横に振る人形。
「お家がないのにこんなところにいるの!?」
大層な表情で驚く少女に対し、ぬいぐるみは変わらぬ暢気な顔でこくこくと頷くばかり。傍目に見ればお人形遊びしてる子供にしか見えないだろう。
少女は少しの間思案した様子で人形を見つめていたが、やがて妙案が浮かんだように顔をきらめかせると人形を眼前に持ち上げて話しかけた。
「ねぇ、あなたお家がないんだったら私のお家に来ない? 大丈夫! ママならきっと許してくれるわ!」
当然言葉など返ってこなかったが、万歳をした人形を了承と受け取った少女は赤子を抱くように胸に抱え帰路へと向かっていった。その後ろ姿は一人おままごとを楽しむ幼子のようにも見えた。
パンデモニウム。魔界とそこに住む生命を作り出した魔界神、神綺とその従者たちが暮らす魔界の宮殿だ。
その執務室、従者の夢子が傍らに控え神綺が日常的に仕事を行う場に少女は駆け込んだ。
「ママ、ママ! 見て見て!」
「あらあら、どうしたのかしらアリスちゃん」
「アリス、神綺様はお仕事中だから静かに入ってきなさい」
「あ、ごめんなさいママ、夢子……」
慌ただしく扉を開いたアリスを神綺は温かく迎えたものの、夢子は年長者らしく叱った。アリスも日頃の教育から悪いと感じたのかあどけない笑顔をしょんぼりとさせ素直に謝った。
「ちゃんと謝れて偉いわねぇアリスちゃん。はい、許します。それで、とっても楽しそうだけど何かあったのかしら?」
「ありがとうママ。えっとね、見せたいものがあるの!」
「いったい何かしらー? ママ、アリスちゃんからのサプライズならなんでも驚いちゃう」
「うふふ、それはね……じゃーん!!」
かわいい掛け声と共に後ろ手で隠していた物を神綺と夢子に見せつけるため掲げた。
「それは……ぬいぐるみ?」
「ぬいぐるみみたいだけど、何かしら。ちょっと変わった力を感じるような……」
ぬいぐるみを誇らしげに掲げ続けるアリスとうってかわって、二人はその謎の物体にいぶかしむ表情で顔を近づけた。
「ねぇアリスちゃん。そのぬいぐるみだけど……」
おもむろに神綺は立ち上がりアリスに歩み寄る。夢子も従者としてもあるが、単純に己の興味もあってそれに追従した。
二人が目と鼻の先で立ち止まったその時、ぬいぐるみは不意を打つように両手を振り上げた。
「きゃあ」
「っ!?」
「えへへ、驚いた? 驚いた?」
予想だにしなかった現象に二人は一歩退き、神綺は呆気にとられた顔を、夢子は苦い顔をした。
どうやらこれはアリスとぬいぐるみが仕組んだドッキリだったらしく、企みが成功したアリスはぬいぐるみに頬擦りした。
「タイミングバッチリだったわ!」
言葉を話せないぬいぐるみは再度両手を振り上げて喜びを表現した。
「本気で驚かせられてしまいましたね」
「夢子ちゃんまで驚かせちゃうなんて、凄いわアリスちゃん」
「お人形さんが頑張ってくれたおかげだもの」
間もなく落ち着いた神綺と夢子だったが、その視線は未だにぬいぐるみに注がれていた。怪訝に思う気持ちもあったが、二人は何よりその愛くるしさに心惹かれていた。
「しかしその生物……ですが、私の知る限りではこのような者が魔界にいた覚えはありません」
「そうね。私もこんな子は生み出した記憶はないわ。アリスちゃん、この子をどこで見つけたのかしら?」
アリスみたくぬいぐるみを抱き締めてあげたい欲望はあったが、彼女の手前そんな衝動に駆られるわけにはいかず先に疑問を解消することにした。
「外をお散歩してたところに会ったの。お家はどこですか? って聞いたら無いって言ったから、お家に入れてあげようと思って連れてきたの」
「つまりどこから来たのかもわからないと」
「困ったわねぇ。帰してあげようにもお家がないなら魔界の外に出してあげることしかできないわ……あ、アリスちゃんもしかして」
「うん! お家がないならここに住んでもらおうと思って! ママ、夢子、いーい?」
夢子と神綺は顔を見合わせた。
「ど、どうしよ「私は神綺様の所存に従います」……困ったわねぇ」
断るという選択肢もある。そもそも相手は言葉を話せない生物。ひょっとしたら言葉を解せないだけで元の居場所があるかもしれない。それに魔界の中心部に得体の知れない存在を入れるリスクもある。しかし言葉の通りなら相手は宿無しだ。体が小さく力も弱そうな彼女を魔界からだしても自然界で淘汰されてしまうに決まっている。魔界人の親としても放っておくには心苦しい。それにアリスはこの短い間でぬいぐるみをいたく気に入っている様子。ここで断ってもアリスが食い下がるだけだろう。
「えぇ! 他でもないアリスちゃんの頼みだもの。この子はここで引き取ることにしましょう」
悩みに悩み抜いた末、神綺は折れることにした。万一何かが起こったとしても自分で対処できるだろうという算段だが、本音では動くぬいぐるみの小動物的愛らしさに見惚れたというのもあった。
「ママありがとう! 良かったね、お人形さん!」
「良かったわね、アリス、人形さん」
満面の笑みで人形をぎゅっと抱き締めたアリス。気づけば夢子も側に寄り優しい顔で二人の頭を撫でているではないか。自身の右腕がこうも容易く籠絡されていることに呆然としつつ、しかし自らも同じ穴の狢だと理解した時には人知れず苦笑するしかなかった。
数日後、パンデモニウムに住み着いた謎の生物の噂は瞬く間に魔界中に広まり、娯楽に餓えつつある魔界人たちはこぞって真相を確かめようとパンデモニウムに押しかけていた。当初は時期に収まるだろうと考え神綺も寛大な神の御心で見守っていたが、連日連夜一向に減らない人混みを前にある種の恐怖を覚えたことでやむを得ずお触れを出すことにした。
『ぬいぐるみとの触れ合いは毎週、月、水、金の午前○時~午後○時まで!』
魔界神のお言葉とあれば魔界人は逆らえない。かくしてパンデモニウムで暮らす彼女らの安穏は守られたのである。めでたしめでたし。
となれば良かったのだが、この一連の流行が原因で新たな問題が発生していた。
ぬいぐるみについて知られている情報は少ないが魔界出身でないことは有名で、巷では人間界から来たのではないかというのが通説らしい。そこでぬいぐるみ人気に肖ろうと民間旅行会社が人間界の生物に目をつけ勝手に観光ツアーまで組んでいるらしく、近頃は魔界から人間界へのコンスタントな出入りが増えてきているとの報告が神綺の元に入ってきていた。神綺としては人間界とのいざこざは起こしたくないのでできれば規制をかけたいところであったが、如何せん相手は民間業者の為圧力をかけることはできなかった。何より魔界人たちの人間界への興味が薄れることでまたぬいぐるみブームが到来することを懸念してしまい、様子見という判断を取らざるを得なかった。今もなお魔界人は人間界へと流れているが、神綺は黙認しているのが現実だ。
この騒動が想像以上に発展し、思わぬ形で解決することはまだ誰も知らない。
さて、ファンサービスが無ければぬいぐるみの居場所はまちまちだ。アリスの腕の中にいることもあれば、神綺の頭の上にいることもあるし、夢子の肩に座っていることもある。ただそのいずれにも共通するのは、嫌がることなく愛でる彼女らの姿とぬいぐるみの愛くるしさだろう。
「神綺様。お茶が入りました」
明くる日、夢子が神綺の執務室にお茶を届けに入った。しかし扉を開けた夢子の手には何もなく、神綺は疑問を抱いたもののその後に続く影を見てすぐに頬を緩ませた。
夢子が支える扉からゆっくりとぬいぐるみが入室しする。それもティーセットを揃えた自身の身の丈ほどのサイズのトレイを器用に頭の上に乗っけて。目一杯挙げた腕は頭の高さに届かない為形ばかりのものだが、その健気な姿ときたら、見る者全てを魅了してしまうだろう。夢子に至ってはお使いをする娘を見守るような優しい目つきだった。
ぬいぐるみはそのままぽてぽてと危なげなく進み神綺のデスクの前で立ち止まった。すると突然何かを訴えるかのように両腕をパタパタと上下に振り始めた。神綺は何事かと目を見開いたが後に続いた夢子の行動でその理由を悟った。夢子はぬいぐるみに「ありがとう」と一声掛けてから頭上のティーセットを持ち上げ神綺のデスクに置いた。なるほど確かに、ぬいぐるみは飛ぶことができないし、跳ぼうにも荷物の重みの前にはできず、第一そんなことをすれば頑張ってここまで運んできた意味がなくなってしまう。神綺は一人納得した。
神綺が自分の顔が見えるよう少しデスクから離れたぬいぐるみにお礼を言うと、ぬいぐるみは呼応するようにビシッと両手で万歳をした。それがまた一段と愛しくて、夢子はぬいぐるみを背中から抱き上げ抱擁するのであった。
アリスはというと、ぬいぐるみと出会った当初は二人でよく遊び外に出掛けたりと容姿相応の関係を築いていた。しかし近頃はその関係に変化が見られ、アリスは専ら自室に籠り何かに没頭するようになっていた。一時期は親子のようにひっついて離れない二人の変化を心配し神綺たちはアリスの様子を探ったものの、すぐに杞憂だったと身を引いた。アリスが夢中になっていた何かというのが人形作りであったからだ。
「(うまくいかないなぁ……)」
今日もアリスはテーブルの上で手芸道具を広げ人形作りに精を出していた。作るのは手の平大のフェルトの人形。元々あのぬいぐるみに影響されて始めたものだが、どうしてなかなか奥が深く、すぐに夢中になってしまった。
「(楽しいけど、もやもやする)」
ただ、未だ未熟な子供の手。試行錯誤するものの自分でこれだ、と思えるような仕上がりの物は完成品は数あれどまだ無かった。自然と手を止め顔を上げればそこには件のぬいぐるみがその役割を全うするようにおとなしく座っていた。黙って持ち上げ、つぶさに造形を確認する。そしてそのままぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。アリスはいつしか煮詰まった時は必ずこうするようになっていた。ぬいぐるみの方も抵抗する素振りは見せず、むしろ小さな手足を懸命にアリスの体に擦り寄せた。たまにこのまま寝てしまうこともあるが今日はそうならなかったようで、しばらくするとぬいぐるみをそっと机の上に戻しまた手元のフェルトとにらめっこを始めた。最近のアリスの日常と言えばいつもこんなものであった。神綺も夢子もそんなアリスの様子には気付いたものの、あえて介入するようなことはせず静かに見守っていた。
人形と交流を重ねながらそんな日々を送っていくアリス。継続は力なりと言うが、幼子の吸収力も相まってメキメキと成長を見せ、今ではぬいぐるみそっくりな出来栄えを仕上げられるようになっていた。アリスの部屋にはたくさんの手製の人形が所狭しと飾られ、神綺や夢子の部屋にもアリスから贈られた人形がいくつか並べられていた。昨今のぬいぐるみ人気もあって近頃の魔界では空前の人形ブームが巻き起こっており、インテリアやプレゼントのみならず人形を使い魔とする者まで現れ始めた。ぬいぐるみが魔界に与えた影響は大きく、魔界が人形館ならぬ人形界と呼ばれる日もそう遠くはないかもしれない。
そんな時、ある一報が神綺の元に舞い込んできた。現世と魔界を繋ぐゲートを押し入ってきた存在が来たというのだ。目撃者の話によれば侵入者は亀に乗った巫女装束の少女ということ。少女の目的はわかっていないが、立ち塞がった魔界人を軒並み返り討ちにしだれも太刀打ちできていないらしい。というか今もすぐそこまで来ているようで、パンデモニウムに侵入されるのも時間の問題だ。
ここでアリスは災難に遭う。たまたま息抜きでぬいぐるみと外に出ていたアリスは件の少女と遭遇してしまう。邪魔する者は誰であろうと撃ち落とそうとする過激な少女は会話もそこそこに戦闘を開始。まだ年端もいかない魔法使いとしても未熟なアリスは易易と落とされてしまった。
そしてここからが問題だった。撃ち落とされて気絶していたアリスは目覚めた瞬間あることに気づいた。一緒にいたぬいぐるみの姿が消えていたのだ。ぬいぐるみが一人で出歩くとは考えにくい。もしや先程の少女に誘拐されたのでは? アリスはこれまで感じたことのない不安に襲われたが、それと同時に子供ながらにして壮大な覚悟を抱いた。先の戦いでついてしまった優劣を覆すにはどうすればいいか、彼女にはもうわかっていた。大切な者を取り返すべく、急ぎアリスはパンデモニウムへと向かった。
当の立ち塞がる魔界人共を軒並み叩き伏せてきた少女、博麗靈夢は神綺を倒し亀の玄爺に乗って帰路についていた。神綺に魔界人が人間界に殺到しないよう約束という名の脅しを済ませ、お仕事終了と意気揚々であった。
「ふ、ふ、ふ、ふん♪ ふ、ふ、ふ、ふん♪」
「あの、ご主人様」
ご機嫌に鼻歌を歌う背中の靈夢に、恐る恐るといった様子で玄爺は話しかけた。
「ふ、ふ、ふ……何よー。せっかくいいところだったのに」
「その、お聞きしたいことがございまして……」
「なに?」
「それがですね……」
「そこまでよ!!」
玄爺が何事かを伝えようとする直前、二人の前に一人の少女が立ち塞がった。
「あんた誰よ」
「さっき会ったばっかでしょ! 忘れないでよ!」
「ご主人様、先ほど倒した少女でございます」
その少女とはアリスだった。おそらく誘拐されたであろうぬいぐるみを取り戻すべく、靈夢にリベンジを挑んだのだ。靈夢にそんな覚えはなかったが、アリスはそもそも事情を語らず、靈夢も物事を深く考えない質だったので無意味な争いを止める者は誰もいなかった。
「ここで会ったが十年目! 返してもらうわよ!」
その手には先ほどは持っていなかった魔導書があった。
「この究極の魔法があればあんたなんかけちょんけちょんよ!」
アリスはパンデモニウムに秘蔵されていた、それも一際危険な魔導書を持ち出してきたのだ。言うまでもなくまだ幼いアリスに到底扱える代物ではなく、アリス自身もそれを理解していたが靈夢を倒すにはそれしかないと覚悟を決めて手にしたのだ。
「カンペが必要な魔法使いなんてなおさら楽勝ね」
「もう謝ったって許さないんだから!」
激闘の末、勝利したのは靈夢であった。魔導書を抱えた状態で地面でのびているアリスには目もくれず、靈夢はまた帰路につく。なぜ彼女は再び勝負を挑んできたのか、そんな疑問は頭の中には微塵も残っていなかった。
しばらくして申し訳なさそうに改めて玄爺は語りかけた。
「それでご主人様。先ほどの話の続きなのですが……」
「んー? なんの話だっけ?」
「いえ、そもそも本題にすら入っておりませんでしたが」
「で、なんなのよ」
「その……ご主人様が後ろに乗せている物はなんなのでございましょう?」
「は?」
玄爺の言葉に流されるがままに靈夢は振り返ってみた。そこには今しがた起こった戦いのある種元凶である、なんとも愛らしいぬいぐるみが靈夢の服を掴んで鎮座しているではないか。
「な、なんなのよこれ!?」
「え、えぇ!? ご主人様が乗せたのではないのですか!?」
慌てふためく二人の叫びでしんとした空が途端に騒がしくなる。そんな心境も知らぬぬいぐるみは不思議なようにこてんと小首をかしげる。知らぬ間に背後に人形がいただけでも怪奇談なのに、そのうえ動くとまであって二人のパニックは最高潮に達した。あーでもないこーでもないとざわめく二人に対しぬいぐるみは落ち着いた様子で靈夢の背にぎゅっとしがみついた。
「ひぃっ!」
それまでの暢気な波長はどこへやら、得体のしれない人形に触れられたことで悲鳴が飛び出る。絶対に振り返ることはせず、触れないように後ろ手でぬいぐるみをしっしっと追い払うが、それでもぬいぐるみは離れようとはせず寄り添い続ける。
「ご主人様……よく見ればそのぬいぐるみ、ご主人様に似てはおりませんか?」
だんだんぬいぐるみの存在に慣れてきた玄爺がふと言った。
えー? と悪態をつく靈夢であったが、恐恐とぬいぐるみを見つめれば確かに、そうも見えなくはないかもしれない……。
「もしかすると自分にそっくりなご主人様を親だと思っているのでは?」
そんな刷り込みがまさかとは思ったが、初対面でこのなつき具合はあながち間違いではないかもしれない。そう考えてみると次第にこの人形にも愛着が湧いてきた。多少動くことを除けばなんと愛らしいマスコットだろう。
背中に張り付くぬいぐるみをじっと見つめてみる。こちらの視線には気づいてないようで、健気に靈夢にしがみついている。
「……まぁ害意はないみたいだし、連れてってもいいか」
妥協か篭絡か、靈夢は深く考えることをやめこのままにすることにした。玄爺の方も逆らうようなことはなく、一人増えたフライトはまた穏やかな光景に戻るのであった。
一方その頃。忘れてはいけないのがぬいぐるみを盗まれた側の魔界である。靈夢襲撃の騒動に紛れぬいぐるみの誘拐が行われたことで魔界(特にパンデモニウム)は大混乱に陥っていた。神綺に夢子含め、誰もが仕事に手がつかぬ。未曾有のぬいぐるみロスである。だだっ広い魔界中を探してみたものの行方はわからず、人間界に向かってしまったのだろうと結論づけた。
しかし人間界と魔界の行き来はつい先日規制がなされたばかり。舌の根も乾かぬうちに乗り出し反故にするとなると信用問題になってしまう……そんな時名乗りを上げたのがアリスだった。アリスは生粋の魔界人ではなく人間である自分なら人間界に出ても問題にはならないと賢しく主張をした。幼きアリスを一人外へ送り出すことに難色を示す二人だったが、彼女に押し負け魔法使いとして一人前になったらという条件で認めることにした。
ぬいぐるみの捜索については方針が決まったが、絶賛意気消沈中の魔界人への対応が残っている。彼らの心の隙間を埋める対策をとらねばならなかったがこれについては早々に解決策が見つかった。
神綺はあのぬいぐるみを模したアリス手製の人形を参考に、新たに魔界生物としてのぬいぐるみを産み出した。愛らしさをそのままに誕生したそれはペットとしても使い魔としても人気を博し、瞬く間に生息域を広げていくことになる。
こうして靈夢襲撃事件、もといぬいぐるみ誘拐事件の余波は徐々に収束していったのである。
そして博麗靈夢の住まう博麗神社には一人の居候が暮らし始めたのである。